真っ青な空に走る一筋の雲。 鮮やかに伸びていくその白さが、少しだけ不可思議に見えて、はぼんやりとそれを見つめていた。 春の屋上。 大学の屋上なんて、名目上だけの立入禁止で。 少し考えればいくらだって登ることは出来るし、誤って落ちさえしなければ学校だってそんなにうるさくは言わない。 青い空に違わぬ鮮やかな太陽。 陽射しこそ柔らかだが、隠すものが無いここでは遠慮なく照りつけてくる。 一足先に進んでいく季節。 「ああ……、いい天気だなぁ」 は呟いて紫煙を吐き出した。 キィ…。 軋んだ音を立てて開くドア。 その音に、屋上よりもさらに一段上にいたが誰が来たのか確かめようと視線を巡らす。 見れば見知らぬ女子大生。 大きな学校だけに顔を見たことのない学生は多いが、一度見たらちょっと忘れられないくらいの美人。 ……と、金蝉。 が少しだけ苦笑する。 金蝉の前では彼女もかすんでしまう。 顔はもちろんのこと、その雰囲気。 この大学を経営している一族の直系。 学園長の甥に当たるという彼の気品。 見目麗しい外見と相まって、神々しさすら感じる。 その彼と、見たことのない彼女。 これは…。 はニヤリと笑って身を伏せる。 二人はに気付かぬようで、屋上の真ん中くらいで歩を止めた。 「何か用か?」 金蝉が彼女に問いかける。 どうやらあまり親しい仲でもなさそうだ。 だろうなぁ…。 なんてったって、あの金蝉だし。 眺めるの視線の先で、彼女が金蝉を見上げた。 ふわりと舞う髪が計算ずくのような気がして、ちょっと好きになれないかも。 その彼女が金蝉の目を見て意を決したように口を開いた。 「あの、金蝉君、今、つきあってる人、いる?」 ふわりと風が吹いて、彼女の髪が舞う。 「もしよかったら、私とつきあって欲しいの」 やっぱりな。 その言葉を心の中で呟いては続きを見守る。 金蝉の顔はこちらに背を向けているせいで見えない。 オッケーするとは思えないけど。 もう一度風が吹いて、金蝉の髪が風に舞った。 「悪いが……」 語尾は風にさらわれて届かない。 けれど彼女の表情から金蝉が彼女を振ったことだけはわかる。 そして重い沈黙。 重い空気が自分の所まで来る気がして、は僅かに身を引いて二人から見えないところへ寝転がる。 と、彼女の声が届いた。 「金蝉君、男の人の方が好きって、本当なの?」 「……?」 「だから、女の子とつきあわないんだよね?」 「…………」 あまりの話の内容に、くわえていた煙草がぽろりと落ちる。 がもう一度覗き込むよりも、金蝉が呆れた声を出す方が早かった。 「なんだそれは?」 淡々とした、ひどくさげすんだような呆れた声。 本人にしてみれば至極尤もな事ではあるが、彼女には屈辱だったらしい。 カツンッ。 ヒールの音も高らかに、捨てゼリフのごとく大きな音を立てて閉まった扉。 が覗き込んだときには金蝉が呆然と閉まった扉を眺めているだけだった。 「ぷっ…」 我慢できずに吹き出せば、呆然とした金蝉がこちらを見て顔をしかめた。 「見てたのか」 「今の、最っ高!!」 「…………」 「もてる男はつらいねぇ」 茶化すように言えば、嫌そうな顔をして上へと登ってきた。 「ったく、なんなんだ。一体」 不機嫌そうにの傍へと腰を下ろす。 「口を開けば『つきあって欲しい』ことわれば『ホモなの?』だ!? 人をなんだと思ってるんだ」 「ホモなの?」 面白がって聞けば、額に青筋をたててを睨む。 「てめぇ……、知ってるくせに茶化してんじゃねェよ」 「あははは」 金蝉がホモじゃ無いことは身体を重ねた事があるから知っている。 このキレイな人が、実は逞しい男だって事も。 吹き抜けていく風にあおられて、金蝉の金色の髪が陽の光を弾いて踊る。 白い肌。整った鼻梁。澄んだアメジスト。 「何みてる?」 良い声。 「金蝉。キレイだなって」 答えれば、彼の手が頬に優しく触れた。 「てめェもな」 羽根のように重なるキス。 太陽からの姿を隠すような仕草に、思わず笑みがこぼれる。 キレイなこの人を、今は私だけが独占している。 今だけはのものなのだ。 ついばむようなキスに、答えるように彼のピンク色の唇を舐めれば、その舌をちゅ…と吸われる。 「……っ、くすぐったいよ」 むずがゆい刺激に身をよじると、金蝉の視線が少しだけ伺う瞳になった。 こういうところに育ちが出る。 金蝉は決して強引なことはしない。 が嫌なら自分がどんなにしたくても、押しつけたり奪ったりしない。 優しく、のしたいようにさせてくれる。 「しよ」 笑って、もう一度金蝉へからキスをすれば安心したようなその腕に抱き込まれた。 深く重なる唇と、強く抱きしめる腕に、はその目を閉じた。 絡み合う舌と、交わし合う唾液と吐息。 僅かに離れた唇が、の耳朶を挟む。 「今日は、口紅してるんだな」 「…っ、……だって、外だもん」 耳の付け根を軽く吸われて身体が跳ねる。 早くも上がり始めた熱に、の身体が溶けていく。 地面に敷かれた金蝉の上着に、その身体を横たわらせると膝を割った。 ズボンの上から秘処を辿られる感触に、が身をよじる。 「早く脱がねェと大変なことになりそうだな」 音を立ててバックルを外され、その形のいい唇でチャックを下ろしていく。 「腰、あげろ」 今にも力の抜けそうな足で、僅かに腰を上げれば下着ごとズボンを脱がされて。 あらわにされた秘処へと金蝉の指が滑り込んだ。 クチュ…。 音を立てて滑った指先に、の身体がのけぞった。 「っあ」 「洪水だな」 金蝉がニヤリと唇を歪め、淫らな液で濡れた指を舐める。 「…っ」 「美味いな」 羞恥に頬を染めたに、金蝉がキスを落とす。 深く重なる唇から、僅かに自分の味がして、きつく瞳を閉じる。 舌の付け根をまさぐられ、上顎をなぞる舌に身体が震える。 呼吸すら奪われるキスの最中、秘処へ滑り込んだ指。 「っ……!」 入り口をなぞるように二周した後、浅く忍び込む。 「……ぁ」 浅いところをならすようになぞりながら、広げていく指。 「…ん…」 ナカで蠢く指と、入り口で淫らな液を掬うように動くもう一本の指。 「…っ……っ……」 ナカが、ひくひくしてきたのを見計らったように、指が一本増やされた。 「……ァ……」 のけぞった顎を拘束する腕。 逃れることなど許さないと言うように唇を甘噛みされ、思わず金蝉の指を締め付けてしまう。 「……っ…」 大きく開かれた足の間から聞こえるくちゅくちゅという音が耳を犯す。 「……っ…ふあ」 間近に見える金蝉の顔。 解放された唇とソコ。 高められた熱を解放して欲しくて見つめた視線の先で、金蝉がポケットから財布を取り出す。 「ちょっと待て」 コンドームを出す金蝉に、ひくつく身体をもてあましたまま頷く。 ぴっとパッケージを破れば僅かに鼻につくゴムのニオイ。 「いいか?」 改めて足をかかえられ、先端を入り口にあてがわれれば、もう我慢なんてできなかった。 「早くっ、入れて…っ」 自ら腰を押しつけるようにねだれば、金蝉のそれが一拍おいて付き入れられた。 「っふああああ!」 一気に奥深くまで突き上げていく肉棒に、の身体が歓喜にのけぞる。 「ああっ、あんっ! あああ!」 肉がぶつかり合う音がするほどに激しい突き上げに、の最奥がきつく抉られる。 「あっ、…い、イイッ! イイッ、もっとぉ!」 金蝉の動きに合わせて動いてしまう腰を止めることすら出来ず、淫らに腰を振る。 「もっと、もっと、奥ッ、あっ、イイッ、奥、突いてェ!」 「……ッ」 ぐちゅ…とひときわ強く奥を抉った瞬間、の身体がのけぞった。 「ふああああああ!!!」 金蝉自身をきつく締め付けて絶頂を極めた瞬間、金蝉も達してをきつく抱きしめた。 「………」 「………ふあ……」 しばらく二人そのままで。 抱きしめあったまま荒い息が整うのを待っていた。 「……、ふ」 解放されるの身体。 金蝉の上着に横たわらせると、金蝉はの身体からゆっくりと自身を引き抜いた。 「……ん」 気怠い身体を横たわらせたまま、が空へと目を上げれば何ら変わることのない真っ青な空。 金蝉の髪が舞う。 「何を見ている?」 「んー?」 空に舞う髪がきらきらと光を零す。 「飛行機雲、消えちゃったなって」 |