ある所に醜い女がいた。

「宙返りのできる女の子になりたい」
「背の高い女の子になりたい」
「まあるい大きな瞳の」
「キスしたくなる唇の」
「キリンのように長い手足の」
「小鳥も口をつぐむ歌声の」
「美しい、美しい女の子」
「誰にもなつかない女の子」
「誰からも愛される女の子」
「誰にも捕まえられない女の子」
「誰もが焦がれる特別自由な」
「美しい美しい女の子」

醜い女は
明日の朝目覚める頃には
そんなふうに生まれ変わるのだと
毎晩夢見て眠った。

ある朝、鏡を見た醜い女は泣いた。

何ということだろう。

「私の背は低すぎる」
「私の胸は大きすぎる」
「私の手は小さすぎる」
「私の足は死んでふやけた魚のよう」
「私の目は臆病な犬のよう」
「私の唇は誰も触れない薄氷のよう」
「私のほほえみは媚びた老女のよう」
「私の歌は安い玩具のよう」

生まれてはじめて鏡を見た
醜い女は泣いた。



ある日、彼女は現れた。
それは醜い女が夢見たままの
美しい美しい女だった。

美しい女は醜い女を見下ろして微笑んだ。
醜い女の目は潰れてしまいそうだった。
美しい女が醜い女の向いに立つと
醜い女は、灰になって消し飛んでしまいそうだった。
美しい女のまわりには、たくさんの人々がいた。
彼等は醜い女を見ると、口々に罵り笑った。
けれど美しい女は、醜い女に手を差し伸べて言った。
「さあ、仲間にお入りなさい」
そして、美しい腕で醜い女を抱くと、
醜い女のために唄い踊った。

美しい女と醜い女は友達になった。

ある日二人は森に出かけた。
深緑の森の奥で
美しい女は、まるで妖精のように駆け回った。
醜い女は不様で、
まるでその森に似合わなかった。
醜い女はただ俯いて
自分のひび割れた爪を見ていた。
すると美しい女は、白く長い指で
熟れた石榴をひとつ取ると
半分にして、大きい方を醜い女にくれた。
どこからか藍色の鳥がやって来て
石榴の枝でさえずり始めた。
美しい女は目を閉じて
そのさえずりに耳を傾けた。
醜い女は、美しい女がさえずりに気を取られているのを見て取ると
ポケットから飾りナイフを取り出した。
そして美しい女の心臓をひと突きにした。
美しい女は、聞いたこともないような無気味な悲鳴を上げた。
美しい女の目は、信じられない程見開き
醜い女をじっと見ていた。
言葉もなく
あっという間に美しい女は死んだ。

それから醜い女は、美しい女の皮を丁寧に剥いだ。
そしてその皮を自分でかぶってみた。
血がぬるぬるしてずいぶん苦労しながら
それでも何とかうまくかぶれた。
体が少しかゆかったが、醜い女はがまんした。

皮を剥がれた美しい女は、ただの赤い肉の塊だった。
藍色の鳥が何羽もやって来て、美しい女の肉をついばんだ。

醜い女は、美しい女の皮をかぶったまま
森を出た。


醜い女は、美しい女の仕種を真似
美しい女の声色を真似て
美しい女がしたように歌い踊った。
そうすると、たくさんの人々が集まって来た。
彼等は口々に醜い女を誉め慕い
醜い女を抱き締めた。
誰もが醜い女に焦がれ、
数えきれない男達が、醜い女のくちづけを求めた。

醜い女は彼等を引き連れ、
得意になって街を歩いた。
他の醜い女が自分を見ているのに気づくと、
醜い女は手を差し伸べ
「さあ、仲間にお入りなさい」
と言って抱き締めた。
醜い女のまわりは、人で溢れていった。

けれどある日、
醜い女の体から、嫌な匂いがし始めた。
醜い女の体には蠅がたかり、蛆がわいた。
醜い女のかぶった美しい女の皮は
腐り始めていた。
腐って落ちた肉の隙間に
醜い女の本当の顔が覗いた。

人々は、醜い女が美しい女の偽者だと知ると
よってたかって醜い女を打った。
みんな醜い女の腐った体に触れるのをいやがったので
棒で醜い女を打った。
醜い女は血だまりの中に
自分の本当の顔を見た。


醜い女が死んでしまうと
人々は行ってしまった。
醜い女は死体になったまま、空を見ていた。

いつか美しい女をついばんだ藍色の鳥は
今も高く
自由に空を飛んでいた。


私には
あの鳥を
撃ち落とすすべさえ
もうない。