ウミガメ保護条例制定の顛末

[従来の経緯]

いすみ市の日在−和泉浦海岸においては、すでに十数年前からアカウミガメの上陸・産卵・孵化について 調査や保護が、「日在−和泉浦海を育みウミガメを守る会」や「夷隅郡市自然を守る会」 を中心に行われてきました。 広域合併前の旧大原町・旧岬町時代からウミガメ保護体制の整備、保護条例制定の検討を 念頭に活動を進めていましたが、新市誕生を機に官民一帯となりウミガメ保護に取り組む 「いすみ市ウミガメを守る連絡会」、すなわち「いすみ市」、「日在−和泉浦海を育みウミガメを守る会」、 「夷隅郡市自然を守る会」の官民協働の枠組みが2006年度以降軌道に乗り始めました。

2006年度のウミガメ繁殖シーズンを前に、従来のウミガメ調査・保護活動を集約する形で、 森谷はいすみ市に対して、 「ウミガメ保護施策が急務 」 (2006.5.31) および 「いすみ市ウミガメ保護条例(案)」 (2006.6.1) を提示すると共に、ウミガメ保護具体策の検討と保護条例の制定推進を促しました。 いすみ市ではアカウミガメの調査・保護活動の内容が、市広報誌6月号〜10月号に 「いすみ市ウミガメを守る連絡会」(「いすみ市」、「日在−和泉浦海を育みウミガメを守る会」、 「夷隅郡市自然を守る会」で構成)により逐一報告されました。

いすみ市におけるアカウミガメの上陸・産卵・孵化の状況については、 JOMONJIN「ウミガメ」 「2006年度ウミガメ上陸・産卵・孵化状況」 等に所載してあります。

[ウミガメ保護条例制定上のポイント]

私どもがいすみ市ウミガメ保護条例(案)制定に際して、特に留意したことは次の2点でした。
   (1)市が主体的にアカウミガメの産卵・孵化に取り組めるようにする。 特に最近になって県水産関係出先機関が旧泰然たるウミガメ採捕に関する水産庁通達に 触れるようになってきたので、市のウミガメ繁殖保護に対する目的と権限を明確にしておく。
   (2)2005年度、大原海水浴場を中心にして、3回にわたり産卵が確認された産卵床のウミガメ卵が根こそぎ 盗掘された残念な出来事に鑑み、罰則の規程を盛り込んでおく。


[突然ウミガメ保護条例制定のニュースが]

2006年6月以降、市から何の連絡も相談もないまま経過していましたが、 突然2007年2月17日朝日新聞朝刊に「いすみ市がウミガメ保護条例制定へ」 記事が掲載されたことを知人から知らされ、私どもは驚ろいた。

[市事務当局による事後説明と市条例(案)提示]

  2007年2月19日朝突然 わが家に、いすみ市のウミガメ保護担当課長と担当主査が「保護条例案」を 持参し説明に訪れた。そこで私どもは、 初めて全8条を読み 問題点を指摘しました。持参の 「いすみ市ウミガメ保護条例(案)」 を添付します。この条例には市がウミガメ保護を主導する権限を定めた条項がなく、非常に問題です。 私どもは、特に5条「海区漁業調整委員会指示による」の「指示」は極めて不都合であり、 私たちが苦労し築いてきたウミガメ保護や繁殖活動に支障を来たすゆえ、 5条全文を削除すべきであるとまで指摘しました。他にも問題点が見られました。

[市長の説明と確約]

   担当課長からの報告を受け、いすみ市長が 2月19日夕刻と2月20日朝 の2日続けて森谷宅に訪れ、 事前に相談のないまま「ウミガメ保護条例(案)」を作成の上、市議会議員全員に配布、新聞発表したことについて 弁明がありました。2月19日には担当部長と担当課長らと一緒に、2月20日には単独で森谷宅 を訪れたものです。

   話合いの結果、 市長が自ら主催する「運用細則検討会」を開催して、 『ウミガメ保護条例運用細則』を制定することを確約しました。

 [ 市長の説明と確約の内容は次の通りです ]

a) 市長は、森谷や実際に保護活動している人たちに対し事務当局が事前に何の相談もしなかったのは、 落ち度であって大変申し訳ないと発言した。

b) 環境問題への積極的取組みをいすみ市新ビジョンの柱に据えたい。

c) 市議会議員全員に「ウミガメ保護条例(案)」を配布済であり、新聞報道があった以上 事務当局原案で3月定例市議会にかけ 条例を通さないと どうしても困る。

d) 県庁水産関係者がウミガメの保護をせよと言いながら、 実際には保護活動を困難にしている現状はよく承知している。

e) ウミガメ産卵海岸の清掃・管理については すでに国や県へ協力方要請しているところだが、 条例制定されれば一層協力が得られ易くなる。

f) ウミガメ繁殖保護の実務については、『ウミガメ保護条例運用細則』を制定して運用に当たる。 そのため、2006年6月1日付森谷の提言を参考にして「運用細則検討会」を開催する。

g) 「運用細則検討会」は3月20日市議会会期終了後 間をおかず開催し、審議は市長自らが主催し、 「日在−和泉浦海を育みウミガメを守る会」、「カレッタいすみ」、「夷隅郡市自然を守る会」等に ひろく参加をお願いし、運用細則を制定することにする。

 [ 3月いすみ市議会開催前の事態 ]

私どもは市がウミガメを「豊かな自然環境を構成する貴重な野生生物と位置づけて保護を目指す」 という保護条例の制定は大切であり、上記市長の確約により了解しました。
   ウミガメ保護条例の審議を含むいすみ市議会は、2007年2月26日から3月20日までの会期日程で開催されましたが、 長年にわたり、日々ひたすら地道に活動を続けてきた私どものウミガメ保護活動への努力と実績を 全く無視した今回の市のやり方は、かえすがえすも残念でならない。
  わが国アカウミガメ産卵・孵化の70%近くを占めている 屋久島や宮崎などにおいて、ウミガメ保護条例を制定しないで活動しているのは、 民間主導によるウミガメの繁殖保護体制が整っていることもあるが、条例を作成することで 調査・保護活動等がかえって阻害される要因があることを見逃してはなるまい。 徳島県日和佐町の条例や鹿児島県の条例は、その辺を上手にクリアして記述しているものと 考えられる。

 [ いすみ市議会における質疑]

いすみ市の2007年3月定例市議会において、ウミガメ保護条例について複数の議員から 質問が行われました。一般質問では、市条例(案)の第5条が、「何人も、漁業法第67条に基づく、 海区漁業調整委員会指示によるものとする」はおかしいという指摘が複数の議員から行われました。 これは、私どもの指摘と全く同じです。
   漁業法第67条は、「漁場の使用に関する紛争の防止・解決もしくは漁業調整のため必要ある とき」に限定されており、ウミガメは漁業の対象ではないから該当しない旨の指摘も 行われました。更に3月20日の討論・採決の際にも再質問があり、市条例第5条についての不備が 改めて指摘されました。しかし最終的には、「いすみ市ウミガメ保護条例」は賛成多数で可決されました。


[ 保護条例運用細則検討会が開催]

2007年3月29日いすみ市長の主催でウミガメ保護条例運用細則検討会が開催されました。 細則の検討に参加したのは「日在−和泉浦海を育みウミガメを守る会」代表、 「夷隅郡市自然を守る会」会長・事務局長、「カレッタいすみ」代表・事務局長 で、市事務局が準備した原案をベースに検討が進められました。 冒頭 市長から、3月27日に千葉海区漁業調整委員会に自ら赴き、ウミガメ採捕承認の要望 を行ったことが報告されました。出席者からいろいろ意見が出され、 細則(案)の検討が進められました。当日合意された内容は、 「いすみ市ウミガメ保護条例運用細則(案)」に示す通りです。

市事務局からは、ウミガメ保護監視員の配置やウミガメ保護の啓蒙看板を設置するとの説明がありました。 なお、千葉海区漁業調整委員会では、県内各市町村の協力を得て採捕承認を進めてゆく方針だとのことですが、 実施時期について確約が得られなかったのは当然でしょう。


[市の今後のアカウミガメ保護活動に期待]


   この度「いすみ市ウミガメ保護条例」が制定・施行されるようになったため、 今まで行ってきたボランティア・ベースでのウミガメ調査・保護活動が 大きく制限されると、参加者全員が発言しました。絶滅危惧種のアカウミガメを守るため、 高さが不足している産卵巣の卵を高所に移設することは、 今や世界中のウミガメ保護の常識となっています。 昨年の例では 当地では21回上陸し、うち産卵巣は3ヶ所でした。砂浜でそのままの形で孵化できたのは 1ヶ所だけで、残り2ヶ所は台風で産卵床ごと流出しました。昨年は全国的に アカウミガメの産卵・孵化は前年にくらべ半減しています。 絶滅危惧種のアカウミガメを守るための活動はもはや待ったなしの状態です。


[いすみ市への要望]


   「ウミガメ保護条例ができたために ウミガメの保護ができなくなった」といわれないよう、いすみ市が全力を挙げて ウミガメ繁殖保護に取り組むよう切望いたします。


[添付資料]

1. 「ウミガメ保護施策が急務 」 (森谷作成 2006年5月31日付)
  2. 「いすみ市ウミガメ保護条例(案)」 (森谷作成 2006年6月1日付)
  3. 「いすみ市ウミガメ保護条例(案)」(いすみ市作成 2007年2月19日受領)
  4. 「いすみ市ウミガメ保護条例運用細則(案)」(いすみ市作成 2007年3月30日受領)