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連 載 ネパール・タライ平原の村から(11)
我が家の家畜事情について(その2)

ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井君の定期報告。今回は、その11回目である。

  先日、生後12ヶ月まで育てた豚を数人がかりで誘導しながら、タルー族の集落がある村まで連れて行きました。豚は道中、田んぼ脇の水路で水浴びしたりしながら、機嫌よく何キロも歩いて行きました。最終的には、翌日の満月祭で屠殺され、タルー族の村人たちに売られました。今回は、僕の家で行っている養豚について、売買までの過程を紹介したいと思います。
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 ネパールでは一般に、豚は主に山岳部に住むチベット系少数民族によって、在来の黒豚が飼われています。どこの家でもある残飯や、酒作りの際に出る穀物の絞り粕をエサにした少数飼育です。ここでは、豚肉は祭事や結婚式など、特別な行事の時にのみ食べる貴重な「財産」でもあります。
 一方、タライ平原の移住者が住む私たちの地域の場合、高位カーストや一部少数民族の間では、豚肉を食べるどころか触ることも不浄とされています。また、在来の黒豚ではなく、主に肉量のある品種の豚が飼われているのが特徴です。町の食堂から出る残飯がエサとして活用され、自家消費よりも貴重な「現金収入」の手段となっています。ただし、山岳部と同様に、少数飼いが基本です。
 僕の家では、町の定期市で出る野菜クズや自家消費で余った米を煮たもの、また製粉所で買う「チウラ(干し米)」などを混ぜ、豚のエサとしています。ほかにも季節に応じて、豚が好む田畑の雑草、農道沿いに自生する里芋の茎葉、間引いたパパイヤの実、バナナの茎などを与えています。
 とはいえ、人工飼料に頼らない分、どうしても時期によってエサの量が不安定になり、エサの確保には大変な労力が必要です。だから、ここでは、どんどん飼育頭数を増やすような養豚は、実は非効率な養豚なのです。

●1ダルニごとに切り分ける


●左端で記録しているのが仲買・販売業者

 次に豚の売買ですが、自分の家で屠殺し、肉を近隣に売るのが普通です。しかし今回、僕の家で育てた豚は肉量が豊富な品種であり、また近隣には豚肉をタブーとする人たちが多いため、通常の範囲だけでは売り切れません。そこで、家畜の仲買と売買を受け持つタルー族の業者に買取りをお願いしました。
 祭事の時にだけ家畜の売買を行っている彼は、あらかじめ豚の成育状況を見に来て、僕たちと買取り価格を交渉しました。その後、売り先の村で豚肉を買いたい家の集計を取ります。こうして、豚は満月祭の前日に彼の家まで運ばれ、祭りの当日に十数人がかりで屠殺、解体されるのです。
 村人に売るため、豚肉は1ダルニ(2.4kg)という単位ごとに切り分けます。ただし、それぞれの部位や内臓などが偏らず、1ダルニの中に平等に含まれるようにしなくてはなりません。
 こうして豚肉は、首都カトマンドゥよりも安く、第二の都市ポカラよりも安く、地元の町の市場よりも安く、1ダルニ400ルピー(約350円)で売り尽くされました。すべてが終わった後、仲買・売買業者と僕たち、解体に来た人たちが集まり、売らずに残してあった鼻や耳、消化器官の一部が調理され、酒と一緒に振舞われたのです。
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 ネパールの畜産で飼育から売買までのつながりを見ると、畜産物は必ずしも市場に流通するとは限らないことがわかります。ここでは、畜産物が部位ごとにパックされ、大量に棚に並んでいることが「あたりまえ」ではないのです。(藤井牧人)


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