アオウミガメの基礎的知識


[はじめに]

アオウミガメは、英語名Green Sea Turtle、学術名Chelonia mydasである。

ウミガメとしては、わが国ではアカウミガメがもっとも馴染みであろうが、欧米ではアオウミガメが もっともよく知られている。食用ウミガメとしても知られており、古くから世界中で食料用に捕獲されてきた。 わが国でも、小笠原島のホームページで、つい数年前(2000年頃)まで、ウミガメ料理のレシピと値段が掲載されていたが、 それはアオのことだった。現在は、HPでの料理紹介は行われていない。
肉は風味が良い(香がよい)とされているが、アオウミガメでもっとも珍重されてきたのは腹肉の部分である。 裏側の甲の内側の肉を取り出して、ウミガメ・スープの素材として用いられた。また、腹の脂肪からは油を 取り出し、料理、化粧用、薬用などに用いられていた。脂肪が緑色しているのが、アオウミガメの名前の由来とされる。
甲羅と皮膚は色の変化に富んでおり、ミドリ、褐色、クロ、灰色、黄色などが混ざっている。タイマイと同じように美しい。 ベッコウの材料にならなかったのは、アオの甲羅がタイマイよりも薄く、加工が難しかったからである。

アオは、オサガメに次いで大きさが大きいウミガメである。 大きさの報告としては、甲長で最大140cm、体重で最大235kgが記録されている。 しかし、通常見かけるアオの個体は、かなり小さい。

(Courtesy: ORF.org)


[アオウミガメの世界的分布]

アオウミガメは、地球上の熱帯と亜熱帯地方に生息しており、それらの地域 に散在する暖かな海で繁殖している。かっては、熱帯・亜熱帯地方でかなり 均等に繁殖していたが、その殆どが人間の活動によって消滅してしまったようだ。
遺伝的に見て、地域的な差が認められる。地中海のものとハワイのものは、 いずれも地域的な特徴を示している。

東太平洋域のアオ(メキシコ西海岸、中南米、ガラパゴス諸島で繁殖)は、特に、クロウミガメ (Black Turtle)とも呼ばれており、その特徴がとても顕著である。 クロウミガメは、大きさが小さく、色も黒ずんでおり、甲の幅が狭いなどの特徴があるので、 別の種だという学者もいる。しかし、頭骨の形や遺伝子を比べてみて、アオウミガメの 亜種として分類するのが適切とされている。
アオとクロの識別は、種の保全ポリシーも絡んでいるので、いつも論議の対象となっている。

わが国は、太平洋域で、フィリッピン、マレーシア、インドネシア、ミクロネシアなどに広がっているアオの産卵域の 北限域に当たり、小笠原諸島(父島、小笠原海洋センター)や沖縄列島などで繁殖活動が行われている。

アオウミガメの世界的な分布図
(Courtesy: D.Perrine)


[アオウミガメの成長]

孵ったばかりの子ガメは、直ちに海へ入り、海洋性の環境下で2-10数年間を 過すものと理解されている。そして、甲長21-44cmに達した時に、 浅瀬の方に近づいてき、浅い海での海底生活を送るようになる。
底性生物を食餌する幼体は、成体のアオと一緒に生活する場合もあるが、 成体が殆どいない餌場で見つかることも多い。
アオウミガメの寿命については、余り詳しいことは分っていない。

[陸上の甲羅干し (ひなたぼっこ)]

アオウミガメは、ウミガメの種の中でただ一つだけ、陸上での甲羅干し (ひなたぼっこ)[basking]をすることが確認されている。 オス、メスを問わず、また幼体でも成体でも、甲羅干しをしているのが、Galapagos諸島やHawaii諸島 で観察されている。オーストラリアやメキシコでも、アオが時折甲羅干しをすることがあるという。
昼夜の別なく、甲羅干しが行われているが、色々な目的があるようだ。産卵期のメスの場合、 オスに追いかけられるのから逃れられるし、体温を上昇して卵の成熟を早めることができる。 性別に関係なく、サメの脅威から逃れられるし、省エネしておいて 潮がよい時に餌を食べれるようになる。更に、 日光に当れば、寄生虫などが死滅し、細菌やカビで汚染されるのを避けられるようになる。

仲間と一緒に甲羅干し
ハワイ島の溶岩地帯で
(Courtesy: HAP.edu)
海中でのうたたね
ハワイ島Kiholo湾での観察
(Courtesy: geocite.com)


[うたたね]

アオウミガメは、海中でうたたねするところが、 Baja半島、フロリダ半島沖、メキシコ湾などに住む漁師によって、 報告されてきた。冷たい天候だと、海底下の泥の中に 潜っているという。これらの地域の漁師たちは、アオが泥の中で 冬眠して、越冬するものと信じてきた。
うたたね にせよ冬眠にせよ、海底でじっとして動かなければ、 アオを捉えるのは非常にたやすいことだ。そのために、 これらの地域では、アオウミガメが乱獲され、その数を極端に減らしてしまった。 1970年代に、ウミガメ研究の学者たちが、うたたね か冬眠かを確かめようと した時には、最早手遅れで、観察のためのアオが見つけられなくなっていた。

[食べ物]

海洋性の環境で棲息している間は、アオの幼体はクラゲや波間を漂う 体の柔かい無脊椎動物 を餌にしているものと理解されている。海洋性の環境を離れた後は、食餌の対象(食べ物)が一転してしまい、 植物性の食べ物に頼るようになる。草食性なので、牛やウサギなど同様に、消化のためには、細菌などによる 発酵作用の助けが必要になってくる。
アオは、海草が好きなようだ。しかも、海草の若い芽(古い葉でなく)を好んで食べるのだが、そのため海草が新しい組織を 生成させるのを刺激させていると理解される。ウミガメが、海草の牧場化に貢献しているというわけだ。一方、 海草が余り豊富でないところでは、海藻に頼るようになる。そして、時折 動物をたべることもある。
海洋性の環境では、他の動物にもまして、海綿を好んで食べていることが知られている。 アオの胃袋の中からは、貝、ウォーム、小さな甲殻類、柔かいサンゴ、被嚢(ヒノウ)動物、小さな魚などが 見つかっている。



緑藻を食べているアオ
Galapagos諸島での観察
交尾中の2匹をオス2匹が追う
メス1匹をオス8匹が追う場合も
(Courtesy: D.Perrine)


[繁殖]

水族館などで飼育されているアオの場合には、8年間ほどで性的に成熟することがあるが、 自然の状態では成熟にはもっと時間がかかる。フロリダにおいては26-32年、 ハワイでは10-50年(平均25年)、オーストラリアにおいては40年以上と言われている。
オスもメスも繁殖期に入ると、自分の生まれ故郷に戻ってくる。そのために、数千kmにもわたる 移住の旅をすることがある。例えば、ブラジル沿岸で食餌するアオは、大西洋のほぼ半分 2300kmを横断して、 小さなAscension島に辿り着く。その際、メスは2-4年ごとに回遊し、オスはもっと頻繁に1-3年ごとに回遊することが知られている。 またハワイでは、食餌海域からハワイ諸島北西部にある繁殖地までの回遊距離は、最大1300kmにも達している。

交尾は、産卵海域で行われることが多いが、もっと離れた場所で回遊中に行われることもあるようだ。 交尾の所要時間は、野生の環境で最大6時間、飼育環境では5日間にも及ぶという。オス、メス共に相手を選ばず 交尾する。そのため、産卵1クラッチあたりのオスの精子の数は1-4とされている。すなわち、同じ巣の中の卵同士でも、 父親(4人)が違っていても何の不思議もない。
メスがオスの交尾を受入れるのは、通常は、シーズン最初の産卵の約4週間前とされる。そして、1シーズン あたり平均3回産卵(クラッチ数 1-9回)する。卵の数は、平均112ヶ(クラッチサイズ 1-230ヶ)である。 また、ハワイにおける観察では、メスが産卵に訪れるのは毎年ではなく、かつ産卵する年には最大5回まで、15日おき位に 産卵が行われることが知られている。
オサガメと同じように、小さくて卵黄がない卵を産む場合があるが、それは稀なことだ。孵化所要日数は、 47-70日程度で、場所や季節によって異なる。

前肢で産卵巣に砂を弾き飛ばす
産卵行為の一番最後の振舞い
孵化したばかりの子ガメたち
通常は砂の中で殻を破ってくる
(Courtesy: E.Kurasawa)


[ウミガメの保全状態]

アオウミガメは、親亀や卵の食用利用での捕獲、漁船による漁獲中の捕獲、産卵場所の 砂浜の減少などにより、その数を減らしてきた。
しかし、最近では、国際的に保護的な規制が進められ、アオウミガメ保全の試みが普及するにつれ、 生息数に歯止めがかかってきた。アオの保護活動は、Florida、Hawaii、Costa Rica (Tortuguero)、 Malaysia (Turtle island)などで、成果が現れてきている。これの地域では、過去30年間で、 アオウミガメの生息数が上昇(回復)してきている。

世界的に懸念されているのは、fibropapilloma (FP)病の蔓延である。これは、アオの身体の表面に 腫瘍が現れてくる病気で、一度発病するとなかなか治らないで、遂には病死に至ってしまう。 アオは、他の種類のウミガメと違って、群生したり、藻類などを摂取することに関係があるものと考えられている。


アオウミガメの生息数の回復
(1973-1995)、23年間で3倍に
横軸は、左端が1973年、右端が1995年
Kiholo Bay, Hawaii Island
アオウミガメの成長率調査結果
平均で1.7-1.0cm/yr
横軸は左端40-45cm、右端80-85cm (5cm刻み)
(Courtesy: geocites.com)


アオウミガメ保全に関する科学的調査の例を紹介しておこう(上図参照)。 Hawaii島Kiholo Bayにおいて、G.H.Balazsらによって行われたアオウミガメの 生息数・成長率調査(1973-1995)において、 組織的モニタリングの結果、生息数が23年間で約3倍に増加したことが判明した。
また、313頭(甲長40-85cmのもの)を対象にした延べ528例の成長測定モニタリングを集約した結果、 全体の平均成長率が1.7-1.0cm/yrであることが判明した。 ウミガメのサイズ別では、甲長50-55cmの場合が成長率が最大で、2.0-1.0cm/yrだった。


Map of Florida
MelborneやWabassoは
Cape Canaveralの南側に位置している

[Florida Sebastian Inlet]

Florida半島のSebastian Inletには、Melborne Beach近郊に Archie Carr National Wildlife Refugeがある。 Archie Carr NWRによるウミガメ保護活動の中でも、もっとも成果が 上がっているのがアオウミガメで、Melborne BeachからWabasso Beachに至る Florida沿岸において、1980年代に300台にまで減った産卵巣の数が、 2000年代に入って3000台まで回復(2002年に約3000、2005年に約3600)している。 また、この地域では2000年代に入って、アカウミガメが毎年10,000ないし15,000 の産卵活動を示しているとのことである。

Melborne Beachの養浜状況
浚渫船とパイプラインンで砂を造成
養浜を終えたMelborne Beach
コンドミアムが並ぶ

[Costa Rica_ Tortuguero海岸]

Costa Ricaのカリブ海域ではアオの回復が著しく、有名なTortuguero海岸では 1970年から2004年にかけて5倍に増加し、今や年間37,000頭のメスの成体が100,000 回以上の産卵を行い、卵の数が1千万個に上っているという。Tortugueroは おそらく世界でいちばんのアオウミガメの繁殖地と目されている。 この増加は、隣国Nicaraguaでいろいろな大きさのアオが年間1万頭食用として 密漁されているにもかかわらず達成されていると、Carl Safinaの報告にある。 開発途上国における野生生物保護への働きかけの難しさ、それが現実であるようだ。





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