欲
確か、昨日この部屋を訪れたときには、80%くらいの散らかりようだった。 捲簾は、天蓬の部屋の前でそんなことを思いだした。 そして今日は特に用が有って来たわけではない。 「……」 逡巡ののち、力一杯ドアをノックしてみた。 「はい、どうぞ」 のんびりとした返事。 捲簾は覚悟を決めてドアを開いた。 「あれ?」 「どうしたんですか? 鳩が豆鉄砲食らったような顔をして」 がらんとした部屋のソファーに、天蓬が寝そべりながら本を読んでいた。 「きれいじゃねぇか」 複雑な顔でそう言うと、天蓬は「ああ」と笑う。 「金蝉が、さっきまで来ていたんです」 「へえ」 なるほど。それできれいなのね。 くわえていた煙草を執務机の上にいるカエルに押し込むと、その椅子に腰掛ける。 そして新しい煙草に火を付けると、そのままそこでくつろいでいる。 「なにか、用があったのでは?」 「いんや、なんもないぜ」 「暇だったんですね」 「そ」 短い肯定に、天蓬は少し考えた素振りを見せた。 「なに?」 「貴方、暇なんですよね?」 「そうだけど?」 「ちょっと、つきあってもらえますかね?」 「なにに?」 訝しげな捲簾に、天蓬はにこりと笑った。 「たいしたことじゃないですよ。貴方はそこで座っててくださればいいんです」 天蓬は立ち上がると捲簾の前まできて、その足の間にぺたんと座り込んだ。 そして、ベルトをはずし始める。 捲簾がため息を隠すように煙草の煙を吐き出した。 「金蝉、来てたんじゃねえの?」 天蓬が金蝉とも肉体関係を持っていることは、捲簾も知っている。 「来てましたよ」 即答。 「じゃあなんで…」 金蝉とせずにオレと? 言外に問う。 「今日は、そういう気分では無いそうで、断られました」 あっさりと天蓬が言う。 捲簾との問答には興味がないらしく、回答もいい加減きわまりない口調。 どうやらよほどしたいらしい。 チャックを下ろすと、布を掻き分け捲簾自身を取り出す。 そして口に含む。 「……嬉しそうだな」 にこ。 「欲しかったんです」 淫乱な獣。 舌で、形をなぞるように舐めあげると先端に口付ける。 段々と力をましていく捲簾を、ひどく嬉しそうに唇でその形を確かめる。 「……っ」 捲簾がぴくりと震えた。 快楽が、呼び覚まされていく。 「天蓬」 名を呼べば、勃ち上がったそれにひどく愛おしそうに頬ずりをしながら、うっとりと捲簾に視線を向ける。 「はい、なんでしょう?」 ぞくりと、捲簾の背筋を何かが走り抜けた。 その表情に可笑しそうに天蓬は笑うと、捲簾自身に指を絡め、そして袋を口に含んだ。 「飲ませてください」 ちゅ…。 唇で、袋を愛撫しながら、捲簾を見上げる。 「お願いします」 先端から零れてきた液を舐め取るように、捲簾自身を舐めあげる。 そして、口に含む。 「……っ」 チュ……クチュ… 淫猥な音が漏れてくる。 舌で先端を刺激しつつ、その指で裏筋や袋を愛撫していく。 「ちっ……」 手に持っていた煙草を揉み消すと、その手を天蓬の頭に乗せた。 「しっかり飲めよ」 ニコ。 潤んだ瞳で天蓬が笑った。 その頭を押さえつけて、彼の喉の奥まで自らのモノを押し込んだ。 「ぐっ……」 天蓬が苦しそうな声をあげたのにかまいもせずに、そのまま挿入を始める。 ちゅ…ぐちゅ……じゅ…じゅぷ…… 濡れた音が響く。 喉の奥まで突っ込まれて苦しいはずなのに、天蓬はうっとりと笑っている。 捲簾のそれに舌を這わせて、吸い上げる。 「くっ……、余裕じゃねえか」 くやしそうに口を歪め、捲簾はさらに激しく腰を揺らす。 じゅぷ…ぐちゅ……ちゅぷ…ぐちゅ…… 「あっ、ッ……!」 びゅっと、喉の奥に、白濁が放たれる。 こく、こくりと天蓬ののどが鳴る。 「……ふ、あ」 捲簾の身体から力が抜けると、天蓬は吸い上げながら捲簾自身から口を離した。 「ごちそうさまでした」 なぜか礼儀正しくそう挨拶すると、満足げに笑った。 「旨かった?」 「はい、とても」 脱力して、捲簾は新しい煙草を口にくわえた。 その様子を見ながら、天蓬は捲簾のベルトをはめている。 「お、サンキュ」 座り込んでいる天蓬をみると、ふとそれに気付いた。 靴を履いたままの足で、天蓬のそれを軽く踏みつける。 ぴくりと彼の肩が震えた。 「好きね、お前」 「僕、淫乱ですから」 自ら捲簾の足にすり寄り、さらなる刺激を求める。 ぐっと、力を入れてそれを踏みつけると、小さな悲鳴が上がった。 「淫乱」 跪いたまま、天蓬は捲簾の靴に唇を寄せた。 「飲むだけじゃ足りない?」 にやりと笑う。 「ください」 天蓬の肩から白衣が落ちた。 その細い指がネクタイを落とすよりも前に、捲簾がそれを奪った。 そして、天蓬の手首を後ろでひとまとめに縛り上げる。 「イイ?」 引きずりあげられて、背中を机に押しつけられる。 「捲簾」 上擦った声。 視線が絡んだ。 「僕を、犯してください」 にやりと、捲簾が笑った。 |