その夜

 自分のベッドでスピスピと眠る

 我らが愛しの可憐なヒロイン

 綾波さんちのレイちゃんは

 生れてはじめて

 顔面にドロップキックをくらって目覚めました。










どーというほどのこともない、ある日の日常 in烏賊

夢の中できこえる電波

ヤシチさん









“・・・・・・痛い・・・・・・”



 顔をさすりながら、レイちゃんはムクリと起きあがりました。

 世にも凶悪な起され方をしたというのに、被害は、美麗なカーブで描かれたお鼻が少し赤くなっただけで済みました。

 不幸中の幸いです。レイちゃんの稀有な美貌に傷でもついたら人類全体の貴重な財産の損失ですから。

 皆さん、喜んでください。人類は救われたのです。



 もっとも、レイちゃんが軽傷で済んだのは、けして加害者が手加減したわけではなく、加害者自身の身体的特徴によるところが大きいでしょう。



“命令よ! さっさと起きなさい、レイ! このバカチンがーっ!”



 加害者が、まだ、半分、布団に包まれたままのレイの身体の上に仁王立ちし、なにやら怒鳴っています。

 まあ、怒鳴っていたといっても、やはり加害者の身体的特徴のせいで、まるで仔犬の吠え声のようにキャンキャンとしていましたが。



 突然、蹴り起されて、レイちゃんは不機嫌な顔で加害者を睨みます   が、途端、レイちゃんは、少しかたまってしまいました。

 日頃から冷静なレイちゃんには珍しいことです。



“・・・・・・ミサトさん・・・・・・?”



 レイちゃんは、鈴の音のような声で呼びかけました。

 そう、レイちゃんを強襲した加害者は、レイちゃんのよくしってる人物だったのです。



 ただし、その姿が2等身でなければですが。



 レイちゃんのお腹の上でふんぞりかえるミサトさんは、自慢のナイスバディもどこへやら、まるでディフォルメされたヌイグルミのような姿でした。

 その身長は30pに満たないでしょう。



“みさと!? なにいってんのよ!? 私の名前はミトサよ!”



 ビシイッとレイちゃんを指差すミサト   じゃなくて自称ミトサ。

 おもちゃのようなサイズのタンクトップとホットパンツ姿です。



“・・・・・・みとさ・・・・・・?”



 レイちゃんは可愛らしく小首を傾げます。

 その顔に浮かぶのはいつもの無表情ですが、なんだか少し呆けたような感じです。

 どうやら、まだ、頭が完全に起きてないようですね。



“そうよ! なによ、レイ。寝ぼけてんの?”

“・・・・・・ミサトさんじゃないの・・・・・・?”

“だから違うっていってんでしょ!”

“・・・・・・そう・・・・・・。違うのね・・・・・・。”



   ポギャラッ!



“げぷしっ!”



 次の瞬間、レイちゃんが繰出したのは、なんと、あの『ペ○サス彗○拳』です!

 直撃をうけたミトサが、星々を背景(いわゆる「効果」です)に、愉快な悲鳴をこぼしながら吹っとびます。



 レイちゃんとしても、いきなりドロップキックかましてきた相手とはいえ、日頃からお世話になってる(といっても、べつにお料理してくれるわけでもお洗濯してくれるわけでもお掃除してくれるわけでもないですが)ミサトさんに攻撃するのは憚れるところですが、本人がこれほど別人だと主張するならその意を汲んでさしあげよう、ということで、全力反撃にでたんですね♪



 壁にメリこみ、ダクダクと熱き血潮をタレ流すミトサをよそに、レイちゃんは2度寝するために布団に潜りこみます。



“ウ・・・・・・ウウ・・・・・・効いた。   て、だから寝ないでよ、レイ!”

“・・・・・・スピスピ”

“寝つくのはやっ!    じゃなくて、いいから起きて、あれをみてってば!”

と、いいつつ、ミトサがベッドわきの窓のカーテンをあけます。

 そこには   










   どかーん  どかーん



“きゃあ〜”

“うわ〜”

“助けて、お母さ〜ん”

“オ〜ッホッホッホッホッホッ!”










 どことなくノンビリと街を破壊するのは懐かしの第3使徒。



 なんだか安っぽい悲鳴をあげながら逃げ惑う人々。



 雑多な崩壊音や爆音の中、なぜか他を圧倒して響き渡る高笑い   などなど、つまり、総合的にみて、なんだか妙に危機感の薄い危機的状況が広がっていたのです。



“・・・・・・アレはなに・・・・・・? 第3使徒・・・・・・?”

“違うわよ! 人類滅亡を企む魔女『金髪魔王』が、また、性懲りもなく、あらわれたのよ!”

“・・・・・・金髪?”

“このままじゃ、街の人々が危険だわ! レイ、変身してたたかうのよ!”

“・・・・・・それより、ネルフに連絡して、エヴァをだしてもらった方が・・・・・・”

“ねる・・・・・・なに?    なんだか本当に変よ、レイ?
 魔法少女のあなたがたたかわなくて、いったい誰が魔女とたたかうってのよ?”



 ミトサ、サラリと爆弾発言です。



“・・・・・・魔法少女?”

“なによ、寝ぼけて、そんなことまで忘れちゃったの?
 あなたこそ、世界の平和と地域の正義と家庭の団欒をまもる、愛と勇気だけが友達の魔法少女『ラブリーレイ』でしょーが!
 ちなみに、私はそのサポートマスコットよ!”

“・・・・・・???”

“ええいっ! 議論してる暇はないわ! とにかく変身よ、レイ!”



 そういうと、レイちゃんにむけてなにかを投げるミトサ。

 クルクルと回転しながらとんでくるソレを、やはり無表情のままシュパッとかっこよくうけとめるレイちゃんです。



 レイちゃんは、手の中の、15pほどの円筒状のソレに目をむけます。

 『えびちゅ』

 ・・・・・・再度、レイちゃんは、ちょびっとかたまりました。



“・・・・・・ミサトさん、ビールは20歳になってから・・・・・・”

“だから私はミトサだってば! それに、それはビールじゃなくて『マジックポーション』よ!
 はやくそれを飲んで変身して!”

“・・・・・・”



 なんだか色々と不条理を感じるレイちゃんでしたが、とりあえずいわれた通り、プルトップをあけ、一気に中身を   



“なにやってんのよ、レイ!?”



 スカポーンと後頭部を真芯でとらえる、純白のハリセンです。



“・・・・・・痛い”

“ポーズはどーしたのよ!? 『聖なるポーズ』は!?”

“・・・・・・ぽーず?”

“そうよ! 変身は神聖な儀式よ!? それなりの手順があるって、あんたもわかって   ああ、もう!
 時間がないわ! いいからいう通りにして!”



 凄い剣幕のミトサに、レイちゃんも大人しく従います。

 まず、直立の体勢から、両足を肩幅くらいに広げ、左手は腰、そのまま下半身を動かさずに一気に右手でポーションをあおって   



    なんだか、銭湯で風呂あがりに牛乳を一気飲みする、どこぞのオッチャンみたいですが、世間に疎いレイちゃんには、そーいう世の中の機微みたいなところはわかりません。



 まあ、ともかく、クピクピと「マジックポーション〈缶ビール風味〉」を飲み干すと、レイちゃんの身体が閃光に包まれました!



 変身です。

 今まで着ていたパンダ柄のパジャマは、あっという間に消滅し、全裸のレイちゃんの肢体を、ポンポンと出現する衣装が次々に覆っていきます。

 カメラは1秒たりとも漏らすことなく3方向からその様子をとらえています。

 高く売れますよ、コレは。



 数秒後に閃光がおさまると、そこには、なんとも独特な雰囲気の服を纏うレイちゃんがいました。

 簡単にいうと、上半身は振袖。下半身はヒラヒラのミニスカート。

 右手にあったポーションの空缶は、いつの間にかロッドにかわっていました。

 頭に、でっかいハートの飾り。柄の部分にはのし袋のよーな   

 多方面に多大な害を及ぼしそうなため、これ以上の細部の描写はご勘弁願います。



 レイちゃんは、自身に起った異常に特に動じることもなく、表情をかえずに呟きます。



“・・・・・・版権”

“それ以上はいっちゃダメよ、ラブリーレイ”



 ミトサ、ナイスフォローです。



“・・・・・・でも、著作権とか・・・・・・”

“あのねー。あなたと私が、こーして話をしてる時点で、そんなこといっちゃダメなの。
 いいから、ちゃっちゃと『白衣魔王』をたおしにいくわよ!”

“・・・・・・さっきと名前が違う”

“ん? ああ、いいのよ。あの魔女は36もの仇名があるんで有名なんだから”



 金髪&白衣。なんとなく誰かさんを連想するレイちゃんです。










“・・・・・・やっぱり”



 ポツリと呟くレイちゃん。

 レイちゃんとミトサは夜の空をひとっとびして、今はどこぞのビルの屋上で悪の怪獣(第3使徒風味)と対峙しています。

 先ほどから、その怪獣の頭の上でバカ笑いをしていたのは、やはりレイちゃんのしってる人物でした。

 黒のボンテージルックの上に白衣を羽織るという、物凄く卑猥なカッコのリツコ博士は、なんだかいつもよりも生き生きとしているようです。



“オ〜ッホッホッホッホッ!
 よくきたわね、『プリティー“『ラブリーレイ』よ! 間違わないで! 絶対!”



 ミトサは本当にフォロー上手で助かります。



“そ、そうだったわね。ごめんなさい”

“まったく、気をつけなさいよね! まあ、年増がボケるのは当然といえば当然なんだけど・・・・・・。”

“・・・・・・聞捨てならないことをいったわね、今”



 ミトサの嘆息まじりの呟きに白衣魔王の視線が鋭くなります。



“あ〜ら、べつに変なことはいってないわよ。あなたの仇名には『三十路魔王』とか『嫁き遅れ魔王』とかが、ちゃんとあるじゃないの”

“失礼なことをいわないで欲しいわね!
 そもそも、三十路なのはあなたも同じだし、それに別に嫁き遅れてもいないわよ!
 誰かさんとは違ってね!”

“・・・・・・ウ・・・・・・”



 得意げにいってのける白衣魔王の左手には燦然と輝く「結婚指輪」が!

 ミトサ、どうやら藪をつついて蛇をだしてしまったようです。



 白衣魔王は更に調子にのります。



“別に結婚してるからなにが偉いってことでもないとおもうけど、婚約だけして何年もほったらかしにされてるっていうのも女として問題なんじゃないかとおもうわね。

    あ、誰か個人の話じゃなく、一般論よ。

 まあね、結婚だけは1人じゃできないんだから本人と相手との人間関係の問題なんだけど、要は相手に避けられてるってことでしょう?
 なにか女として致命的欠陥でもあったんじゃないの?
 まあ、確かに「家事能力の欠如」「慢性的アルコール依存症」の2点だけでも男が及び腰になるには十分だけどね。

    あ、だから、個人の話じゃなくて、一般論だって。

    やだ、あなた、泣いてるの? あらあら、困ったわねぇ。まるで私がイジメているみたいじゃない”

“・・・・・・ウウ〜”



 半泣きになりながら白衣魔王を睨むミトサ。序盤の心理戦は魔女が圧倒的有利のようです。

 そんなミトサを庇うように、レイちゃんが前にでました。



“ラ、ラブリーレイ・・・・・・”

“あら、なぁに? 口ベタのあなたに、なにかいいかえせるのかしら?”

“・・・・・・バアサンは用済み”

“・・・・・・覚悟しなさい、この小娘!”



 レイちゃんの一言は、なにか『バアサン魔王』   ちょっと、なによ、その呼び名は!?    の触れちゃいけない傷に触れたようです。

 両雄、一気に戦闘状態に突入です。



“今日はお気に入り   じゃなかった、とっておきの刺客を用意してきたわよ!
 いでよ、戦闘ニャンコ『ネコネコマヤ』!”

“はい、先輩!”



 バアサン魔王の命をうけ、どこからともなく颯爽とあらわれたのは、これまたレイちゃんのよくしる人物でした。

 ただし、猫耳に毛皮のビキニという、これまた猥褻爆発といった姿でしたが。



“某漫画によると、沖縄だかどこだかじゃ、猫のことを「マヤ」と呼ぶそーよ!
 だから私の部下である彼女が猫娘になるのは運命で定められたことなの!
 けして、私の趣味ではないわ!!”



 ああ、そーですか。



“やーっておしまい、マヤ!”

“レイちゃん   じゃなかった、ラブリーレイ。
 あなたに恨みはないけれど、敬愛する『先輩魔王』の命令なの。覚悟して!”



 そういって、肉球グローブに包まれた両手をつきだします。



“えーい! 『ネコネコミサイル』!”



   うにゃうにゃにゃ〜っ!



 今週の戦闘ニャンコ『ネコネコマヤ』の叫びとともに、やはりどこからともなく無数の小さな影が可愛らしい爆音をあげて飛来しました。

 ミケ・トラ・ブチ・ヒマラヤンなど「ネコ弾頭ミサイル」の群れです!

 ネコ達は「ウニャウニャ」いいながらレイちゃんにむかってまっすぐつっこんできます。

 もし、命中すると   ミサイルなんだから痛いんじゃないかな、多分?



 対するレイちゃんは、小さいオテテを可愛らしくキュッと握りしめ   



“・・・・・・○ガサス流○拳”



   鬼のような速度で連続してはなちました!



 再度、伝説の技をつかうラブリーレイです。

 吠える羽つき馬の「効果」をバックに、レイちゃんは「ネコ弾頭ミサイル」を、全弾、うち落してみせました!

 弾ける肉。とび散る鮮血。ネコ達のあげる細い悲鳴。

 方向転換して逃げようとしたネコ達もいましたが、閃光と化したレイちゃんの拳は、たとえ1匹たりともうち漏らしません!

 数十匹のネコ達の血は、僅か数秒で、ビルの屋上を血風漂う地獄にかえたのです・・・・・・!



 やはり返り血で真っ赤に色づいたオテテでロッドを構え、レイちゃんはネコネコマヤへとむきなおります。



“レ、レイちゃん? あ、あなた、今、人としてやっちゃいけないことを・・・・・・”

“・・・・・・コ○ティッシュ・○ンバー”

   て、話をきいて   キャアアア〜ッ!”



   ボッカ〜ン!



 魔法少女の必殺技であるピンクの巨大ハートにうち抜かれ、ネコネコマヤは滅びました。

 当然、爆煙はドクロ型です。



 レイちゃんは、明後日の方向をみつめ、ポツリと棒読み口調で呟きます。



“・・・・・・仇はとったわ、ネコさん達”

““いや、やったのおまえだろ””



 ミトサと魔女、息ピッタリのツープラトンツッコミです。



“ええいっ! この天然非常識娘め! こーなったらあなたしかいないわ! やっちゃいなさい、サキエル!”



   うにゃ〜ん



 バアサン魔王   なによ、マヤが『先輩』て呼んだでしょ!? なんで呼名がかわんないのよ!?    の叫びに、玩具のお面のような顔で、声だけは可愛らしく第3使徒が応じます。



“『うにゃ〜ん』だぁ!? オイ、それもネコだって主張すんかい!    ええい、レイ、こっちも奥の手よ!”



 再度、ミトサが何かを投げます。レイちゃんは今度もシュパッとかっこよくうけとめます。

 今度の円筒には『えびちゅ〈すーぱーどらい〉』の文字が。



“そのポーションをつかって『守護神獣』を呼ぶのよ!”

“・・・・・・しゅご・・・・・・しんじゅう?”

“そーよ! 私達の故郷、花と光が溢れる魔法王国『げるひんぜーれ』の伝説でも語られる、巨大な猛き猿神よ!”

“・・・・・・そんな、血と謀略が溢れていそーな名前の故郷はイヤ”

“とっとと飲め!”




 目を血走らせながら迫るミトサに、レイちゃんもイヤイヤながら「マジックポーション〈すーぱーどらい風〉」を口にします。

 足は肩幅。左手は腰に。素直で頭のいいレイちゃんは、さっき注意された『聖なるポーズ』をとることも忘れません。



   ピカピカッ



 レイちゃんがポーションを飲み干した途端、夜空に稲妻が走りました。



   ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・ゴカァッ!



 続いて、地響きとともにアスファルトの道路が内側から砕けます。

 なにか巨大な存在が地中よりあらわれようとしているのです。



   ドコン! ドコン!



 コンクリートを引き裂きながら逞しい腕がとびだしました。きっと乗用車くらいなら簡単に握り潰せるでしょう。



『あんたバカァ!?』



 守護神獣が独特の鳴き声をはなちます。

 筋肉に覆われた上半身があらわれました。発達した胸筋と上腕筋はシルエットを逆三角形にしています。

 腹筋も、きちんと6個に仕切られています。

 伝説の赤き猿神は、そのままの姿勢で、まるで炎のような色の長い鬣をふり乱し   












   そこで目が覚めたの」



 一気に話し終えたレイちゃんは、1口、味噌汁を啜りました。

 白味噌のお汁にはミツバとタマネギ、卵とじが入っています。レイちゃんの好物の具です。

 葛城家、いつもの朝の食卓。

 レイちゃんは自分の席で和風の朝食をいただきながら、今朝までみてた夢の内容を同居人達に話していたのです。



 話をきいていた同居人達の反応は様々です。



 名目上、この家の家長である葛城ミサト氏は「また、夢ネタかい!」とかおもいましたが、懸命にも口にはだしませんでした。

 以前、夢が原因で臨死体験をするはめになったことがありました。

 余計なことをいって「家族」にそのことをおもいだして欲しくなかったのです(でないと、また生命が危機に晒されますから)。



「なんで私がサルなのよ!?」



 今日も朝から元気印。ウガーッと叫ぶのは惣流アスカ・ラングレーちゃんです。



「凄いね、綾波。夢の中で寝てるなんて、それって高等技術だよ」



 レイちゃんのおもい人でもある、葛城家のカリスマ主夫、碇シンジ君は、あいかわらず少しピントがずれてます。



「・・・・・・シンちゃん、さすがにそのコメントは、どーかとおもうわよ」



 ミサトさんも同意見のようですね。



「え、でも、夢の中で更に眠るなんて、本当になかなかできませんよ? 僕は今までしたことないですし」

「・・・・・・そりゃ、そーかもしんないけど・・・・・・」

「そんなこともないでしょ? 私、時々あるわよ、そーいうこと」

「え、そうなの? 凄いや、アスカ」

「いや、そんなことで感心されても・・・・・・」



 自分の夢をサカナにキャイキャイと騒ぐ同居人達に、レイちゃんは更に呟きました。



「・・・・・・夢・・・・・・」

「ん? なに、レイ?」

「・・・・・・痛くなかった」

「え?」

「・・・・・・痛くない夢、はじめて・・・・・・」



 レイちゃんの言葉に、3人は、一瞬、哀しそうな表情をつくります。



 彼ら(彼女ら)は昔のレイちゃんが「普通」と少し違っていたことをしっていました。

 謀略だの、運命だの、妄執だの   そういった目にはみえない力がレイちゃんをがんじがらめにし、常に彼女を苦しめていたことをしっていました。

 だから「痛い夢」というのが具体的にどういったものかはわかりませんが、眠りの世界すら当時のレイちゃんに安息を与えられずにいたのだと、すぐに理解することができました。



 だからこそ、今、レイちゃんの家族である3人は、微笑みます。



「・・・・・・よかったね、綾波」



 シンジ君が微笑みます。



「よかったわね、レイ」



 ミサトさんも微笑みます。



「・・・・・・ま、今夜もみれるんじゃない、楽しい夢?」



 微妙にソッポをむきながら、アスカちゃんも微笑みます。



 レイちゃんは、家族の、そんな心づかいが嬉しくて、



「・・・・・・ありがとう」

と、朝の光に溶けそうな微笑とともに、感謝の言葉を告げるのでした。












 突然、視界がひらけました。天井からぶらさがるいくつもの巨大なライトが一斉に点灯したのです。

 彼女の赤い瞳にとびこんできたのは   



“・・・・・・鳥?”



 レイちゃんは呟きました。

 彼女の目の前には、巨大な鳥の顔   もっと具体的にいうと、巨大なペンギンの顔があったのです。



“そうよ。これが、汎用鳥型決戦兵器、人造ペンギン『エヴァンペンペン』の初号機よ”

“・・・・・・イインチョさん?”



 突然、きこえてきた口上に横をむくと、そこには、なぜか白衣を纏った、中学以来の友人で高校でも同級生の洞木ヒカリちゃんがいました。



 同時に、レイちゃんは、現在の状況の1部を確認しました。

 どうやらここはネルフ本部のケイジのようで、いつもはエヴァが入っているLCLのプールの中に巨大ペンペンが浸かっているのです。

 瞼をとじて水から首だけだしているその姿は、我が家で毎日のようにみている入浴中の彼(彼女?)の様子とよく似ています。



 高校生になり、随分とそばかすの消えた顔をこちらにむけて、ヒカリちゃんは妙に真面目くさった表情でいいました。



“これが、あなたのお父さんの仕事よ”

“・・・・・・お父さん?”

“その通りや、綾波!”



 突然、きこえてきた男性の声に、レイちゃんは上をみあげます。

 エヴァンペンペンの巨体のむこう側、ケイジの上部モニター室に人影がありました。

 かわりばえのない短髪に似合いもしないサングラスをかけています。

 大阪から引越してきてはや数年。彼はいつまで関西弁を喋るのでしょう?



“・・・・・・ジャージ君?”



 彼もそればっかりは高校入学と同時にやめたのですが、未だにレイちゃんは、鈴原トウジ君を、そう呼んでいるのでした。



“久しぶりやな、綾波”

“・・・・・・昨日、学校であった”

“フッ・・・・・・。出撃や”



 どうも会話が噛みあいません。



“出撃? 零号機は凍結中でしょ?”



 また別方向からの声です。レイちゃんが右をむくと、そこにも見知った顔がありました。



“・・・・・・アスカ?”



 赤のジャケットとベレー帽が、こちらはなかなか似合っています。驚愕の表情で、アスカちゃんはトウジ君を見上げていました。



“まさか、初号機をつかう気なの!?”

“・・・・・・アスカ、なにしてるの?”

“他に道はないわ”

“・・・・・・イインチョさんも”

“ファーストチルドレンは重傷だわ! パイロットがいないでしょーが!”

“・・・・・・ファースト・・・・・・? 私はケガしてないわ”

“問題あらへん。今、予備が届きおった”

“・・・・・・おーい・・・・・・”



 なぜかレイちゃんの声は誰の耳にも届いていないようです。

 レイちゃんを無視して話だけがドンドン進みます。



“綾波。おまえがこれにのるんや”

“・・・・・・どうやって?”

“説明をうけんかい”

“・・・・・・そういう問題?”

“レイさん、よくきいて。あなたがペンペンにのらないと、人類が滅亡するのよ”

“・・・・・・イインチョさんこそ、私の話をきいてない”

“のるんならはやくせぇっ! でなければかえらんかい!”

“・・・・・・だから、ペンペンに、どうやって?”



 やっぱり誰もレイちゃんの話をきいてくれません。

 ポーッとつったったレイちゃんをよそに、他の3人は、とても真剣な表情です。



“綾波。おまえがのるんや”

“・・・・・・なぜ?”

“おまえ以外には無理やからや”

“・・・・・・私だって無理”

“時間がないわ。レイさん、のってちょうだい。”

“・・・・・・ジャージ君とイインチョさんが司令と博士・・・・・・? そう・・・・・・。そのうち新婚さんでラブラブになるのね”

“なななななにをいうのよ”

“・・・・・・きこえてはいるのね・・・・・・。それにそれは私のセリフ”

“レイ、逃げちゃダメよ。お父さんから。なによりも自分から”

“・・・・・・ジャージ君は私を苗字で呼ぶのに、それでも親子関係を主張するの?”



 見上げると、そのトウジ君が携帯を「ピポパ」とかけています。



“ワイや、ケンスケ・・・・・・。ファーストチルドレンを起してくれ・・・・・・。そうや。予備がつかえんようになった・・・・・・”

“・・・・・・メガネ君も、ちゃんといるのね”



 ビジュアル的に出番はありませんが。まあ、これも彼の「業」というものですね。



“綾波。おまえには失望したわ”

“・・・・・・そう”

“臆病者は目障りや! さっさとこの場をたち去らんかい!”

“・・・・・・(怒)”



 温和なレイちゃんもさすがにカチンときました。5秒以内に殲滅してやると心に誓います。

 彼女の拳が「きゃっと・きらー」の異名で、古今東西、全ての猫に恐れられていることを、トウジ君はしらなかったようです。



   ガラガラガラガラ



 その時、通路の奥からストレッチャーの音がきこえてきました。

 なんだか、以前、どこかでみたことがあるようなないようなこの状況(それは、あの時、あなたの意識がとびかけていたからでしょう)で、レイちゃんは、自分が、そのストレッチャーの音に強く興味をそそられることに気づきました。



   ガラガラガラガラ



 白衣に身を包んだ医師団が、通路を渡ってケイジの中に入ってきました。

 ストレッチャーの音は彼らが押すベッドからきこえてきます。

 ベッドの上には誰かが横たわっているようですが、レイちゃんの位置からはよくみえません。



“・・・・・・誰?”



 レイちゃんは小さな声で呟きました。

 ぼんやりとした記憶や、話の流れからして、ベッドの上に寝かされているのがファーストチルドレンだということはレイちゃんにもわかります。

 ですが、それが自分をさしていないこともレイちゃんにはわかります。

 なんといっても、周りにいるアスカちゃんもヒカリちゃんもトウジ君も、それぞれ違う人物の役を演じているのですから。



 では、あれは誰なのか?



 誰が私の役を演じているのだろうか?



 興味深げな様子のレイちゃんから少し離れたところでストレッチャーの音はとまりました。

 ベッドの上、ノースリーブの簡易プラグスーツと包帯を纏い、脂汗を流しながら傷の苦痛に喘ぐファーストチルドレン。

 その姿は   





ヒ・ゲ♪





 レイちゃんはマッハの歩みで近づくと、ベッドごと目標をLCLのプールに蹴り落しました。












“さっさと起きなさい! おバカレイ!”



 誰かの叫びがレイちゃんの鼓膜を叩きました。その刺激が脳へ届くまで、更に時間がかかります。

 そして更に若干の時間をかけて、レイちゃんの瞼が、さも重そうに、ゆっくりとひらきました。

 瞼にかくれていた赤いオメメが最初に確認したのは、ヌイグルミが溢れた自分の部屋と、その真ん中で端正な顔を不機嫌そうに歪めるクオーターの美少女。



“ようやくお目覚めね、おバカレイ”

“・・・・・・なにか用、アスカ・・・・・・?”



 幼稚園の頃、彼女がドイツから引越してきて以来、もう10年近くのつきあいになる幼馴染に、レイちゃんが問いかけます。



“「なにか用?」じゃないでしょ!? この私が起してやってるってのに!”

“・・・・・・そう”

“まったく! いつまで寝てれば気が済むのよ!?”

“・・・・・・これはなに・・・・・・? 涙・・・・・・? 欠伸・・・・・・? そう・・・・・・。私、眠いのね”

“なに、ブツブツいってんの? ほら、いつまでもボサッとしてないで、さっさと起きなさいよ!”

“・・・・・・アスカ、煩い”

“なんですって!? こら、レイ! それが、毎朝、優しく起してくれる、幼馴染にいうセリフ!?”

“・・・・・・ダメ。お布団さんが呼んでる”

“呼ぶか! 遅刻よ、遅刻! さっさと起きなさいよ!”



 そういって、アスカちゃんは一気にレイちゃんのお布団を奪いとりました。顕になるレイちゃんの肢体。そして   



   キャアアーッ!!”



 アスカちゃんが絹を裂くような悲鳴をあげました。



“おバカレイ! あんた、またやったのね!”



 べつに、レイちゃんが独特の生理現象を催していたとかいうわけではありません。

 アスカちゃんがビシッと指差す先、かけ布団がとり払われたレイちゃんの寝床には、1辺10pくらいの大きさの青い立方体が浮かんでいたのです。

 名前はラミエル君。



“まーた拾ってきたのね! まったく、ノラ猫でもノラ犬でもノラ使徒でも、すーぐに拾ってきちゃうんだから!”

“・・・・・・ノラじゃないの・・・・・・。捨てられてたの・・・・・・。昨日は雨が降ってたの・・・・・・。
 ダンボールの中で震えてたの・・・・・・。駅前で「誰か拾ってください」て   

“あー、もう! 飼えもしないのにどーすんのよ! レイはおバカなんだから!
 この間の猫だって私が貰ってくれる人を探したんでしょ!”

 アスカちゃんの言葉に、無表情ながらも心なしかレイちゃんがシュンとなります。

 それをみてなにかおもったのでしょうか。

 それまでフワフワと浮いているだけだったラミエル君が、アスカちゃんにむけて糸のように細い粒子砲を発射しました!



“キャッ!”



 しかし、アスカちゃんもだてに『壱中の魔神』と呼ばれていません。

 小さな悲鳴を漏らしながらも人間離れした見切りでそれをかわすと、すぐに反撃にでました。



“よくもやったわねーっ!!”



 そういってラミエル君に躍りかかります。

 今日もアスカちゃんは元気ですね。





 数十分後、レイちゃんとアスカちゃんは通学路を懸命に走っていました。

 急遽、勃発した『直上会戦』をなんとかのりきった2人ですが、今度は遅刻の危機に陥っているのです。

 初夏の日差しも、朝のうちならば、幾分、優しいものになります。

 大きな身体に日の光をいっぱいに浴びて、アラエル君が気持よさそうにプカプカと青空を横切っていきます。



“・・・・・・今日、転校生がくるそうね”

“そうみたいね。もうすぐここも遷都するんだから、どんどん人が増えていくわよ。   でも、珍しいわね。
 あんたがそういう事に興味をもつなんて”

“・・・・・・別に、興味はないわ”

“はい?”

“・・・・・・どんなこかしら・・・・・・? 可愛いこだといいわね”

“・・・・・・あんた、なにいってんのよ・・・・・・?”



 女の子同士、走りながらも仲よく会話の弾む   あんたにはそうきこえるの、コレ?    2人でしたが、そのためか、十字路にさしかかった時、塀のかげから誰かがとびだしてきたのに気づくのが遅れました。



“あ! レイ、前!”



 アスカちゃんの注意を促す声も間にあわず、レイちゃんと、とびだしてきた誰かがぶつかります。

 『ゴイ〜ン』という痛そうな音とともに、もつれあいながら派手に転倒しました。

 その拍子に吹っとぶ鞄。同じく宙を舞うお茶碗とゴハン。



“ちょっと、レイ! 大丈夫!?”

“・・・・・・うう”



 レイちゃんは少しうめきながら頭をさすっていますが、とくにケガなどはしていないようです。

 それは相手も同じようで   

“やあ、すまなかったねぇ。少し急いでいたんだよ。
 リリンにとって『初日から遅刻』というのは『かなりヤバイって感じ』らしいからねぇ”

などと呑気にコメントしながら、最早、伝説と化しているアルカイック・スマイルを浮べ、朝日をうけて輝く銀の前髪をかきあげました。

 一見、キザなようにもおもえる仕草ですが『彼』がやるとバカみたく様になります。

 そう、たとえ、髪をかきあげる手にお箸を握ったままでも。



 ・・・・・・よくみると、夢のように白い肌の頬にはご飯粒がくっついています。

 さっき、空をとんだ物品といい、どうも『彼』はドンブリ飯をかっこみながら登校していたようですね。

 そりゃ、前方不注意にもなるでしょう。



“朝食は1日の基本というからねぇ”



 そうじゃなくて、もっと携帯性のある食品だってよかったんじゃないかとおもうんですよ。



“なにをいうんだい。和風の朝食、これこそリリンがうみだした偉大な文化の極みだよ。好意に値するねぇ”



 そういうものですかね。ちなみに作者の朝飯はたいがいパンですが。



“そういうところに彼の人格破綻の原因があるんじゃないのかい?
 いや、勿論、彼の場合、それだけが原因だとは、とてもいえないけどねぇ。
 そもそも彼はお世辞にも文化的なリリンであるとは   おや、リリスはどうしたのかな?”



 いつの間にか、たおれこんでいたレイちゃんの姿がありませんでした。

 アスカちゃんが謎の珍獣をみるような目でこちらをみているだけです。



   がしっ



“おや?”



 女性も羨むようなスレンダーボディが、突如、背後から羽交い絞めにされました。

 気配もたてずにまわりこんだレイちゃんの仕業です。

 そしてそのまま   

“・・・・・・ペガ○ス・ロー○ング・○ラッシュ”

“おおおお?”



 彗星の尾のような残光を引きつつ、2人の身体が第3新東京市の空を裂きます!

 上昇運動の頂点で身体のむきを入れかえると、そのまま地面めがけて真っ逆さま!

 アスファルトの道路に『ドグシャア』と『彼』の頭蓋をつき刺しました!

 これを「車田落ち」と呼ぶそうですね。作者も他の作家さんのSSでしりました。



“・・・・・・殲滅完了”

“・・・・・・うう・・・・・・。き、きいてもいいかい・・・・・・?”

“・・・・・・なに?”

“・・・・・・な、なぜ・・・・・・僕を・・・・・・?”

“・・・・・・ホモは嫌い”

“・・・・・・フ、フフフ・・・・・・。まさか・・・・・・伝説の技の中で・・・・・・最もマイナーなこの技まで習得していたとは・・・・・・。
 世界は脅威に満ちているよ・・・・・・。恐るべし・・・・・・リリス・・・・・・”



 やっとのおもいでそこまでいうと『彼』はガックリと力尽き、そのままピクリとも動かなくなりました。

 豪奢な銀髪を、真っ赤な血が染めていきます。





・・・・・・いったい誰だったんでしょうか(^^)













“敵艦隊捕捉! 大型戦艦5、小型戦艦多数!”

“エス○バリス隊は出撃準備を急いでください”

“機動戦艦エヴァンゲリオン、速度固定。相○位エンジン、異常なし”



 突然、喧騒に包まれて、レイちゃんは我にかえりました。寝ていたんでしょうか? よくわかりません。

 ここはどこでしょう? 一瞬、発令所かとおもいましたが、どうも違います。

 機能的には同じような施設なのでしょうが、もっとこじんまりとしていますね。

 レイちゃんはそこのモニター席のひとつにチョコンと座っているのです。



“敵集団にチュー○ップを確認。まだ休止状態のようです”

“○ョロやバッ○が接近します。接触まで200秒!”



 さっきからなにやら怪しげな状況報告を行っているのは、レイちゃんの両隣に座っている日向さんと青葉さんです。

 2人ともいつものネルフの制服ではなく、もっと派手な、オレンジ色に近い色彩の服を着ています。   と、おもったら、レイちゃん自身も似たようなデザインのベストを着ていました。

 新しい制服でしょうか?



“A.T.・・・・・・じゃない、ディストー○ョンフィールド、出力全開。主砲のエネルギーチャージを急いで”



 後頭部のむこう側からきき慣れた声が指示をだしてきます。レイちゃんはふりむきました。

 あれは・・・・・・似合っているのかいないのか微妙なラインですね。

 白いハーフ・マントと、お揃いの帽子というかっこうで、部屋全体を見渡せるスペースにミサトさんが仁王立ちしていました。



“了解しました、艦長”



 ミサトさんは艦長さんなんですか。日向さんと青葉さんは復唱しつつ、ミサトさんの命令を実行していきます。



“まさか、こんなところで待ち伏せをくらうなんてね・・・・・・。リツコ、どうおもう?”



 この人はいつもの印象と殆どかわらないですね。

 白衣姿でミサトさんの隣にいたリツコさんが独自の見解を述べはじめます。



 ・・・・・・なぜだか嬉しそうに。



“説明しましょう。
 我らが機動戦艦エヴァンゲリオン就航時には確かに不仲だったネル○ルと連合軍だけど、現在は和解して共同戦線を構築しつつあるわ。
 この動きは戦況有利な木○○カゲとしても見過せないレベルになりつつある。
 したがって彼らとしては少しでも我々の戦力を削ぐため   

“おい、葛城。迂闊にりっちゃんに意見を求めるなよ。『説明』が終るよりはやく戦闘が終っちまうぞ”



 ミサトさんを挟んでリツコさんとは反対側の副長席に控えていた加持さんが、うんざりした顔でいいます。

 服装はほぼミサトさんと同じ、士官用の白い制服ですが、この人の場合、断言できます。

 びっくりするほど似合ってません。



“チッ、わかったわよ。エ○テバリスで敵を足どめ、主砲斉射ってとこね。   よろしいですか、提督?”

“うむ”



 一言で応じる冬月さん。ミサトさん達のうしろで、明らかに格が違う軍服を着こんで座っています。

 なのにいつもより輪をかけてかげが薄いのはなぜでしょう?



“マヤちゃん。○ステの準備はどう?”



   ピコン



 電子音とともに、ミサトさんの視線の先の空中にウィンドウが開きました。

 うつっているのは青いつなぎ姿のマヤさんです。

 通信機器の一種ですね。



《ハイ、格納庫、OKです。大丈夫ですよー。皆、いつでもでれます》

“よーし! ○ステバリス、全機発進!”



 ミサトさんの命令をうけ、窓の外の宇宙空間を人型兵器がとんでいきました。エヴァより随分と小型のようです。

 同時に次々と周囲に4枚のウィンドウが開きました。

 4枚中3枚には馴染みのメンバーがうつり、あとの1枚はサウンド・オンリーです。



   ピコン



《まったく、なんで私に1人でやらせてくれないのよ!? トカ○どもなんて私だけで十分なのに!》



   ピコン



《腹へったのー。さっさと終してメシにしよーや》



   ピコン



《もう、鈴原! 真面目にやりなさいよね!》



   ピコン



《おい! ちょっと待て! なんで俺だけ声のみなんだ!? なんだよ、俺がなにしたっていうんだ!? また、これも俺の「業」だとかいうのか!? ふざけんなよ!? オタクだからか!? 変質的だからか!? オタクなのも変質的なのも作者だって同じだろーが!   ん、なんだ!? おまけにフェードアウトだと!? 畜生、バカ作者め! よーし、そっちがその気なら、こっちだって黙ってないぞ! みてろよ! 全国2千万人のケンスケファンの熱血とともに、絶対いつの日か貴様の息の根を『ドガガァン!』 ぐああ!   な、なんだ、直撃!? こ、この距離でか!?    ハッ!? 貴様か!? 貴様の仕業か!? そこまでやるか、普通!? 殺す気か!? 殺すんだな!? よーし、やれるもんならやってみろ! おまえなんか怖くないぞ! この変態のガイキチのインポ野郎『ドガドガドガドガドガ!!』キャーッ! 助けてパパーッ!!》



   ・・・・・・ピコン



 ・・・・・・えー、人型兵器はそのまま敵兵器群と戦闘に入りました。宇宙の闇を幾つもの爆光が彩ります。



“よっしゃ! 加持! この隙に主砲の準備よ! 『グラビティゲンドウ』発射準備!”



 ミサトさんが物凄い単語を臆面もなくいってのけました。

 しかし、それをきいた加持さんも特に動揺した様子もみせず、復唱します。

加持さんだけでなく日向さんや青葉さんも問題にしていないようです。



“りょーかい。『グラビティゲンドウ』スタンバイ”

“敵艦隊、射界内に捕捉しました! エ○テバリス隊、散開します!”

“エネルギーチャージ120%! 『グラビティゲンドウ』いつでも発射可能です!”

『グラビティゲンドウ』発射ーッ!”



ヒゲェ〜ッ




 ・・・・・・なんというか、物凄く救いよーのない発射音が、真空のはずの宇宙空間に響き渡りました。



 それに、レイちゃんは確かにみました。

 一直線に敵艦隊へつきささった重力波の閃光の中に、まるで幽霊のように『ヒゲ』&『グラサン』がうつるのを。



 それでも威力だけはたいしたもので、たったの一撃で○ューリップ以下全敵艦隊を撃破することに成功したのです!



“よっしゃーっ! 流石は『グラビティゲンドウ』ね! 凄い威力だわ!”

“説明するまでもないわ。『グラビティゲンドウ』は○ルガルが誇る新兵器ですもの。当然よ”

“でも、本当に凄いですよ、『グラビティゲンドウ』は!
 『グラビティゲンドウ』がなかったら、とても火星宙域での単艦行動なんてできませんからねぇ!”

“うむ。ぜひ連合軍にも『グラビティゲンドウ』に関する技術提供を行って欲しいものだ”

“いやー、本当、『グラビティゲンドウ』万歳だな!”

 その場にいるレイちゃん以外の皆が口々に異常な超兵器を褒め称えます。

    いや、気がつくと、通信機のウィンドウが無数に開き、格納庫や人型兵器のコクピットからも賞賛の声が届いています。



 レイちゃんは、そんな皆の様子を静かに眺めていました。



 そして



 右をみて



 左をみて



 最後に正面をみて、一言だけ呟きました。





“・・・・・・ばかばっか”













「・・・・・・今日も夢をみたわ」





「・・・・・・今日も夢をみたわ」





「・・・・・・今日も夢をみたわ」





 いつからか葛城家の朝食の場で最も口数が多いのはレイちゃんになっていました。

 同居している皆に昨晩みた夢の内容を話してきかせるのです。



 同居人達は、そんな『毎朝の恒例行事』が気に入っていました。

 ミサトさんは、普段、口数の少ないレイちゃんが、この時だけは饒舌になるので、とてもイイコトだとおもっていました。

 『妹』の元気な姿は彼女にとって『えびちゅ』にも匹敵する心の清涼剤です。



 シンジ君もレイちゃんの話をよくきいてあげました。

 ただ、たいていの場合、話をききながら「一生懸命に喋る綾波も可愛いなぁ」とか考えているのは、誰にも秘密です。



 アスカちゃんは純粋にレイちゃんの夢の話を楽しんでいました。

 レイちゃんの夢は、一見、ムチャクチャな内容ですが、その中にも基本といえるストーリーが通っていて、きいていて面白かったのです。



 したがって、1番、現状に不満をもっているのは、意外なことにレイちゃん本人でした。



 レイちゃんの不満は『ある人物』が夢にでてこないことでした。

 こればっかりは、どうしようもありません。夢の内容を自分で調整するわけにはいかないのですから。

 そんなことはレイちゃんにもわかっています。

 ですが、レイちゃんはその『ある人物』のことが大好きなのです。いや、愛しているといっても過言ではありません。

 なのに、なぜだか周囲の人々が頻繁に登場する自分の夢に、その『ある人物』だけが現れないという事実は、レイちゃんの乙女心を困惑させるのに十分でした(あの『ヒゲ』『ナルシスホモ』すらでてきたというのに!)。



 レイちゃんは段々と悲しくなってきました。












   イ・・・・・・! レイ・・・・・・!”



 遠くから誰かが自分を呼ぶ声がきこえてきます。



“・・・・・・うう・・・・・・”

レイ・・・・・・! レイ! 気がついた!? 大丈夫!?”



 その声に覚醒を促され、レイちゃんは、ゆっくりと目を開きました。



 そこは荒れ果てた岩場でした。空は気持悪い色の雲に覆われています。

 もし、地獄というものが実際にあるのなら、きっとこんな場所なのでしょう。

 レイちゃんは、まだボンヤリする頭で、それでも、ずっと自分を呼び続けていた声の主の姿を探します。



“レイ! ラブリーレイ! 大丈夫!? たてる!? どっか痛くない!?”

“・・・・・・また、貴方なの、ミトサ”



 レイちゃんの視線の高さにフワフワと浮かんでいたのは、あのミトサでした。

 実は彼女、レイちゃんの夢への登場回数ランキングの上位常連者だったりするのです。



 そして常に彼女とペアで登場するのが   

“オ〜ッホッホッホッホッホッ! 無様! 無様!
 な〜んて無様なの、ラブリーレイ!!”


 ・・・・・・やっぱりいました。

 『科学』という名の魔法を操る白衣ボンテージの魔女が。無駄に高笑いを轟かせ、今日も絶好調のようです。





 ・・・・・・ちなみに、魔女は、今日もいつも通り、彼女自慢の戦闘ニャンコの頭の上にいました。





 ・・・・・・今週の戦闘ニャンコは、外見に精神攻撃能力を添付することに成功したよーです。





 ・・・・・・え〜、精神汚染覚悟で解説させていただきますと、かつてドグマの深遠でなんたらの槍に封じられていたリリスの肉体、その首のうえにネコミミヒゲがのっているような感じです。



 単品ずつでも気色悪いというのに、それがマッチした時の相乗効果といったら、もう・・・・・・!



“どう!? 今週の戦闘ニャンコ『クロネコゲンチャン』のこの雄姿! あまりの神々しさに目が眩みそうよ♪”

《問題ない》

“キャーッ! ゲンチャン、カッコイイーッ♪”

““・・・・・・狂ってる””



 特有の鳴き声を漏らす怪物に喜色満面で抱きつく『マッド魔王』。

 レイちゃん   ラブリーレイとミトサの彼女へと対する評価が完全に一致した瞬間でした。



“・・・・・・マッド魔王め・・・・・・。なんておぞましい敵をつくるの・・・・・・”



 ミトサの恐怖が詰った声に、流石に顔を青くしてコクコクと頷くラブリーレイ。

 今日のラブリーレイは、今、自分が夢をみていると認識しています。

 このバケモノが自分の想像力によってうみだされたのかとおもうと、嫌悪のあまり、夢の中だというのに失神しそうです。



“でも、奴は強いわ。ラブリーレイの○ケティッシュ・ボン○ーや伝説の技の数々も通じない。
 それどころか、奥の手である守護神獣も、奮闘むなしくたおされてしまった”



 確かにラブリーレイ達から少し離れた場所に、赤毛の大猿が、まるで魚河岸の冷凍マグロのように『デレ〜ン』と横たわっていました。

 こんな敵に敗れるとは、大猿も、さぞ無念だったことでしょう。

 みると、ラブリーレイのゴキゲンなコスチュームもミトサの露出過多なタンクトップも、それって、あちこちボロボロでした。

 さぞ、激しい戦闘が行われたのでしょう。



“クゥッ・・・・・・! もう少しで、囚われのシンジ王子を助けることができるというのぴゅぎりっ!”



 ・・・・・・わかり辛かったかもしれませんが、今のは悲鳴です。

 口上の途中、ラブリーレイの右手がミトサの胴を鷲掴みにしたのです。



“・・・・・・今、なんていったの?”

“ゲェ・・・・・・! な、なにするにょよ、ラブリーレイ・・・・・・!?”

“・・・・・・こたえなさい”

“ヒィッ!?”



 魂すら貫くような真紅の眼光を正面からうけ、ミトサの顔に死相が浮びました。

 同時に、脳の言語中枢がこれでもかというくらい活発になります。



“・・・・・・誰が囚われているの?”

“い、碇シンジ王子であります! 我らが故郷『げるひんぜーれ』の皇太子・・・・・・!”

“・・・・・・どこに囚われているの?”

“グェェ・・・・・・! あ、あの城の中だとおもわれ・・・・・・おもわれ・・・・・・ます・・・・・・!”



 常人の50倍を誇るラブリーレイの握力に生命を鷲掴みにされながらも、ミトサは、かすむ瞳と震える手で、マッド魔王達の背後にそびえる、これまたいかにもソレっぽい感じの城を指し示したのです。



“・・・・・・どうして囚われているの?”

“な、なぜって・・・・・・忘れちゃったの、ラブリーレイ?
 マッド魔王は『げるひんぜーれ』征服の手段のひとつとしてシンジ王子を誘拐したのよ。
 王子の救出は私達の最終目的でしょうが!?”

“・・・・・・なぜ、貴方は、そういう大切な設定を、ずっと黙っていたのかしら?”

“ギュギャァッ・・・・・・! お、お許じを・・・・・・!”

(・・・・・・そう・・・・・・。そうだったの)



 より過激にミサトを責めあげながら、ラブリーレイは、未だに目前でラブラブしているバカ夫婦を睨みつけます。



(・・・・・・どんなに彼を求めても巡りあえなかったのは、全て貴方達のせい・・・・・・。許さない)



 目覚し時計が鳴れば、その『愛しの彼』に朝食セットのおまけつきで巡りあえるのですが、そういう的確なツッコミをいれてくれる人物は、残念ながらこの場には誰もいませんでした。

 とにかくラブリーレイにしてみれば、こうなったら一刻もはやくシンジ王子を助けたいところなのですが・・・・・・。



“・・・・・・それには、あのバカ夫婦が邪魔・・・・・・。殲滅・・・・・・。どうやって?”

“・・・・・・ぼ、方法ばありまず・・・・・・”



 かすれきった声で告げた途端、ミトサは強烈な圧迫感から解放されました。



“ゲ、ゲボゲボ・・・・・・! し、死ぬかと“・・・・・・はやくいいなさい”ハ、ハイ〜ッ! 最強魔法をつかうしかないとおもいます!”

“・・・・・・最強魔法?”

“え、ええ。   これよ!”



 またまたなにかを投げてくるミトサ。またまたシュッパッとうけとめるラブリーレイ。

 今度のマジックポーションの名は『えびちゅ〈ボトル缶〉』。



“それを飲んで、最強魔法『A.T.F』をつかうのよ!”

“・・・・・・A.T.F・・・・・・。A.T.フィールド?”

“ふぃーるど? 違うわよ! ラブリーレイが誇る最強の攻撃魔法!
 その名も『(A)あいつは・(T)とっても・(F)ファンキー野郎』!
 略して『A.T.F』よ! この呪文なら、あの『ピー魔王』だってイチコロよ!!”

“・・・・・・”



 最強魔法のネーミングやら、遂に放送禁止用語になった魔女の名前やら、ツッコミどころ満載なのですが、何度もいうようにラブリーレイはそれどころではないのです。

 ラブリーレイは一気に〈ボトル缶〉を飲み干しました。たちまちその全身から強大な魔力が迸ります。

 足もとに落ちていたロッドを構えました。

 それをみて、バカップルごっこに励んでいたピー魔王も表情を引締めました。



“バカな娘ね。まだ、ゲンチャンに勝つつもりでいるの? 貴方程度の魔力では不可能だわ”

“・・・・・・関係ない・・・・・・。私は碇君をまもると誓った・・・・・・。たとえ、それが夢の中だろうとも”

“フン。やれるものならやってみなさい。   さあ、頑張って、ゲンチャン!”

《問題ない》



 正義の魔法少女と異形の巨人が対峙しました。

 視線と視線がぶつかりあい、その間で魔力が極限まで高まっていきます。

 いき場をなくしたエネルギーが、天空に稲妻を呼び、大地を激しく揺らしました。



 そして   

 両者、一斉にしかけました!



“・・・・・・最強魔法『A.T.F』・・・・・・!!”

《『ヒゲMAX』!!》(技の名前)



 ラブリーレイが構えるロッドの先からは清浄な霊気が迸り、クロネコゲンチャンの顎からは膨大なエネルギーがうちだされました!

 凶暴なプレッシャー、眩いばかりの閃光が、あたりを埋め尽し   












「3班! 3班! 応答しろ、3班!」

「駄目です。付近の住民の避難が遅れています。達成率、約80%」

「急がせて!」

ザザッ・・・・・・こちら第2班! 『snow』の足をとめられない! 至急、増援を請う!》

「5班をBポイントに移動。2班の応援にあたらせて」

「了解! しかし、これだけの戦力では、とても『snow』をとめられませんよ!」

「わかってる。とにかく今は時間を稼ぐのよ」

ザザッ・・・・・・ガガッこちら第2ピピーッ援はまだか!? 第3班は、全員、行動不能! 応援はまだか!?》

「葛城さん! 本部から緊急入電です!」

「繋いで!」

《きこえる、ミサト!? エヴァの使用許可がおりたわ! 至急、チルドレンをこちらによこして!》

「・・・・・・! 了解!」

「エヴァをだすんですか!?」

「・・・・・・そうよ・・・・・・。チルドレンの移動に5分。エヴァの起動に3分・・・・・・。お願い、時間を稼いで・・・・・・!」

「・・・・・・了解!    おい、残存している戦力をDポイントに集めろ! 決着をつけるぞ! 俺もでる!」

「そ、そんな!? 無謀ですよ、隊長!」

「なにが無謀か!? 保安部魂をみせろ! (すまん、カスミ、ケンタ・・・・・・。お父さんは、もうかえれないかもしれん)」

ザッ・・・・・・ジジッら第5班! こちら第5チュィーッ ガガガッ・・・・・・にて『snow』と接触!
 第2、第3班は全滅! 応援を   う、うわ・・・・・・。うわわ! まて!
 ちょっとまてって!    うわわぁ〜っ! 助けて〜っ! 助けザザザザザッ


「シンちゃんとアスカは本部へ急いで! 長くはもたないわ!」

「綾波!? 目を覚ましてよ、綾波!」

「ほら、グズグズしてんじゃないわよ、バカシンジ!
 いくらあんたでも、あんなのに生身でたちむかったら死んじゃうって!」

「『snow』の移動速度上昇! 方向転換!    こっちにきます!」

「やば・・・・・・! 逃げるわよ、皆!」

「綾波ーッ!」

「あ〜っ、もう! 最低!」












 深夜、人気の絶えた第3新東京市。





 寝惚けたままA.T.フィールドを乱発し、





 保安部決死隊の皆さんを片っ端から薙たおしていくレイちゃんでしたとさ。



〈ちゃんちゃん♪〉









 ワンバンコです。烏賊すページにおこしの皆様、はじめまして。ヤシチと申します。
 いくつかのサイトに投稿してる、ケチなSSかきでありんす。
 以前、別のサイトに投稿したSSに怪作様が感想をくださいまして、今回はそのお礼ということで・・・・・・。

 ・・・・・・というかですね、最近、この烏賊すページに投稿されてる他の作家さんのあとがきを読んだんです。
「感想をくれたお礼に・・・・・・」 そうかいてあった方、1人じゃなかったです。

「うぉ! やはり、そういうのがマナーか! うぉぉ! しかも、俺、怪作様に感想貰ったの、1回じゃないやん!」
 ・・・・・・てなわけで、このSSを贈呈させていただきます。怪作様、無作法なヤシチをお許しくださいませ。

 作品について説明させていただきますと、この「どー日」シリーズはヤシチが某サイトに投稿していたもので、シリーズ1作目は怪作様から感想をいただいたりしました。
 4人同居中で、ゲンドウとリツコは別のとこで新婚さん。ジャンルはEOEアフターのLRASかな。
    あれ、ここってLASサイトじゃ・・・・・・? あれ、しかも今回はLRSっぽい・・・・・・。

 ・・・・・・え、ええーと、作中で綾波さんがつかう「伝説の技」は漫画版です。ヤシチはアニメ版をしりません。
 『彼』がくらった技はしらない人もいるかな? 全作通して3回程つかわれてました。
 それと魔法少女ですが、あきれたことにヤシチはこのモトネタを1回もみたことありません。
 衣装も必殺技も全部またぎき。間違ってたらご指摘ください。
 ヤシチとしては綾波さんに「ばかばっか」といわせただけで今回は満足なんです(^^)

 あう、ダラダラとあとがきしすぎなんでこのへんで。読んでちょっとでも笑っていただければ、それでヤシチも幸せです。

このサイトでははじめましてのヤシチさんから投稿作品をいただいてしまいました。
それにしても例のサイトもあまり見ないです最近‥‥うーむ。

それはともかく、レイちゃんのボケぶりとシンジらぶが際立っていますねえ‥‥。

それにしても面白い夢を毎回見るのですねレイは。この後が少し怖いですが‥‥。

なかなかに面白い話でありました。皆様も是非ヤシチさんに感想メールを〜。

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