スタートライン 「悟浄、ケツ出せ」 ……あの日以来、捲簾は仕事が休みらしく一日中俺の世話を焼いてくれている。当初起き上がるのもやっとだった俺をトイレまで運んだり風呂に入れてくれたり食事を用意してくれたりと、過保護なほどだ。もちろん俺も嬉しいのと、今までの反動もあいまって思い切り甘えたワケだが。最初のうちは。 さすがに一日中ベッタリってワケじゃねぇからそういう点でストレスは感じてはいない。一緒に居ても構いすぎるワケでもなく、ほどよく放って置いてくれるし。捲簾は距離の取り方が上手いと思う。 そんな捲簾にも譲れないコトはあるようで。イヤ、そういうの無いって思ってたワケじゃねぇのよ。そうじゃなくて、……正直困る。 「もうほとんど治ってるから平気だって」 「ダァメ。いいから見せる!」 「………………」 こういうコトに関しては、捲簾は妥協してくれない。誘拐されたとき、見えるトコに傷は無かったけど、その後も無茶してかなり拡がってた俺のケツを捲簾は気にしていて、あれ以来俺を抱いていない。俺が欲求不満にならないようになのか触りたいだけなのか解らないけどペッティングまではしょっちゅうするけど。抜いてくれたりとか。 だがしかし、毎日俺のケツの手当てはしてくれるワケで。セックスするわけでも無くムードもへったくれもなく、捲簾は俺にケツを出せと言うのだ。 心配してくれてるのは解るし嬉しいけど、いくら捲簾相手でもケツの穴を見せるのは恥ずかしいからイヤなのに、捲簾は絶対引いてくれない。もうほとんど治ってるから平気だってのに。 仕方なく今日もベッドに四つん這いになって頭を下ろす。ケツだけ上げてるこの姿勢が一番診やすいんだとか。俺には一番恥ずかしい体勢だけどな……。 ズルッとパジャマと下着が下ろされ、捲簾がソコに顔を近付けるのが解る。うぅ……、もう早く終われ。 「ン」 入り口を濡れた指が撫でた後、ツプッと指が押し込まれる。緩いワケじゃ無いと思うけど、すっかり馴らされた身体はそれを簡単に飲み込んだ。しばらくは入り口を確認するように指がソコを押したりしていたが、やがて抜かれ、今度は薬を付けた指がもう一度ソコを撫で回す。ヌルヌルする上に時々クチュ……と音が立って余計に恥ずかしい。 「ん。もういいぞ」 やっと終わった……。 解放の合図にペシリとケツを叩かれる。その手から逃げるように自分でパンツとパジャマを穿いてベッドに転がると、捲簾がティッシュで指を拭いながら口を開いた。 「もう大丈夫そうだから、診んのも今日で終わり。オツカレサン」 良かったぁぁぁぁぁぁ! もう、マジで恥ずかしかったからな! てことは、これでセックスも解禁? だよな? やった! 抜いて貰ってはいたけど、やっぱ最後までしたいし。つか、最近捲簾に触られるとナカがなんか、ヘン。女じゃねぇのに、触れられたいってか、……欲しくなる。 今、ダメかな? そんなすぐにとか、浅ましいかな。けど、欲しい。 「なぁ、捲れ」 ピンポーン。 ……。タイミング!! そんな俺に捲簾は苦笑して俺の頭を撫でた。 「ゴメンな? 話は後でちゃんと聞くから」 「ん。いってらっしゃい」 客を無視してまで言うほどのコトじゃねぇし、ヤれたとしても気になりそうだから止める気もなく捲簾に手を振る。部屋から出る捲簾を横目で見つつベッドに寝直した。つか、治ったならそろそろベッドから出ても怒られないかも? 今まではなぜか怒られたからな。そーゆートコは捲簾は八戒以上に口うるさい。 と、部屋のドアが開いた。随分早いけど、客何の用だったんだろ。 見ると部屋に戻ってきた捲簾がスッと脇に退いた。へ? キョトンとして入り口を見てると部屋に一人の男が入ってきた。銀髪に白い肌の育ちの良さそうな男性。誰? 「君が悟浄君だな。今回は部下の不始末に巻き込んでしまい申し訳ない」 そう言って俺の目の前まで来た男は頭を下げた。え? ナニ? びっくりしてベッドに起き上がって捲簾を見ると、捲簾が頭を掻きながらその男を紹介してくれた。 「この人は俺らの直属の上司で」 「敖潤と言う。仕事絡みで迷惑をかけたにも関わらず私が謝罪に来ないのはおかしいと思ったのでな」 「ンなコトいいのに」 「いや、こういうことはきっちりすべきだ」 「はぁ」 どうやら部下とは違って真面目で硬いらしいその人は、片膝をついて俺と視線を合わせた。 「本当に申し訳なかった。ついでに……謝罪に来ておいてなんなんだが、君に少し聞きたいことがあってな」 「聞きたいこと?」 なんだろーか。促すように言葉を待つと、捲簾の上司は口を開いた。 「まず、捲簾から君のこの建物への立入許可申請が出ているんだが」 「へ?」 この建物への立入許可申請? って、あのパスワードとかの話? 「何も聞いていないのか?」 「…………うん」 思わず正直に答えると、捲簾の上司は呆れたようにため息を吐いた。 「細かいことは後で捲簾に聞いてくれ。それで、その申請に君の身辺調査の結果を添付しなければならないのだが、調べさせて貰っても構わないだろうか?」 身辺調査…………。 「嫌なら断ってくれても構わないが」 「ヤ、イイケド」 調べんのはいいけど、却下されそうでイヤかも……。今も昔も誉められたような人生は送っていない。でも、それでこの建物へ自由に入れるようになるなら、ダメ元でやってみるのもいいかもしれない。 「了承した。調査結果を開示することもできるがどうするかね?」 「んー……、いや、いらね」 もしかしたら兄貴の行方も調べられるかもしれないけど、こういう形はなんか違う気がするし。 「そうか。それから、ヤツらに拘束されてる間に何か薬を使われたりしていないか?」 「薬?」 「ヤツらは麻薬のルート組織だったんだ。だから君に使われている可能性があると思ってな」 あー、やっぱそうだったんだ。見えるトコに傷はつけないようにしてくれたおかげで打たれはしなかったんだな。良かったわ。薬漬けはさすがにヤバい。 なんて思ってたら返事し忘れてた。 「あ、平気。全然無事」 「……今の間は?」 捲簾に真面目な顔で睨まれて思わず身体が引きかける。 「イヤ、やっぱそうだったんだーって思ってた間」 「なんでやっぱりなんて思ったワケ?」 ヤベ、墓穴。 「えーと、何となく?」 笑いながら言うと、そばにいた上司さんも厳しい顔になる。 「本当の事を聞かせて欲しいんだが?」 「あー……」 ヤベぇな。絶対捲簾が責任感じたり心配したりすると思って言わなかったのがこんな所でバレるとは。 「連れ去られるとき嗅がされたのがそうかなーって思っただけ……」 「お前何でソレ直ぐに言わなかった!!」 窓が震えるほどの大声で捲簾に怒鳴り付けられて、ナゼか逆に冷静になった。 「べっつに〜。思っただけで根拠なんてなかったし? ンなコトどーでもイイじゃん」 「良くねぇから怒ってんだろうが!!」 あーもー、こう来ると思ったから言わなかったのに。そんな俺の態度が気に障ったのか、捲簾が俺に詰め寄ろうとしたとき、黙ったままでいた捲簾の上司が手で捲簾を止めた。 「お前がそういう反応をするから言えなかったんだろうが。少し黙っていろ」 「……ッ」 悔しそうに口を閉じた捲簾が、1つ壁を殴った。その音が重く響く。 「それで」 そんな捲簾には構わず上司さんは俺に声をかけた。さすが、捲簾の上司だけあって捲簾の扱いに慣れている。 「連れ去られたとき君は意識はあったのか?」 「いんや。なんかタオルみたいので口と鼻を覆われて」 「直ぐに意識が?」 「ワリと早かった。ケド先に身体の自由が効かなくなった」 「臭いは?」 「んー…、なんか変な臭いはした」 「ふむ……。奴らが扱っていた5MeO-DMTのオーバードーズの可能性が高そうだな。その後吐き気や幻覚症状は無かったか?」 「それは平気」 「そうか。少なくともその点は良かったと言うべきか……。しかし麻薬か……」 神妙な顔で考え込んだ彼に、捲簾が凄く辛そうな表情で口を開く。 「マジで悪ィ。俺のせいで取り返しのつかねぇこと……」 ヤッベ、かなり捲簾が自己嫌悪モード入ってる。 「あー……いや、大丈夫だから」 「大丈夫じゃねぇだろ。お前、事の重大さ解ってる?」 「解ってるって。その、さ。薬初めてじゃねぇからマジで平気。捲簾が何を心配してるかは解ってっけど、今さらなのよ」 「へ?」 おー、驚いてる驚いてる。まぁ、捲簾には言ってなかったもんな。昔ヤンチャしてたころのアレコレは。余り言いたい内容でもねぇし。でもそれて捲簾が少しでも楽になるなら、バラしても全然かまわない。 「成程な。さすがコイツの恋人だけはあるといったところか」 「恋人!?」 まさかのその言葉にビックリして聞き返したら、捲簾の上司は何を驚いてるのか解らないと言いたげな顔で首を傾げた。 「捲簾がそう言っていたんだが、合意では無かったのか?」 捲簾、周りに俺のコト何で言ってんだよ!? 「申請書の続柄も恋人で出ていたぞ。仕事場で可愛いだの会いたいだの喚いていて、五月蝿くてかなわん」 かぁーっと顔に熱が集まってくるのが解る。何ソレ何ソレ!? 捲簾そんな素振りぜんっぜん見せなかったじゃん! 「アンタいい加減……」 「そういえはお前も会社に来い」 止めようとした捲簾に、立ち上がり彼が言った。へ? 会社って、まさか捲簾仕事休みじゃなかったのか!? ビックリして捲簾を見ると、捲簾は気まずそうな顔をして上司を見た。 「その話は後で」 「そう言ってその通りにしたことは無いな、お前は」 「……」 捲簾、普段どんな勤務態度なのよ……。 「お前に言うより彼に言った方が、効果が有りそうなんでな。悟浄くん。すまんがこの馬鹿に会社に顔を出すよう言っておいてくれないか?」 「それはイイけど、捲簾まさか仕事サボってんの?」 「いや? 仕事は普通に休暇と有給だが、……まさか話して無いのか?」 「ナニを?」 驚いた様子の上司さんは、俺の疑問に大きくため息を吐いた。 「この馬鹿は、先日の一件で肋骨が折れているにも関わらず治療をすっぽかしているんだ」 「……へ?」 肋骨が折れてる……って、まさかあの時!? 「診せたからって早く治るモンでもねぇし、無茶はしてねーよ」 イヤイヤイヤ、そういう問題じゃねーだろ。しかも捲簾コルセットとかしてなくね? なんか巻いてたら抱き起こしてくれた時とかの感触で解るし。てか、捲簾結構俺を抱きあげたりしてたような……。大丈夫なのか? 不安げに見ると、それに気付いた捲簾が苦笑した。 「大丈夫だから」 ……大丈夫、なワケねぇだろ。折れたの、多分あの時だろ? 至近距離でアイツに撃たれたあの時……。俺をお姫様抱っことかしてる場合じゃねぇじゃん。 「解った。絶対行かせる」 「よろしく頼む。まぁ、君も一緒に来てくれた方が安心だが」 「え、俺も行っていいの?」 「この馬鹿を野放しにすると逃げかねないからな。君も念のため受診した方が良い。ついでに仕事場も見ていくといい」 「捲簾の仕事場……」 スッゲェ見たいかもしんない。行っていいなら行きたい。ケド、捲簾はどうなんだろ。 チラリと捲簾を見ると、捲簾が視線に気付いて肩を竦める。 「お前が来たいなら来いよ。潤ちゃんもイイっつってるし」 「え……っと、じゃあ行く。明日でもイイ?」 「構わん。伝えておこう。ついでに明日までにこの建物のパスワードを設定出来るよう申請を受理して置こう」 「え、そんな早くできんの? 調査とかあるんじゃねぇの?」 「普通ならそれなりに時間がかかるが、今回は特別だ。うちの馬鹿な部下どもが既に君の事を調べて有るようなのでな」 あー、そういえば捲簾、俺のコト調べたって言ってたっけ。 と、同じことを考えたらしい捲簾が口を開いた。 「今日は会社に行かねぇからデータ出せねぇけど?」 そういやそうだ。捲簾が調べた情報は捲簾が管理してるんだろうから、捲簾が仕事場に行かないと書類は作れないだろう。と、思った俺と捲簾に、捲簾の上司はナゼか不思議そうに言った。 「天蓬は天蓬で独自に調べていたが」 「はぁ!? アイツ勝手に何してんだ!」 ……捲簾が俺の過去を天蓬に話してあるのかと思ってたら、どうやら違ったらしい。考えてみりゃそうか。捲簾は他人のコトを簡単に話したりしなそうだもんな。そっか、全部調べて知ってたからこそのあの発言だったのか。つか、捲簾人のコト言えないと思うぞ。仲良いだけあって似た者同士だわ。 てか、もしかして天蓬は捲簾を心配してたんじゃなかろうか。俺が捲簾に危害をくわえないか心配して調べたんじゃなかろうか。最初に一人で会いに来たのも、多分それでなんじゃねぇかな。 捲簾は勝手に俺のコト調べたって怒ってるけど、捲簾好かれてんじゃん。思わず口元が綻ぶ。 「ナニ笑ってんだ。お前も怒れよ」 「イヤ……ぷっ」 不貞腐れたような捲簾がかわいくてたまらない。 調べられた結果、先入観とか思い込みで何かされたとかならそりゃイヤだけど、捲簾も天蓬もそれで何かしたりだとか、知ってるからって同情したりはしなかった。知ってるとも言わずに俺の話は話でちゃんと聞いてくれた。いつでも誠実に、真っ直ぐに。 だったら、別にイイ。 「俺が話す手間が省けたってコトでイイじゃん?」 爆笑しながらそう言うと、捲簾はビックリしたあと気が抜けたような顔をした。 「お前って、ホンット男前だよな」 「え、マジで? 嬉しい。もっと誉めて」 「調子に乗んな」 コツンと頭を小突かれる。捲簾は俺に必要以上に気を使うことは無い。俺の過去も全部知ってて、でも他のヤツと同じように俺を怒ったり小突いたり撫でたりしてくれる。だから何だか少しだけくすぐったくて。 「では、私はそろそろおいとましよう」 「へいへい。玄関まで送ってくるわ」 部屋を出る二人を見送って、もう一度ベッドに寝転がる。明日は捲簾の会社にお邪魔できるらしい。どんなトコなんだろ。天蓬はいるのかな。きっと他にも同僚いるんだろうな。何だかドキドキワクワクしてきた。 あ、そっか。 捲簾と想いが通じ会うのがゴールじゃないんだ。なんていきなり気付いた。そりゃそうだ。作り話みたいにハッピーエンドで終わりなんて現実には有り得ない。幸せになって、それから先が必ずあるはずだから。いつでもいつまでも幸せなんて無いし、いつまで一緒にいられるかなんて解らない。でも、できるだけたくさん幸せでいたいし、少しでも長く二人でいたいから、そのために人は足掻くんだろう。努力もしないで叶えられる望みなんて無いから。 だから、これはきっと、ゴールでありスタートなんだ。死ぬまで続く長い人生の通過点。 生きてやるさ。 誰のためでもない、自分のために。 自分が幸せになるために。 ここから、始まるんだ。 さあ、歩き出そう。 俺だけの人生を。 |
花吹雪 二次創作 最遊記 貴方の腕で抱き締めて