Pink☆Noise LOVE
ピンポーン。 土曜の夕方。仕事が休みな俺はこのところ溜まっていた家事を片付けるべく出掛けもせずに自宅で格闘をしていて、それも終わり満足げに一服していたところだった。 「はいはーい」 吸い始めたばかりの煙草をくわえたまま玄関のドアを開ける。 「お久〜」 ドアの前に立っていたヤツが、ニコニコ笑いながら手を上げた。赤い髪に赤い瞳の見知ったようなそうでないような人物。 ドアを開けて固まった俺を不思議そうに見て、ソイツは首を傾げた。 「忙しかった?」 「いや、そうじゃなくて」 「?」 「何でお前まだ女なの?」 そう聞くと、目の前の女……悟浄はキョトンとした顔で瞬きをした。 「まだって、あの後ちゃんと男に戻ってたって!」 「ほー……。じゃあなんでまた女になってんの」 「えーと? 一回女になったせいでそういう体質? になったんじゃね?」 そんな体質があってたまるか。 「細かいコトはいいじゃん。あがるぜ?」 「ああ」 少し避けると悟浄はミュールを脱いであがりこんだ。 ちょい待て。ミュール? なんでそんなもの履いてんの? 廊下を歩く悟浄を改めて見てみれば、ふわりとスカートの裾が舞った。 何? 前回は完全に普段着だったくせに、今日はなんでそんなちゃんとした女のカッコしちゃってんの? オレンジ色のキャミソールに透かし彫りの半袖の上着、白地に大きな花がプリントされたチュール付きの短めのフレアスカート。似合っちゃいるがコイツの趣味とは違う気がする。マイクロミニのタイトスカートとかを選びそうなのに。いや、そういう問題じゃなくて。 鍵を締めてリビングに行けば、今日は悟浄はそこに居た。ソファーに腰掛けて上着はソファーの背凭れに放って、脚を組んでいる。 「カッコとしぐさが合ってねぇぞ……」 煙草を灰皿に押し付けてそう言えば、悟浄は慌てて脚を降ろした。慌てすぎてなのか慣れてないせいかは解らないが、いちいちスカートの裾が舞い上がる。パンツ見えんぞ。 グラスを2つ取りだし氷とグレープフルーツジュースを入れて悟浄に片方渡すと俺もソファーに座った。 「今日は下着つけてんだろーな?」 少し不安になって聞けば悟浄はジュースを飲みながら片手でスカートの裾を持ち上げた。蝶のモチーフが付いた黒の紐パン。思わずその手をひっぱたく。 「少しは恥じらえ!」 「え、だって見せたい」 「下着は見せるモンじゃない! つーかなんてモン履いてんだ!?」 「似合ってない?」 「似合ってるけど!」 「やったぁ」 嬉しそうだな、お前……。俺は早くも疲れたっつーの。なんなんだ、コイツは。上から下まで女のカッコして、馴染んだのか? 慣れてどーする。 「またヤりてぇとか言うんじゃねぇだろうな?」 「言うに決まってんじゃん。あの後ちゃんと男に戻れたからお姉様方と遊んだりもしたけど、ぶっちゃけこの間捲簾とシたのがヨすぎてなぁんか物足りなくてさぁ」 「お前ソレ男としてどうなの……」 「んー、なんかもう、このままでもいいかなぁ、なんて?」 何言ってんだコイツは。本気で言ってんのか? 女になりたいとか、そういうキャラじゃないと思っていたんだけど。だってお前女の子大好きじゃん? 「つか、お前最近遊びに来なかったじゃん? 忙しかったの?」 「だって、ヤったあと付きまとわれたら迷惑だろ?」 「は?」 何言ってんだ、コイツは。 「付きまとうもなにも、前からちょくちょく遊びに来てたじゃねぇか」 「うん、そうなんだけどさ」 悟浄は少し俯くと脚をソファーの上に上げて膝を抱えた。パンツが丸見えになってるけど、これはコイツが寂しかったり哀しかったり、なんか我慢してる時に良くする仕草だから止めにくい。 取り敢えず頭を撫でてやる。 「前まであったモンが急に無くなったら気になるっつーの。お前は今まで通りでいいよ」 「今まで通り……か」 膝に顔を埋めてしまった。なんだ、どうしたんだ。 「……うん。サンキュ」 その体勢で礼を言われてもだな。とりあえずなんか反応を引き出そうとぐしゃぐしゃと頭を掻き回してみる。が、いつもは文句を言う撫で方なのに何も言わない。仕方ないから掻き回した髪を手櫛で整えてやると、うなじが無防備に晒された。首から背骨へと繋がるラインや鎖骨、肩胛骨が綺麗に浮き出ていて触りたくなる。欲求に逆らわず頭に触れていた手を撫で下ろした。後頭部と首筋の付け根辺りに触れたとき、悟浄の身体が少し跳ねたが気にせず首筋を辿り背中を撫で下ろす。 「…………ブラもしろよ」 「高くて……」 ああ……。たまに、つーか2回女になったくらいでパンツはともかくブラまで揃えるのは確かにもったいない。しかもコイツの胸のサイズだと選択肢が少なくて余計高そうだ。アンダーこそ普通だが、GとかHとかいってそう。それにコイツの胸、ブラ付けてなくてもカタチいいしな。俯いている悟浄の顎を持ち上げ、胸元を確認。やっぱコイツ胸のカタチいいわ。ブラ無しでもキレイに布を押し上げている。今日は乳首の色も透けてねぇし。まぁ、位置は解るけどな……。 「こんなカッコで外歩いてたら痴漢に会うぞ」 「捲簾みたいな?」 「…………」 誰が痴漢だ。キャミソールの上から乳首を押してやれば、悟浄は身体を跳ねさせて俺の腕を抱き込んだ。 こら、胸を腕に押し付けんな! 柔らかくて揉みしだきたくなるじゃねーか! 「なぁ、捲簾」 膝を立てて俺の腕を抱き込んだまま、つーか抱き付いたまま、また悟浄は顔を伏せた。 「抱いて?」 「…………」 ふざけた色も無く、顔も見せずに言われて俺はとっさに返事ができなかった。そういやコイツ、俺のコト好きなんだっけ。 あの時返事してやれなかったからなぁ。不安になってんだろう。返事してないのは、いきなりで自分の気持ちを考える暇が 無かったってのもあるんだけど、その前に、欲求を口に出来た悟浄を誉めたとこでコイツが泣いちまったもんだから、うやむやになっちまったんだよな。次に会ったときにでも考えようって思ってたら、その後コイツと一月くらい全然会えなくて今日になってたという。そして俺もその事をすっかり忘れてたっつー。 「なぁ、悟浄。俺あんま今のお前を抱きたくないんだけど」 そう言うと悟浄の身体がビクッと震えた。それからのろのろと俺の腕が解放される。これ、絶対俺に嫌がられてるって思ってんな……。別に嫌じゃないんだが。 「…………帰る」 「待てって。別に嫌じゃないから」 「うん。解ってる。ありがと。俺は平気だから」 「気を遣ってる訳じゃねーって」 「うん。大丈夫。ちゃんと今まで通りにするから」 「そういう意味じゃねぇっつーのに」 「うん。今日は帰る。ホント、ゴメン」 「あーもー」 面倒くさくなって、立ち上がって逃げようとする悟浄の腕を掴みそのままソファーに押し倒した。こうなっちゃうとコイツはまともに話を聞かないからな。取り敢えず押さえ込んでおけば、少なくとも逃げられはしない。 「ちゃんと俺の話を聞け。嫌じゃねーよ」 「……でも、抱きたくないって」 「うん。抱きたくはないな」 「…………」 「理由くらい聞いていいんだぜ? 本当にお前は何も望めないな」 「だって……」 「嫌だから抱きたくないって言った訳じゃない。お前が女の身体をしてるから抱きたくないって言ったんだ」 「…………え?」 「お前は本当は男だろ? だから、都合がいいからとかそんな理由で抱きたくないし、女のお前だから好きだとか言う気も無い。お前の気持ち、嬉しかったよ。だからちゃんと考えたい。男のお前をどう思っているかを」 「…………そんなの、いいのに。捲簾の性欲処理に使っていいのに」 「馬鹿。んなことできるか」 「でも、捲簾、男なんか好きじゃないじゃん。だから俺……」 「お前もしかしてそれで女になったの?」 びっくりして目を丸くした俺から視線を反らし、悟浄は小さく頷いた。じゃあこのところ俺に会いに来なかったのも、今日また女の身体で来たのもそのせいかよ。ホントにコイツは……。 優しく頭を撫でてやるとそっと目を閉じる。誘われるようにそっと唇を重ねてやれば、悟浄はねだるように少しだけ唇を開いた。 可愛いヤツ。 愛しい気持ちが溢れてくる。確かに俺は男なんか好きじゃないが、それだけだったらキスなんか出来るわけ無いって、どうして気づかないんだろうな、コイツは。 乞われるままに悟浄の唇を舐め、その口内に舌を差し込む。おずおずと迎えてくれる悟浄の舌を舐めてやって、応えてくれたところで吸い上げ俺の口内に引き込む。吸いながら甘噛みすると悟浄の身体がピクンと震えた。やわやわと噛んでから、今度は舌の付け根を擽るように舐めてみると、悟浄の手がすがるように俺の服の裾を掴む。キスくらいで随分可愛い反応してくれんじゃん。楽しくなって、舌を解放し再び悟浄の口内に舌を突っ込む。歯茎の裏側を一通り舐め、上顎を舐めるとくぐもった声が上がった。気持ちイイんだろうと予想をつけ、しつこいくらいにそこを強く舐めてやれば、飲み込み切れない二人分の唾液が唇の会わせ目から零れ落ちる。ソファーに押さえ付けている悟浄の身体が俺の下で身動ぎした。まるで腰を押し付けるように。唇は離さないまま、脚を悟浄の脚の間に入れて、腿を股間に押し付けてやると自ら擦り付けてくる淫らな仕草が堪らない。 名残惜しく思いながら唇を離せば、悟浄の息はもう上がっていた。頬を上気させ、うっすらと瞳を開き俺を見つめるその瞳は既に潤んでいて。 抱きてぇよ。けど、女の代わりにはしたく無いんだ。それに、もし男のままのお前と同じ状況になったとして、俺はお前を抱けるかどうか解らない。だからこそ今のお前は抱きたくないんだ。女の身体なら抱けて男の身体はダメだなんて、最低だろ? そんなお前の存在を否定するようなことなんて出来ない。 「なぁ、捲簾……」 「なに?」 「これっきりでいいからさ。だって男に戻って、捲簾と同じこと出来る保証なんてないじゃん? だから、終わったら全部忘れるから。だから…………俺のコト、抱いてください」 真っ直ぐに俺の瞳を見て悟浄が言った。いつもは不安げに揺れる瞳はどこまでも澄んでいて、コイツの覚悟を現しているようで。 終わったら全部忘れるって、どんな気持ちで言ってんだろうな……。 残酷な行為、哀しい想い出、そんなものしか望むことの出来ないコイツが何よりも悲しい。そして、何もしてやることの出来ない自分が悔しい。 何も言えずに悟浄を見詰めていると、そっと、悟浄の手が俺の頬を撫でた。切ない悟浄の笑み。 「泣きそうな顔してる。……そんなに嫌?」 ああ、ヤバい。このままじゃ俺はコイツを失う。そんな気がする。だって、いつだってコイツは相手の事しか考えてない。自分が居なくなることで相手が幸せになるのなら、あっさりとその身も、命だって差し出すヤツなんだ。今回だってきっと、笑って身を引くに違いない。俺のために、俺の前から笑って居なくなるに違いない。 頬に触れていた手がゆっくりと離れていく。名残惜しむように、指先が頬を撫でて、……離れた。 「ゴメンな。帰るわ」 俺の肩を押して、悟浄が身体を起こす。ソファーの背凭れに掛けていた上着をとって、立ち上がり、悟浄は笑った。 「ありがと、捲簾。大好き。じゃあな」 ドアに向かう身体。躊躇もためらいもない足取り。その手がドアノブにかかる。 「ッ……!」 バンッと思ったより大きな音が響いた。 パサリと上着が床に落ちる。 「捲簾……?」 戸惑ったような悟浄の声。 振り向こうとした身体を俺はきつく抱き締めた。僅かに開いただけで、叩きつけるように閉ざされた扉から悟浄の手が離れて落ちる。 これだけ傷付けておいて、抱き締め返してくれないことを悲しいと思ってしまう傲慢な自分が嫌だ。期待に応えることだって出来るか解らないくせに。なのに、こんなに苦しめてなお、失いたくないと手を伸ばしてしまう俺は何様なのか。 「捲簾、離して」 苦笑するような、静かな声。 「嫌だ」 「……離して」 「嫌だ」 「…………最初から言っちゃいけなかったな……」 「違う」 「困らせちゃったな。ゴメンな」 「違う!」 「もう、いいんだよ」 「よくない!」 「なぁ……。頼むから、離して」 「離さない」 悟浄を抱く腕に力を込めて、痛いほどの力でコイツを拘束する。 少しだけ悟浄は俯いた。 「……なぁ。俺、どうすりゃいいんだよ…………」 ただ静かに俯く悟浄が、呟くように聞いた。肩を震わせることすらしないその姿が、絶望の深さを現しているようで苦しくなる。俺にそんな権利なんて無いのに。 「なぁ、悟浄」 お前を失いたく無いんだ。 だから……。 「抱いても……いいか?」 俺はこれから残酷なことをする。だから、お前はもう悲しまなくていいんだ。全て、俺が引き受けるから。お前は素直に、自由になっていいから。俺を、怒っても、恨んでもいいから。俺はお前に酷いことをする。だから、全部、悪いのは俺だ。 「捲簾……?」 顔だけで振り返ろうとした悟浄の顎を取り、深く口付ける。驚いて抗おうとした腕を押さえ込んで、顎を固定して深く貪る。そして、僅かに唇を離し、俺は残酷な言葉を囁いた。 「好きだよ、悟浄」 ビクッと震えた身体をきつく拘束して、もう一度唇を重ねる。今はお前の言葉を聞きたく無いんだ。言葉を発せない口の代わりにその瞳が揺れる。間近で見開かれた赤い瞳が、潤んで揺れて、涙が零れ落ちた。それが、なによりも雄弁に悟浄の心の痛みを告げる。 ゴメンな。 後ろから抱き締めた体勢のまま、両腕の拘束を緩め、手のひらを悟浄の身体に這わせる。悟浄の身体から抗う力が抜けた。そのことが、悲しい。右手で腰からキャミソールを捲り上げて撫で上げていく。滑らかな肌。浮いている肋骨を一本ずつ撫でて、柔らかな乳房に到達する。わざと乳首には触れないように全体を掴んで揉みしだく。柔らかいけど張りがある胸。簡単に形を変えるクセに俺の手を押し返してくる。胸を弄びながら、逆の手で太股を撫で上げていく。素足に触れているその手をスカートの中に侵入させる。脚の付け根まで撫で上げて、小さな布の上から割れ目をなぞると、布が割れ目に食い込んで指に濡れた粘膜が触れた。紐なだけじゃなくて、Tバックかよ……。殆ど意味を成していない細い布なんて気にせずに、割れ目に指を食い込ませるように撫でると、入り口が誘うように収縮した。悟浄が吐息を漏らす。後ろから身体を弄ぶ手に逆らいもせずに、それでも俺に手を伸ばすことすらせずに立ち尽くす悟浄の身体を、俺はドアに押し付けた。頭からドアにぶつかる前に、悟浄がドアに手を伸ばして身体を支える。俺の前に無防備な背中が晒された。滑らかに隆起する肩胛骨を誘われるままに舐め、歯を立てる。 「ッン……」 悟浄の身体がピクリと震えてドアについていた手が握りこまれた。尻をつきだすような体勢でドアに押し付けられている悟浄の脚を開かせると、まだ潤んでいるだけの膣に中指を挿入していく。柔らかい粘膜が閉ざしている熱い内部。受け入れるほど溶けてはいないが引き連れることもなく、そこは俺の指を受け入れた。熱い粘膜が挿入された指に反応するかのように少しずつ溶けていく。入れたまま動かしてもいないのに、ナカがヒクついた。トロリと零れ落ちた体液が俺の手を濡らす。 誰の手でもなんてことは無いだろうな。多分好きな相手の指だからなんだろう。……悟浄、お前趣味悪ィよ。 背中を舐め上げ、うなじに唇を寄せる。軽く食みながら逡巡したけど、俺はそこをキツく吸い上げた。 「ん……」 キュッと指を絞め付けて悟浄が身体を震わせる。そっと唇を離せば鮮やかに残った赤い痕。 「好きだよ」 囁いて、震える首筋を再びキツく吸い上げる。赤い、所有印を刻みながら甘く低く囁く。残酷な嘘を。 身体を支えていた悟浄の手から力が抜けて、顔と肩がドアに触れる。けど、悟浄は少し俯いてドアに顔を押し付けたまま、何も言わなかった。 「悟浄。……好きだ」 囁いて溶け始めた膣に2本目の指を挿入すれば、ソコは柔らかくほどけて俺の指を受け入れてくれる。やわやわと乳房を掴んでいた手のひらをずらして乳首に触れると悦ぶようにナカが絞め付ける。指を広げて左右の乳首を片手で強引に掴むと、悟浄の腰が揺れた。 「ッア……、ア」 前から指を突っ込んでいるせいで、イイとこに当たらないのがじれったいんだろう。不自由な体勢なのに、腰を捻ってナカの指を食い絞めてくる。背中に口付けながら、ナカに含ませた指を広げると粘膜がヒクヒク震え、熱い吐息が漏れた。拡げられて外気に晒された膣に3本目の指を挿入する。3本の指を根元まで飲み込ませ、ナカでバラバラに動かしてやれば悟浄の背中が震えた。ぬめる内壁を揉みこむように押し拡げていく。快感を引き出すためというよりも、作業的な色の強いその行為にも悟浄の身体は熱を上げていく。こんな風に玩具みたいに触れられているのに。胸の痛みを唇を噛むことでやり過ごし、ナカをキツく押すように中指を曲げた。 「アアアッ!」 Gスポットを強く擦られ、嬌声を上げて悟浄の身体が仰け反る。けど上半身をドアに押し付けられているせいで、ケツを突き出すカタチにしかならない。そのせいで前から入れていた指が抜けた。 息を吐いて胸から手を離し、身体を起こして唇を舐める。身体を支えきれなくなってきている震える脚に気付いて、悟浄の腰を片腕で支えてやった。ナカに入れてた方の手だから指とか手のひらとかがべたべたで、スカートが汚れたかもしれない。まぁ、どうせこれからもっと汚れるんだろうけど。 ドアについていた悟浄の手が少しずり落ちる。けど、こちらにケツを突き出す体勢でドアにすがりついたまま、振り向こうとはしなかった。無防備に背中を晒したまま、肩で息をしている。 「悟浄」 身体を屈めて耳元で囁けば、その身体は少し震えていた。 全てを受け入れなくてもいいのに。 「好きだよ」 囁くと、握られていた手のひらに力が篭った。コイツは俺の言葉が嘘だって解っているんだろう。まぁ、どちらでもいいけど。嘘だと解っていても、本当だと勘違いしていても。どうせ最後は一緒なんだ。 ベルトを外してパンツを寛げて、自らのチンポを取り出す。こんな状況なのに勃ってる自分自身に少し呆れた。まぁ、勃ってなけりゃ出来ないワケだからこれでいいのかもしれねぇけど。 背中に一つ所有印を刻んでから身体を起こす。スカートを捲り上げて、潤む入り口にチンポを擦り付けると、犯されるのを望むようにソコがヒクついた。まだ入れずにゆっくり擦り付けながら、手を脇から前に回す。ドアにすがっている悟浄の上半身はかなり倒れていて、大きな乳房が重力に従って垂れている。掬い上げるように持ち上げてみれば確かな重量感。コリコリしてる乳首を手のひらに押し付け、円を描くように揉むと入り口をチンポに押し付けるように腰が蠢く。たぷたぷと乳房を弄んでいると何かを思い出す。 「牛の乳みてぇ」 笑いながら呟けば、悟浄が少し息を詰めた。 「…………じゃあ、搾ってよ」 「母乳出んの?」 「捲簾が試して?」 「……いいぜ。試してやるよ」 腰を支えていた手を離し、両手で悟浄の胸を掬い上げてみる。カタチを変えるように手に力を込めてから、今度は横から乳房全体を握り込んでみた。俺の手のひらでちょうどいいサイズ。マジ、デケェな。乳絞りの要領で胸を掴んで、軽く揉んでやれば熱い吐息が漏れる。 「ン…………」 少しずつ揉む力を強くしていく。胸をなぶりながらチンポを擦り付ければクチュ……とイヤラシイ音が響いた。と、悟浄の身体がビクリと強張る。多分揉む力が強すぎて痛かったんだろう。 なら、苦痛も快感になるようにしてやるよ。 乳房をキツく掴んだまま、親指と人差し指で母乳を出すように乳首をギュッと潰した。 「ッアアアアアア!!!」 嬌声をあげて悟浄の身体が仰け反る。身体中ガクガクと震わせながらも、なんとか体勢を保とうと必死にドアに縋りついている。 ……俺のヤったことだから、責任取らないとだよな? そう自分自身に言い訳して、俺は殆ど慣らしもしていない悟浄の膣に完勃ちしているチンポを一気にぶちこんだ。これでチンポで身体が固定されて崩れ落ちねぇだろ。 奥の子宮口を思い切り抉り、更に乳房を強く握りながら乳首をすりつぶせば、俺を思い切り絞め付けながら悟浄の身体が硬直した。 「ッ……!!!」 「ナニ、もうイっちゃった?」 「……ッ、だって……、気持ち、ヨ……かった」 ナカがヒクヒクとチンポをくわえこむ。イったばかりのクセに、更なる刺激を求めるように腰を振って俺にケツを擦り付けてくる。完全に快楽に溶けているようで、身体中ピンクに染めてドアに爪をたてていて可愛い。 「なぁ、ドコがヨかったの? 言ってみ?」 「……ッ、ヤ……」 「言えよ」 耳元に囁くとヒクリと肩を震わせて、沈黙が落ちる。胸を揉む手もナカを抉るチンポも動かさずに答えを待てば、快楽に負けた悟浄の掠れた声が届いた。 「胸、……揉まれんの、ヨかった……」 「これ?」 乳房をやんわりと揉んでやる。けれど、悟浄は首を横に振った。 「もっと、強くっ……」 エッロ……。 口端を吊り上げて、キツく乳房を搾るように揉んでやれば声を上げてナカがヒクつく。 「そんだけ?」 催促してやると、ナカがキュッと絞まった。羞恥プレイも好きかよ。マジ、淫乱だな、お前。 「あ……の、…………乳首、思い切り潰して……?」 消え入りそうな声でナカをピクピク震わせながらのおねだりに、腰を振りたくなって困る。熱い息を吐き出して唇を舐め、俺は淫らなおねだりを聞いてやるべく指に力を込めた。 「ッアアアアア!!!」 嬌声とともに食い絞めてくる内部に、俺の呼吸が乱れる。構わず乳首をキツく潰していくと、力を込めれば込めるほどナカの絞めつけもキツくなってくる。……さぁ、早く全部ねだれよ。 「け、捲れッ、捲簾ッ!」 「言えよ。もっと狂っちまえ」 「……ッ」 乳首を潰したまま下に引っ張っていく。どちらが先に狂うかなんて馬鹿な勝負を真剣にやっている自分が滑稽だ。ギリギリと伸ばされていく乳首に快感を得ているのかナカがピクピクし始める。ほら、絶頂はお前のすぐそばの手の届く場所だ。 「言えよ」 乳首を擦り潰しながら耳元に囁いてやれば、悟浄が呼吸を詰まらせた。 「ほ、しぃ。……チンポ欲しい! 動いて! ナカ思いっきり犯して!!!」 快楽に堕ちた悟浄の最奥を思い切り突き上げる。悟浄は身体を跳ねさせて嬌声を上げ、俺のチンポをくわえこんだ。腰を支えてやるのも面倒で乳房を掴んだ手で悟浄の身体を固定する。ドアにすがりついたままの身体に叩き付けるように激しい抽送を加えれば、いくら身体を支えてやってると言っても乳房なもんだから悟浄の頭とか肩がドアにぶつかり鈍い音をたてた。けれど、イきまくってるっぽい悟浄は苦痛を訴えることもない。今は苦痛なんて感じてないのかもしれない。子宮口を抉るように何度も何度も腰を叩きつけていると、悟浄の呼吸がヤバい感じに乱れ始める。不規則なだけじゃなく、詰まるってか止まってる時間が長くなって、痙攣しっぱなしのナカの絞まりも増した。 …………ヤり殺しそうだな。 苦笑が浮かぶけど、腰は全然止まらなくて。上がる嬌声はもう悲鳴と大差無いのに。 けど、止めてなんかやらねぇよ。 「……悟浄」 うなじに唇を触れさせて囁く。 「好きだよ、悟浄」 息を詰まらせて俺を絞めつける身体を無理矢理犯していく。なんだかレイプしてるみたいだ。うなじから髪の中に鼻先を突っ込んで唇で上へと食んでいく。汗の匂いと悟浄の体臭に余計興奮する。が、皮膚が余っていないのと髪が邪魔なのとで上手く食めなくて、焦れてソコに歯を立てた。 「ひゃあっ!!!」 跳ねた悟浄の身体がいきなり崩れ落ちた。咄嗟に手で支えるがさすがに全体重は支えきれない。ぬるりとチンポが抜けたが、それでもなんとか床にモロに落ちるのだけは阻止して床へと降ろしてやる。床に横たわった悟浄の上に覆い被さって見れば、悟浄は完全に溶けた顔をしてピクピク痙攣していて、もう身体には全く力が入らないようだった。 「もしかしてココ弱いの?」 返事なんか待たずに指を髪の中に突っ込む。首と頭の付け根の少し窪んでる所。そこを指で擦った瞬間、悟浄の身体が跳ねた。顎を仰け反らせて震るえながら、はくはくと息をしている。 「へぇ、こんなトコが性感帯なんだ?」 首とか耳も弱いけど、そんなの目じゃない反応だな。擽るようにそこを撫で続けていると、逃れるように頭を振りながら悟浄がゆるゆると視線をこちらにむけた。 …………顔ぐしゃぐしゃじゃねぇか。 涙とよだれと鼻水でぐしゃぐしゃなのにそれが愛しくて、興奮する。悟浄の足を片方押し上げてその身体を床へと押し付け、俺はもう一度ぬるぬるの熱い粘膜へとチンポを押し込んだ。床って言っても、ドアから崩れ落ちたトコでの床なもんだから腰を突き入れれば悟浄の身体がドアへと当たる。窮屈な姿勢なのに、悟浄はくたりと横たわったままされるがままだ。身体を中途半端に折り曲げられて、くたりと脱力したまま時々身体を跳ねさせている。それでもナカはきゅうきゅう吸い付いてくるとか……。 「けんれ、も、らめ……」 「ダメ。今回は俺が満足するまで付き合え」 虚ろな瞳は俺の方を向いてはいるが、何も写していないのか視点は合っていない。床に爪をたてている悟浄の身体を揺さぶれば、涙とよだれが零れ落ちる。たくしあげられているキャミソールは汗で色が変わっているし、履いたままのスカートも汗と結合部から零れ落ちる体液でもうドロドロだ。これ着たままは帰れねぇな。どうみてもレイプされましたと言わんばかりの格好。下手すりゃそのまま路地裏とか公園とかに連れ込まれて見知らぬヤツに犯されそうだ。刺激され過ぎて赤くなっている乳首に顔を寄せ、軽く吸ってやると切な気に眉根を寄せて俺のチンポを絞めつける。ゆるゆるとナカを犯しながらもう片方の乳房を持ち上げ、寄せてみる。デカイからいけそうだな。少し強引に両方の乳房をまとめて乳首を引っ張り上げ、二つの乳首をまとめて口に含んだ。ちょっと無理があるようで結構力がいる。手離したらさすがに無理が有りそうだ。片手で乳房を固定しつつ、乳首を舐めると顎を上げ、腰を揺らめかせる。気持ちヨさそうなその反応を見て、俺は乳首に歯を立てた。 「あんっ!」 一気にナカが痙攣する。揺れる悟浄の腰の動きに合わせてナカを抉れば絞めつけがキツくなり、ヤバいくらい気持ちイイ。そろそろ一回イっとくか……。腰の動きを早めて子宮口を抉るようにナカを犯しながら乳首を噛めば、ナカがビクビクとチンポを飲み込むように絞め付けてくる。 「けん、れ……。捲……簾」 うわ言のように呟きながら虚ろな目で涙を零している悟浄を玩具のように揺さぶりながら、歯を食い縛る強さで乳首を噛めば、悟浄の身体はビクッと跳ね、硬直した。その絞めつけのキツさに逆らわず、俺は床に立てられた爪を見ながらナカに精液を吐き出した。 「ッ……、ッ……!」 ビクビクと跳ねるチンポを子宮口に擦り付けながら全部吐き出す。ピクピクと震える内壁が、それを促してくれる。 あー、気持ちイイ。 出したばっかだけとチンポは萎えるまでいかなくて、まだ結構固いままだ。ちょうどいい。吐き出し終えて身体の力が抜け、顎の力も緩んだとこでやっと俺は口の中に広がる血の味を認識した。いけね、噛みすぎたか。手と唇から胸を解放してやれば、引っ張りあげられていた乳房が重力に従ってぶるんと落ちて揺れた。虐められまくった乳首はかわいそうなくらいに赤くなっていて、悟浄が呼吸をするたびに誘うように揺れる。さすがに千切れちゃいねぇけど、見つめる視線の先でぷくりと赤い液体が粒状に膨らんで、乳首を濡らしている唾液に滲んだ。 「ワリィ、強く噛みすぎた」 謝って滲む血を舐めると、悟浄の視線が自分の胸に向けられる。そして、見にくかったのか自分の手のひらで乳房を鷲掴んで乳首を上に向けた。じんわりと滲む血に、けど悟浄は少しだけ笑った。 「平気。気持ちヨかったし……」 なんで幸せそうに笑うかな…………。 てか、その体勢で俺を見んじゃねぇ。チンポくわえこんだまま、自らの乳房を持って笑うとか、誘ってんだろ!? 硬度を増したチンポをぶっさしたまま、折り畳まれている身体をドアの前から解放してやろうと、その腕を掴み引っ張った。同時に体勢を入れ換える。 「悟浄、動けよ」 寝転がった俺の腰の上に悟浄の身体を乗せて、俺は言った。いわゆる騎乗位だ。乗せられた時に身体を支えようとした悟浄の手が俺の腹に触れている。戸惑うように揺れる赤い瞳に告げる。 「上手く出来たら、お前を俺のオンナにしてやんぜ?」 「ッ…………」 見開かれた悟浄の瞳から涙が一筋零れ落ちた。まばたきすら忘れたかのように、信じられないモノを見るかのような傷付いたような瞳を、俺はじっと見つめ返した。長いような短いような時間、俺たちの視線が絡んで、そして、先に目を逸らしたのは悟浄の方だった。ゆっくりとまぶたを閉じて、もう一度開いた時にはうっすらと笑みを浮かべていた。半分は自嘲の笑み、そしてもう半分は、…………とても満足そうな笑み。 そろそろと悟浄の腰が持ち上げられる。ずるずると俺のチンポがあらわれて、そして再び飲み込まれる。何度も何度も、最初はゆっくりと、そしてだんだん速度を増して繰りかえされるその動き。 俺のオンナになんて、そんな扱いでもいいのかよ、お前は……。 その身体の内に男のチンポを受け入れて、ただ奉仕している悟浄があわれでならない。 「ンな程度で満足できるか。足りねぇよ」 パシッと太股を叩いてやれば、ひくんと膣が蠢く。悟浄は脚の位置を直すと、身体をキチンと起こした。上下に動かしていた腰の動きに円を描くような動きをプラスする。チンポ全体を熱い粘膜で絞めつけられて気持ちヨさに息が乱れる。けど、あきらかにこれは俺を喜ばせる為だけの動きだ。この動き方じゃ、悟浄のイイトコには当たらない。 マジで奉仕だな。俺のオンナになんて、男のお前を全否定した扱いじゃねぇか。なんでお前嬉しそうなんだよ。なんで大人しく俺を喜ばせようなんてしてるんだよ。 …………ヤベ、俺の方が泣きそうだ。 酷いコトをしているのは俺なのに。 ぐちゃぐちゃした感情をため息とともに吐き出して、俺の腹につかれている悟浄の両手をとった。バランスが取りにくくなって動きが鈍くなるのは承知の上だ。動きを遮られたせいで、ダメだったとでも思ったのか縋るような顔になった悟浄の胸に取った手を押し当てる。 「自分でするんだ」 「…………うん」 小さく頷いて、悟浄は動きを再開する。バランスを取りにくい身体を支えるために膝で俺の身体を挟み込んで、背筋を少し反らして、腰を捻りながら身体を上下させる。濡れた赤い瞳が俺を見た。俺の反応を見逃さないようにじっと見つめて、悟浄は手のひらで乳房を掬い上げた。やわやわと握りこむようにしてから、親指と人差し指で先端を潰す。それ、さっき俺がしてたやり方じゃねぇかよ。 「ン……」 眉根を寄せ俺を見ながら、膣が俺を絞めつけてきた。グチュグチュという卑猥な音が激しくなる。多分さっき俺がナカで出したのが溢れて来てるんだろう。乳首を擦り潰している悟浄の指が少し赤く染まっている。乳房の変形具合といい、結構力が入ってんじゃなかろうか。痛く無いんだろうか。いや、もしかしたら痛いようにワザとしてるのかもしれねぇな。痛みを感じればナカは絞まる、だから。チンポをキツく食い絞めている膣に、何度も飲み込むように腰を振る悟浄。俺が気持ちヨさそうな反応を示す度、その動きを繰り返し、反応を引きずり出しては嬉しそうに笑う。 あー、胸がマジで痛ぇわ。 「カハッ……!?」 グイッと腰を跳ねさせて下から思い切り悟浄を突き上げてみた。目を見開いてその身体が仰け反る。跳ねた身体が落ちて来るのに合わせて抉るようにチンポをぶちこめば自重で余計に深くまで受け入れるコトになって、悟浄の膣の深さと俺のチンポの長さの関係で先端が子宮口に押し付けられるだけじゃ足りなくて、その脇の粘膜に突き刺さった。 「ィヤアアアアア!!!」 いきなり絞めつけられて道連れにされそうになるのを、奥歯を噛み締めて堪える。まさか一突きでイくなんて思ってなかった。身体を跳ねさせて仰のいている悟浄は少し苦しそうに口を半開きにして舌を覗かせている。 イヤ、か。 このまま俺のコトも拒めばいい。 突き上げていた動きの勢いを使って起き上がり、痙攣している悟浄を床に押し倒す。押さえ付けたりしたら痛いだろうから、少しでも緩和されるように抱き締めてやる。優しい行為ほど残酷なモノは無い。首筋の上の性感帯を擽ってやれば耐え切れない快感に半狂乱になる。 「ヤ、ヤら、ヤ……ッ、も、らめ、もぉ、………けんれっ!」 頭を振り乱してのたうつ身体を優しく拘束して、俺は悟浄の耳元に唇を寄せた。子宮口をキツく抉り、その身体を抱き締めて、コイツだけの性感帯を嬲って、優しく囁いた。 「愛してる」 「ッ………………」 一切の抵抗も言葉も消えた身体。痛みを耐えるように目をキツく瞑り、その身体を揺さぶり、犯して、俺はその最奥に精液をぶちまけた。荒い息を肩でしながらキツい内壁に擦り付けるようにして最後の一滴まで吐き出すと、脱力するそのままに悟浄の上にのしかかる。体重を全部かけないようにしながら、腕の中の身体を優しく抱き締めた。もうお前はこんなことさせてくれないだろうから。 少しずつ呼吸が整ってくる。身体を伝っていた汗が冷えていく。言葉も無く、抱き締め返す腕も無い。ピクリとも動かない身体。拒絶も肯定も示すことの無い悟浄の身体。 顔を見る勇気が無い。 その痛みをやり過ごし、俺は腕を緩めて悟浄の身体を解放した。 冷たく固い床には汗やら精液やらが飛び散って酷く汚れていて、悟浄はそのなかに服を乱された格好のまま横たわっている。 あー、これじゃマジでレイプ現場みたいじゃねぇか。いや、『みたい』じゃなくて、そのものか。 表情も無く虚ろな瞳をしたまま、悟浄は動かなかった。微かに上下する胸で、かろうじて生きていることは解るが、それだけだ。 ため息を吐いて、突っ込みっぱなしだったチンポをゆっくり引き抜く。脚を下ろしてやって、腿を撫でてもなんの反応も無かった。とろりと、悟浄の入り口からナカに注ぎ込んだ俺の精液が零れ落ちた。 汗と涙とよだれと精液と、おまけに血でドロドロになってる悟浄の身体を俺は抱き上げる。せめて風呂に入れて綺麗にしてやんねーと。 風呂に入れて、出来れば眠らせてやって、それから…………コイツの同居人に連絡して、コイツはもう戻らないと告げよう。 お前はここに居ればいいよ。男だろうが女だろうがそんなのどうでもいい。ずっと面倒見てやるから、だからここにいるんだ。そのために、お前の心を壊したんだから。 風呂に入れてすみずみまで綺麗にして、パジャマを着せてベッドに運ぶ頃には、体力的にも精神的にも限界だったのか、悟浄は眠ってしまった。その表情が苦しそうで無いのを確認して掛け布団をかけると、俺は寝室を出た。取り敢えずリビングの掃除をしないと。乾きかけた液体を濡れ雑巾で拭っていく。と、突然何かが震える音がした。音の出所を探せば、悟浄の着てきた上着が震えながら床を滑っている。上着を捕まえポケットを探して中から震えるスマホを取り出すと、画面には『八戒』と表示されていた。ちょうどいい。 「もしもし」 『……あれ? この番号って、悟浄の電話じゃありませんでしたっけ?』 「合ってるよ。ハジメマシテ。俺は捲簾」 『ああ、貴方が。初めまして、僕は八戒といいます。もしかしてお邪魔でしたか?』 「いや、大丈夫。アイツ今寝てんのよ」 『え、悟浄寝ちゃったんですか?』 「そ。何か問題でも?」 『いえ……。薬が切れないと良いんですが……』 「切れるとどうなんの?」 『まぁ、男に戻るだけなんですけどね』 「なら問題なくね?」 『貴方がそう言うならそうなんじゃないですか?』 訳知り顔に少し苛立つ。悟浄が女になったのがコイツの作った薬のせいだとするなら、悟浄はコイツに理由を全て話していることになる。なんだろ、このドロドロした気持ち。 『一つ質問しても良いでしょうか?』 「どーぞ」 『悟浄が眠っているのに、何故貴方は悟浄の電話に出たんですか?』 「…………お前に言いたい事があったからだよ」 別に普段から他人の電話に勝手に出たりはしねぇよ。 『何でしょう?』 硬質な声が届いた。コイツはなんか、敵には容赦しなそうな感じがする。そんで多分俺は敵だと分類されたんだろう。……間違っちゃいねぇな。 「悟浄さ、もうそっちに帰らねぇから」 『…………どういう事でしょう?』 「そのまんま。俺の傍がいいらしい」 『その台詞を本人の口から聞けたら納得します。悟浄に何をしたんですか?』 「お前には関係無いだろ?」 『関係あるかないかは僕が決めます。もう一度聞きます。悟浄に何をしたんですか?』 良い友人を持ってんな、悟浄。ため息を吐いて全てを告げようと口を開いたその時、俺の手からスマホが抜き取られた。 「わり、八戒。何か用あった?」 いつの間にか俺の後ろに悟浄が立っていた。びっくりする俺をよそに悟浄は普通に八戒と通話をしている。 「ん? 平気だって、なんもされてないよ。捲簾がお前をからかっただけだって。大丈夫。……うん、解ってるって。もう帰るから。うん、じゃあまた後で」 笑って通話を終了させてから、悟浄はすっと表情を消して俺を見た。 「何で人の携帯に勝手に出てんの?」 「…………」 「答えたくねーってことね。解った。んじゃ俺帰るから服貸して」 「帰んのか」 「そりゃ帰るよ。俺の家はここじゃねぇし、もうすぐタイムリミットだし」 「タイムリミット?」 「薬が切れんの。そしたらこの姿もおしまい」 怒ってんだろうな。表情が無くて解んねぇけど。嫌われただろうな。仕方無いか。それでもコイツが凹んで居なくなるよりはずっといい。 「壊れなかったんだな」 笑って言えば、悟浄は少しだけ目を見開いて視線を反らした。 「丈夫なだけが取り柄なんだよ」 「そっか」 頭を撫でてやりたくなって、けど手のひらを握りこんでその衝動を遣り過ごす。今更俺にそんな資格なんて無い。立ち上がって悟浄の横を通り抜けて寝室のクローゼットを開けた。女の格好でも平気そうな服ねぇ。 「なぁ、捲簾」 「何?」 「俺、上手く出来た?」 耳を疑って振り向くと、悟浄は少し離れたところに立ち、俺を見ていた。 上手く出来たかって…………。 「お前何考えてんだよ……」 俺のコトなんか嫌いになれよ。怒れよ。馬鹿にすんなよって怒鳴ればいいじゃねぇか。 「やっぱ、ダメだった?」 泣きそうな顔で、それでも笑顔を作って悟浄は言った。 「俺、捲簾の傍にいられるんなら、何でもいいんだ。一番じゃなくてもいいし、都合の良い相手でも構わない。捲簾の傍にいられるなら、ずっと女のままでも構わな」 「もうやめろ!」 これ以上聞きたくなくて怒鳴り付けるとビクッと悟浄が身体を竦めた。 ふざけてんじゃねぇよ。そんなの誰が許しても、お前自身が許しても、俺が許さねぇ。 苛立ちをぶつけるようにクローゼットの扉を閉める。 「別にそのカッコでいいじゃねぇか」 「え、でもコレじゃ外…」 「出なきゃいいだろ」 「そんなっ」 「何がイヤなんだよ。お前俺が好きなんだろ? だったら願ったり叶ったりなんじゃねぇのかよ。そのままここに居ればいいじゃねぇか」 「だって、このままじゃ俺、男に…」 「お前は男なんだからしょうがねぇだろうが」 「だって……!」 悟浄の瞳が突然潤んで、涙が零れ落ちた。 「男だってだけで、全部諦めるなんてイヤだっ……」 ボロボロ涙を零して何を言うかと思えばそんなことで。 思わず大きなため息をついて、俺は悟浄の頭を撫でた。 「ばーか。男とか女とか以前に、お前はお前だろーが」 何を言われたか解らないといった顔で、目をまんまるにして悟浄は俺を見た。 「男だからって諦める必要もねぇだろうが。ったく、お前はやることが極端すぎんだよ。くだらねぇことで悩んでる暇があるなら、そのままぶつかって来いってんだ」 「……ぇ、俺、男でもいいの?」 「良いも悪いもお前は男だろ。それに、男の姿で告ってくれねぇと俺も結論出せねぇだろうが」 悟浄の指がそろそろと頭を撫でる俺の手に触れた。潤んだ瞳の上目遣いで、少し頬を赤らめて。 男でも女でも、かわいいんだよなぁ、コイツ。 「良い返事ができるかはわかんねぇけど、少なくともお前のことは嫌いじゃないよ。だから、避けたり居なくなったりはしないでくれると嬉しい」 「……うん。解った。今度は男の姿で捲簾押し倒しに来る」 「…………」 馬鹿野郎、そこまでは言ってねぇ。 ぐいっと髪を引っ張ると、何故か悟浄はおかしそうに笑った。 まぁ、元気になったならそれでいいけど。 肩を竦めて、再びクローゼットを漁ると、隅に積んである箱の中に中身に覚えのないのを見つけた。なんだっけ、この箱。引っ張りだして蓋を開けてみると、中には女物のセーラー服とナース服とミニチャイナ。そういや、悪友たちとの忘年会のビンゴで当てたんだっけ。コスプレセット。見ればガーターやらパンツやらまで入っている。おい、誰の趣味だよ、コレ。原因追求は今度奴らに会った時にするとして、とりあえずチャイナとパンツを悟浄に投げてやる。 「チャイナ……。もっと普通のないの?」 「チャイナとセーラーとナース。好きなの選べ」 「これでいいです…」 箱を元の位置に閉まっていると、後ろで着替えている音がする。なんでここで着替えるんだ。お前はもう少し恥じらえ。 クローゼットを閉めて振り返れば、悟浄は襟の留め具をはめているところだった。 「フリーサイズだからちょっとでかいか?」 「胸以外は」 「ああ」 全体的に布が余っているのに、胸の部分だけはパツパツだ。それでも布地が良質なのか、乳首の位置は解らなそうだ。赤地に金で花がプリントされているありきたりなデザイン。けど、スタイル良さとその髪と瞳の色とあいまってかなり似合っている。 「そそられちゃう?」 ミニのスリットから覗く脚を強調して悟浄が聞いた。 「馬鹿言ってんな。そうやるとパンツ見えんぞ」 スリットが深いせいで、ちょっと動いただけでもパンツが見える。恥じらうくらいのがそそられるっつーの。まぁ、そこは個人の趣味なんだろうが。 「んじゃ、行くぞ」 「え、どこに?」 「帰るんじゃねぇのか? 送ってやるから早くしろ」 「一人で帰れるけど?」 「今何時だと思ってんだ。そんなカッコしたお前を一人で帰らせたらお前の同居人に殺される」 すでに0時近いのに、一人歩きなんてさせられるか。お前のことは大切に思ってんだよ。 車の鍵と携帯と財布だけ持つと、悟浄はスマホだけを持った。 「上着は?」 「これ返しに来るときに、まとめて持って帰るから洗濯しといて」 「りょーかい」 「その時はちゃんと、男の姿で告るから」 「ああ」 何かを吹っ切れたような悟浄の表情に、俺もつられて微笑む。 靴を履いて家の鍵を開けてドアを開き外に出ながら振り向くと、後ろをついてきていた悟浄は履いてきたミュールに脚を突っ込んだ。そしてニカッと笑うと俺の腕に抱きつく。 「もしダメだったらさ、その時は捲簾のオンナにしてくれよな。がんばるから!」 …………。 頭が真っ白になって、俺は思わず悟浄の頭を思い切り殴りつけていた。 −あとがき− Miracle☆Drag LOVEの続きです〜。あの話に続きがあったなんて誰が予想しただろうか。私も予想してなかった。ていうか、需要あんの?この話。 ホントはテイストを合わせてギャグにしたかったのですが、ていうか最初は頑張ってたのですが、どうしてこうなった。そしてエロはそこそこ短く済んだのに、妙に拗れて、予想外の八戒さん登場。そしてハッピーエンドはどこに。タイトルのノリ的には前回と同じっぽいのになぁ。意味はまぁ、内容そのまま?結構痛い話になってしまった。ギャグ苦手なんだよねぇ。気づけば切ない系になってたのでどこまでも!な感じで。私が書く話は基本切ない系なのですよね、ごめんなさい。たまには明るく能天気なハッピーエンドを書いてみたい!そしてろくに読み返しもしないでUPするという、いい加減きわまりない感じで…。逃げるっ! |
花吹雪 二次創作 最遊記