夷隅川エスチュアリーの総合的な検討が不可欠


平成17年6月17日に第3回夷隅川流域委員会を傍聴する機会がありました。

落合川住宅冠水被害対策と大多喜ダム建設を巡って、説明がありましたが、 千葉県が計画している夷隅川の水域対策は、極めて近視眼的で、検討不十分です。 特に大多喜ダムなど14年前に計画したものを殆ど無修正で、県財政が逼迫している中で 80億円もの無駄な予算を今後使ってゆこうとしています。

夷隅川と河口潟湖、それに夷隅川から絶えず大量に流竹木が漂着し続けている 日在−和泉浦海岸、これら水で繋がっている海と川を切り離さずに、 夷隅川エスチュアリー(汽水域)が抱えている課題を総合的に検討の上、 問題を解決してゆくべきです。残念ながらこの視点が、千葉県には欠けています。 今こそ欧米諸国で普及している エスチュアリー(汽水域)総合管理の手法を採択すべき時です。

夷隅川エスチュアリーの具体的管理運用と解決ための施策を、下記の通り検討しましたので提出いたします。このプロジェクトは、夷隅地方に残されている手付かずの自然環境を保全してゆく具体策であり、且つ観光開発の基本となり、現在千葉県が予定している予算額(約96億円)の数十分の1ないし数分の1規模と、極めて低コストで実施可能です。
(三番瀬自然回復プロジェクトに、当地のアシの植生を活用するプランも含まれています。)


                                 記

I. 夷隅川流域の総合的管理運用について      
II. 夷隅川河口潟湖の管理のあり方 −天然の浄化機能回復が不可欠−

県政に反映していただくよう、切望いたします。
                                                                 以上です


日在-和泉浦海岸_ 夷隅川及び河口潟湖(手前和泉潟)
太東崎灯台からの俯瞰(2004年1月28日 撮影)


I. 夷隅川流域の総合的管理運用について

千葉県が県土整備部門を中心に、夷隅川流域委員会を開催するなど、 夷隅川流域問題の解決へ向けて努力していることを評価いたしします。                                   

[夷隅川エスチュアリーの総合的視点で問題解決を]

a) 夷隅川流域問題は、河川問題のみに限定しないで、水で繋がっている海と川を切り離さず 、夷隅川エスチュアリー(汽水域)の問題を総合的に検討の上、問題を解決してゆくべきである。

b) 台風や大雨の度に、夷隅川上流からは大量の流竹木が太東岬−大原八幡岬間 5kmの海岸に漂着しており、下流域住民はいつも漂着物の除去・清掃を強 いられ、大変悩まされている。夏季には、アカウミガメの繁殖活動(今年 は8月13日現在上陸27回、産卵17回で、関東地方随一の規模)にも支障 をきたす恐れが生じている。
この問題は、ゴミの不法投棄そのものではないでしょうか。千葉県、大多 喜町、夷隅町等は、夷隅川上流域地域住民が流竹木を流出させぬよう、周 辺住民に周知を徹底されたい。

和泉浦海岸中央部のウミガメ産卵巣
ハナグルマの植生で台風被害を免れた
(2005年7月26日撮影)
台風で冠水した大原海水浴場内の産卵巣
浜辺は、台風後いつもゴミの山で埋まる
(2005年7月27日撮影)

c) 夷隅川河口潟湖40haは夷隅川上流から流竹木が漂着、満潮時には砂泥が堆 積、周辺住宅(千数百戸超)地域からは生活排水と汚泥が流入してきている。 このため潟湖の浄化機能が失われる等、潟湖の自然環境整備が疎んじ られてきた。衛生面からも問題があり、平成16年度以降実施している夷隅 川河口三角州砂泥の和泉浦海岸への移設事業を継続してゆくと共に、潟湖 の浄化を更に進めてゆくべきである。

[夷隅川水系の洪水被害住宅対策について]

夷隅川は千葉県随一の河川であり、その特徴は流域面積も大きく、緩やかに 蛇行していることである。その治水は、本来人が洪水と共存し、橋や道路 も四国・四万十川の沈下橋の概念等を取入れて行うべきものである。
地勢的に見て、落合川の下流地域は遊水地として洪水を許容し、他の地域の洪水被害を避ける緩衝地帯として位置づけるべきものである。現在千葉県が計画している落合川改修(案)のごとく4.6kmにわたり高さ1mの堰堤で嵩上げしても、冠水被害住宅を洪水被害から防ぐことでがきないことは明白である。 夷隅川水系で毎年数回洪水被害にあっている地域については、行政が地元の建設業者に不法建築させないよう、直ちに 指導を徹底すべきである。
ちなみに、昨年TV朝日、TBS等が佐室地区住宅の洪水被害について、 数回にわたり全国ワースト住宅建築として放映し、地元自治体役職員が多数 出演したことは、記憶に新しい。

[大多喜ダム事業の再評価について]

計画中の大多喜ダムの流域面積(3.6km2)は、夷隅川水系全体(299km2) の1.2%に過ぎず、今更湛水面積0.22km2のダム建設を完成させる必要性 はない。夷隅川エスチュアリーの総合的視点に立って、河川・潟湖・海岸を 総合的に考え、汽水域全体の保全・環境問題等を検討すべきである。
14年前に建設を開始した大多喜ダムは、総事業費145億円のうち進捗率 45%とのことだが、長野県に倣って現段階で当該ダム建設を取り止めるべ きである。
税収不足の千葉県としては、工事残分80億円を夷隅川エスチュアリー全体 の汽水域管理の財源として活用してゆくべきである。
                                                                 以上                                               


夷隅川の河口は明治36年には現在より2km南側
昭和38年には現在より1km北側にあった
(「太東漁港修築測量報告書」に基づき筆者作成)


II. 夷隅川河口潟湖の管理のあり方
     - 天然の浄化機能回復が不可欠 -


[はじめに]

夷隅川河口域は、海岸に平行に潟湖を有しているが、 房総半島において、潟湖もしくは入江を有する河川は、 夷隅川のほかには、一宮川と小櫃川(盤州干潟)があるだけである。
潟湖もしくは入江には、毎日潮の干満に応じて海から海水が流出入し、 海水と真水が混ざり合う塩分濃度の低い汽水域では 内湾性の生き物が見られ、 底生生物(ベントス)がたくさん生息する「海」の中でももっとも生物が豊かな場所とされる。

夷隅川は、その河口の位置を数十年ごとに南北に移動させながら、現在の形に落ち着い たことが知られている。 これは、夷隅川下流域(夷隅町国吉地区以東)が1000分の1程度の 低勾配なために、夷隅川の流れが屈曲し、流れの方向を変えてきたことに起因する。
河口部が現在のように真直ぐに海へ突き出すようになってから、まだ45年程度しか経っていないが、 南北二つの潟湖へは、夷隅川からの流竹木が流入し、 周辺住民の生活排水流入に伴い砂泥がたくさん堆積してしまった。 その間、地元自治体は長年汽水域保全策を講じてこなかったため、 天然の下水浄化(処理)機能の低下を招くに至った。

夷隅川河口潟湖(その1)

[夷隅川河口潟湖の管理と周辺環境の現況]

夷隅川河口潟湖の汽水域管理については、 地元住民の要請に応え、夷隅地域整備センターが平成16年度および17年度の事業として、 夷隅川河口三角州に堆積している砂泥約6,500m3を撤去し、隣接の和泉浦海岸に移設工事を 実施している。
堆積砂泥撤去に伴う、南側潟湖(地元で「日在潟」と呼称)への汽水流入量は3年前の5-6年倍にも達しており、 潟湖の生態系回復は極めて顕著である。潮の干満による潮位差は1日あたり おおよそ1-1.5m あるが、満潮時の水位も数年前に比べて10cm程度は増加しているように見受けられる。
2005年4月から5月にかけて大型の鯉が集団 (体長1m以上、10数匹規模)で水門奥まで産卵に訪れ、ボラの幼魚の大群 (体長15cm程度、数百匹規模)が善養寺前の岸辺で観察されている。
海水の流入量が大幅に回復(増加)した結果、 2005年5月下旬には、水門奥の潟湖水面に青海苔が一面に繁殖(湖面の約30%を覆う程) しているのが確認されたが、これは過去6-7年間見られなかったことである。

和泉浦海岸の最北端部(三軒屋海岸)は、養浜により奥の砂浜高さが1-2m増え、 アカウミガメ産卵巣が台風でも流失しない環境となっている。


夷隅川河口潟湖(その2)

[夷隅川河口潟湖の汽水域浄化事業計画とその優先順位]

(1) 夷隅川河口三角州の堆積砂泥の撤去と和泉浦海岸への移設について
平成16年度及び17年度事業として約6500m3を移設済であるが、 平成18年度以降も継続事業として実施すべきである。 (和泉浦海岸への埋設に際しては、アカウミガメ産卵地域であるから、 砂浜の上部1m厚さは海砂(砂の粒子サイズや熱伝導度が川砂とは異なるため) で覆うよう配慮すべきである。

(2) 南側潟湖の夷隅川河口と水門までの区間
夷隅川河口と水門の間の区間では、潟湖東側の岸辺に流竹木がたくさん漂着 すると共に、宮前・江場土地区からの生活排水に起因する堆積汚泥 が相当量堆積している。 汚泥と過剰なアシの植生(その面積は1.5-2ha程度と推定する)の撤去と和泉浦海岸への 移設(埋設)処理等を行い、汽水域の浄化機能回復を図るべきである。 過剰なアシについては、三番瀬プロジェクトにおけるアシ植生復活へ 提供利用することが可能である。

(3) 水門南側の潟湖の一番奥の区間
水門南側については、日在・若山地区からの生活排水に起因する堆積汚泥 が相当量堆積している。 汚泥と過剰なアシの植生(その面積は2.5-3ha程度と推定する) の撤去と 日在浦海岸への移設(埋設)処理等を行い、汽水域浄化機能の回復を図る べきである。 アシを三番瀬プロジェクトにおけるアシ植生復活へ提供利用することが可能である。

(4) 「江の浜」にある溜池の原状回復
「江の浜」にある10ヶの溜池は、旧夷隅川河口域の一部であり、 昭和52年から数年間だけ淡水魚養殖地として利用されたことがあるが、 その後は全く使われていない。総面積3.2haに上る溜池は、潟湖の汽水域機能 回復には欠かせないものである。 現在 潟湖の西側部分は溜池の土手で遮られているため、 毎日潮の干満の際汽水の流れが一部阻害され、潟湖の浄化作用を 減殺している。
溜池全体を原状回復することを通じて、地元住民の天然の下水処理場としての 機能が回復すれば。水は元通り"きれいに"なって、シラス(ウナギの稚魚)、シジミ、 クルマエビ等が再び生息できるようになるだろう。


水門周辺の清掃作業状況
漂着流竹木のチッパー処理等
近隣の民家から生活排水・汚泥も流入してくる
過剰堆積砂泥は海岸等に移設処理すべきだ
(2枚とも2005年4月下旬撮影)

夷隅川河口潟湖の汽水域浄化事業計画の詳細については、以下に 潟湖管理の項目別に その特徴や問題点を説明する。



[潟湖漂着流竹木のクリーンアップ]

夷隅川南側潟湖には、長年にわたり大量に夷隅川上流域から流竹木が漂着し、 それがガラス瓶、家電製品、浮遊ゴミ共々岸辺に堆積して、水門周辺で景観を阻害するだけでなく、 衛生上も問題となるので、クリーンアップが必要となった。
地元住民の要請に応え、岬町役場が2005年4月に水門周辺を中心に、 岸辺に堆積した流竹木の撤去と岸辺の清掃等を実施している。 木や竹をチッパー処理すると共に、ユンボでゴミが堆積した岸辺の清掃作業が行われた。 クリーンアップ作業を終えた水門東北側の岸辺一帯では、その後干潟が露出し、 青海苔や底生生物が観察されるようになっている。


[水門周辺の景観美]

青海苔が久方ぶりに繁殖、湖面の30%を覆う
水門から南方を望む_ 養善寺前の岸辺周辺
(2005年5月27日撮影)
水門付近から太東岬方面を望む
潟湖の汽水流入量が5-6倍に増加した
(2005年8月2日撮影)

現在の水門は、第2次大戦中に日在-和泉浦海岸から砂鉄を採取するために、三門駅まで 蒸気機関車を走行させる軌道敷を通す際に初めて設置したものだと聞いている。水門の上に立つと、 水面越しに 北は太東岬灯台、南は善養寺周辺にあるサギ山、東は植林された松林の連なり、 西は江の浜地区の照葉樹林帯を眺めることができる。 潟湖および海岸沿いにあるサイクリング道路周辺では、 四季を通じて鶯が啼き、カルガモ、アオサギ、ダイサギ等が周年留まり 繁殖を続けている。
海岸に平行に大きな潟湖が見られるのは、千葉県内では夷隅川河口の他には、 一宮川河口と小櫃川河口しかない。南側潟湖周辺は、まだ自然が豊かに残っており、 その景観を保全し清掃に努めてゆけば、手付かずの自然の魅力だけで観光客や文学散歩者 たちが訪れてくれるのではなかろうか。


[潟湖の東側植生と堆積汚泥]

水門北側のうち_東南寄りアシの繁茂状況
長さ200mx幅20-30m程度にも及ぶ
水門北側のうち_東北寄りアシの繁茂状況
長さ400mx幅30-40m程度にも及ぶ
(2枚とも2005年8月2日撮影)

潟湖の汽水域は、本来琵琶湖で行われているように、毎年人手をかけてアシの植生を 整備し、汚泥を撤去しつつ、水生生物の保全を図ってゆきべきものである。 およそ25ヘクタールある南側潟湖の開水面は、周辺住民の生活排水の流入路となっており、 絶えず富栄養化物質と汚泥が堆積する水域となっている。

潟湖の汽水域は、言い換えれば干潟である。干潟が持つ重要な価値とは、 山下弘文氏(諫早湾緊急救済本部代表)などによれば、

(1) 干潟は生物生産性が非常に高く、
(2) 水質浄化能力は、1千ヘクタールで 約900億円の価値を持つと評価されている (愛知県一色干潟の調査から、 1000haで10万人分の下水処理施設に等しい浄化能力を持つ と試算されている)。

面積比で試算すれば、 夷隅川河口南北の潟湖を合わせれば、少なくとも40億円の価値があると評価できよう。

夷隅川河口と水門北側間では、 潟湖は西側が狭くなっている(溜池利用で)ため、 東側の岸辺に砂泥がたくさん堆積、 アシが繁茂しており、潟湖東側岸辺の汽水域面積が 約3ヘクタールは減少しているようである。 汽水域浄化能力回復のため堆積砂泥を取り除き、かつ幅30-40mにもわたり繁茂した アシの茂みを、幅10m程度を残して水域として回復させることが必要であろう。
当地で撤去した過剰なアシの茂みは、三番瀬プロジェクトにおいて 干潟のアシの植生再生計画で利用するようにすればよかろう。 当地で繁茂したアシの茂みを、大きなブロックのまま移植させることができ、 三番瀬の自然環境回復に貢献できよう。


[水門よりも南側の潟湖の奥]

善養寺付近から北側を望む
潟湖への土砂流入が続き、アシも岸辺一杯に
善養寺近く一枚板の橋付近から南側を望む
汽水域一面にアシが繁茂してきた
(2枚とも2005年2月14日撮影)

水門から南側は、潟湖の一番奥手になり、善養寺前にある一枚板の板橋 を挟んで、汽水域の水面がびっしりとアシで覆い尽くされようとしている。
国土地理院の25,000分の1地図で判読すると、水門から南側の汽水域 水面の面積は、延べ約2.5ヘクタールあるものと見受けられる。 潟湖の一番奥に当たる日在玉前神社周辺の民家からも、生活排水が 下水路を通じて最終的にこの潟湖に流入しているが、 今日に至るまで砂泥の堆積を放置してきた。 これは地元行政の怠慢であり、衛生面からも問題は大きい。


[江の浜のグランド脇の溜池]

潟湖に隣接する溜池
延べ10ヶ、総面積3.2haに及ぶ
かって鮭の養殖試験で利用
まずくて食用に向かず養殖は取り止めに
(2枚とも2005年3月15日撮影)

水門の西北の一角には、東西50mx南北300mにわたって 合計10ヶの溜池があり、 入江に沿って南北方向に並んでいる。 この場所は、旧夷隅川の本流そのものであり、つい最近まで 潟湖の中心部であった。そして、アシの茂みの中に汽水を湛(タタ)えている一角であった と近くに住む古老から聞いている。
昭和52年に、県出先機関によって3.2ヘクタール余が養魚池として整備され、 数年間にわたり夷隅川漁業協同組合(大多喜町)によってサケの稚魚を養殖し、 夷隅川に放流を試みたことがあるそうだ。同漁協関係者の話によれば、 100万尾放流したところ1千匹程度しか成魚が回帰して来ず、何よりも獲れた鮭が 不味くて食べられなかったため、養殖事業は失敗だったという。 今では県からの補助金も打ち切られており、溜池を養殖等に利用している様子はなく、 近所の釣り人が自分で釣ってきた鮒や鯉を放して釣堀代わりにするに止まっている。
南側潟湖の総面積が、現在利用されていない溜池により10%程度減っていること が明らかであり、そのため汽水の働きによる浄化機能が減殺されている。この際原点に立ち帰って、 10ヶの溜池は全て取り壊して、4半世紀前の潟湖の状態に原状回復すべきである。


浜辺一面に咲き誇るハマヒルガオ
和泉浦では1,200mに及び海浜植物群落が続く
(2005年5月13日撮影)
周年啼き声が聴かれるウグイス
南房総国定公園と千葉県鳥獣保護区の2重規制地
(Courtesy: Dazenbaker)


[まとめ]

夷隅川河口一帯では、潟湖もしくは入江が周辺住民の天然の下水処理(浄化)施設の機能を 果たしており、自然環境を整備することで 汽水域の浄化機能を回復できることを示した。 手付かずの自然は、夷隅地方の最大の資産であり、 清掃作業しゴミを散らかさないようにするだけで、 観光客や市街地に住む人たちが訪れてくれるのは間違いない。
2005年12月には、この地域が広域合併して、 新「いすみ市」になるわけだから、新しい市にふさわしい 下水路等の整備を進めてゆかなければならない。 そのためには、潟湖が水域浄化に果たしている役割を 正しく認識して、総合的に環境整備を進めてゆくことが必要である。

                                                                 以上



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