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連 載 ネパール・タライ平原の村から(10)
我が家の家畜事情について(その1)

 ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井君の定期報告。今回は、その10回目である。

 今回は、僕の家の家畜事情を通して、タライ平原での家畜飼養について紹介したいと思います。
 僕の家では現在、地鶏・水牛・豚・ヤギといった家畜を、それぞれ少数飼っています。放し飼いの地鶏は、菜っ葉を突つき、家庭菜園の葉野菜はギザギザの葉となっています。水牛は三頭ですが、どれも痩せています。
 家畜の繁殖は自然交配で、水牛も雌牛が発情すれば種付け牛を飼っている農家へ連れて行きます。しかし、一頭は三年飼っても出産・搾乳できなかったので、売ってしまいました。
 豚は、粗末な小屋と割れたレンガで組んだ柵の中で飼っているので、ときどき柵を壊しては外に脱走し、芋ツルを喰い尽くします。また、祭事が行われるタイミングを逃すと、いつまでたっても売ることができません…。
 傍から見れば、いろんな動物に囲まれたあこがれの農業も、実際にはドタバタと非常に不恰好なものなのです。
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 まず、家畜飼養で重要なエサの確保ですが、僕の家では豚用の濃厚飼料として、「チウラ」という干し米を精粉所で購入しています。また、定期市で野菜クズも集めています。それ以外は、ほぼ自分たちの農地とその周辺で獲れるモノで担っています。
 水牛には主に稲ワラ、そして雨季には野草を与えます。ヤギには主に樹木の飼い葉を与えています。このように、家畜同士のエサの競合をできるだけ避けることによって、多種類の家畜を飼うことが可能になります。収穫後のトウモロコシとシコクビエの茎葉、自分たちの食糧として製粉された穀物も、飼料として利用しています。
 ただし、タライ平原一帯では、人口の増加によって一戸当たりの農地面積が減少しており、また以前の乱開発の反省から森林保護政策がとられ、森林や放牧地への立入りが制限されています。そのため、従来の自然に依存した家畜飼養はエサの確保が難しく、農家の家畜頭数は、明らかに減少傾向にあるようです。
 こうして飼養した家畜は、もちろん畜産物として利用します。町の定期市で屠殺して売る場合もありますが、基本的には予め周囲の農家に声をかけ、手伝いに来てもらって屠殺・解体をします。その後、内臓を血液で炒めたものを振舞い、肉は村内で切り売りされます。残った肉は煙で燻し、保存食の干し肉として利用します。また副産物として水牛やヤギの乳を絞ってバターやヨーグルトに加工し、貴重な乳製品として自家消費することもあります。


●ヤギ肉を燻煙して保存食作り


●自家製バター作り(相方の母)

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 家畜を飼育する中で実感したのは、小規模農家は販路が確保されている訳ではないため、家畜で利益を得るのが非常に難しいということです。換金目的で家畜を多頭飼いしても、資源が限られているのでエサ代がかかるだけです。周囲で消費できる程度の頭数が望ましいようです。すでに周辺では貨幣経済が浸透する中、家畜生産は割が合わないと手放す人も増えています。
 それでもタライ平原にある村々を歩いていると、どこの農家でも少数ながら家畜が飼われ、稲ワラが積まれてある風景を見かけます。ここでの家畜飼養は、田畑の耕作や堆肥を得るため、農耕に不可欠な存在であることに気づきます。農耕と家畜飼養は一体として循環しているのです。
(藤井牧人)


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