骨の話 2001.01.02
1.骨の働き
骨にまつわる諺で人々はどのようにとらえているか見てみましょう。
骨がある/骨っぼい/骨太 「頑丈でしっかり」
骨抜きにする 「肝心の部分」
骨が折れる/骨である 「困難なこと」
骨の髄まで/骨までしゃぶる 「徹底的に」
骨を埋める/骨を拾う 「一生を捧げること」
2.骨と木の年輪
骨というと、木の年輪みたいに中心が古い骨で周りの方が新しい骨のように思っている人もいますが、そんなことはないんです。カルシウムの血液中の濃さを調節(カルシウム恒常性)するために、絶え間なく破骨細胞による骨吸収と造骨細胞による骨形成を繰り返してリモデルニング(造りかえ)を行っている。
だから、たとえ盛り上がって骨折が曲がってついても、一二年するとまっすぐに細くなるんです。骨は、このように造りかえが盛んなので、生体のなかで最も増殖因子が豊富な組織である。
皮肉にもこの性質が、血流の多い腎臓に比べ骨は1/100の血流しかないにも関わらず、転移ガン細胞の増殖にきわめて都合の良い環境を提供してしまうことになる。
では、古い骨と新しい骨とがいっぺんに置き換わっているかというと、そうではなく、吸収と形成が骨の中の小さな機能的単位BMU(basic
multicellular unit)で連続して起こり、次にその領域が活性化されるまで休止しています。 吸収が活性化され形成が終わるまでの期間は、健常者で約200日、老人性骨粗鬆症者では約250日と言われている。
3.「閉経後骨粗鬆症」とホルモン補充療法
閉経期のようにエストロジェンが急激に低下した状態では骨芽細胞が活性化し、BMUが活性化される頻度が増えるために、全身としては骨代謝が亢進(高回転型)することになります。骨吸収と骨形成がともに亢進した状態であり、十年間でほぼ収束する。
骨吸収が原因であるために、骨吸収抑制剤が第一選択となる。主因がエストロゲンの低下であるために、エストロゲンのホルモン補充療法HRTが行われることは合目的である。しかし、副作用の問題があり一般的ではない。
内服薬ではプレマリン一日一錠があるが、効きすぎて不正出血などの副作用が強くでるために単独では余り使われない。最近、貼付剤であるエストラダームTTS週二回一日ずつ貼ることで副作用が少なくなってきています。
メリット
骨代謝の正常化、更年期の精神的な障害の改善、動脈硬化症進行の抑制、認知機能低下の改善など。
デメリット
不正出血、乳房痛、深部血栓症の増加、肝機能障害、子宮体部ガンや乳ガンの増加。
禁忌: 子宮内膜ガンや乳ガンの患者。
4.おばあちゃんの背中は何故曲がるのか
絵本にでてくるおばあちゃんの背中は必ずといって良いほど曲がっています。何故かというと、背骨がスカスカになって崩れてきて(骨粗鬆症が起こって)、一つ一つの背骨の形が楔形になるいわゆる圧迫骨折の状態になるからです。
この骨粗鬆症は、老人性骨粗鬆症と呼ばれている。エストロジェンの絶対的な低下状態で骨の吸収が亢進しているところに、加齢により骨形成能が低下してきて、全体的には骨代謝の低下した状態(低回転型)である。
骨吸収を抑制したり(エルシトニン・活性型ビタミンD-第一選択)、骨形成を少し亢進する薬(ビフィスフォネート・ビタミンK-第二選択)はあるが、骨形成を著しく亢進させる薬は、今のところないのが現状である。
5.癌細胞だけでは骨を壊せない
我が国における死亡原因の第一位は癌である。しかも、骨は肺・肝臓に勝るとも劣らぬ癌の転移好発臓器となっている。
しかし、骨は硬い石灰化組織であり、骨転移が増大、進展するためにはこの固い石灰化組織を破壊しなければならない。最近の研究によると、「癌細胞自身では骨を破壊できず破骨細胞を刺激するサイトカイン(PTH-rPなど)を産出することにより破骨細胞に骨を破壊させる」ことがわかった。
骨に蓄えられている増殖因子のなかでもIGFとTGFβが量的に最も多い。 IGFはインシュリン様増殖因子と呼ばれ、癌細胞の増殖に特に密接に関与している。TGFβはトランスフォーミング増殖因子と呼ばれ、癌細胞でのPTH-rP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)産生を強く促進する。
PTH-rPは骨芽細胞に働き、破骨細胞分化誘導因子であるODF(osteoclast
differentiation factor)やRANKL(receptor activation of NF-kB
ligand)の放出を促す。そのために破骨細胞が活性化し、破骨細胞による骨吸収が起こり、骨が破壊されればされるほど、IGFの量が増えますます癌細胞は増殖する。このようなサイクルを作り、破骨細胞は意図せずに骨に転移する癌細胞にとって最高のパートナーとなっている。
しかし、すべての腫瘍細胞がこのサイクルをとれるのではない。それは、TGFβが元々癌細胞の増殖を抑制するからである。TGFβに抵抗性のある癌細胞しか骨に転移できない。乳癌・前立腺癌・肺癌・甲状腺癌・腎癌や子供の神経芽細胞腫、血液のガンである多発性骨髄腫などが抵抗性を有して骨転移しやすいものとして知られている。
6.骨の消毒の話
消毒といえば、100度15分の煮沸消毒が有名です。牛乳は、普通は125度2秒殺菌ですが、味や風味を生かした低温殺菌では60度30分となっている。これは、バイ菌を殺すがタンパク質を変性させない温度のぎりぎりが60度ということらしい。パストゥール法と呼ばれ広く普及している。
近年、骨軟部腫瘍の切除術において、今まででは切断や骨欠損の状態で我慢するしか方法がなかったのに、手術中に放射線処理して出来るだけ残す方向に進み、更には腫瘍ごと骨切除し十分に腫瘍を掻爬してから60度の滅菌生理食塩水中に30分浸した後元の位置に戻し、内固定するということが行われている。
この方法だと、骨のなかの繊維であるコラーゲンの変性を生じないので、新鮮な自家骨と比べ骨の強度、骨の作る誘導能力ともに遜色ないといわれている。
今まで高価なもので置換したり、捨ててしまっていたものをリサイクルし再び利用するのは適合性もよく、安くできるので時代の流れにかなったものといえよう。