≪2018悟空誕生日小説≫


「何だこのサルは」
これが初対面の第一声。
正直ムッとしたし、なんだよコイツなんて思ったりもした。
そんな相手と現在進行形で二人きり。
今日俺の誕生日なのに。
も〜、ホンット三蔵ナニ考えてんのかわかんねー!



別に見たいわけでもないテレビをつけて、スマホゲーをしつつチラリと三蔵の様子を伺うと、俺の事なんか完全に無視で本を読んでいる。
目が悪いみたいで、眼鏡をかけてテーブルに片肘ついて脚を組んで、足の上に本を置いている。
たまにページをめくる他はピクリとも動かない。
こうしてると金蝉に似てるんだけどなぁ。
三蔵は金蝉の従兄弟だ。
金蝉も愛想は良くねぇけど、三蔵はそれに輪をかけて横柄だと思う。
一緒に住んでるのが金蝉で良かったとつくづく思う。
俺の家は離島にあって、小さい頃は親とそっちに住んでたんだけど、高校は島に無かったから、親父の友人の甥っ子だっていう金蝉のトコに現在下宿中だ。もう1年経つ。
金蝉は最初に会ったときスゲーキレイだ!って思った。
金色の長い髪がキラキラしてて、思わず手伸ばしちゃったくらい!
そんな金蝉は下宿が始まって数日後に三蔵を俺に紹介したんだ。
つーか、1年前のちょうど今日なんだけど。
俺の誕生日のケーキとかを買いにいくのに、留守番を一人でさせるのもっつって三蔵を呼び出したみたい。
その初対面の第一声がアレだよ。
それから何度か三蔵とも会ってるけど、いっつもマイペース。俺を見もしない。もちろん話もしないし。最初は俺も話しかけてみたけど、ああとかそうかとかしか言わないから、最近はほとんど一人でゲームして時間潰してる。早く金蝉帰ってこないかな。
またゲームに視線を戻して、少し経ってからまた三蔵を見るけど、さっきと同じ姿勢でやっぱり同じように本を読んでた。
金蝉とは違って髪の短い三蔵は、でもやっぱりキレイな金髪だ。見たことある金蝉の叔母って人は黒髪だから、そっちじゃない方がガイコクジンなのかもしれない。
「何だ?」
「へ!?」
「さっきからチラチラこっちを見てるだろ」
うわ、バレてた。
「えっと……金蝉まだかなぁと思って……」
「なんだそんなことか」
三蔵はチラリと時計を見るとまた本に視線を向けてしまった。
「まだだな。大人しくしとけ」
「む〜…」
取り付く島もない。
俺あんまこういう反応されたことないんだけど!
モテるとか人気あるとかいうんじゃないけど、眼中にありませんみたいな態度取られるとさすがにさ。
少しくらいこう、なんていうか、ちやほやっていうか相手にしてほしいってかかまって欲しいってか、好きになってよ!って思うじゃん。
てかさー、少しくらい好きになって欲しいよな。
金蝉なんかは言わないけど、結構面倒見てくれるってか、態度で好きって思ってるの分かるのに。
誘惑しちゃおっか?
今まであえて狙ったことも無かったけど、がんばってみようかな。
あ、でも女子ウケがいいのくらいしかわかんないなー。
男友達にするような感じでいいのかな。
うーん。
考えてもわかんないし、やってみるか!
「なぁ、さんぞー」
「なんだ?」
呼び捨てしても怒ったりはしないんだよなぁ。
「俺今日誕生日なんだけど」
「そうらしいな」
知ってるか。そりゃそうか。
金蝉が俺の誕生日の買い出しに行くから留守番頼んだんだろうし。
「駅前のゲーセンいこう!」
「はぁ?」
「ゲーセン行こうぜ〜。誕生日はメダルタダで貰えんじゃん」
「そりゃそうだが……面倒くせぇ」
「えー。じゃあ一人で行って来よっかなぁ。夕方帰ってくればいいよね?」
「ダメだ」
「じゃあ一緒に行こう」
「はぁ……!?…………チッ」
「やったー!」
舌打ちした三蔵は、テーブルに本を置いて嫌そうに立ち上がった。
思ったより素直に付き合ってくれてビックリ。
「置いてくぞ、サル」
「サルじゃねーし!」
慌ててスマホと財布と鍵を持って家を出る。
そういえば三蔵と出かけるのって初めてじゃないかな。

駅までは5分くらい。
三蔵はスマホを弄ってたし俺も作戦練ってたしでその間お互いなにも話さずにゲーセン到着。
「あ、新しいヤツでてる!」
入ってすぐのキャッチャーの景品が入れ替わってる!
リアル武器シリーズの新しいヤツ。前のは日本刀とかグラディウスとかの剣シリーズだったり槍だったりとかハンマーだったりしたけど、今回は中国っぽくて如意棒みたいなやつとかある。
「うわ、いいなー!これ欲しかったんだよなぁ」
思わず張り付いて財布を見るけど、中身は300円しか入ってなかった。
「3回……で、とれるか…?やってみないとわかんねーなぁ」
「おい、コインじゃなかったのか」
「3回だけ!コレ欲しいんだよ!」
後ろで舌打ちしてる三蔵がタバコ銜えたみたいで、タバコの匂いがしたから早速100円投入。
いやでもこれ無理だろ。
どうやっても3回じゃ取れないような位置に移動前提の角度で置いてある。
アームが強ければまだなんとかなるかもだけど。
とりあえず位置を直さねーと。
と思ってアームで引きずろうとしたんだけど……。
「アーム弱ッ!!!」
位置はしっかりバッチリ挟んでるのに箱を撫でるだけで移動全然しない!
それならって2回目はアームで押そうとしてみたけど、少し動いただけでほとんど位置なんて変わってない。
「重いんじゃねぇのか?」
「重くてアーム弱いとか無理ゲー!」
「新商品なら簡単に取れなくて当たり前だ」
「う……そうだけど、そうだけどおおおおお!」
最後の1回も何もできずに300円終了。
今度の小遣いで絶対取ろう…。
「よし、メダル替えに行こ!」
「ああ」
二人でメダルゲームのコーナーに行って、カウンターのお姉さんに身分証をみせるとメダルをカップいっぱいくれた。
ここのゲーセン、誕生日の無料メダル500枚なんだ。
スゲー多くて嬉しい!
「どれやろっかな〜」
どれも楽しそうだけど、普段はもったいなくてできないジャックポットとかにしよっかな〜。
あれメダル食われるだけだって分かってても楽しいんだよなぁ。
……と、その前に。
「何してんだ?」
近くのメダル両替機からメダルカップを奪ってメダル移してたら三蔵が不思議そうに聞いたから、片方を三蔵へと押し付けた。
「はい、これ三蔵の」
半分こしないとな、こういうのは。
一人で遊ぶのも楽しいけど、二人のがもっと楽しいし!いっぱいあるしな!
「……いらん」
「絶対楽しいって!一緒にやろうぜ!」
「お前が貰ったメダルだろうが。俺はいい」
「えー…」
「俺はあそこでコーヒー飲んでるから、終わったら来い」
「……わかった」
三蔵メダルゲームあんま好きじゃないのかなぁ。
ま、無理に誘うモンでもないか。
じゃ、心置きなく一人で全部使っちゃおー。
三蔵はちょっと離れたトコにあるバーみたいなコーヒーショップ?で何か注文してるみたいだから、その周りの椅子にでも座って待ってるんだろう。
とりあえずジャックポットしよっと。



さんざんジャックポットで遊んで残り枚数が少なくなってきたから、スロットにでも移動しようかと思って顔をあげたら、見えるところに三蔵がいなかった。
トイレでも行ったのかな?
そのうち戻るだろうし、メダル全部無くなって居なかったら探せばいっか。
スロットに移動したらメダルが増えたり減ったりでそこそこ長く楽しめたけど、最終的に全部無くなってしまった。
タダでスゲー豪遊した気分!
うん、満足!
「三蔵!終わったー!」
いつのまにか戻ってた三蔵のとこに行くと、三蔵は立ち上がってレジへと歩いていく。
「まだ何か飲むの?」
後ろをついていくと、三蔵はコーラを一つ注文してる。
そういや俺も喉乾いたな。
けど財布カラだしなー。家まで我慢かな。
「おい」
「ん?」
「早く持ってこい」
「え」
会計が終わってすぐ三蔵が離れたせいで、店員のお姉さんが俺にコーラを差し出してた。
慌てて受け取ると、歩き始めた三蔵の後ろへと走ってく。
「三蔵、ハイ」
渡そうとしたら大きなため息をつかれた。
「金ねぇんだろ」
「うん」
「今日誕生日なんだろ」
「そうだけど……もしかしてくれんの?」
「いらないなら捨てろ」
「いる!ありがと!」
うわ、スゲービックリした!
なんだよ、三蔵優しいんじゃん!
ぶっきらぼうで不愛想だけど優しいんじゃん!
「ついでにこれもやる」
そう言って三蔵は手に持ってたビニール袋を俺にくれた。
「なにこれ?」
ここのゲーセンの袋?
何か取ったのかな?
がさがさと音を立てて中身を見ると…………。
「これ!さっき俺が取れなかった如意棒!」
「偶然取れたんでな」
「うっわ、すっげ嬉しい!!!ありがと!!!」
偶然って、偶然取れる感じでもなかったし、そもそもやらなきゃ取れないじゃん!
「俺のためにやってくれたの?」
「偶然っつってんだろうが」
「偶然、ね」
「偶然だ」
「へへへっ…」
貰ったばかりの箱をぎゅっと抱きしめて、三蔵とゲーセンを出る。
なんか、とっつきにくいと思ってたけど、スゲー優しいんじゃん、三蔵!
「ん、おいサル」
「ナニ?」
家に向かって歩き出そうとしたとたんに呼び止められて、三蔵を見る。
「ちょっと家に忘れ物をした。取りに行くぞ」
「え、後じゃダメなの?」
「ダメだ。頼まれ物でな。金蝉に渡さにゃならん」
「そっか。三蔵の家って近いんだっけ?」
「すぐそこだ」
そういって歩き出した三蔵に並んで俺も歩き出すと、言葉通り三蔵の家はすぐ近くだった。
デカい一軒家。
三蔵がずかずかと中に入ってくから(自分家だから当然だけど)俺もついて家に上がる。
「部屋から取ってくる。お前はリビングで待っていろ」
「うん。わかった。リビングどこ?」
「そこの突き当りだ」
階段を昇っていく三蔵が指差した廊下をテクテク歩いてくと、ガラスの扉があった。
「ここかな?」
その扉を開いて一歩中に踏み込んだ瞬間、パーンというすごい音とともにカラフルな何かが飛んできて驚いて声をあげてしまった。
「誕生日おめでとう!」
「誕生日おめでとうございます!」
ひらひらと舞い落ちる紙吹雪と紙テープ。
それからクラッカーをもって笑顔の八戒と悟浄と金蝉……。
「悟空、誕生日おめでとう」
「金蝉……」
「おめっとさん。驚いたか?」
「うん、ビックリした」
「これ、三蔵の発案なんですよ?金蝉さんが相談したら場所を提供するからって言ってくれてね」
「三蔵の……?」
「気に入ったか?」
後ろから三蔵の声がして慌てて振り向くと、部屋に行ったはずの三蔵がそこにいて意地の悪そうな笑みで俺を見てて。
「……気に入った」
「ほら、悟空。大きなケーキもあるんですよ」
「早くこっち来いよ」
みんなが呼ぶ方へ行くと、テーブルの上にはごちそうとでっかいケーキもあって。
「みんな……ありがと」
嬉しくて嬉しくて、涙が出そうになって。
そしたら三蔵に頭をポンって撫でられて。
あーもー…誘惑するどころじゃなかった。
逆っていうか。
ミイラ取りがミイラってこういうのを言うんだきっと。




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