あなたの「睡眠」はどうですか                  2004.10.29

2004.08健康情報誌たんぽぽ58号 / 睡眠薬「マイスリー」説明書より

 

0.なぜ、人は眠るの?  -----睡眠の役割

疲れていると眠くなりますが、人は体を休めるだけに眠っているのでしょうか? 睡眠の目的はそれだけではありません。実は、脳のためにも眠っているのです。人にとって大切なのは、この「脳の睡眠」です。意識や知能、記憶など知的活動を行う脳は、起きている限り休まることはなく、脳が十分休めていないと、「体も休めた」という満足感は得られません。したがって、睡眠をとることで脳を休ませる必要があるのです。このように、睡眠には、脳を深く眠らせて精神的な疲れを回復させるという大きな役割があります。

また、深い睡眠中には、肌や血液の新陳代謝を高め細胞の修復を手助けする「成長ホルモン」といわれる物質が分泌されます。成長ホルモンの分泌という役割からも、睡眠は人にとって大切なものなのです。「寝る子は育つ」と昔から言われる由縁は、睡眠が成長ホルモンの分泌を促すという点からなのかもしれません。このように、「睡眠は、心と体の健康な状態を保つために欠かせない」という訳なのです。

                                 

 

睡眠・覚醒リズムを作る「体内時計」

太陽の光と共に目覚め、夜暗くなれば眠くなるといったように、自然に順応したサイクルを「生体リズム」といいます。生体リズムは、脳の中の「体内時計」によって作られ、睡眠・食事・活動などの生活リズムがコントロールされています。

人の「体内時計」

は脳幹の視床下部にあり、一日25時間周期であるといわれています。「一日は24時間じゃないの?」とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、実は私たちの「体内時計」のリズムは「光」によって調節されており、目から感知された自然光の情報が脳に昼間であることを伝達し、25時間を24時間にリセットしているのです。睡眠も、体内時計によってコントロールされており、昼夜のリズムに合わせて活動と休息のリズムが作られて、眠る時間が設定されます。このように「体内時計」と睡眠には深い関わりがあり、「体内時計」によって私たちの睡眠・覚醒リズムは作られているのです。

しかし、生活の様々な事情や不規則な生活・ストレスなどの心理的な影響が加わって「体内時計」を狂わせてしまい、朝起きられない、昼間に眠くなる、夜に眠れない等となってしまいます。この睡眠・覚醒リズム障害は二つのタイプがある。

A,睡眠相後退症候群

夜の活動が中心で大幅に睡眠時間帯がズレてしまい、「就寝は朝方」等と睡眠時間帯が遅い時間帯に後退したままの状態。いわゆる昼夜逆転した生活が習慣化した人です。

B,非24時間睡眠・覚醒症候群

1日24時間周期に調節する体内時計の働きが不規則・不可能になり25時間周期で動くことで少しずつ睡眠時間が遅くなっていくタイプです。これは、不規則な時間シフトでの仕事の人、退職後の高齢者、脳障害のある人に起こり易いといわれています。

 

2.生体リズムを整えよう

いい睡眠を作るための1つとして、体内時計を整えて規則的な生体リズムを作ることが重要になってきます。生体リズムを整えるには、次のことが良いとされています。

@朝の起床時間を毎日一定として、決まった時間に太陽の光を浴びる。

A昼間、なるべく外出して太陽の光を浴びる。

B毎日適度に体を動かす。

C毎日一定した時間に食事をとる。

                                 

 

3.睡眠のメカニズム

私たちの睡眠は、深い眠りの「ノンレム睡眠」と浅い眠りの「レム睡眠」という、それぞれ性質の異なる2種類の睡眠から構成されています。まず睡眠につくと、ノンレム睡眠が現れ、次にレム睡眠へ移るというように、この2種類が1セットとなり繰り返されます。その周期は、約90分周期で一晩に4から6回繰り返されます。この2種類の睡眠が交互に訪れることで精神的にも、肉体的にもリラックスし休養できるのです。

ノンレム睡眠

心身共に深い眠りの状態で、脳の休憩に役立っている「脳の休憩」に役立ち、大脳の疲労回復も図ります。眠くて仕方ないときにはほんの少し眠るだけでスッキリするのはこの睡眠のためです。入眠直後に現れ、夢はほとんど見ません。眠りが深くなるにつれて呼吸数や脈拍が少なくなります。また、入眠直後のノンレム睡眠は、1日のうちで成長ホルモンが一番多く分泌されることから、心身の成長や修復・疲労回復が活発に行われていると考えられています。

ノンレム睡眠の第1段階は、熟睡感の良し悪しを決めます。眠りの第一歩に寝付きが悪いと、「よく寝むれなかった」などと熟睡感を感じることが出来ません。  

レム睡眠

体の休息の役目を果たし、体の疲れをとる。体はリラックスして休んでいるが、脳はまだ活動している状態なので、眼球が動くことがあります。最初の登場は、入眠後のノンレム睡眠の後で、その後90分間隔で繰り返し現れます。また、夢を見るのは、レム睡眠の時だと言われています。

さらに、レム睡眠によって昼間に見たり聞いたり経験したことなどを一時的な記憶ではなく、長期的な記憶に留められます。

 

4.何時間寝たらよいのか----長さより質

一般的には、八時間の睡眠が良いとされているが、必要な睡眠時間は人によって異なり、毎日の睡眠時間が短くても健康な人と長い時間寝ないとダメな人がいます。昼間に眠気が無く、活動していくのに十分であれば睡眠時間の長さに関わらずに適切な睡眠だと考えられます。要は、睡眠は「時間の長さ」より、「質」なのです。ここで言う睡眠の質とは、「目覚めがスッキリしていて、ぐっすり寝たなぁと言う満足感の得られる」眠りのことです。

自分にとって気持ちよく目覚めてやる気が起きる睡眠時間を知っておく事が大切です。睡眠時間にこだわり過ぎないこと。

 

5.熟睡を妨げる要因

寝る前の食事

寝る前の食事は、内蔵の働きを活発にさせ寝付きにくくなりますので、夕食は就寝前三時間までに済ませましょう。

就寝前の熱い風呂

   人は体温が下がりかけたときに眠くなります。

 

明るすぎる照明

夜に室内が明るすぎると体内時計が遅れ、眠りにつくのが遅くなる。

 

C酒・珈琲・お茶・煙草

    少量のアルコールは眠りやすくなりますが、飲み過ぎると眠りは短くなり、

    不眠の原因 になる。珈琲お茶などに含まれるカフェインや、煙草も覚醒作用があり、睡眠を妨げる。

 

    D就寝前の激しい運動

   激しい運動は、体と脳を興奮させます。寝る前の体操としては、軽いストレッチがいいでしょう

Eストレス

心配や不安な気持ちは脳を興奮させてしまいますので、寝る前に心配事などを考えないようにしましょう。

 

6.高齢者の睡眠

  高齢になると、睡眠と覚醒のリズムのメリハリが無くなり、夜早く眠くなり、まだ暗いうちから目が覚めてしまいます。生体リズムの中の、睡眠の枠が前にずれてしまっている。睡眠全体も、浅くなり、途中で目が覚めたり、些細な刺激でも目が覚めてしまう。そこへ、夜間の頻尿や様々な疾患が加わると、ますます睡眠は浅くなり、その結果、昼間に眠くなるなど昼夜のメリハリがはっきりしなくなることもあります。

7.女性の特徴

エストロジェンとプロゲステロンという二つの女性ホルモンは睡眠中枢にも大きな影響を持っています。生理前には、プロゲステロンの作用により日中の眠気が強くなります。逆に、加齢に伴って女性ホルモンの分泌が減少すると眠りが浅くなることもあります。更年期の「中途覚醒」という途中で目が覚めてしまうのはその為です。のぼせ・ほてり等の身体症状が強いと睡眠障害も強く現れる傾向にあり、逆に、睡眠障害が改善すると身体症状もそれに伴って和らいでくることが多いようです。

 このように、ホルモンの関係で、女性は男性に比べ睡眠障害が起こりやすいと考えられます。

 

8.快眠のために

 自然な眠りにつくためには、脳をリラックスさせることが大切です。

心休まる音楽、好きな本、手軽なストレッチ、ぬるめのお風呂。

どうしても寝られないときには、開き直っていったん布団からで敵分を変えてみるのも良いでしょう。

快適な寝具、適度な堅さの敷き布団・軽くて柔らかい掛け布団・程良い高さの枕が良いとされています。

9.不眠症

五人に一人が悩まされているという。

必ずしも睡眠時間によって判断されるわけではなく、たくさん寝てもスッキリしなかったり、寝起きに不快感やだるさを感じるといったように、日中の日常生活への支障の程度で判断されます。

@一過性不眠 精神的なストレスや一時的な環境の変化で数日間寝られないこと

A短期不眠 一から三週間に及び継続するもので、原因を解決すれば通常どうり寝られるもの

B長期不眠 一ヶ月以上寝れない状態で、身体疾患や精神疾患が潜んでいる場合がある。

 

10.不眠症のタイプ

@入眠困難 最も多い。寝付きが悪く、不安や緊張が強かったり、心配事など精神的ストレスなどで起こりやすいとされている。

A中途覚醒 夜中に何度も目が覚めてしまいその後眠れない。加齢によっても現れるが、原因として身体疾患や精神疾患が考えられる。

B早朝覚醒 朝早く目が覚めてしまい、それから寝られない。高齢者に多い。原因として、加齢による睡眠パターンの変化の場合とうつ病の初期症状が考えられる。

C熟眠障害 眠りが浅く、睡眠時間の割にはぐっすり眠ったという熟睡感を感じない。心身の回復が出来ていない。原因として、加齢やうつ病などが考えられる。睡眠時無呼吸症候群やムズムズ症候群が原因のこともある。

 

不眠症で悩んでいる人の多くが入眠障害を感じている。また今夜も眠れないのではないかと考えて不安になり、その為寝付けず入眠障害を起こすという悪循環に陥ってしまうのです。特にこれといった原因が見あたらないのにという人に、神経質・几帳面・完璧主義者が多い。

 

11.なぜ眠れない

                        

環境の変化・睡眠の環境・不規則な生活リズム・アルコール・珈琲煙草などの嗜好品が原因の場合がある。身体疾患や精神疾患が原因のこともあります

ストレスが続くと心理的な緊張や不安から睡眠のサイクルが短くなり、眠れなくなることがあります。

 

12.「いびき」とは

睡眠中に起こる呼吸の障害です。いびきの音は寝ているときにのどの奥や舌の筋肉が緩んで狭くなった気道内を通るごとにのどの壁が振動しておこる音なのです。

太っている人や首が太くて短い人、喉や鼻に病気がある人はいびきをかき易くなっています。お酒を毎日飲んでいる人や身体が疲れ切っている人もかきやすい。また、年をとるにしたがい、気道の周りの筋肉数緩み気道がふさがりやすくなるのでいびきは多くなります。六十代になると男性の六十パーセント、女性の四十五パーセントは一晩に一回はいびきをかくとされています。

いびきの改善策としては、肥満解消、ストレス解消、アルコールを減らすこと、横向きに寝ること、高めの枕に寝ることがよいとされています。

 

13.危険ないびき「睡眠時無呼吸症候群」

睡眠中に十秒以上の無呼吸が一晩に数十回以上おこるという睡眠障害です。大きないびきの後、突然いびきが止まって無呼吸となり、その後。「ヒュー」という空気が抜けるような音や「ぐぐっ、がー」と突然また大きないびきを書き出すような人です。このかたは、熟睡感がないために、昼間に耐え難い睡魔におそわれることがあります。

原因としては、1つに肥満が考えられます。太っていれば、それだけのどの周りに余分な筋肉がついて舌が垂れやすくなり、気道が狭くなるからです。

また、無呼吸の酸欠状態は高血圧や心臓病、動脈硬化、脳梗塞などを引き起こす可能性もあります。

 

14.「ムズムズ足症候群」

夜寝るときに足の関節や膝の間等にムズムズ感を感じその為に寝付けないで、下肢を動かすと一時的に症状は和らぐことが多い。

 

15.「寝酒」は睡眠の質が悪く依存性が高い

少量では、精神の緊張をほぐしたり不安感を押さえたりする働きはあるが、大量に常用したりすると逆効果である。アルコールは、寝付きを良くするが、作用が持続しないので途中で目が覚めてしまう。

 

16.「睡眠薬」

生活習慣や睡眠環境を改善しても、いっこうに効果がないときに、治療の目的に使われる。入眠障害には短時間型のものが、中途覚醒や早朝覚醒には中から長時間型のものが使われる。病的なものには抗うつ剤や精神安定剤が使われる。



     
  人の眠りはどこへ向かうのか

§1.人はいかに眠ってきたか 国立民族学博物館 教授 吉田 集而

 そもそも人はなぜ眠るのか。体の疲労回復説や脳の休養説など、学問的には諸説あり、未だ決定的な理論は存在しないが、現在有力なのが「非活動説」。昼行性の動物が、夜、外的から身を守るためにじっと動かないでいる。それが生体リズム化し、睡眠の習慣として定着したというものである。

 眠りのスタイルには、民族や文化、歴史、地理的条件など様々な決定要因があり、時間や寝具、寝る姿勢にさえ、多彩な睡眠文化を見ることができる。ちなみに「夜眠り、朝起きて働く」という規則的なスタイルは、農耕社会以降のものであり、歴史的には新しい。狩猟採集民では、「眠いときに寝る」というのが一般的である。現代は、文明の発達に伴って忙しさが増し、それにつれて眠りを失っている状況にあるのではないだろうか。

§2.若者の情報行動と睡眠文化  武庫川女子大助教授 藤本 憲一

現代の眠りのパターンは多様化しており、正しい眠りとは何か、一義的に語ることがますます難しくなっている。女子大生の眠りを見ていると、この世代が情報化社会の影響を最も強くうけている。いろいろな情報ツールに包まれ、睡眠スタイルは奔放である。昼夜逆転、あるいは不定時に寝る生活を送っている。

 携帯電話はそのシンボルであり、新しい情報化社会民、情報部族民が誕生しているといえよう。これはものづくりを中心とする近代社会のような「昼間社会」と異なる、新しい社会の出現を意味している。パソコンやインターネットなど、情報生産や消費などは時間や場所を選ばないと言うことである。寝なくとも電子メールをしたいなど、多様な生活、睡眠の形を見ることができる。


 女子大生の教室での眠りは、確かに、レム睡眠です。眠っていながら講義を聞いているんです。今の女子大生は、人の話を同時に2つぐらい聞くのは平気です。湯川博士は、いつも枕元に手帳を置き、ウトウト状態で閃いたアイデアをメモしたそうです。独創的な研究をする人には半覚醒が良いかもしれません。

§3.良い眠りをどのようにとるのか
 東邦大名誉教授 鳥居 鎮夫

 都市生活が夜型化するなどして、現代人は慢性的な睡眠不足の状態になっている。医学的にはまずいとされるが、実はまだ人が必要とする睡眠時間の結論は出ていない。

 事実、人によって睡眠時間は大別すると、長時間、中時間、短時間の3つのパターンがある。また、良い眠りとは、睡眠時間だけの問題だけではなく、様々な要因から成り立っている。とりわけ昼の活動と夜の睡眠をセットにして、生体のリズムとしてとらえていく必要があろう。

そのような観点から、良い睡眠とは、
・生体リズム=生活習慣を規則正しくすること、
・日中の活動=人・社会とたくさん接すること、
・睡眠環境=自分にあった寝具や睡眠小物をそろえること、
・リラックス=入浴などによってリラクセーションをはかること

の4つの柱から構成される。