ジープでの移動も運次第。 毎日ベッドで眠れる時もあれば、野宿が続く事だってある。 もちろん地図を見ながら進んでいる以上大半は予想できてるコトだけど、時には予想できないことだってある。 「ねー、八戒ィ、街まだ〜?」 悟空が飽きたように前方へと声をかければ、穏やかな声が風に流れる。 「今日中に着くのは難しそうですねぇ」 「えーっ、また野宿かよっ!?」 ぷーっと頬を膨らませて悟空が助手席のシートに頭を乗せた。 「俺もぉ飽きちゃったよ。3日もジープ乗りっぱなしだぜ?」 その言葉に便乗するように悟浄も煙草を投げ捨ててぼやく。 「敵もこねぇしよ。暇でしょーがねーな」 「そうですねぇ」 ハンドルを緩く握って森の脇を抜けていく八戒の顔にもいつもののほほんとした笑いが浮かんでいる。 悟空がちぇっと舌打ちしてどさりとシートに身体を預けた。 「暇だぁ〜」 の隣で空を見ている悟空の口がぽかんと開いているのがなんとなく笑えて、は慌てて口元を隠した。 「あ」 悟空が再び身体を起こしてきょろきょろとする。 「あぶねぇぞ」 三蔵が注意しても聞きそうにない。 「どうした、サル?」 悟浄が不思議そうに聞けば、悟空が森の方へと目を眇めた。 「水の匂いがする」 「水?」 が聞けば、悟空は助手席のシートを掴んで八戒の方へと身を乗り出した。 「ねぇ、八戒。あっち、水の匂いがする!」 指さす方角は森の中。 道と言えるほどの道は無い、その方向。 「川ですか?」 「わかんね。でも音はしない」 「湖か?」 「かも」 言葉に三蔵が空を見た。 まだ太陽は天高く昇っているが、後2時間ほどで夕暮れになることは明らかだった。 「どうせ今日中には街に着けませんから、今夜はここで野宿しますか?」 八戒の問いに、三蔵が異論を唱えないのを確認してから八戒はハンドルを切った。 ジープが森の中へと進んでいく。 やがて木々の向こうに澄んだ湖面が見えた。 「な、泳いできてもイイ!?」 「好きにしろ」 澄んだ水に目を輝かせて悟空が湖に飛び込んでいく。 投げ捨てられた服がひらひらと舞っているのをが苦笑して拾った。 「俺もいこ」 悟浄もなんだかんだと言いながら、嬉しそうに湖の方へ小走りに進む。 畳んだ服を木陰に置くと、八戒がに声をかけた。 「も泳いできたらどうですか?」 「え、でも」 「洋服の替えならありますよ?」 にっこりと微笑まれるその目が子供を見る目に見えるのは気のせいではないはずだ…。 「行って来ようかな……」 男だとか女だとか、そんなことをしかも今更気にするのも馬鹿馬鹿しくなって、は湖へと足を向ける。 「! 一緒に泳ごうぜ?」 悟空が湖から手を振っている。 ノースリーブのミニのワンピースなんて、確かに水着同然かもしれない。 「今いく!」 は靴を脱ぐと、そのまま水へと入っていった。 ひさしぶりの水は気持ちよくて、何よりプールなんてものすごく久しぶりだ。 夏のプールなんて芋洗い状態だからこんなに広いところを3人で独占してるなんてものすごく贅沢な気分。 湖は以外と浅くて、悟浄と悟空と言い争いをしながら夕暮れまで遊んだ。 「そろそろご飯にしませんか?」 遠くから八戒に声をかけられて、ようやくたちは水からあがった。 「たのしかったぁ!」 悟空がにこにこしながらタオルをとりにかけていくと、こっちに数枚放ってよこした。 それを器用にキャッチして悟浄がを振り向く。 「ほら……」 「ん、ありがと」 手を伸ばすと悟浄は意味ありげな笑いを浮かべた。 「……なに?」 「や、色っぽいなって思って?」 その笑いがあまりにあの時の笑顔に似ていて、は思わず自分の姿を見る。 白いワンピースが肌にぴったりと張り付いて、胸の飾りはしっかりと、下着の向こうもほんのりと透けている。 「!」 慌ててタオルで前を隠せば、悟浄が笑いながら背を向けた。 「早く着替えねぇと、4人でおそっちまうぜ?」 笑いながらさっていく悟浄と入れ替わりに八戒が新しい服を差し出す。 「さ、早く着替えてくださいね。夕ご飯冷めちゃいますから」 「あ、ありがとう……」 顔が火照ってしまったのは羞恥からであって、悟浄に言われた台詞に期待したからじゃ無いはずだ。 多分きっと……。 木陰でシャツに袖を通していたの方へと、悟空が声をかける。 「着替えた?」 「ん、もうちょっと。なに?」 「メシだって」 「あ、ごめん」 が待たせているのかと思って急いで服を着ようとする。 けれど、焦っているせいかシャツのチャックが後ろに付いていて上手くあがらない。 「ご、ごめん。先食べてて」 「どしたの?」 ひょいと悟空が覗き込んできた。 「これ、上手くあがらなくて」 背中を向けてチャックを示せば悟空が途中まであがったチャックをひょいと下ろした。 「ちょっ!」 慌てて振り向こうとすれば悟空の手からシャツがこぼれて胸まであらわになりそうになる。 「違うって! 別に脱がそうとしたわけじゃないっ!」 慌てて誤解を解こうとする悟空に、が胸をかばいながらきょとんとした。 「え?」 「チャック引っかかってたから!」 「あ、ごめん…」 早とちりと知り、が謝ると、悟空は少しだけ唇を尖らせた。 「俺悟浄みたいにケダモノじゃないよ?」 そのすねたような言葉に、が吹き出す。 「ごめんごめん」 「いいけどさ」 「じゃ、もう一度お願いしていい?」 「ん、背中向けて」 くるりと悟空に背を向けて立つ。 ジジ…。 チャックのあげられる音。 けれど途中まであがったところでその音が止まる。 「………? 悟空?」 不思議に思って呼びかけると、返事の変わりに柔らかい感触。 「……っ!」 首の付け根の骨をちゅっと吸われて、の身体がぴくりとした。 とろ…、と下肢が溶けだした気すらする。 さっきから、興奮していたのかもしれない。 けれど、そんなにかまわず、悟空はいたずらだけするとチャックを一番上まで上げてしまう。 「悟空……」 思わず漏れた声が濡れていたのはきっと気のせい。 僅かに振り返れば、楽しそうな金色の瞳に自分が写る。 少しだけ冷えた風が、夜を連れてくる。 そして私たちは唇を重ねた。 |