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Theater Report #51
      
           こちらは劇中の犯人の似顔絵。

02.Feb.02 21:00
 “BRUTAL Imagination”
 タイトル通り陰惨、残酷、残忍な話です。その残酷で陰惨な話を重たくなることなく、時には特に前半は笑いも入れて進行させていきます。

 話は、1994にSouth Carolinaで実際にあった事件の当事者スーザンの言葉を基に進行して行きます。彼女は、黒人の男にCarjackされ3歳と1歳2ヶ月の2人の子供を一緒に連れ去られた、と警察に訴えます。その日からの9日間を再現する形で進行させていきます。ここで黒人男性Mr.ZEROが彼女の告発する犯人として出てきます。最初は彼女が犯人の服装について供述する所から始まり、Mr.ZEROはそれをおどけてシャツ、ジーンズ、帽子などを示します。そうして1日ずつ彼女の供述は続き、Mr.ZEROは徐々に自分が存在しない人間である事を打ち出し、彼女を追い込んでいきます。そして9日目、馬鹿げた狂言は終わり、彼女は自分の犯罪を自白します。この若い母親は2人の子供を車ごと湖に沈めた理由を「良いお母さんになる自信がなかった。子供が成長するのが怖かった。」等と供述します。彼女の経済状態、幼児体験なども理由の中にあった様に思います。話はそこまでです。子殺しの陰惨な話は終わります。

 舞台は最後まで重苦しくなる事はなく、それなりに軽く進行して行きますが、舞台を支配する緊張感は最初からそれなりのレベルにあり、最終的にはかなり高い所まで上り詰めて行きます。1時間20分飽きさせることなく舞台に引きずり込んでくれます、適度な距離感を保ったままで。この辺が非常に上手く出来ていて、観客に重苦しさや陰惨な犯罪に対する後味の悪さを感じさせることなく社会派ドラマとしてこの舞台を成立しているのだと思う。
 若い母親を演じる女優と架空の人物を演じる俳優、2人の演技も過剰になることなく落ち込む事もなく緊張感を保ちつつ、高めつつ、ライト感も失うことなく非常に難しいバランスを危なげなく保っていて素晴らしい演技であった。

 客席と舞台の頭上に吊られた多くの電球や蛍光灯のラインなどを含めて照明もとても素晴らしかった。緊張感を保つ事に大きく貢献していたと思う。照明デザインは“Sexaholix”“An Almost Holy Picture”もデザインしているKevin Adams氏です。彼は芝居の照明デザインが多いみたいですが、何を観ようか迷った時に照明のデザイナーがもし判るならば彼がデザインを担当している舞台は観る価値があるかも知れません、今の所ハズレに当たっていませんので。

 音響は効果音以外声も音楽も生でしたが、妙な主張する事がないのは勿論の事ですが、こちらも無駄なく要所要所で雰囲気を盛り上げ、緊張感を保のに陰で貢献していたと思います。とても良かった。
 メインのスピーカーは全く見当たらなかった、使っている様子もなかったけど。客席の効果用スピーカーは壁を向けられ、舞台上のスピーカーは天井に向けられていた。これらのスピーカーから出る音は、ハイウェイのノイズなどだけで、供述している所とハイウェイとの距離感、事件との距離感などを巧みに表していた様に思う。
 因みにスピーカーは凡てEAWの小さくて細長いヤツでした。このスピーカーは今、結構流行みたいでバルコニーの下に新しく設置する場合などはこれが多い様に見える。このスピーカーに限らずEAWは結構多い。

 この芝居はVINEYARD THEATREの20周年記念シーズンの作品です。いつまでやっているかは不明ですが、機会があったら是非ご覧頂きたい。
 
 実はこの劇場と昼に観た劇場とは道を挟んで斜め向かいに有って、昼の劇場の20m位駅寄りに“DE LA GUARDA”をやっている劇場がある。UnionSquareの辺りは侮れないのである。

 今日は非常に良い1日であった。1日に2本も面白い舞台が観られる事は滅多にないので気分が非常に良かった。子殺しの陰惨な話を観ておいて気分が良いもないモンだが、良い舞台を観た時は気分が良くなるものなのでしょうがない。