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連 載 ネパール・タライ平原の村から(9)
日常生活:とある一日の様子

 ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井君の定期報告。今回は、その9回目である。

  町の定期市で、豚の餌となる野菜残さを集めていたある日。“外国人です”というオーラが全く感じられない僕は、野菜売りの人から「あんた、どこ出身じゃ?」「マナンから来たのか?」と尋ねられました。「マナン」というのは、チベットに近い山奥で、ネパール語があまり上手く話せない人たちが住む地域です。どうやら僕は、マナンあたりからやって来た田舎者に見えるみたいです。今回は、雰囲気・生活スタイルと外見だけは、現地にすっかり溶け込んでしまった自分自身の日常について話したいと思います。
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 僕は現在、相方の家族と3頭の水牛、3匹のヤギ、数十羽の鶏、5匹の豚に7匹の子豚と暮らしています。毎朝起きると、水牛の糞を素手で掻き集め、調理用のメタンガス醗酵槽に糞を入れて混ぜることから1日が始まります。朝は水牛にワラを与え、乳を搾る者、薪に火を入れ紅茶を沸かす者、鶏を外に放す者、という具合に家族内でそれぞれが作業にあたります。
 紅茶ができ上がり、乾季の冬は非常に寒いので薪を囲んで紅茶を飲んでいると、そのままおしゃべりしながら、延々と時間が過ぎて行くことも多々あります。その後、豚の餌やりや畜舎の掃除などをして、10時頃に朝食。

●今日も黒豚の世話(イノシシではありません)


●祭事儀礼も多々ある日常

 日差しの強い日中は、畑作業することもありますが、比較的のんびり過します。日が少し傾く頃、家の水道水や管井戸ポンプを使う前に、溜めてある生活廃水をバケツに汲んで、菜園の水やりをし、そして豚の餌やりをします。また冒頭で述べたように、豚の餌となる野菜残さを確保するため、定期市へ週2回、1日何度も自転車で往復します。豚の飼育を中心に、これらは必ず僕がする作業です。
 そして、他の大半の時間はその日時々に応じて、例えば豚の餌を煮込む、雑木林に山芋を掘りに行く、薪を運ぶ、絶えず壊れる畜舎を修理する、ネズミに喰われることが多い米や小麦などの食糧を少量ずつ精米・精粉所に持って行く、日中は水道水が使えないので、川に洗濯や水浴びに行くなど、現金収入につながるような仕事はほとんどなく、小さな家事をいくつもこなしながら過す毎日です。
 夜は薪を囲んで夕食をとり、停電で灯りがない日がほとんどなので、そこで雑談をしたりしながら、割れたレンガを炭の上に乗せて暖めます。暖まったレンガは、布で包んで、湯タンポ代わりのようにして、腹の上に乗せ、8時頃にはもう寝静まります。
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 ネパールへ来て、約1年が経過しました。村の人と同じように、ヤギが好む飼葉を見つけて切ることが、まだ上手くできません。鎌を使って鶏を手際よく捌くことができません。堆肥を積んだカゴを背負うと、バランスが上手く取れないので、周囲の人によく笑われます。
 そして、ここでの仕事や手作業を身に付けることも大事なことですが、まず村の人たちと同じように1日中おしゃべりしながら過すことができるようになること、それが非常に大事なことのようです。              
(藤井牧人)


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