「ウミガメ管理・保存」水産庁通達(平成4年度)の適正実施が不可欠


はじめに

   近年わが国において、ウミガメ保護が大きな転機を迎えたのは、 京都においてワシントン条約締結国会議が開催された平成4年のことで、 会議開催を前に1月31日付けでヒメウミガメ等のワシントン条約 留保を撤回したときのことである。同年3月の京都会議終了直後、水産庁は 各都道府県水産主務部長宛に、ウミガメの管理と保護事業を抜本的に 見直した通達を発信して、ウミガメの管理・保存の適正化を促した。
   同年を境にウミガメ採捕の規制を行っていた4都府県(東京、高知、和歌山、 沖縄)以外でも適正な規制を行うよう指導が行われ、 静岡、鹿児島でもウミガメの管理・保存体制が 整備されるようになった。 同年5月には参議院環境特別委員会でウミガメ保護に関する審議も行われている。

1.水産庁通達「うみがめの管理・保存について」(平成4年度)

   水産庁から各都道府県水産主務部長宛に平成4年4月1日付で 「うみがめの管理・保存について」と題する文書が配布されている。

   その中でうみがめの保護については次のように記述されている。
   『 (1)産卵場の保護: うみがめ及びその卵が違法に採捕されることがないよう 産卵場の整備、稚亀や卵の不法採捕の防止に努められたい。[脚注 1]
   (2)うみがめの保護事業: うみがめの生息・産卵に有害な物質の除去、産卵場の整備、 産卵・孵化の保護・監視、卵や稚亀の不法採捕の禁止等について、 国庫補助事業を平成4年度から実施するので、了知されたい。』

[脚注 1]
   この水産庁通達においては、「産卵場が漁業法で規定する海面に該当する」ことに鑑み、海区漁業調整委員会の 指示を行う等所要の処置を講じるよう促しているが、それは漁業法の正しい理解とはいえず、 屁理屈に過ぎない。ワシントン条約で問題にしているのは、ウミガメ保護の実際である。 欧米諸国において、漁業法を盾にウミガメ保護活動家が冠水域にあるウミガメ産卵巣の卵の 高所への移設を禁じたという話を聞いたことがない。
   いすみ市平成18年度3月定例議会における市議会議員の質疑において、千葉海区漁業調整委員会 が規制適用の根拠と主張する「漁業法第67条の規程は『漁場の使用に関する紛争の防止・解決もしくは漁業調整のため必要あるとき』 に限定されており、ウミガメは漁業の対象ではないから該当しない」旨の指摘が行われた。 それは極めて常識的であり、非難の余地など全くない。

2.千葉県「鯨類・海亀等の取扱事務の手引き」(平成13年)

   前記水産庁通達を受け、千葉県において 「鯨類・海亀等の取扱事務の手引き」が農林水産部水産課によって作成されたのは、平成13年7月のことである。
   その中でうみがめの保護については次のように記述されている。

   『水産庁通知(平成4年4月1日付)に基づいて対応。
   海亀の卵については、現場保存を原則とし、 やむをえない事情から卵を保護する目的で移動する場合には、孵化状況に影響を与える恐れがあるので 慎重に対応されたい。』[脚注 2]

[脚注 2]
   われわれが、いすみ市において長年手がけてきたウミガメ保護の手法は、この千葉県の手引き の文言に沿ったものだ。すなわち、現場保存を原則とする。ただし長年の観察・保護の経験から、 砂の消滅に伴い低レベルの砂浜に産卵したため、長時間冠水・高潮時流失の恐れ大きい産卵巣についてのみ 移設を行ってきた。
   「孵化状況に影響を与える恐れがあるから慎重に対処せよ」とは、高所への移設を制限する 意味で言っているのではなく、「止むを得ない事情による移設は認めるから、作業は慎重に行え」 という趣旨に理解すべきものである。 当地においては、産卵巣の卵の移設作業は「卵の天地」をそのままにしておき、 産卵巣全体を上・中・下段の3群程度にわけてそのままの群別状態で、慎重に行っている。 世界中を見ても、われわれが行っている丁寧な卵の移設作業は、よいお手本になるものと自負している。

3. 千葉県「海区漁業調整委員会指示」(平成14年)

   前記水産庁通達及び千葉県作成の手引きを受けて、 「千葉海区漁業調整委員会指示第130号」が 平成14年5月31日に行われれ、同日付の「千葉県報第11693号」 に掲載されている。
   その中でうみがめの採捕については次のように記述されている。

   『千葉県海面において、うみがめを採捕してはならない。ただし、委員会がうみがめの採捕の 承認を行ったものについては、この限りではない。』[脚注 3]

[脚注 3]
   小笠原島や沖縄などでいわれていると聞くウミガメの肉や卵の食用摂取の話は、 千葉県においては終戦直後ならいざ知らず、最近では聞くことはなくなった。 それにもかかわらず、千葉海区漁業調整委員会が平成4年の水産庁通達や 平成13年の水産課作成の手引きの精神を理解できずに、名目上 原則ウミガメ採捕禁止の委員会指示を発表したのは遺憾である。
   管轄の水産事務所職員と話す機会は過去にあった。ウミガメ産卵巣の移設に立ち会うと 口先では言っていた。しかし、ウミガメ保護ボランティアが一・二度電話で移設の立会いを要請してはみても、 週末や勤務が忙しいときは駄目だとかの理由で、 当地ウミガメ産卵の現場に産卵巣移設のために現れることはなかった。 ウミガメ採捕の権限を振りかざすだけで、ウミガメ保護のために一生懸命 働こうという姿勢は全く認められず、公僕意識が欠落していた。 ウミガメは、人間の都合に合わせて週日の日中だけに浜辺に産卵に来てくれることはない。 それが野生生物というものなのだ。

4.海亀保護のあり方

   以上を綜合すると、平成4年度の通達で水産庁が記述していることは、産 卵場の整備、産卵・孵化の保護・監視、卵や稚亀の不法採捕の禁止等である。 ウミガメ繁殖のための移設はむしろ奨励されていると看做すべきものであろう。 禁止されるのは不法採捕に限られているからである。
   千葉県がこの通達を9年間も放置しておいて、平成13年度に漸く手引きを作成した。 その趣旨は「止むを得ない事情による移設は認めるが、慎重に卵を保護する目的で移動させよ」 と解釈すべきものといえよう。 従って、平成14年5月31日付の千葉県海区漁業調整委員会指示において、 「千葉県海面において、うみがめを採捕してはならない」と記述したのは、 権限を逸脱し、運用を誤っていたものといえよう。 世界的なウミガメ保護活動の現実を知らない愚行だったと いわれても仕方あるまい。              


[添付資料]

1. 水産庁通達「うみがめの管理・保存について」(平成4年4月1日付)

2. 千葉県農林水産部水産課作成「鯨類・海亀等の取扱事務の手引き」(平成13年7月)

3. 千葉県報第11693号「千葉海区漁業調整委員会指示第130号」(平成14年5月31日)


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