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Theater Report #59
          

09.Feb.02 15:00
 “GOLDEN LADDER”
 「金色の梯子を登って幸福の世界に行こう。」みたいな話がユダヤの人たちの中にあるらしい。タイトルは、ユダヤ人の父親から子供の頃聞かされた昔話みたいな物に由来している。

 このお芝居は、ユダヤ人(勿論ユダヤ教)の父親とキリスト教徒の母親の間に生まれた女性(キャサリーン)の、愛と友情と性を通して描かれた成長の物語である。
 話は複雑で難しそうなんだけれど、そこを重たくならずに軽妙に描いている。
 この話の中にはアメリカに於けるユダヤ人に対する差別なども織り込まれている。両親は結婚した時、新婚旅行で行ったシカゴでホテルに入ろうとするとユダヤ人は泊めないと断られ、その日は泊まる所がなかったり、キャサリーンが友達と話していると「あの人、ユダヤ人よ」などと一寸差別を含んだ発言があったりする。
 ユダヤ教とキリスト教の間で揺れながら成長する主人公は、両親に深く愛されていながらも宗教的に自分のアイデンティティーが確立出来ずに不安定な思春期を送り、父親に毒づいたりする。何処か宗教的「理由なき反抗」のような所もある。最終的に彼女は、ユダヤ人の彼と結婚して幸せになるのだが、夫は彼女のためにキリスト教に改宗する。そして最後は「金色の梯子を登って・・・」となる。めでたしめでたし。

 ユダヤ教の父とキリスト教の母というの家庭の置かれている社会環境は、日本ではまず考えられない環境である。日本で神主の家にお寺からお嫁さんが来ても家庭内も、彼らを取り巻く環境もこんなに歪にはならない。それは一般的に社会の中にある宗教観が希薄な事によって複雑にならずに済んでいるのだが、アメリカのように自由な振りしてキリスト教的宗教観が支配が支配している国ではそうはいかない。まして田舎町では尚更である。ユダヤ教徒とキリスト教徒は今では割と仲良くしているが、共に排他的である事には違いはなく、その2つの宗教が混在する家庭というのは2人に相当な愛と許容の精神がない限り成立しないし、周りからは白い目で見られるであろう。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、大元では同じ神を信仰しているらしいが、信仰の対象が近いだけに近親憎悪も激しいような気がする。この3つの宗教が地球からなくなると紛争の多くもなくなると思うんだがどうなんだろう。少なくとも地球上から凡ての宗教がなくなれば対立の原因の内の結構大きな物が無くなる事は間違いなかろう。

 芝居に話を戻すとそんな難しい話を軽く笑いも多く取り入れて上演していて、宗教物特有の後味の悪さも残らない。然し少し冗漫で退屈でもあった。一つ一つのシーンが短く切り替わっていくのだが、もう少しスピーディーにして欲しかった。
 照明は何と殆ど11台のムービングのみ。スズナリの客席を少し延ばしたような小さな小屋にムービングは五月蠅い。照明機材はこれと星球だけなので当然場面が変わる毎に“うぃーむ”“ぐぃーむ”と動くし、ファンの音もあって五月蠅い事甚だしい。確かに他の機材より絵や模様も色々出せるし、便利だとは思うが、これは一寸如何なものかと。
 
 音はデザイナーがいたがどのような仕事をしているかは不明。客席の天井にElectroVoiceの小さなヤツS-10だっけ?が一対吊ってあったがあれがお仕事かも知れない。後は選曲かな?

 後特筆すべきは、ここの劇場の2階はリハーサル室になっていてドコドコドンドンと大変五月蠅い。私としては余り行きたい劇場ではない。芝居が良くてもあれでは台無しである。一つこの、善処して頂きたい。