夷隅エスチュアリー委員会の発足に向けて (平成18年4月17日)


いつも県民のためにご尽力いただき感謝しております。

夷隅川を中心とする千葉東沿岸地方の水域行政については、平成15年3月19日付で『千葉東沿岸海岸保全基本計画』が取り纏められており、その最新基本計画に基づいて水域行政が進められるべきであるにもかかわらず、それが無視されたまま、大原海水浴場付近で無計画かつ地元事前説明もなく一部の土木工事が実施されたのは、甚だ遺憾です。 この機会に、外房における水域の総合的計画・検討を進めるため、『千葉県の水域行政 組織を一元化』すると共に、『夷隅エスチュアリー委員会(仮称)の枠組みを発足』 させるよう提言いたします。
その概要は次の通りです。


[ 1. 水域行政の一元化と夷隅エスチュアリー委員会(仮称)について ]

海も川も入江も水はみな繋がっており、それを行政が海と川を区別して管理する手法は、もはや19世紀的な時代遅れの発想です。欧米ではすでに20年位前から、最新の環境地質学の概念を取り入れ、『川と海を汽水域すなわちエステュアリーとして一元管理』しています。オランダの北海低レベル・デルタ、米国New York 湾等における手法にならい、千葉県でも直ちに川と海を一体化したエステュアリー管理手法を導入すべきです。

そのためには、現在千葉県で行っている『海と川を別々に行っている水域行政の組織を エスチュアリーとして一元化して管理・運営を行う』べきです。 また『夷隅エスチュアリー委員会(仮称)』を発足させ、水で繋がっている 海と川を統括的に調査・検討・計画するようにしていただきたい。 その際、現在の夷隅川委員会は発展的に解消させるのがよいと考えます。 当該夷隅エスチュアリー委員会で検討すべき課題と解決手法の骨子は、 添付資料1 にまとめてあります。


[ 2.日在-和泉浦海岸の砂浜の保全とアカウミガメの産卵孵化保護について ]

現在大原海水浴場内で土盛り工事が進行中であり いろいろ被害等が生じています。 平成18年1月20日付で送付した質問に対する県からの平成18年2月14日付回答は不十分 と考えますので、改めて指摘いたします。
昔から存続してきた砂浜の破壊に伴いアカウミガメの産卵孵化が困難になりつつある 現状と問題点等は、添付資料2にまとめてあります。


環境問題はいすみ市が最重要課題と位置づけており、市民が皆高い関心を寄せています。 県の役職員が、前向きに問題解決に取り組むよう、指導かた期待しております。

                 それでは、元気でご活躍ください。


[ 添付資料1: 「夷隅川と河口潟湖の特徴と必要な対策
         - - - 汽水域整備の統合的管理運用をめぐって」]


1.水域整備の基本計画について

1.1夷隅エスチュアリーの総合的計画の必要性

海も川も入江も、水はみな繋がっており、それを行政が海と川を区別して管理する手法は、もはや19世紀的な時代遅れの発想です。欧米ではすでに20年位前から、最新の環境地質学の概念を取り入れ、『川と海を汽水域すなわちエステユアリーとして一元管理』するようになっています。オランダの北海低レベノレ・デルタ、米国NewYork湾、SanFrancisco湾、Oregon州(太平洋沿いで千葉県の対岸)沿岸と流入河川等で実施している手法を見習って、千葉県でも直ちに川と海を一体化したエステユアリー管理手法を導入すべきです。 また、当地における、千葉県のもっとも新しい水域行政の基本計画は、平成15年3月19目付の『千葉東沿岸海岸保全基本計画』ですから、当然のことながら、この最新基本計画に基づいて水域行政を進めてゆくべきです。従って、県は、そのための体制の見直しと整備に直ちに着手すべきです。

1.2夷隅川流域の特性


夷隅川の河口は明治36年には現在より2q南側
昭和38年には現在より1q北側にあった
(「太東漁港修築測量報告書」に基づき筆者作成)


夷隅川河口は、過去130年位の間に、大きくその流れを変え、海への出口を南北約4qにわたって移動させてきました。そして、往時海岸線を夷隅川右岸で目在浦、左岸で和泉浦と呼称した地名が、水門を境界にして現在に至るまで踏襲されてきました。 海上保安庁刊行の海図によれば、太東岬沖20q地点で水深は20oと浅く、海底の勾配は1OOO分の1です。陸地に上がっても、この低勾配は夷隅川中流域まで延々と保たれ、川は蛇行し、水の流れはおおむね緩やかです。(2.1参照) 地球上でも極めて稀なこうした地勢においては、河川はできるだけ人間が触らずに、掃除するだけにして、手付かずの自然を存続させてゆくのがよいと考えます。人為的行為により弊害を生じた場合、初めてそれを除去してやるといった具合です。自然が豊かに残り、流域周辺にゴミが無くてきれいなら、他地域から観光客は競って訪れるようになります。 『自然景観の保全は新市ビジョン作りの最重要項目のひとつ』になっています。 本川中流域や支流域の住宅浸水地区においては、四国四万十川の沈下橋等にならって、洪水を許容し人と共存する形で管理運用してゆくことを基本にすべきと考えます。堰堤の土盛り・拡幅等は、夷隅川水系の流域面積を必らず減らすことになるので、堰堤工事等はできるだけ避けるべきです。

1.3河口潟湖の浄化が最重要課題

夷隅川河口潟湖(南北合せて40ha)へ砂泥が堆積し、汽水流量を減じてきました。自然の生態系維持のため、潟湖の浄化が最重要課題となっています。千葉県として、夷隅川水系管理の中心に据え、今年度から継続事業として浄化に取り組んでゆくべきです。その優先順位は、次のようになります。

(1)三軒屋川と夷隅川河口合流点の堆積砂泥の撤去と埋設処分(1ha) 堆積砂泥を隣接の三軒屋海岸に150-200m移送し、砂浜の下を2m以上掘って埋める作業を、千葉県が2003度及び2004年度に6500u実施したことは評価できますが、2005年度は行われませんでした。ここ数年来春季4-6月頃には、水門周辺の潟湖は藍藻で湖面一杯覆われるのが観察されており、周辺住宅下水から流入してくる生活排水等の浄化が不十分となっています。

(2)夷隅川河ロー水門間東側入江の流竹木と堆積砂泥の撤去と埋設処分 過剰な葦を一部撤去し、長年にわたる堆積砂泥(10-20万u規模)を深さ1-2m位、スラヅジ・ポンプを用いて和泉浦海岸に移送の上、砂浜の下を2m以上掘り(アカウミガメの産卵に影響ないよう配慮)埋設処分します。併せて、葦の植生の適正化を図るべきです。


水門付近の潟湖現況地図(筆者作成)

(3)水門南側における過剰な葦、流竹木と堆積砂泥の撤去と移設

長年にわたる堆積砂泥(3-5万u規模)を深さ1-2o位、目在浦海岸ヘスラッジ・ポンプで移送の上、砂浜の下を2皿以上掘り埋設処分すべきです。併せて、葦の櫃生の適正化を図るべきです。

(4)「江の浜」の溜池(10ヶある養魚池)の原状回復

全部で3.2uある溜池(うち2ヶは土で埋まっている)は、現在利用されていないので、ラグーンの状態に原状回復させ、汽水域浄化機能の改善に役立てるよう配慮すべきです。


2.第4回夷隅川委員会提案の夷隅川改修工事計画について

2.1三重プレート境界面(地球上の特異点)に近接した地域


人口密集地帯に近接したプレート三重境界面
地球上の特異点(提供:teisen.co-jp)


南関東は、上から下へ順次北米プレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートが重なり合っており、太東岬周辺は、上記三重プレート境界面(その中心は房総沖)の最東南表層部の特異点となっています。(地球上で人口密集地近くに三重プレート境界面あるのは、他にはインドネシア周辺位しかありません) このことから、(1)太東岬沖に発達した長くて平らな磯根の存在、(2)長年にわたる夷隅川河口の南北への移動、(3)夷隅川上・中流域への高潮の遡上、(4)かん水随伴のヨウ素の産出等の現象を全て説明することができます。


2.2世界のヨウ素生産への打撃

ヨウ素は、人体に不可欠な元素ですが、その世界生産量は年間約1万8千トンで、千葉県(わが国ヨウ素生産の殆どを占めている)からは年間約6千トン、世界生産の約35%を天然ガス随伴のかん水中から抽出しており、その中心は大多喜・いすみ・茂原地域等となっています。(世界中でヨウ素の産出は限られており、他に生産できるのはチリと米国だけです)


世界のヨウ素生産量(提供:KNG)


世界中の人々のためヨウ素を確保してゆくためには、夷隅川の中・下流域周辺において、現在の自然環境をそのまま維持してゆくことが肝要です。桑田地区などに調整池を作れば、ヨウ素含有かん水の採掘量が減り、ヨウ素不足に起因する世界中の犠牲者(白血病など)を救済できなくなってしまいます。この地域が地球上の他地域の人々に役立っている、かけがえのない資源供給の途を絶ってはいけません。

2.3調整池計画は不用_甚大な杜会的影響への認識が欠落

桑田地区周辺に調整池を計画することなど、新市の住民は誰一人として望んでいないでしょう。私たち市民が住み、たくさんの住宅があるこの地域のことは、新市の住民たちで話し合いを進めながら決めているところです。現在市長による市民との一連の対話集会(4月から5月にかけて)がもたれています。 この委員会が、住宅移転などの杜会的な影響が甚大な(市民への住居移転の説得や、移転補償費支出の財政的負担を含め)テーマについて、地元に住む市民に何一つ相談せずに提言するのは、いかがなものかと思います。

3.防災対策



元禄地震と津波による千葉県内各集落別
死者数分布(一部)(出典:都司嘉宣)



3.1津波対策

元禄地震(1703)において、地震と津波により関東地方で約1万人の犠牲者がありましたが、いすみ市内でも死者数が96人に上ったことが、東大地震研究所都司嘉宣助教授によって報告されています。(歴史地震(2003)第19号8-16頁、「元禄地震とその津波による千葉県内各集落での詳細被害分布」) 当地の災害対策では、先ず第一に、巨大地震に起因する津波被害対策を講じておくべきです。夷隅川流域は海抜レベルが低いので、『元禄津波級の津波警報』が出た時には、3-5m高未満地域にいる人は直ちに10o高以上の高地へ避難するなど、基準作りと指導を徹底させておくことが肝要と考えます。

3.2水害対策

夷隅川・落合川流域のごとく、毎年のように集中豪雨で数十ないし2百棟もの浸水被害がある地域にあっては、冠水被害住宅がある地域には新規住宅の建設を行わないよう、行政が建築基準マップ等を作成の上、建築業者への指導を徹底させてゆくぺきです。 万木橋は平成17年22号台風で冠水し、約10時間水没していたと聞き及んでいますが、10年に1回程度の短時間水没であれぱ、無理して嵩上げ工事を行う必要はないでしょう。その理由は、橋周辺の低レベル田畑を横断する形で新たに作る道路堰堤が夷隅川を遮り、本川の貯水容量を増加させ、新たにより大きな洪水地域を作り出すのが必定だからです。水没面積が増えれぱ、周辺の市民も却ってお困りになるのではないでしょうか。 夷隅川河口潟湖の浄化等もっと優先度の高いところに予算を充当すべきです。

4.環境調査

夷隅川エステユアリーにおいて、生態系維持の基本となる、下記のような自然環境調査を今年度から開始すべきです。


水門付近に産卵に集結したサケの群れ
(平成17年11月26目撮影)
有精卵の着床状況調査
平本紀久雄水産学博士(館山)も参加
(平成18年3月16日撮影)

4.1 シロザケの産卵調査

平成17年11月下旬に、水門周辺でシロザケ10匹程度が集い、複数のメスとオスの ペアが産卵行動(オスの精子放出、産卵痕が残るメスの死骸などを確認)するのが 観察されました。
そこで私たちは、千葉県からサケの採捕許可を得て、サケの卵着床状況等の 現地調査を春の大潮(平成18年3月16日)の干潮時に行い、卵が着床できる新鮮な 砂利がなかったことを確認しています。
平成18年度以降も、水門周辺で観察を続けてゆく予定でいますが、 この機会に夷隅川・平沢川上流域へのサケの遡上と産卵行動について、 千葉県が中心になって組織的な調査を進めてゆくべきです。

4.2 日在−和泉浦海岸の砂浜のインベントリー調査が不可欠

私たちは、数年前より太東岬から大原八幡岬に至る5qの海岸線で、 常目頃から砂浜の砂のインベントリー変化をフォローすると共に、 毎年春と秋には海岸線のGPS測量を実施しています。 この海岸における砂の移動パターンは驚くべき速さと大きさで、私たちは、 『台風と荒波で一晩に砂が40-50万u規模で減少した』ことを観察しています。
絶滅が危倶されているアカウミガメの北太平洋域の産卵北限粋における、 産卵・艀化の砂場の確保が緊急の課題となっていますので、 砂のインベントリー量を定期的に把握することは極めて重要です。


総じて、周到な自然観察と調査を怠っていては、エスチュアリー保全計画等を 適切に練ることはできません。従来も機会あるごとに指摘してきましたが、 『千葉県が夷隅川流域及び太平洋沿岸において、科学的な調査を組織的かつ計画的に 取り組むことが不可欠』と考えます。県は、今までその努力を怠ってきたのです。


[ 添付資料2: 日在−和泉浦海岸の砂浜の保全について
              - - - アカウミガメの産卵艀化保護をめぐって ]


[不十分な県の回答]

最近実施された大原海水浴場周辺の土盛り工事について、平成18年1月20目付で送付した 質問状に対して、平成18年2月14日付で県土整備部、農林水産部、 環境生活部の関連部署から、それぞれの担当分野に限定した形で、 質間の一部に回答がありました。


大原海水浴場内の土盛り工事
(4枚とも2006/4/14撮影)
高層マンション前の海岸線・保安林表示看板
海岸線の境界はサイクリング道路なのを明示


一応形は整っていましたが、残念ながらその内容は核心を捉えておらず、長年放置したままのサイクリング道路海寄り海岸の砂浜保全策には一切触れられていません。もっとも肝心の、海岸の砂浜地域をいつ講が保安林指定したかについては、『昭和15年6月20目国から取得』との回答ですが、その時期は夷隅川本流は現在の河口よりも北約1qにあり、広い河口潟湖が現河口より南3q付近まで延ぴその海側は砂浜だった聞き及んでいます。現在の大原港が整備されるより遥か昔、魚市場の辺りはまだ磯根が残り、海中桜が咲き、砂浜では砂鉄採取が行われようとしていた時期に当たります。時代錯誤も甚だしい、辻棲合わせの回答は遺憾です。

[無計画で地元説明なしの土盛り工事で被害が]

土盛り工事の現場は、私たち市民の憩いと散策の場所なのです。それを、 書類が整ったから(事前か事後か定かではない)という理由だけで、 『自然環境保全と野生生物保護の間題を何等調査検討もせず、 また地元市民に何ひとつ説明もしないで』保安林整備を最優先させたというのは、 余りにも手前勝手すぎます。


雨が降ると排水できなく、衛生上間題あり 4年前までウミガメ産卵していた場所を土盛り


『工事現場周辺は、最近の雨で泥水の溜まり場になり、 衛生上間題を生じ、かつゴミの不法投棄を誘発』しています。 つい数年前まで砂浜だった場所を2-3o高さで土盛りする愚行(排水経路も確保しないで) により被害が生じているのです。劣悪な環境を是正するコストは、 私たち新市の市民が負担しなければならないのです。県の役職員たちはそこまで 考えられなかったのではないでしょうか。

[アカウミガメの産卵・艀化の様子]

この海岸は、目在浦でアカウミガメの産卵がもっとも上陸・産卵が多い地域で、平成12年春地元有識者たちが『砂浜に鎧を被せる緩傾斜護岸工事は実施しないよう』大原土木事務所(当時)に申し入れを行っています。その申し入れを無視して護岸工事が強行され、産卵場所が激減してしまったため、平成13年以降ウミガメの上陸・産卵が一時的に減っていました。


和泉浦での艀化率調査作業(2005/9/19) 大原海水浴場内に残る産卵巣の囲い
(2006/4/14撮影)


平成17年には、日在−和泉浦の砂浜で、アカウミガメは上陸33回、産卵18回、艀化6回が確認されており、そのうち大原海水浴場内では上陸6回、産卵5回ありました。大原海水浴場内の海岸は、この地域でアカウミガメ上陸・産卵が一番多い場所であり、砂浜をできるだけ残しておかなければならないのです。 本来環境影響評価をきちんと行い、『自然環境維持と野生生物保護の観点から、大原海水浴場内の緩傾斜ブロック護岸と進行中の土盛り工事は全て撤去し、原状回復すべき』ものです。土盛り工事(2-3百o程度)をこま切れに行うのだから、環境影響評価が要らないという理由にはならないのです。


まとめ

[エスチュアリーとしての総合的な検討が不可欠]

総じて千葉県では、海岸と川と下水路等水が繋がっている水域をエスチュアリーとして一元的に管理運用する考えがなかったため、憩いを求める新市の市民や産卵に訪れるアカウミガメを犠牲にする羽目にさせてしまったのではないでしょうか。一度自然環境が失われれば、それを回復するために多大な労力とコストが必要なことは、三番瀬の取り組みをみれぱ誰にでも分かることです。内房における環境破壊を外房に輸出されるのは甚だ迷惑です。 この際、夷隅エスチュアリー委員会(仮称)等を発足させて、水が繋がっている海と川を包括的に審議し、計画してゆくことが不可欠と考えます。

                                  以上


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