寄磯の日本記録マコガレイ

平成12年6月3日〜5日 by一本釣り師 

ゴールデンウィークには悲願の50センチオーバーマコガレイを求めて、青森県八戸まで大遠征を敢行した。しかし、結果は散々。大量の雪解け水流入に加え、滞在期間中に降った雨の影響で港内は真っ茶色。同行の高田氏がマハゼのクラブ記録を釣ったのみで、私は4日間でAランク(30cm台)を2匹の貧果に終わった。
動かない竿先を絶望的な気持ちで見ている我々と違い、他のクラブメイトは爆釣モードで次々と情報が入ってくる。隠岐に行った“伝説の釣り師”西岡氏や牡鹿半島へ入ったばんち氏のグループともいい釣りをしているようだ。それにひきかえこちらは最悪の釣況のうえに天候も最悪。この遠征を冬魚モードの最終戦と決めていたがこんな終り方で秋まで我慢できるのか自問自答を続けていた。そして不本意のまま私のゴールデンウィークは幕を閉じた。
数日後、スケジュール表を見ながら仕事の段取りをしていて、とうとう我慢ができなくなった。「もう一度東北へ行く」。無意識にうちにコンピュータの前に座り、航空券を予約していた。西岡氏に東北行きの話をすると自分も行くという。連休の好釣果の報を聞き、直観的に釣れると踏んだのだろう。このへんの臭覚は非常に敏感である。とにもかくにも頼もしい相棒ができた。こうして結成された「季節外れの大カレイ討伐隊」は一路、牡鹿半島へ向け出発したのだった。

6月3日、仙台空港へ降り立ち北へと車を向かわせる。車中では当然のごとくカレイの話題。二人とも釣れる気でいるから怖い。レンタカーのナンバーが1811。「語呂合わせで“いいわ、いい、いい”。縁起がいいから釣れるで」ハイテンションのいい大人二人。客観的に見たらきっと寒い光景だったに違いない。
順調に渡波を通過し万石浦湖岸から牡鹿半島へ入る。しかし、ここでアクシデント発生。めざすポイントまでの地理はだいだい分かっていたつもりだったのだが、道に迷ってしまったのだ。悪いことにきちんとした地図も持ち合わせていない。合っているのか間違っているのか分からない峠道を延々と走る(西岡さんごめんなさい)。激しいアップダウンにタイヤが鳴りっ放しのヘアピンカーブの連続。そうこうしているうちに車酔い、頭がぼーっとし、今にも戻しそうである。
結局渡波からめざす寄磯まで1時間半以上かかってしまった。気分は悪いが早く釣りたい。港を見渡してどこでやろうか相談する。港には波止が2本出ているが、沖にある3本目の波止がよさそうだ。しかしその波止は地方とはテトラでつながってはいるものの、接している陸側が切り立った崖になっており、歩いていくのは無理みたいである。でもここまで来たらベストを尽くしたい。さっそく港で作業をしている漁師さんにお願いしてみたところ、快く渡してもらえることになった。
船上で話を聞いたところ、波止の外側がホヤの殻捨て場になっているらしく、その周りに魚がいるのではないかとのことだ。波止にあがり、はやる気持ちを押さえてまずはポイントを観察する。確かに波止の真ん中付近のすぐ沖で漁船がホヤを捨てている。はるか沖には養殖ブイ。内側にもブイが浮いており、ホヤを吊しているようだ。船の通過ポイントがごく近いので引っかけられそうで不安であるが、地元漁師のコメントは正しいことが多いので、まずはホヤ捨て場周辺から始めることにする。
一本目の竿はスタンダードな2本バリでカレイ狙い。ビッグサーフ15号にハリスはフロロの5号。底バリは青イソメの房掛け、枝バリはマムシで80メートル付近へ投入。二本目は一本バリでアイナメ狙い。こちらはハリスをフロロの8号にしている。青イソメの房掛けで30メートル付近に投入した。
三本目の竿を継ぎながら近投の竿を見ると糸が大きくふけている。
はじめから根掛りで仕掛けをロストするのは嫌なので、手を止めて糸を張りにいく。まさか私の釣り人生史上最大のドラマの幕が開くとも知らずに..。
竿をあおるとぐぐっという魚の感触が伝わってきた。反射的に大アワセをくれる。ぐいぐいと下へ潜る感触。これはカレイに違いない。しかも40センチ級の手応えである。
西岡氏に「来はったえー」と声をかけ、慎重にリールを巻く。「えーっ。ほんまかいな」といいながら様子を見ている。次第に潜り方がつよくなってきた。ひょっとすると予想外に大きいかもしれない。後のやりとりを考えて腰高になっている波止の外側に竿を持ったままよじ登った。そしてようやくカレイの姿が見えた。
うわあ!先に声をあげたのは西岡氏だった。
あわててタモのセッティングに走ってくれる。しっかりハリを飲み込んでいるし、無理をしないかぎりバレることもないだろうと私は落ち着き払って待っていた(白状すると、海中のカレイがそんなにデカイとは思わなかったのです)。だが、なかなかタモが開かない。西岡氏が珍しく慌てている。「開かん。なんでやねん。どないなっとんねん」、時間ばかりが流れていく。
ここで思いもよらない事が起こる。カレイが泳ぐのをやめてしまったのだ。糸と魚体が一直線になった。一気に竿に重みが加わる。これでは抜き上げをしているのと変わりがない。すっぽ抜けてしまう!
さっきまでの余裕は完全に消えた。竿先を軽く小突いて刺激を送るが、カレイはマグロ状態(?)のままだ。やばい…。
「早く!」言葉が喉まで出かかった時に、西岡氏がタモを持って駆け上がってきた。が、「よかった、これで取れる」と油断が悪かったのか、さっきまで反応の無かったカレイが突然横走りした。当然タモいれは失敗。幸いバレなかったがこれ以上もたつくとやばい。二回目は慎重に誘導する。今度こそ観念したのか、全く抵抗することもなくタモに吸い込まれた。
西岡氏は魚の入ったタモをほうり出して、「くそーっ。釣ったらあかんやん。先にそんなん釣られたら俺ペース乱れてボーズになんねん。ああ、もうあかんわ」と叫びながら自分の釣座へ戻っていった。そして私はそこに横たわったカレイを見て言葉を失った。以前ジギングで仕留めた60センチのヒラメとサイズがそっくりだったのである。
デカイ…。やってもーた。ひょっとしてキ・ロ・ク?」そう思いながらメジャーをあてると暴れるのできちんとは計れないが、やはり60センチ近い。実寸でこれだけあれば、拓寸では確実に60オーバーだ。えらいことになった。よく見るとハリが唇に掛っている。あれ、飲み込んでいたはずなのに?どうやらとりこみ途中でいったんすっぽ抜けしかけたハリがもう一度かかったらしい。ツイている時はこんなものなのか。とりあえずスカリに入れておく。 
早く釣りを再開しようという気持ちはあるのだが、車酔いの名残と記録物を釣ってしまった動揺で何も手に着かない。そんな時、ばんち氏から西岡氏に電話が入る。さっそく記録物を釣ったことを伝えてくれた。その後は次々に祝福と記録申請のアドバイスの電話が入ってくる。しかし私の携帯の電波が弱いため、ほとんどが西岡氏の電話にかかってくる。「あーっ。釣りにならんやんかー。くそーっ!」と叫びながら打ち返しているが根掛りが激しくてこずっている様子だ。私自身も今日は釣りになりそうにないので、ポイントを譲り波止の先端へ移動する。
本当なら魚拓を取るのは陸に上がってからにしようと思っていた。しかしここで思わぬ事態が起こった。スカリの中でカレイが血を吐いてしんでしまったのだ。型の割に引きがさほどでもなかったのは、大往生寸前で弱っていたからなのだろうか。いずれにしてもここからは時間との勝負。死んでからのカレイの縮み方は尋常ではない。急きょ魚拓セットをとりだした。西岡氏にも協力してもらい二人がかりで魚拓に挑むが屋外ではうまくとれない。長さだけは61センチを優に越えていたのだが…。
午後4時頃、西岡氏からようやくタモのリクエストだ。キャッチしたカレイは40センチオーバー。普通ならこれで満足のはずなのだが今日は状況が違う。「くそーっ。こんなんじゃあかんのじゃ。なんで俺にはこんなんやねん。くそーっ」と納得いかない様子だ。魚をスカリに入れてもうひと言。「こらっ。俺の魚の上にカレイをのせるな。俺の魚が隠れて見えへんやんか」1匹釣るまで収まりそうにない。
結局この日の釣果はこの2匹のみ。宿に戻ってからも(布団にはいってからも)西岡氏は「くそーっ、くそーっ」と連発していた。明日のためにぐっすり眠ろうとするが、記録魚を釣ったという実感がようやくじわーっときて眠れない。西岡氏も悔しくてあまり眠れなかったようだ。

2日目も同じ波止へあがる。午前中は潮が引き全く反応なし。最初先端でやっていたが、そろそろ魚の感覚を味わいたくなったので、昨日のポイントのすぐ根元寄りに移動。ここは目前にハエ根がありあまり投げられないが、今回のもうひとつのビッグターゲットである大アイナメに期待して根の周辺を探る。しかし、根掛りばかりで釣りにならない。
昼を少し過ぎた頃、アイナメなら内側でも釣れるだろうとブイのそばに一本入れてみる。投点は10メートルぐらいだ。しばらくして竿をあおると根掛りのように重く、節をつけながらあがってくる。昨日の記録魚を上回る手応えに大物と確信し、西岡氏を呼ぶ。てっきり大アイナメだと思ったが、浮いた魚体はなんとカレイだった。一発でタモに収まったのは実寸で49センチの大カレイ。
「ああ、これでほんまにあかんわ。もう俺には釣れへんわ。くそーっ」と西岡氏。そう言いながらも釣り座へ走り戻り、ロボットのように淡々と打ち返しを続ける姿はさすがである。
その後内側を重点的に攻めるが、寸足らずのアイナメばかり。夕暮れに港内の最奥に浮かぶ小島付近にフルキャストして32センチを釣りあげ終了。西岡氏はというと、この日は完全に爆死状態だった。

最終日、私は狙いをアイナメに絞り前人未到の沖磯に渡してもらう。西岡氏はあくまでも記録の出たポイントにこだわる。人が上がっていない磯とあって、角がとれていない。もろいわりに先が鋭く、手をついただけで切れる。転んだら大ケガをするという緊張感のなかでの釣り。ライフジャケットを着けているせいもあって、とてつもなく暑い。50センチ越えのアイナメを期待したが、釣れるのはAランクのものばかり。ここ3日の疲れもあり頭が痛い。半ば釣りを放棄した状態で時間をやり過ごす。
ようやく帰りの船がやってきた。船上にはニコニコ顔の西岡氏が。結果を聞くとやはり釣っていた。納竿間際にマコガレイの52センチ。エサ切れ寸前でかき集めた青イソメで釣ったとのこと。最後まであきらめなかった気合いはさすがである。西岡氏はこれで今シーズン40センチ超カレイが10枚目。その偉業を念願のマコの50アップで達成したことになる。最初だけでなく最後にもドラマが待っていた。
帰りの車中では3日間の苦闘もなんのその。「やったで。俺らはマコ・イシとも50オーバーを釣ったフィフティーズや!」と、またもハイテンション。寒い二人に戻っていたのだった。 

神戸に戻るとM会長が待っていてくれた。その足で兵庫協会長の自宅へうかがい実物と長さの確認をしていただく。家にたどり着き、へばっているとばんち氏から電話が入った。今から魚を取りにきて魚拓を取り直してくれると言う。深夜なので悪いなと思ったが、魚拓が粗く不安があったのでここは甘えることにした(明け方までかかったそうです。ありがとうございました)。後日、現地でとった魚拓では申請が通らないだろうという話になっただけに、もしばんち氏が機転をきかせてくれていなければ、記録は幻に終わっていたかもしれない。

待つこと約一ヶ月の7月6日、待ちに待った吉報がもたらされた。私のマコガレイが全日本サーフキャスティング連盟の日本新記録に認定されたとの連絡。やっと胸をなでおろすことができた。
この幸運は私だけのものではありません。素晴らしい仲間と出会い、競いあうことで釣りあげることができた魚であり、サポートがあったからこそ記録認定に至ったと心からそう思います。お世話になったみなさん、本当にありがとうございました


3日間の主な釣果
一本氏 マコガレイ 61.3 47cm
アイナメ 32cm×3
西岡氏 マコガレイ 52.5 41cm









日本記録魚のタックル
竿 プロサーフSF425CX
リール パワーエアロ6000
道糸 ナイロン5号
ハリス フロロカーボン8号