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Theater Report #65
          

16.Feb.02 14:00
 “The Syringa Tree”
 2001 OBIE AWARD BEST PLAY

 Kate Blumberg という女優による独り芝居。内容は1963年のアパルトヘイト初期の南アフリカ共和国ヨハネスブルグで6歳の白人の女の子(エリザベス)を狂言回しとして黒人差別の現実と悲しみを描いたもの。

 エリザベスがブランコに乗って遊んでいる所から始まり、彼女の子守やこの子守の子供、彼女の母親、父親、その他色んな役を1人で演じ分けていく。しっかり台詞を聞いて覚えていないと今どの役をやっているのか混乱してくる。
 子守の子供と一緒に遊んでいたり、黒人が病院に行こうとしないのを母親が連れて行ったりしてこの親子は黒人に対して差別的ではないのだが、黒人からは「あなたは国にいつ帰るのか?ここはあなたの国ではない、私たちの国だ」と言われたり(この母親はここで生まれているので他に帰る国はない)、白人からは黒人を差別しないので白い目で見られたりと色々苦労しつつも楽しく暮らしているのだが、子守の子供が白人に撃ち殺されるという事件を切っ掛けにこの家族は「2度とここには戻ってこない」決意で南アフリカを離れる。そしてアパルトヘイトが廃止された南アフリカを訪れたエリザベスはかつての子守と再会し、自分の子供と夫を紹介し、再会を喜び、今は自由になったと子守は喜びを語る。といったような話です。

 実は途中一寸辛かった。今誰を演じているのかが混乱してきて話が見えにくくなってしまい、見ているのが苦痛になってしまった。然し終わる頃には話が見えてきて危うく涙しそうになってしまった。目頭が熱くなってきて危うかった。観客の殆どはStandingOvationでこの独り芝居を讃えていた。台詞を完璧に理解出来ていれば辛くなる事はない筈なので素晴らしい舞台であると思う。一番混乱するのは黒人の役をやっている時に結構鈍った発音をするので何がなんだかそこで分からなくなってしまう。それと声の使い分けを始まりの辺りでちゃんと把握しておかないと混乱の基である。
 笑いが多い訳でもないし、内容的には重いが途中重苦しくなる事はなかった。子供を中心に据えて無邪気さを出した御陰だと思う。只無邪気であるが故に悲しみも深くなる所もある。でもトータルで良い芝居であった事は確かである。

 台詞は勿論生。効果音もとても巧く使われていてよかった。大きな音は殆ど無いのだが雰囲気を作るのにかなり効果的であったと思う。絵紗を使った舞台も照明も出しゃばらずとても良かった。

 この劇場はUpperEastにあって、地下鉄の駅から遠いというのが欠点である。しかも坂道が多く、道の選び方によっては結構急な坂もある。歩いていて結構辛いのである。でも初めてUpperEastに行ったのでそれはそれで楽しかったと言えない事もない。然し雨の日には行きたくないと思う。