神様のチケット


神様がチケットをくれた
すばらしいチケットを

「それを持って好きなだけ遊んでおいで」
神様は言った

僕はもう有頂天
ドキドキわくわく

僕はチケットを握りしめて
ひとりで遊園地に出かけた


遊園地についたら
僕は目を回した

はしっこが見えないほどの 広い広い遊園地
目が潰れてしまいそうな色とりどりの光
音楽 雑踏 悲鳴
なんてたくさんの 人!人!人!

僕は人ごみにまぎれて
あっという間に迷子になった


人ごみをかき分けながら
僕はだんだん心細くなって来た
「好きなだけ遊んでおいで」と言った
神様の顔が浮かんだ
そうだ早く乗り物に乗らなくちゃ!
僕はあたりを見回した

空から落っこちるゴンドラ
猛スピードのジェットコースター
水しぶきを上げるスライダー

ああ どれに乗ろう
はやく はやく はやく
だって神様 好きなだけ遊んでおいでって言った
だけどどの乗り物も
終わりが見えない程の行列
はやく はやく はやく
僕は列に並んだけれど
はやく はやく はやく
僕の番はやって来ない
はやく はやく はやく

遠くに見える観覧車のてっぺんで
白いワンピースのかわいい女の子が手を振ってる
観覧車はぐるぐる回って
すぐに女の子は見えなくなった

僕の番は
まだ来ない


疲れた僕は
誰もいないトイレでひと休み
顔を洗って鏡を見た僕はびっくり!
僕はすっかりおじさんになっていた
チケットを見ると期限はもう半分
まだなんにも乗れてないのに!
僕はトイレを飛び出した


それからの僕は
あっちへふらふら
こっちへふらふら
いろんな列の後ろに並んだ
だけどいつまで待っていても
僕の番は来なかった


夕暮れ時が近づいて
すっかりおじいさんになった僕は
小さなメリーゴーランドの前にいた
古ぼけ 壊れかけて
今にも止まりそうな
寂しい音色のメリーゴーランド
並んでいる人は ひとりもいなかった

僕はよろめく足で
小さな白馬にそっとまたがり
賑わう彼方を見渡した
雑踏は遠く響いていた

遊園地に飛び込んで来た小さな子供が
いつかの僕のように
チケットを握りしめ
人ごみに流されて行った

観覧車のてっぺんで
またきれいな女の子が手を振ってる
だけどその子もぐるぐる回って
すぐに見えなくなった

白馬にゆられながら
僕は遠くに沈む夕日を見ていた
燃え上がる空を仰ぎながら
僕は今まで空を見上げたこともなかったのに気づいた
メリーゴーランドは 
ゆっくりゆっくり回って
僕は涙がいっぱいこぼれた


僕のチケットの期限は
終わった


家に帰ると神様が言った
「どうだい? 楽しかったかい?」

僕はしわくちゃの手で 顔を覆ってうなずいた

「よかったね 疲れただろう 今日はもうおやすみ」

そう言うと神様は
僕を優しく抱いて眠った