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Theater Reports #72
28.Aug.02 14:00
 “THOROUGHLY MODERN MILLIE”を観てきた。

 6ヶ月降りにNew Yorkに来て観劇の初日から大ドジを踏んでしまった。tktsはマチネのTicketは11:00から売り出すというのに目が覚めたら11:00であった。「これはとんだ失態!急がねば」と早馬に跨り、歩いて5分程のtktsに押っ取り刀で駆けつけてみれば、そこはもう人・人・人、人ばかり、仕様がないので折り返しが続く列に並んだが、拙者は8列目であった。売り場が近づくに連れ何が残っているのか不安になってきては、あの表示の小さな電光掲示板を見るのだが何があるか分からない。然し結構ありそうだ。それなりにあるのなら「オクラホマ!」辺りでも見て、MUSICALに体を慣らしていこうかと思っていたら、何と「The Boys from Syracuse」が有った。
 実は今回日本を出る前にこれだけは何とかみたいと思っていた作品が3本有って、これはその内の1本である。他は「HAIRSPRAY」、そして今年のトニー賞を6部門で取って大変評判の良い「Thoroughly Modern Millie」であった。これはお友達の役者で演出家の甲斐政弘君がとてもお気に入りで大推薦とのことであった。結構ミュージカルには五月蠅い彼がベタ惚れとの噂を聞き、これは絶対見て置かねばと思って観に行った次第である。その「〜Millie」が私が売り場に到達した時に有ったのである。奇跡である。滅茶滅茶入っている筈のトニー賞を取ったばかりの旬のミュージカルがtktsで売っていたのである。仏のお導きを感じたものである。果報は寝て待て、とはこの事である。有り難や、有り難や。

 さて本題です。
 結論から言うと機会が有れば帰るまでにもう一度みたい、それほど素晴らしい!ストーリー自体は何の変哲もない田舎娘(カンサス)がNew Yorkで素晴らしい恋を手に入れるだけのことなんだけど、これが本当の本筋だと思うのだが他にも色々サクセスストーリーが散りばめられていて楽しい。
 そして何よりも素晴らしいのは出演者もスタッフもこの作品に大きな愛情と希望を持っていることであろう。自分たちが矢張り何処かの町や村からNew Yorkにやってきた時の希望や夢を思い出させる所からこの作品の演出は始めたらしい。そして出演者、スタッフが主役のミリーとどの様に関わっていくのかを考えさせた。素晴らしい手法である。恐らく間違いなく出演者もスタッフも演出家のこの手に嵌ってしまったのだ。だから観ていて本当に楽しい、禁酒法時代を扱った作品は退廃的雰囲気が漂うのが普通なのにこの作品には微塵もない。兎に角楽しい!

 このミュージカルはマシンガンの様にスマッシュ・ギャグが放たれてくる。その凡てを受け止め笑うのは、観る側に相当の英語力と知識を要求する。本当に細かいネタの応酬である、と思う。私には分からないもの方が多かった。それでもかなり笑えたし、楽しかった。実に細かく詰めて、丁寧に実に丁寧に作ってあり、それでいて丁寧に気を遣いすぎてスピード感が薄れたり、段取り合わせになったりと言うことが全くない。首の傾げ方や一寸した仕草まで一糸乱れることなくキッチリ作り込まれていて、又それが練り込まれてもいる。客は気楽に笑っているだけで良い。その楽しさの中にドップリ浸かっているだけで良い。本当に素晴らしい舞台である。タイプで口述筆記が出来るだけでもの凄く盛り上がることの出来る良い同僚に巡り会えたmillieは幸せ者である。女は肘を褒められても嬉しいことも分かったし、香港からママを呼び寄せることが出来て良かったのである。

 ダンスに乱れがない、振りも良い、コスチュームもとても綺麗で良く出来ているし、話から逸脱することもない。時々何でこのシーンでこの衣装?と思うものもあるがそんなことは全くない。照明もSetもよく自分のポジションを弁えた確実で良い仕事をしている。

 さて此処で矢張り何も問題が無いか、と云うと無い訳で無い。
 音響である。序曲が始まった瞬間私は耳を疑った。「何処かで見つけた古いテープでも掛けてんのか?」それにしては指揮者は指揮してるし「一体この抜けの悪い音は何なんだ」古いラジオから流れてくる様なレンジの狭い間延びのした音で序曲は始まった。もしかしたらそれは演出かも知れない、だとしたら少々趣味が悪い。嫌な予感の中舞台は始まった。歌を聴いた瞬間DelayTimeとBalanceが狂っていると思った。役者と声との距離感が変!これは最後まで違和感があった。音量的にはもう少し抑えても良いんじゃないだろうか?コメディを観ると笑いの中で台詞を聞かす為に声を大きめに拡声していることがよくあるが会場内の様子に合わせるべきであんなに出す必要は無いと思うことがよくある。

 とまあ音響的には良くなかったんだが、それを差し引いても良く出来た素晴らしい作品であった。是非New Yorkに来た時には観て頂きたい。出来れば初演メンバーの内に観て頂きたい。多分何年かはロングランすると思う。

 因みにこの作品の演出は「An Almost Holy Picture」のMichael Mayer氏です。彼はトニー賞の常連であると、森永明日夏さんのHome Pageに書いてあった。然し今回の「An Almost Holy Picuture」では逃したな、と思っていたらこんな素晴らしい作品で取っていたのである。どちらも良い作品だったので、彼は間違いなく素晴らしい演出家である。