花火


その街は、大きな街だった。
というか、外からの見た目は大きかった。
門前のように続く街並、そしてその先にそびえる山。
そしてその中腹まで続く階段。
大きな寺院を中心として栄えていた街だった。
「過去の話だ」
三蔵が不愉快そうに眉をしかめ呟いた言葉の意味は、街に入ってすぐに解った。
長く続く門前町の奥は寂れていて、今は使われていない。
「寺院が妖怪に襲われてってトコですか?」
八戒がジープのハンドルを切りながら山を眺める。
中腹まで続く階段のその先には、何もない大きな空間。
寺院を中心とし栄えた街は、それを犠牲として生き延びたのだろう。
「良くある話だな」
悟浄が煙草を指ではじき飛ばした。
それに話が終わった気配を感じて、悟空が口を開いた。
「なー、……腹減ったぁ」


夕食を終えて部屋に戻ればなんとなくくつろぐ。
一日の終わり、至福の時だ。
は荷物をベッドへ放ると何の気なしに窓の外を見た。
ざわざわと賑やかな大通り。
そこに見える色とりどりの明かり。
「出店……?」
お祭りでもあるらしい雰囲気の街。
思わず頬がほころんだけれど、それもすぐにため息に変わる。
久しぶりの一人部屋は、落ち着くしのびのびできるけど、なんだか寂しい。
「依存しすぎてるのかな……」
どうしてか人肌がひどく恋しい。
窓に触れていた指が冷えていくのが余計に一人なのを感じさせる気がして、窓からそっと手を離す。
暖かくなれば、忘れられるかもしれない。
そう思い立ち、は窓に背を向けて浴室へと足を向けた。


お風呂から出てきたら見覚えのある影が部屋にある。
「悟浄、どうしたの?」
髪を拭きながらそう問いかければ、悟浄が振り返って苦笑した。
「鍵くらいかけとけよ、不用心だぜ?」
「あ、ごめん。忘れてた」
そういって悟浄の隣に腰掛ければ、悟浄がの手からタオルを取る。
「ほら、後ろ向け」
いわれた通りに背を向ければ、悟浄ががしがしとの髪を拭きはじめた。
「痛くねぇか?」
「ん。平気」
程良い力加減で悟浄の手が触れる。
僅かに蒸し暑い部屋の中も気にならないその手際に、もうっとりと目を閉じる。
体温が。
背中に感じる気配が心地よくて、無意識のうちに入ってしまっていた肩の力が抜けていくのが解る。
吐息をついて瞳を開けば窓に色とりどりの光が映る。
「お祭り…なのかな?」
ぼんやりとが口を開けば、悟浄が後ろで笑った気配。
「夏祭り、だってよ」
の髪を梳きながらそう言う。
「なぁ、遊びに行こうぜ?」
「えー…、面倒くさい」
お風呂に入ってすでに眠りに誘われかけているには、もうこのまま動きたくもないくらいだ。
「今日はヤ」
「そう言うなって」
悟浄がくすくす笑っての髪から手を離す。
「な。浴衣借りてきたんだ。これ着て一緒に行こ?」
ふわりと舞った紺地に赤い朝顔の浴衣。
面食らったは思わず苦笑した。
「もぉ、行く気なんじゃん」
「まね。な、これ着て一緒にいこーぜ」
「む〜〜」
にこっと笑った悟浄の顔の無邪気さに、毒気を抜かれた気がして、それでも少しだけ意地を張る。
「行ってもいいけど浴衣は嫌」
「ええーっ、なんでだよっ!?」
ものすごく不満そうに唇を尖らせる悟浄に、の気分は浮かれてしまう。
「だって絶対靴擦れするもん」
「あー……」
ひどく間の抜けた顔で納得した悟浄。
「そっかぁ、靴って訳にはいかねぇもんな…」
とても真剣に悩んでいる姿が、なんだかとても可愛くて、の機嫌はすっかり上昇していた。
と、悩んでいた悟浄ががばっと顔を上げた。
「でも! やっぱり浴衣は外せねぇ!!」
あまりの勢いに怒るのも忘れては吹き出してしまう。
「しょうがないなぁ、イイよ。着てあげる」
「え、マジ?」
「ん。そのかわりちゃんと着せてね。私自分じゃ着れないから」
「おっけー! 任せとけって。キレイに着付けてやんぜ!」
「お、お手柔らかに……」


通りに出ると予想よりもたくさんの屋台が出ていた。
「リンゴ飴買って!」
「おう」
二人で通りをあるきながら、たくさんの人に紛れて屋台をのぞいていく。
いつもよりもゆっくりと歩いてくれる悟浄が、いつもよりも格好良く見えては少しだけ睫を伏せた。
「疲れた?」
「ううん。ね、ヨーヨー掬いたい」
「金魚じゃなくていいの?」
「ん。だって持っていけないもん」
「ああ」
なんか、コイビトドウシみたいだな。
今更ながらに、気恥ずかしさとか、くすぐったさとかを思い出す。
ヨーヨー掬いの紐は一つ掬っただけで水に溶けて切れてしまったけれど。
見上げた悟浄の赤い髪や瞳に、いろんな色が映っていて。
「キレイだね」
その言葉が何を指すのか解らなかったようで、悟浄はまわりの屋台の提灯とかを見回して頷いた。
「そうだな」
「違ーう」
くすくす笑いながら歩き出したに、きょとんとした顔を返してすぐに後を追う。
「何が?」
「別に」
意地悪したい気分でははぐらかす。
と、追求していた悟浄の言葉が止まる。
「どしたの?」
「ん? この後花火あがるみたいだな」
「花火?」
悟浄の視線を追うと、壁に貼ってある夏祭りのチラシにプログラムが書いてあった。
「そ。山の麓の河原だって。な、、見に行こうぜ?」
目を輝かせて言う悟浄。
だけど、は少しだけ眉を顰めた。
「私、花火好きじゃない」
「え?」
「行きたくない。ね、もう帰ろ?」
「どーしたん? 疲れた? つか、花火、ダメ?」
「ん……ごめん。花火はダメなの」
「そっか。じゃあ仕方ねぇよな。帰ろうぜ」
笑ってそう言ってくれる悟浄に、申し訳ない気持ちになっては悟浄の上着の裾を掴んだ。
「ごめんね」
「気にするなって」
ぽんぽんと、の頭を撫でると悟浄はそっとの肩を抱く。
「そろそろ帰ろうな」
ゆっくりともと来た道を引き返す。
と、後ろで大きな音がした。
ドオオォォォン。
思わず振り返ったの瞳にうつった光。
真っ黒な夜空にキラキラと散る火の花。
鮮やかな光をまき散らして、空中を彩る鮮やかな光。
立ちつくして空を見上げたの背に、誰かがぶつかった。
「あ、ゴメンなさい」
声は聞こえたけれど、顔が見えない。
気付けば花火の為に屋台の明かりは落とされていて、隣の人の顔すら区別できぬ闇の中、肩にあったはずの手が無かった。
慌てて辺りを見回してみても、見覚えのある人影はどこにもない。
暗いからって、見逃す訳ない。
なのに、見慣れた長身も、目立つ赤い髪も、どこにも見あたらなくて。
人の顔も解らない、暗い人並みの中で思わずは立ちつくす。
ドオォン。
一瞬だけ真昼の様に明るく光る。
きらきらの火の粉が空いっぱいに広がって、落ちる。
落ちて、くる。
降り注ぐ。
決して地上までは届かない。
届かないと解っているのに、解っているのに。
逃げ場の無いほど大きく降る火が、怖い。
空と、地上はこんなに離れているはずなのに、まるで手を伸ばせば届くかのような錯覚。
距離が、絶対的な距離が、解らない。
どん…と、立ちつくしていたの背を誰かが押した。
一歩よろめいたまま、は走り出していた。
裏路地の、光が届かないところ。
空の見えないところ。
路地を越えて、小さな橋を抜けて、その先の小さな小道を行けば、覆い隠す木々の枝で空が僅かに遠ざかる。
光の花が、空に大輪を咲かせている。
木々の枝越しの花火は檻越しの動物みたい。
ここは安全。
怖くない。
ほっとしたとたん、よろけてしまう。
「痛……」
下駄の鼻緒が突然擦れて、痛みに眉をしかめた。
見れば親指と人差し指の間と、足の甲、それから脇まで、真っ赤に擦れていて何カ所かはまめが潰れている。
「痛い……」
きれいなきれいな空の華が、ひどく遠くでを見下ろしているのが、忘れかけていた寂しい気持ちを思い出させた。
「痛いよ……」
下唇を噛んで、こぼれそうになっていた涙をこらえる。
痛みを我慢して立ちあがれば、続けざま打ち上げられる花火で照らされた小道の先に、朽ちた寺が見えた。
ほとんど壊れているらしい建物は、縁側を僅かに残している。
は縁側に腰掛けると下駄を脱いだ。
一度脱いでしまえばもう履く気なんてしないけど、山道を裸足で歩くこともできなそうだった。
縁側に腰掛けたままぼんやりと空を見上げれば、花火はクライマックスらしく、小さな花火をいくつか上げた後、大きな花火を立て続けに上げている。
「あ……」
と、一拍おいて大きな花火が上がった。
金色の火花をまき散らしながら大きく軌跡を描いて落ちていく光。
「柳……」
何もかもを浄化させてしまうがごとくの光の枝。
「キレイ……」
緩やかに消えていく火の華は、ひどく物悲しい。
光の残滓を揺らめかせ、後には何も残らない。
だから、怖いのかもしれない。
ひどく、心を揺さぶるから。
まるで……。
「見つけた」
物思いに耽っていたの耳に飛び込んできた聞き慣れた声。
「悟浄……」
「やっと見つけた。お待たせ、お姫様」
唇を歪めて笑う顔も、闇に目が慣れた今ならよくわかる。
「ごめんね、はぐれちゃった」
少しだけ笑ってそう言えば、悟浄も笑った。
「ん。俺も手、離しちまったからな。ゴメンな」
すまなそうに言った悟浄に、が首を振る。
「ううん、迎えに来てくれたから。だからいいの」
すぐ傍まで歩いてきていた、悟浄がの頭を撫でた。
「じゃ、帰るか」
「うん」
は立ち上がりかけて、下駄に足を乗せたとたん、思わず転んでしまう。
「っ……」
?」
「あ、なんでもない」
慌てて言うけれど、悟浄は何も聞かずにを抱き上げた。
そして縁側にもう一度座らせると、跪いての足を取った。
「うわっ、こりゃ痛いだろ…?」
「だ、大丈夫。大丈夫だから」
「ごめんな、俺のせいだな」
「そんなことない」
ぱさりと悟浄の髪が顔を覆って、言葉が届いているのか解らない。
「…………」
すっと、悟浄がの足に顔を寄せる。
「痛っ……」
傷に何かが触れた感触に、麻痺しかけていた痛みが抜ける。
舌が。
悟浄が傷を舐めたのだ。
「や……」
あらがおうとしたの動きを封じるように、見えるように悟浄が傷を舐めた。
形の良い唇から僅かに覗く舌が、傷に触れる。
ちくりとした痛みと、同時に背中を走った甘い疼き。
「やめて……、汚い…」
誤魔化すように発した言葉は、指を唇に含まれ最後まで続けられなかった。
悟浄が、笑った。
の身体に汚いトコなんてないって」
降ってきたのは軽く触れるだけのキス。
緩く、裾を割って忍び込んだ指。
滑るように頬に触れる唇。
内股を撫でる手のひら。
首筋を辿るキス。
「キレイだ。……」
柔らかく胸に触れた手。
鎖骨に降ってきた優しいキス。
胸の飾りを掠めた指先。
割れ目をなぞる手。
少しだけ胸元をわり開く手。
鎖骨の端に歯を立てられ。
ヒクリと震えた入り口からとろりとこぼれた愛液が悟浄の指を汚した。
「下着つけないで正解」
少しだけ荒い息の下で笑いながら、簡単にの足を開かせる。
赤ん坊が乳を吸うように乳房に食らいつくと、舌で飾りを転がした。
「んっ……あ…」
とろとろと泣いている割れ目をじらすように往復するだけの指先。
少しだけ差し込んでは、また出ていく指先に、の身体は弄ばれるように震える。
「は、あ……」
「やらしいカオ」
胸の飾りを歯に挟まれたまま呟かれれば、快楽と羞恥にもうどうすることもできない。
「ああ、あ……」
とろとろとこぼれる愛液を悟浄の手になすりつけるように腰が揺れてしまう。
「ナニ? 欲しいの?」
ちゅぷ…と、いやらしい音を立てて指を第1関節まで沈められれば、浅ましくそこが収縮するのがわかった。
「意地悪……」
涙目で見上げれば、欲情の色を映している悟浄の瞳とぶつかる。
「お願い、入れて……」
羞恥を捨ててねだれば、悟浄がこくりとつばを飲み込む音が聞こえた。
「ナニが欲しいの?」
荒い息とともに耳に吹き込まれる言葉。
それと同時に耳たぶを口に含まれ舌で転がされる。
そのまま差し込まれる舌に、肩をすくめると悟浄が笑った。
「黙ってちゃわからないぜ?」
「…ふ……」
「コレ?」
手を捕られ、悟浄のソレへと導かれる。
「コレが、欲しいの?」
ジーンズの下の熱い塊。
押し込められてきつそうに脈打っている悟浄の肉棒。
「お願い……」
触れさせられたソレをなぞるように触れば、悟浄が息を詰めた。
そして、ジーンズの前をくつろげ大きくなった肉棒を晒す。
「入れてみな」
「え……?」
「自分で入れてみな」
縁側に座り、悟浄は向かい合うようにを抱いた。
「ホラ、入れてみろよ」
ワザと入り口を往復するソレ。
くちゅくちゅと卑猥な音を立てて、ひくつく入り口。
それでも躊躇していたの胸に、悟浄が唇を寄せた。
「やぁっ……!」
胸の飾りをちゅ…と吸われ、きゅっと、入り口を閉めてしまう。
そこに触れる感触に、招き入れるようにひくひくと収縮を繰り返す入り口。
「あ…あ……」
僅かに腰が落ちた瞬間、内部を押し開くように侵入してくるソレに、快楽が駆け抜ける。
「ふあっ……ああん……」
ひくひくと亀頭の部分を飲み込んだ感触に、我慢できず、は勢いよく腰を落とした。
「ふああああっ…!!」
最奥まで届いたソレに、のけぞってしまう。
の首筋に顔をうずめて息を詰めていた悟浄が、荒い息の中で笑う。
「イイ?」
「ん、す……すごぃ……」
我慢できずに自ら腰を振りながらは悟浄にしがみつく。
「奥まで、奥まで来るのぉ……」
深い結合に、の目から涙が零れる。
、メチャかわいい」
その涙をキスで拭って、悟浄はの腰を支え動き始めた。
「ふあっ……!!」
下から突き上げられ、内壁を擦り上げては、重力に従って深くまで抉られる。
いつもよりも激しいその律動に、は悟浄にすがりついてよがり泣く。
「あっ、あああん………」
「………」
「んぅ……、あっ……、あ、もっ……」
パンパンと肉のぶつかり合う音と、ジュブジュブと吹き出すような耳を塞ぎたくなるような淫らな音も二人の耳には入らない。
身体を支えるのはそこだけの様な強い突き上げに、の内壁は喜びにわななく。
「もっ、イくっ、イっちゃう……、イくっ、イくのぉ…!!」
「俺もっ……」
耳元で悟浄が荒い息で囁いたとたん、ひときわ激しくの内壁が収縮した。
そこをたたきつけるように強引に悟浄の肉棒が抉る。
「あああああああっ!!!」
「……くっ!」
びゅるっ…びゅく…。
中に吐き出されていく悟浄の精液が、ひどくリアルに内壁に届き、けれどそれすらも快楽の手助けにしかならず。
「ふあああ……んん」
もっと中にだして欲しくて、思わず腰を揺らせば悟浄が苦笑した。
「好きモノ」
言葉と一緒に降ってくる優しいキス。
「んん……」
ひくひくと、まだくわえ込むように収縮しているナカの熱を下げるためのキス。
程々で舌を離せば、ずるりとソレも抜かれてしまう。
「大丈夫か?」
「ん……」
まだ抱きついていたに、悟浄が問う。
身体は大丈夫。
全然平気。
だけど、あったかいから。
気持ちよくて、心地よくて、幸せだから。
だから。
「もう少しだけ、このままでいさせて?」
悟浄の背に回した腕に力を込めたら、悟浄もきゅって抱き返してくれた。
だから。

もう少しだけ、このままで……。


END


花吹雪 二次創作 最遊記