海外情報:イスラエル事情
座談会:シャバク元長官たちは語る

イスラエル紙 『イェディオト・アハロノト』より
(翻訳:脇浜義明)


 「内乱」という言葉が出たので、アミ・アヤロン声明書は全入植地撤退をうたっているので、そのことについて質問した(訳注:入植者は占領地からの撤退に対し内戦の脅しをかけている)。

質問:エロン・モレヘの解体は可能なのですか(訳注:西岸地区ナブルスの南にある入植地)。
アヤロン:やはり政治家のことから話します。何しろこの10年間から30年間、政府が作り上げてきた入植礼賛の世論や言葉は間違っていたのです。だから今になって、入植者のところへ行って、「諸君は過去30年間、イスラエル国のパイオニアだった。アラブ世界との和平協定終結が可能な状況へ辿りつくことができたのは、諸君のおかげです。しかし同時に諸君は、その和平協定にともなう高い代償を支払うことになるのです」と告げなければならないのです。
 社会は彼らの住居や仕事を確実に保障しなければならないでしょう。和平協定と入植地解体が今変化しつつある世論で優勢となれば、私の考えでは、入植地の75%から85%は容易に解体できると思います。2000年夏にはめったにない機会に恵まれて、もう少しでそういう状況が生まれそうだったのです(訳注:多分、キャンプ・デービッド会談やバラクとアラファトのパリ会談などの雰囲気を指しているのだろう)。入植者パイオニアたちも世論が入植地にソッポを向き始めたことに気づき始めて、入植地解体に対する予想される抵抗は非常に小さいだろうと思われるときがあったのです。
質問:世論の動向で本当に狂信過激派集団が変化すると思いますか。だって彼らは国家の政治日程を牛耳っているのですよ。

アヤロン:あなたは、問題になるのは入植者の10%か15%にすぎないということが分かっていない。その程度の数なら処理できます。

  不法な入植前哨地一つすら解体できない状況なのに、10-15%の入植者を処理できるとするアヤロンの意見に驚いた。

ペリ:さすがエミはよく見抜いているよ。入植者の時代はもう終わったからね。私も、政府がきちんとした経済的救済政策を整えれば、入植者の85-90%は入植地を去ると思います。問題になるのは10%か12%のイデオロギーに凝り固まった連中で、このコア部分との衝突は避けられないでしょう。もし彼らにうまく対処できる人間がいるとしたら、シャロンだけです。何しろ彼が入植地の建設者なのですから、当然幕引きできるのも彼だけです。
 わが国には、テーブルを叩いて、撤退と入植地解体は和平協定を結びたければ当然しなくちゃならないことだ、と言える政治指導者が一人もいなかった。シャロンは、断腸の思いの妥協をしなければならないかもしれない、と度々口にします。入植地撤退以外に断腸の思いの妥協はないはずです。シャロンには分かっているのです。分かっているのですが、彼のイデオロギー、倫理観、社会的立場からそれができないのです。しかし、捕虜交換をやったりするほどの決断力のある人間ですから、入植地撤退だってできるはずです。

シャロム:私は、ペリのいう10%の入植者はそれほど根性のある連中だとは思いません。少し前のことですが、ある内輪の会議で誰かが、あの丘の上に陣取る入植地の若者はハマスのように頑強だ、と言いました。100名ほど中心活動家がいて、400名ほどが追従者で、1000名ほど支援者がいる、と説明していました。私は、もしその連中がアラブ人だったら、君らは対処の仕方を心得ているのだろう、と言いました。彼らは、もちろんだ、と答えました。じゃ、そいつらをアラブ人だと思いなさい。まず15人ほど捕まえて、行政拘留しなさい。きっと他の連中は何もできないと思うよ。それに連中がハマスみたいだって?死ぬのを恐れないだって?大間違いだ。入植者を放置して軍を撤退させればよいのです。連中は自分から帰ってきますよ。

しばらく沈黙が続いた。

ペリ:そこまで過激にならなくても・・・。

シャロム:私はべつに内戦を引き起こすつもりはありませんよ。

ペリ:でも多分、衝突は不可避かもしれません。きっと痛ましい事態になるでしょう。できれば避けたいものです。でも、イスラエルの地はナブラスの山々やヘブロンの町中も含むと考えている人々がいる限り、衝突は避けられないでしょう(訳注:大イスラエル主義という。これは古代ヘブライ王国領全土を要求する運動で、ひどいのは、ナイル川からユーフラテス川までをイスラエル領と主張する者もいる)。他に方法があれば、私は喜んでそれを受け入れます。でも、ないでしょうね。
 それに私は近い将来、パレスチナ人と和平を結ぶことを望んでいます。だから、どうしてイスラエル国がヘブロンの入植地に居座る者を守らなければならないのか分かりません(訳注:2002年、ヘブロンのオールド・シティのパレスチナ人の真っ只中に不法入植地を狂信者が建設、「英雄たちの前哨地」と呼んでいる)。もちろんヘブロンが、先祖が住んでいた歴史的由緒のある町であることを軽んじているのではありませんが、それはパレスチナ人に返すべきで、入植者は早晩ヘブロンを引き上げるべきです。
アヤロン:我々はここでコンセンサス、この部屋の中だけに通用するコンセンサスではなく、イスラエル社会のコンセンサスとなるべきものについて話し合っています。つまり、民主主義的でユダヤ人の郷土たるべき国家をいかに維持できるかについて話し合っています。どの国でも、国の進路決定にはいつも二つ以上の選択肢があるはずです。イスラエル国の過去の政治指導者は、他の選択肢が明らかに存在したのに、国家を困難に導く決定ばかりをしてきました。このままでは将来の政治家も同じことをやるでしょう。

 そもそも、かつて、標的を探し出して殺す、いわゆるターゲット・キリングや、暗殺や、外出禁止令や、包囲や、道路封鎖などを行ってきた治安当局の元長官たちが、職務を退いた今、そういう政策と正反対の意見、まるで左派の見解のようなことを話し合っているのは、実に驚くべきことだった。しかし、元長官たちは、左派と呼ばれることを嫌がり、憤慨さえした。

 

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