突発電波劇場
使徒戦争中のとあるエピソード

怪作


 やれやれ、ここが第三新東京市か。ここも工事中のところが多いな。ま、お陰で私の様なものでも街に来られるというものだが。

 歩き続けて疲れ果てた足は、ただ惰性で動いて私の体を前へ前へと動かしていく。

 この街はロクな街ではないという。仲間が何人もこの街に行ったっきり、帰ってきていない。噂では死体は『ネルフ』とかいう組織の実験材料にされているという。

 私は兄のことを思いだした。
 私の兄も穴掘り作業でここに来たが、そのまま帰って来なかったのだ。

 喧嘩好きで手が口より先に出る兄だった。

『俺を殺せる奴はいねぇ。俺に近づく奴はみな血の海にしずめてやる』といつもいっていた。
 短気で、しょっちゅう周囲の者に雷を落としていた。私も時々痛い目にあわされていた。

 私にはとても優しい兄だった。兄の死体もネルフの施設に保管されているのだろうか‥‥。

 そう思うと不覚にも眼が潤んできて涙がこぼれそうになった。いけない。こんなところで涙をこぼしては。

 考え事をしていた私が異変に気がついたのは市内に入ってからだ。理由はわからないが、街は停電して全ての動きが止まっているらしい。

 不気味なほど静かだった。誰かの迎えがあるものとばかり思っていた私にはそれが不安だった。仲間が全て消えた街だ、私とて暖かい歓迎を予想していたわけではない。寧ろ恐ろしい姿をした『ネルフ』の者に、突然行く手を阻まれて何処かに連れ去られるか、あるいはもっと酷い目に遭わされないで済んだことを喜ぶべきことだったのかもしれない。仲間がそんな目にあったかどうかさえ、私にはわからないのだが。

 その時の私にとって人気がないというのはただただ恐ろしく不気味で、その静けさはこれから起こり得るさらなる不幸と災厄の前兆のようにも思えて、私は喜ぶようなような気分にはなれず、ただ不安な気分のまま歩いて行った。

 ‥‥それでも、何があっても仕事は進めなければならない。この街に来ることを決めた以上、私にも後は無いのだ。事情はどうあれ、与えられた仕事を完遂しなくては。

 おおまかな場所は知っていた。ずっと向こうのほうに小さく見える車が何かを連呼しながら走っていたようだが、私は聞きのがした。

 見つけた。‥‥私の仕事場だ。

 私の体がやっと通るか通らないかくらいの小さな縦穴だ。

 私の道具の準備は出来ている。こう見えても私は特殊技能の持ち主だ。大抵の建設資材を扱え、素早く穴を開けることが出来る。

 この穴の底に溶剤を落として下に通じる通路を作るのがまずする事だ。その後は下に降りてからの作業になる。

 私は腰を降ろして早速作業を開始した。

 ‥‥‥。

 直接見る事は出来ないが、順調に進んでいるらしい。

 ‥‥‥。

 近くで物音がしたような気がする。私は仕事場を離れるのは気が進まなかったので、込み上げてくる嫌な想像を無理やり抑えて作業に没頭した。

 ‥‥また音がした。

 もう、無視できない。作業を中断して逃げ出そうした。
 腰をあげようとした、その時だった。私の視界の外から強烈な打撃が腹にやってきた。

 私の意識が遠くなっていく。

 私の八本の足から力が抜け、私はゆっくりくずれおちていった。

















「アスカ、大丈夫だった?溶解液は大丈夫?」

「平気よ!ま、危険な役目を引きうけたんだから、あとで買い物につきあってもらうわよ」

「‥‥ずるいわ、弐号機パイロット」

「それにしても、不思議だよね」

「なにがあ?」

「この使徒って下から溶液をだすしか能がないのに、停電がなかったらどう戦うつもりだったんだろ?」

「アンタ馬鹿ァ?そんなの考えたってわかるわけないじゃん」

 3人のチルドレンの頭の上では第九使徒の死体が縦穴を塞ぐようにしていましたとさ。




おわり


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