『よぉ』
『あいつ』の第一声はそれだった。
いきなり、何気無く。
でも、圧倒的だった。
凄い存在感で僕の中に浸透してくる。
『あのさ…俺思うんだけどさ』
取り合えず、何か言ってるので聞くことにする。
訳分かんないけど、下手に逆らわない方が良さそうだ。
僕は一先ず頷いた。
『俺…いや、お前ってさ、はっきし言って美少年じゃん?』
は?
『は、じゃねえって。あんまり意識してないみたいだけどな。まぁ、それはいいや。
でもってあれだろ?両親ともエリートじゃん。金も権力もあって実はサラブレッド?』
そ、そうかな?
う、う〜ん…言われてみればそうかもね。
でも僕は普通の中学生だよ。
『いや、それも違うだろ。なんたって地球を救ったパイロットだぜ?』
い、いや…何だか正しいようでいて致命的に間違ってるような…。
僕なんかただ暴走して無茶苦茶しただけだし。
『謙遜するなって。暴走は長所だ』
な、何だかよく分かんないけど。
『しかも、家事能力抜群…これだけのステータスを兼ね備えた上に、だぜ?』
家事は…単に必要に迫られて、だよ。
自慢できるもんじゃない、と思う。
『なに言ってんだよ。必要は発明の母だぜ?』
……。
僕には君が何を言ってるのか良くわかんないよ。
『はっはっは、俺にもわかんねえよ。』
………。
『そんなに受けるなよ。
…なぁ、シンジ…お前に足りないのってなんだと思う?』
え?足りないもの?
『おう』
足りないもの…。
多すぎてなにが足りないのか…。
僕なんて…ホントに、何にも出来ないし。
『それだね』
え?
『お前には自信が足りてないんだよ!いつも優柔不断で、内罰的で…もっと自分に誇りを持てって』
え、で、でも…。
『いいか?お前はさっき言ったように実は凄え奴なんだ。本気さえだしゃあ何でも出来んだよ。
後は努力だな…あの二人のガキなんだから頭もいい筈なんだぜ?』
り、理屈ではそうかもしれないけど…。
や、やっぱり僕なんかダメだよ!
『はぁ〜、やる前から何言ってんだよ。いいからやってみろよ、俺が保証してやるから』
ほ、保証って言われても…大体君、何者なんだよ!
そうだよ…そもそもなんで僕のA.T.フィールドの中に入ってきてるんだよ。
『知ってるくせに…俺が誰かってこと』
知らないよ、君なんか!
『ほほう。俺はお前のことなんでも知ってんぜ。下着の色から昨晩のオカズまでな』
い、嫌な事言わないでよ。
一歩間違えば、て言うか一歩間違えなくても充分危ないよ!
『やれやれ…だな。いい加減認めろってば』
何をだよ!
『なぁ、シンジ…分かってんだろ?さっきまでのは全部密かにお前が思ってたことなんだぜ?
ついでに言えば、それで皆を見返してやりたいとか思ってんだろ?』
思ってない!
嘘だ!
『はいはい…っと。往生際が悪いねぇ…いい加減その偽善者面やめたら?』
違う!
『まぁまぁ、別に怖くも何ともないんだぜ?たった一歩勇気を出して踏み出すだけでいいんだ。
そしたらお前はヒーローだ』
違う!
『親の金も権力も好きに使ってよ、おねーさんウケしそうなその顔も最大限に生かして…』
違う!
『頭だってホントはいいんだ。馬鹿は頭いいフリできねえけど、その逆は出来んだぜ?
愚民どもを見下すのって気持ちいいぞ?』
違う!
『そんでもって使えるのがパイロットの肩書き…代わりがいないってもいいよな。
何しても超法規権限で揉み消せんだ。VIPの立場を使わない手はねえって』
違う!
『無理すんなよ。お前の本性は分かってんだ』
違う!
『なぁ、悔しくねえのか?
あんな似非関西弁喋ったり、ジャージ着たりしてアイデンティティ確認してるような詰まんねえ熱血シスコン馬鹿に殴られて』
違う!
『保護者面して結局最後は投げちまった、万年アル中の生活無能者の世話すんのにも嫌気さしてんだろ?
何が大人のキスだ、このショタが!!』
違う!
『弱さの裏がえしの冷酷さで散々俺らに迷惑掛けといて、
結局最後に「済まなかったな」の一言しか言えねえコミニュケーション不全者にも復讐してえだろ?』
違う!
『「君になら出来る、君にしか出来ないことがあるはず」だ?
お前の出来ることと言ったら3重スパイとスイカの水やり程度じゃねえか!
真実に近づくだかなんだか知らねえが死ぬなら人様に迷惑かけねえように死ねよって感じだよな!』
違う!
『ロジックじゃないもの…とか訳分かんねえこと言って、
結局自分の罪を自己弁護してるだけのマッドには八つ当たりで何をされた?殺してえだろ?』
違う!
『人を散々誘惑しといて最後は他の男に走ったあの尻軽女はどうだ?
て言うかお前はあからさまに戦自の捨石だっての。立場弁えて行動しろよって感じだよな!』
違う!
『生と死は等価値?自殺願望を幾ら論理武装してカッコつけたって、お前は所詮ただのナルシスホモなんだよ。
あんなのに貞操狙われたんだぞ?腸煮えくりかえんだろ?』
違う!
『極めつけはあのサル!人を散々馬鹿扱いしといて自分は自意識過剰の精神病質者じゃねえか!
惰弱な精神力しか持たねえくせに、功名心だけは異様で、とばっちり受けるほうはたまったもんじゃなかったぜ、な!?』
違う!
『て言うか全殺し決定?』
違う!
『違わねえよ!』
違う!
『これは全部お前の心の声…お前の本性だ!!』
違う!
『違わねえ』
違う!
『違わねえ』
違う!
『違わねえ』
違う!
『違わねえ』
違う!
『違わねえ』
違う!
『違わねえ』
違う!
『違わねえ』
…ちが…!
『違わねえ』
う…うぅ。
『違わねえ…認めろよ』
う…あぁっ!
『これがお前だ』
違…う…ぅ。
『違わねんだよ』
……っ。
『さぁ』
っく…あぁ…ああああ。
『俺はお前だ。さぁ、一つになろう』
あ、あ……あああああああAaあああああああaあああAAAAAAAAぁあAAAAA!!!!!!!!!
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
『よぉ』
……。
『あのさ…俺思うんだけどさ』
……なに?
『俺…いや、お前ってさ、はっきし言って美少年じゃん?』
当たり前だろ?
『凄い自信じゃねえか。当然だけどな。まぁ、それはいいや。
でもってあれだろ?両親ともエリートじゃん。金も権力もあって実はサラブレッド?』
金は便所に流す水と同じさ。
権力?僕が愚民を導いてやるのに必要なだけさ。
大したもんじゃない…あって当然だから。
『おう、全くだな。しかも地球を救ったパイロットだぜ?』
まあね。いざとなったら史上最強の決戦兵器で大量虐殺でも何でも出来るからね。
NERVスタッフさえ懐柔すれば世界征服も夢じゃないよ。
『謙遜するなって。世界はお前のものだ』
そうだね。まだ分かってない馬鹿どももいるみたいだけど。
『そんなインヴィンシブルな俺らだが、しかも、家事能力抜群…最早死角なしだよな?』
今時家事も出来ない男なんてダニだよ。
女で出来ないなんて言ったらもう存在そのものがギョウチュウ以下だけど。
『結構差別主義なのな、お前…』
そうでも無いよ。
人類皆平等だなんて錆付いた妄想に取り付かれた愚民どもの価値基準じゃ僕を量れないだけさ。
巨視的に見ればそれも一つの真実…て言うか僕が法だから。
『はっはっは、最高だよお前。漢だな』
ま、ね。
『全く流石としかいえないな。
…なぁ、シンジ…そんなお前に足りないのってなんだと思う?』
足りないもの?
『おう』
足りないもの…。
そんなもの、あるわけ無いだろ?
例えあったとしても必ず手に入れる…それが僕さ!
『くっくっく、いいねえ…はは、はははははははははははは!!!』
クスクス…ははは!
「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはーーー!!!
天上天下唯我独尊、我より尊いものはなし!!!!!」
外道シンジ、生誕?
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
処変わって。
怪しげーな部屋の、怪しげーな機械の前に佇むジジイと美少女。
何だか満足そうに目の前の機械に接続された水槽を見ている。
ん?
その水槽、よく見れば人が浮いてる…。
あ。
…シンジじゃん。
いいのかよ、おい。
「くすくす、やったわね…予想以上の結果よ」
「うむ、全くだな…しかしこれ程とは」
「碇君だもの…」
「ユイ君の息子だからな…加えてあの外道の血が加わって最早手がつけられん」
とか、言ってるし。
「ふふ…これでレギュラー一存在意義のない男の汚名を返上して見せるぞ」
「くす、小市民的ね…まぁ、せいぜい虎の威を借りて井の中で足掻く事ね」
きついな。
「……くっ、いつか見てろよ」
悔しそうにうめくジジイ。
ホントにそうなところが悲しいよな。
「わ、私だって…私だってなぁ」
はいはい。
何だか既に正体はバレバレだが、謎の二人の謎の会話であった。
それはそうと、シンジに一体何をしたんだ?
「まぁ、後は碇君が目覚めるのを待つだけね…くす、楽しみ」
「うむ…そうだな」
ニヤリ。
邪悪に笑う二人。
て言うか怖い。
「くすくすくす」
「ふふふふふ」
もしも〜し?
『約束の時は来た!』
何言ってんだか…。
『赤毛ザル(ヒゲめがね)に死を!!』
……。
ダメだこりゃ…。
なんか危ない薬が決まったって感じ。
やれやれ。
……。
まぁ、何はともあれ。
「さぁ…目覚めの時よ、碇君」
らしい。
「うむ…新たなる創生の黎明だな」
……。
…取り合えず。
サードインパクト後の世界な訳だが。
平和はそんなに持たないだろうな。
この分じゃ。
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