骨粗鬆症の疼痛発生機序
                     日経CME2002.07より

ビフォスフォネート製剤(ダイドロネート・など)は破骨細胞の活性を低下させ、その数を減らすことによって強力な骨吸収抑制効果を発揮します。それ故、骨粗鬆症の薬物療法の中心的な役割を果たしてきた。一方、同じような働きを持つエルシトニンが骨折由来の疼痛に有効なことは以前から知られている。両者併用群の方がエルシトニン単独投与よりも、疼痛軽減効果が高いことがわかった。

 骨粗鬆症に伴う疼痛の発生のメカニズムや、骨粗鬆症治療薬による疼痛緩和の機序も徐々に明らかになりつつあります。
 脊髄シナプスでの疼痛刺激の伝達は主としてグルタミン酸受容体を介して行われ、抑制線維による抑制はセロトニン受容体を介して行われます。ところが、閉経後女性のようにエストロゲンが欠乏した状態では、脊髄シナプスのうちC線維の末端にあるセロトニン受容体が減少し、その結果、中枢を介した抑制機構がうまく働かなくなって痛みが残る可能性がある。
 エルシトニンは、セロトニン受容体の現象を防いでいることで疼痛緩和作用を発揮しています。

  


骨血管相関・・・骨粗鬆症と動脈硬化症
               日経CME・2002−7より

 ビスフォネートは石灰化抑制作用を持つ事から始まり、骨吸収抑制や破骨細胞機能の抑制作用が強調されるようになり、骨粗鬆症治療剤としてのイメージが定着している。そして、ここ数年、骨と血管は密接な相互作用を持つという「骨血管相関」という概念が支持されるようになってきた。
 ビスフォネート製剤のうち、エチドロネートは血管石灰化抑制作用を持つことが明らかになってきました。

1. 腎不全と骨不全
活性型ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収を促進し、血清PTHレベルを調整していますが、活性ビタミンDは腎臓でのみ生産されます。

したがって、腎不全になると、その産生が抑制され、腸管Ca吸収の低下や血清PTHレベルの上昇を介した「骨機能の低下と破綻」が惹起されます。これを骨不全といいます。

もともと、骨は支持組織として体を維持する働きと、CaとPを取り込む貯蔵庫としての働きを担っていますが、腎不全によって骨不全になるとこれらの役割が果たすことができなくなります。


2. 急性骨不全と慢性骨不全
急性骨不全では、支持組織の破綻を来して骨折を生じ、その結果運動時痛や体型の変形を引き起こします。一方、慢性骨不全では、骨のPやCaの取り込み能の低下(低代謝回転骨)や貯蔵能力の低下(高代謝回転骨)によって、異所性石灰化を生ずる。

 腎不全における最大死因に結びつく「血管石灰化」を考えた場合、腎不全に合併する慢性骨不全が非常に大きな問題となる。腎不全による血管の石灰化は、中膜が石灰化するメンケベルク型で、大動脈の中膜石灰化が進行した例ほど、狭心症症状の出現率やASO閉塞性動脈硬化症の出現頻度が高くなる。

3. 平滑筋細胞と血管石灰化
血管壁を構成しているのは、ほとんどが筋肉である。血管に存在する平滑筋細胞を中心とする間葉系の細胞が重要である。
平滑筋細胞が変性あるいは細胞死していく過程でCaが沈着する。そのほかに、平滑筋細胞の形質が、「骨あるいは軟骨を形成するような細胞」の性格に近づくために血管石灰化が生ずる。という二通りがある。

後者の未分化な間葉系細胞を骨芽細胞に分化させていくものとしては、BMP−2という骨形成因子、ALPアルカリフォスファターゼという酵素があげられている。また、細胞外のP濃度があがると血管平滑筋に存在しているNPC(ナトリウム依存性P輸送担体)が平滑筋細胞の形質転換を促す事も知られてきた。

        

4. 骨脂肪相関
骨芽細胞の分化あるいは石灰化に対しては抑制的で、血管や平滑筋細胞の石灰化に対してのみ促進的に作用する因子として、酸化LDL(変性脂質)があげられている。また、この酸化LDLは血管だけでなく骨にも働くことが明らかになっている。

この機序としては、脂肪細胞と骨芽細胞の起源が同じであることより酸化LDLの中のminimal modified LDLが骨芽細胞への分化を抑制し、脂肪細胞への分化を促進したと考えられる。
 このように、骨を考えるときに脂肪細胞も重要なファクターになると考えられる。また、骨と脂肪の双方に関係する因子も報告されており、骨血管相関に加えて骨脂肪相関も考える必要がある。