空を見上げると、

雲1つ無い綺麗な星空に、

僕の知り合いによく似た、

綺麗な満月が静かに浮かんでいた。

深夜、ネルフのテストから帰ってきて、

僕は既に誰も――今日は1人と1匹しかいないけど――起きていないであろう自宅に、我が家に帰ってきた。

かつては、偽りの家族だったかもしれない。

でも、今なら胸を張って言える。

ここが、僕の帰る家で、そこにいる人たちが、僕のかけがえの無い家族なんだと・・・・・・・・・











誓い ――月の光の下で  太陽の光の下で――


by 湖南やちる












リビングに入って、

僕は、やっぱりアスカはもう寝てしまったことを知る。

既に、時計の針は新しい日の新しい時を刻んでいたから。

当然と言えば当然だけどね。

でも、本音を言えば、少しだけ、

少しだけ寂しかった。

まあ、明日は休みだし、すぐに会えるよ、と

自分を適当にごまかす。

そのまま、風呂に入って、ゆっくりと考えにふける。

思えば、使徒戦が終わり、一度は、僕らの関係は完全に壊れていた。

僕は、入院していたアスカに、散々罵倒され、

何度も食事をひっくり返され、

何度も手ひどく叩かれた。

でも。

ぼくがそれでもアスカといたのは、2つの気持ちがあったから。

半分は、贖罪の気持ちだったと思う。

何せ、彼女があんなにひどい目にあっていたのに、

僕はそれを見捨てたし、

挙句、アスカの首まで絞めた。

そのことに対して、本当に申し訳なく思っていた。

だから見舞いに来ている、と言ったら、

アスカは、二度とアタシの前にその面を出すな、と

激昂して言ったっけ。

でも、

それでも僕は、アスカの病室に行った。

だって、残りの半分の気持ちは、

アスカと一緒にいたい、と言う気持ちだったから。

何度も殴られて、

蹴られて、

怒鳴られたけど、

アスカと言う少女の、

奥底の弱さと、

強気な態度の裏に見える儚さは、

僕に、彼女と一緒に過ごしたい、と思わせるのに十分だった。

そのことをアスカに言ってからだ。

アスカが、少しずつ、少しずつ、僕に心を開いてくれるようになったのは。

嬉しかった。

僕だって、ただアスカと一緒にいたかっただけじゃない。

やっぱり。アスカのあの、

太陽みたいなまぶしい笑顔が見たかった。

元気な、明るい声で、

「馬鹿シンジ!!」

と言って欲しかったんだ。

僕は、僕の全てをアスカに全力でぶつけた。

アスカも、アスカの全てを、全力で僕にぶつけてくれた。

そして、アスカはすっかり元気になって、

同時に、とても素直になった。

学校に再び通い始めてからは、

たくさんの人に、

「綺麗になったね」

と言われていた。

アスカは、今までかぶっていた皮を、すっかり脱いで、

とても素直で、底抜けに明るくて、でも、とても弱いところもある、

ちょっとへっぽこな、普通の女の子になった。

本当に嬉しかった。

アスカが、前よりもずっと、輝きを増したように見えるから。

アスカが、前よりずっと、綺麗になったから。

そして、

こんなにも可愛い女の子が自分の彼女だと言うことが、

一番、嬉しくて。























のぼせそうになったから、

慌てて風呂を出て、

火照る体を、

風呂上りの牛乳で冷やす。

この、急速に体が冷え切っていくこの感じが、昔から大好きだ。

少し冷えたからだで、時計を見る。

もう、牛三つ時になりかけていた。

いくら明日が休みでも、

さすがに寝ないと体が持たない。

僕は、ゆっくりと自室に向かった。




































元々は納戸だった自分の部屋。

真っ暗な中、ベッドに入る。

どういうわけか、タオルケットが暖かい。

暗闇の中、それでも僕はすぐに気が付いた

アスカだ。

アスカは、僕が来たことにすぐ気が付いたようで、

「しんじぃ・・・・しんじぃ・・・・・・」

と、甘えた、というよりも、泣きそうな声で、僕に抱きついてきた。

いや、実際泣いていてのだろう。

「うわわ・・・・・・ど、どうしたのさ、アスカ!?」

ハッキリ言って、僕はこういうのには、全然慣れていない。

でも、僕が聞いても、アスカはただ、嗚咽を漏らすだけ。

しばらくして、アスカが、ぽつり、ぽつりと言い出した。

「だって・・・・・・・・寂し・・・・・かったん・・・・・だもん・・・・・・ミサトも・・・いないし・・・・・・」

彼女は、とても繊細だ。

今は、少数の人なら知っているけど、普段は殆ど見せない姿だ。

彼女は、1人であることに、かなりの恐怖心がある。

というよりも、失うことを極度に恐れているのだ。

でも、こういう彼女の弱さも、僕は好きだ。

僕は、恥ずかしかったけど、アスカの・・・・僕のタオルケットに入り、アスカをそっと抱きしめた。

その途端、アスカから安心したように、肩の力が抜けていった。

アスカの髪の毛を優しくときながら、僕は優しく言う。

「大丈夫だよ・・・・・・僕は、アスカから離れないから・・・・・・」

「シンジ・・・・・いいの?アタシなんかで・・・・・・・・」

アスカの不安そうな声が聞こえる。

「いいに決まってるじゃないか・・・・ううん・・・・・君じゃなきゃいけないんだよ・・・・・僕を叱ってくれて、僕と笑いあってくれる人は・・・・

僕がドジをしたら、『馬鹿シンジ!!』って言ってくれて、僕が嬉しかったら、一緒に笑ってくれる、悲しかったら、一緒に泣いてくれる。

僕は、アスカが、君が好きなんだ。

だから、これからも

ずっと

一緒にいて欲しいんだ」

「シンジ・・・・・」

僕たちは、月が見守る中、静かに、静かにキスをした。

言ってみれば、誓いのキス。

僕たちの、絆を証明するキス。

将来を誓い合うキス。

優しい月の光の下で、

僕のプロポーズは、大成功した。


























































空を見上げると、

雲1つない綺麗な青空が広がっていた。

ただ、この前と違うのは、

照らしているのが、

明るい太陽だということ。

まるで、僕の愛しい人のような、

強い光を放っている太陽が、

僕たちを祝福してくれているような気がした。










































会場には、

学校の友達も、

ネルフの人たちも、

みんな来てくれた。

父さんも来てくれた。

サードインパクトの後、和解した父さんに、

結婚する、

と言ったら、

後ろを向いたままで、

「そうか」

と言ってくれた。

次の日、

式場の案内や、詳細なスケジュールが郵送されてきた時は、本当に驚いた。

アスカは、

「やっぱり、司令って不器用よね」

と笑っていた。

僕もそう思う。

だって、予約された式場は、

日本屈指の最高級ホテルだったんだもの。

封筒の中に、冬月副指令の手紙・・・・・メモが入っていた。

「碇が孫を抱くのを楽しみにしているぞ」

・・・・副指令も、結構お茶目なんだなあ。

そんなこんなで、僕の保護者は父さん。

アスカの方は、今は和解した御両親がドイツから来てくれた。

でも、僕たちにはもう1人、大切な保護者がいる。

ミサトさんだ。

今日、ミサトさんは、黒の和服の正礼装だ。

だって、僕たちの大切な、「家族」だから・・・・

そう言ったら、ミサトさん、泣いていたっけ。

仲人は、加持さんとミサトさんにお願いした。

順調に進んでいく式。

父さんは、挨拶の時、

「・・・・・良かったな、シンジ」

とだけ言って、逃げるようにいなくなってしまった。

副指令に言わせると、

「あれは絶対に泣きそうになったからだ」

と教えてくれた。

帰ってきた父さんの、

サングラスがずれていた。

そして、誓いのキス。

でも、神誓うわけじゃない。

「アタシは、ここにいる全員に、碇シンジを永遠に愛すると誓います」

そう、僕たちは、ここにいる人たちに誓うことにした。

「僕も、ここにいるみなさんに対して、碇アスカを永遠に愛すると誓います。」

そして、誓いのキス。

僕らにとっては、2度目の、誓いのキス。

違うのは、あの時見てたのが、月だけだったということ。

今は違う。

今は、会場のみんなと、明るい太陽が見ている。

キスが終わると、みんなからコメント。

なんだけど、みんな

「おめでとう」

しか言わない。

何でだろ?

でも、一通り終わったら、

今度はちゃんとコメントしてくれた。

・・・中には、

「裏切り者!!!」

なんて声もあったけど。

でも、そう言うケンスケも、

その眼はとても優しくて。

心の底から祝福してくれているのを感じた。

































結婚式が終わると、どういうわけか、ミサトさんが、これでもか、というほどの、山積みにビールを持ってきた。

結婚披露宴は、どうやら、酒宴になりそうだ。

止めるどころか、みんな大盛り上がりだ。

・・・まだ未成年の人も、盛り上がっている。

いいのかな・・・・・ホントに。










































家に帰って、

時計を見たら、

既に、新しい日付になっていた。

風呂に入って、

ゆっくりしていたら、

アスカが、

ビールを持って、ベランダにいた。

ベランダに出ると、

「飲む?」

と言ってきたから、

僕も、えびちゅを飲む。

昔はおいしいとは思えなかったビールの味。

今なら、ミサトさんの気持ちも分からなくはない。

見ると、満天の星空に、

大きな満月が浮かんでいた。

「綺麗だね・・・・・・・・」

「そうね・・・・・・でも、アタシってよりは、レイって感じよね・・・」

「うん」

「・・・・そういう時は!!お世辞でも!!『アスカの方が綺麗だよ』とか、『綾波なんかより、アスカに似ているよ』とか言うのよ!!!!」

「ええ!?・・・・・だって、アスカが・・・・・」

「もう!!いいわよ」

やっぱり、アスカの考えていることはよく分からない。

でも。

「アスカ」

「何?」

僕は、アスカにそっとキスをした。

「!!・・・・んん・・・・・」

アスカは、最初は驚いていたけど、すぐに落ち着いたみたい。

月の光に照らされたアスカは、本当に綺麗で、そして、とても儚げだった。

キスをしたのは、アスカがそこにいるのを確認したかったから。

そう言うと、アスカは悪戯っぽく笑って、

「何言ってんのよ。ついさっき言ったばかりじゃない。アタシはアンタと一緒にいるって・・・・いなくなったりなんかしないわよ、馬鹿」

そう言いながら、キスをしてきた。

僕は、これからどんな目に合っても、絶対にアスカを大切にしよう。

そう思って、月明かりの下で、アスカを強く抱きしめた。


fin









後書き




初めまして。

某所で、SSを書いている、湖南やちると申します。

今回の作品は、ギャグが多かった最近の作品の中でも、割と満足がいくほうでした。

まだまだ稚拙な文章ですが、お楽しみいただけたでしょうか。

感想、意見、苦情、待ってます。


PS

感想用メールアドレス

kent@ca2.so-net.ne.jp



2010年3月

湖南やちる

烏賊す怪作のホウムでは初投稿、湖南やちるさんの作品です。

事故ですこし公開が遅れてしまってやちるさんにも読者の皆様にももうしわけない><

読後にぜひやちるさんへの感想メールをお願いします。

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