【捲簾が酒に詳しい理由】


捲簾の家の椅子が多いのは入り浸るヤツが多いからだ、ということを俺は同居し始めてから知った。同僚なんかがしょっちゅう来ている。しかも大抵一人じゃないから、来客がある日はこの家はとても賑やかだ。まぁ、そんな来客は大概天蓬なんだけどな。天蓬は捲簾と特に仲が良いらしく、一人でくることも多い。多いってか、毎日。仕事を終えて、家に帰る前にここに寄る。んで、飯を食って帰る。どうも、俺が捲簾と付き合う以前からこんな状態だったらしい。まぁ、天蓬一人にしとくと生活面不安だもんな……。そんな天蓬は基本飯食ったらすぐに自室に帰る。だから、俺としても天蓬が毎日来るのに不満はなかったりする。俺も天蓬のことは好きだし、話してて楽しいしな。
で、今日も天蓬が来ています。今日は更に、八戒も居たりします。俺がここに転がり込んでから、八戒も良くここに来るようになったわけで。んで、今日はまだ時間が早いからって四人で飲むことになった。もちろん料理も酒も作るのは捲簾だ。さっき八戒が料理を手伝ってはいたが、手伝う程度しかできなかったらしい。八戒が舌を巻く程の腕ってどういう……。
「ハイヨ。おら、天蓬灰皿どけろ」
「わーい! パエリアです〜!」
「残念、ハズレ。これはフィデウア。八戒、これ取り分けといて」
「え? 何が違うんですか?」
「パエリアは米だけど、これはフィデオスってゆーショートパスタなの。他はおんなじだけどな。ピンチョスと生ハムは適当に自分で取るだろうからそのへんに置いといて」
「ガスパチョも取り分けるんですか?」
「うん。苦手なヤツいるかもだから少なめで」
「わかりました。あ、天蓬、イワシの酢漬けはそっちでいいですよ。悟浄食べないんで」
「イワシはいいけど、アヒージョは食べる! エビ〜」
「チリンドロンは取り皿だけでいいよな?」
「この細長いの何?」
「それはマテ貝です。バター焼きと鉄板焼きと両方用意してみました」
「んで、酒はまずはこっちな。これ終わったらカクテルでもなんでも作ってやるよ」
「コレは何?」
「シドラ。りんご酒だ」
「へぇ〜」
天蓬と俺の声がハモる。と、そういえば。
「捲簾って酒詳しいけど、バーとかでバイトしたことでもあんの?」
今更だけど聞きそびれてたのを思い出したから聞いてみたら、捲簾は一瞬キョトンとした顔をした。
「あー…、そっか。言ってなかったな」
支度を終えて捲簾が椅子に座ったので、みんなでグラスを軽くあげる。
「乾杯」
「いただきまーす」
「今日も一日お疲れ様でした」
「飲むぞ〜」
てんでバラバラな発声をして、グラスを傾ける。そして思い思い料理に手を伸ばす。
「俺な、実家が旅館なんだけど」
「は!?」
さらっと言われた新事実にびっくりした俺をみて、天蓬が補足する。
「捲簾の実家は静岡の『一の宿』っていう旅館ですよ〜」
「『一の宿』!?」
その補足を聞いて、今度は八戒が驚いた声を上げた。
「え、八戒知ってんの?」
「知ってるも何も、テレビの温泉旅館を紹介する番組で毎回取り上げられるくらいの有名旅館ですよ! ランキングでは常に一桁の老舗旅館です!」
「おー、良く知ってんな」
「そんなでっかい旅館なんだ?」
「まぁ、でかいっちゃでかいな」
捲簾はなんでもないことのようにサラリと言ったが、旅館って俺あんまよく知らないけど、跡継ぎがどうのとかってあるんじゃなかろうか。
「……捲簾って長男?」
不安そうな声になってしまったのに気付いて、捲簾がこっちを見て笑いながら頭を撫でてくれた。
「長男だけど、跡は継がないよ」
「そ…なんだ?」
少しだけホッとする。
「ウチは5人兄弟なんだけど、俺は扱いづらいから継がなくていいって昔から親に言われててよ」
「言うこと聞きませんしねぇ」
「うっせ。ま、だから弟が継ぐから問題ナシ」
「そっか」
良かった。ホッとしてピンチョスを1つつまんで口にいれると、今度は八戒が首を傾げた。
「でも、家が旅館なのとお酒に詳しいのとどうつながるんですか?」
「ああ。家族経営だったから家のすぐ脇に旅館があってさ。で、結構デカイ旅館なんだけどそこを遊び場にしてたわけよ。田舎だから従業員の連中も遊んでくれたしな。んで、良く中のバーに入り浸ってて酒のイロハを教えてもらったってワケ」
「なるほど……」
「小学生の頃からシェイカー振ってたから、覚えて当然っつーかな」
「嫌なガキですねぇ」
「考えてみりゃ、酒も煙草も女もその頃からだわ」
なんつーガキだ。
「料理の腕もすごいですけど、もしかしてそれも?」
「ああ、そうそう。夏休みとか年末年始とか忙しい時期はかり出されてさ。兄弟で手分けして手伝うんだけど、俺は厨房が多かったかも」
「なるほど……」
捲簾料理上手いと思ってたけど、実は本格的だったんだ……。創作料理も上手いけどきっと純日本料理とか作らせても上手いんだろうな……。今日のスペイン料理も美味いし。
「捲簾は潜入捜査に向いてるんですよね。使い勝手のいい資格も持ってるし、接客経験有りだし、人当たりも面倒見もいいし」
「調理師免許と危険物取扱者くらいじゃね? 潜入に使える資格って。あとは資格っつーより技能? インストラクター系とかなら持ってはいるけどさ」
「インストラクター?」
「マリンスポーツからヨガまで色々と。ほとんど使いみち無いけどな」
「捲簾って他にどんなことできんの?」
「んー。まず旅館で使うことは一通り。着付けとか茶道華道剣道柔道、経理もできるし、資格はねぇけど髪いじったりメイクしたりもできるな。あとはバイトで講師の真似事してたりとか警備員したり介護施設でヘルパーしたり二種免許も持ってるから運転手もできるし」
「捲簾はウチの会社入る前は普通に就職してたので、会社員もできますよ〜。元の仕事がIT系だったのでITストラテジストも持ってますしね」
「なにそれ?」
「IT・情報系の資格の中では最も難しいと言われるものの1つです」
「え……」
びっくりして捲簾を見ると、捲簾は嫌そうな顔をして天蓬を睨んだ。
「よく言うぜ。情報戦となったらお前の足元にも及ばねぇのによ」
「そりゃ、僕ですから」
「…………」
もう捲簾と天蓬とどっちに驚いていいのか解らなくて、きょろきょろしちまったけど、最終的に二人共すごいという結論に落ち着いた。
てか、二人の仲がなんか、なんか……。
ムスッとしてグラスに口をつける。
なんか、仲良すぎて妬けるっつーか……。
と、捲簾がそれに気付いて俺の頭を撫でてた。
「お前ホントかわいいな」
「かわいいって言うな!」
「だいじょーぶ。資格だなんだってのは単なる俺の構成要素だし、天蓬は少し付き合いが長いから知ってる部分も多いってだけだ。俺が今大事なのはオマエ」
「へ……?」
「これから、俺のこと知ってくれるんだろ? 長い時間かけて」
ここは食卓で、八戒も天蓬も居るのに、捲簾は俺の唇にキスをした。
「俺はオマエが居ればそれでいいの。愛してるよ、悟浄」
思わず真っ赤になって、俺は捲簾を押しのける。
でも、正直すごく嬉しかったのは言うまでも無い。




花吹雪 二次創作 最遊記 貴方の腕で抱き締めて