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アソシ研リレーエッセイ
「農」研究会の復興について

1年間休眠していた「農」研究会が再開した。若い世代が多く、直接農業に関わっているメンバーは「よつ葉農業塾」の2人だけ。その2人が農繁期に入って休会したため、ほとんど全員が配達現場の職員という状態でのスタートとなり、今期も前途多難な「農」研究会になりそうに思われた。しかし、実際に始まってみると案外そうでもなかった。いま2冊目のテキストが終了したところだが、だんだん今期の研究会の獲得目標らしきものが見えてきたような気さえしている。
 1冊目のテキストは『おもろいで!関西農業』という本。タイトルから勝手に中身をイメージして「まっ、いいか。スタートは軽くいこうぜ!」という乗りで始まった。だが、第1章「京の伝統野菜は、なぜ300年も栽培が続いているのか」を中心に勉強会を始めてみると、アソシ研事務局Y氏のレポートが興味深い内容だったこともあり、新メンバー全員の真剣な意見交換の場となった。
 京の近郊農家が町衆の家に直接販売する「振り売り(引き売り)」によって、消費する側から得た情報を次の作付けや栽培の仕方に活かしてきた歴史。京都周辺の小農が逞しく生き残ってきた過程で生まれてきたのが「京の伝統野菜」だという話が注目された。「京の伝統野菜」の形成に至る歴史には、「農家(生産側)の主体」があったという点から、よつ葉が数百軒の登録農家から出荷される野菜を全量引き取りすることは「農家の主体」という視点から考えるとどう理解するべきなのか、という問いかけがあった。この設問には、直接会員対応をしている配達現場の職員が多いこともあり、いろいろな意見もあったようだが、残念ながら時間切れとなり、継続課題となった。
 2冊目のテキストは内山節さんの『怯えの時代』。2009年に出た本だが、震災と福島原発事故が起きた直後の今読んでもリアリティーのある中身だと思う。こんなご時世に「竹林の七賢人」よろしく勉強会に励んでいるのは如何なものかと揶揄されそうだが、この研究会で当初から最も熱心だったのは、被災地の支援活動に出かけていった職員だった。被災地の人に限らず人々はますます明日への不安を抱くようになってきている。
 「このままではいけない」という漠然とした想いは、時が過ぎれば忘れられていくかもしれない。しかし、この世界のどこに問題の原因があり、どうすれば変えていけるのか、を考えるきっかけになったのではないかと思う。中でも第二章「経済と諒解」の次の一節(要約)がみんなの目を引いた。経済は「生産→流通→消費」の順で成立していると思われているがそうではない。実際は、「流通→生産」の順で、あるいは「消費市場の成立→流通→生産」の順で経済が形成されてきている。林業は木材を流通させる方法があって初めて発生してきた。江戸中期に房総に漁村が発生したのは、江戸という大消費地が生まれ、魚を流通させる仕組ができたから。農業も税や年貢という形であれ、作物を流通させる仕組が生まれ、消費者が存在したからこそ産業として成立してきた。
 「経済」研究会なら、まずこの論の検証作業に向かうところだが、あいにく次回のテキストは守田志郎さんの名著『日本の村』に決まった。研究会の進め方はあまり論理的ではないが、1冊目のテキストで結論に至らなかった「地場の全量引取り」と「農家の主体」の問題を考えていくこと、また自分たちなりに「流通の仕事・考え方」を追及していくことを今期の「農」研究会のテーマにしたい。
(田中明彦・関西よつ葉連絡会事務局)


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