無痛の戦場

弾丸の雨をすり抜けて
気配を消して森へ潜め
誰かに出会ったのなら
速やかに喉をかき切れ
一歩一歩に気をつけろ
お前が歩く草原は
百万個の地雷地帯

誰の言葉にも耳を貸すな
雨水を啜って泥の中を這い
ねずみの肉を貪れ
憎しみを絶やすな
誇りを失うな
凍えた夜には胸の十字架を握りしめて
暗闇の中で狼の遠吠えを子守唄にして

復讐を遂げるんだ
復讐を

だけど一体
敵地はどこにあるの
何人殺せば私の勝ちなの

誰かが私を抱きしめて言う
可哀想に
戦争は終わったんだよ。
もう闘わなくていいんだ。
それに君はもう17歳じゃないんだよ。鏡をごらん。

ウソだウソだ嘘つきめ。
撃ち殺してやる。
バンバン

誰の言葉にも耳を貸すな
雨水を啜って泥の中を這い
復讐を遂げるんだ
復讐を

辿り着いた私は
ついについに
あなたの遺言を果たした

それなのに

何も起こらなかった

英雄にはなれなかった
誰も私を殺さなかった
戦場なんてどこにもなかった
指を広げるのが怖かった
ずっと握りしめていたのが何なのか
知りたくなかった






スーパーへの道を
1週間に2往復する
一人きりの部屋で缶詰めを開ける
伝票を数え テレビをつける
時間は止まったように淀んでいる
少女の頃は前世のように遠く
老いた皮膚はゴムのように分厚く
世界と私を隔たる
痣が出る程殴りつけて
血を流すほど掻きむしっても
それは脱げない

恐ろしいのは
あなたがいないのに
生きている私

指の隙間から見る空に
ブラウン管の中の遠い海に
アルバムの中の私を抱く手に
あなたの残り香がして
私は叫び出す

あなたの居た道の
風の匂い
裸で立っていた私

戦争の終わった街で
私は百年生きて行く
あなたのいない街で














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