THERE SHE GOES
Here comes New FF that is mixed up with rock music and LAS.
This FF is based on the same title song, sang & played by The LA’S, UK rock band.
Enjoy from your whole heart
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彼女は去っていく。
いつもの口喧嘩。それは大抵彼女から吹っかけられてきて、僕はいつもならあっさり譲歩してやるのだけれども、今回は違った。そう、”いつもの”口喧嘩ではすまない事態になってしまったのだ。
シンクロ率で高い結果を出していい気になっている所に嫌味を言われて、ムキになって噛み付いてしまったんだ。
売り言葉に買い言葉。汚い言葉の応酬。
お互いの心を思いやることなく、一時の熱情に任せて鋭いナイフでお互いの心を傷つけあう。飛び交う刃物の音がダイニングに悲しく響く。
「何よ!シンクロ率でこのあたしをちょ~っと上回ったからって、調子に乗り過ぎてるんじゃないの!?あんたはあたしの下僕なんだから、口答えする権利なんか無いのに!黙ってあたしに従ってりゃいいのよ、馬鹿シンジは!」
僕は、彼女の言葉の端々に滲む、悲しみや虚しさの色彩を見て取る事が出来なかった。それがいけなかった。
「ふん!その下僕に負けた高飛車なお嬢様は、どこのどいつなんでしょうかね〜?さぞかし悔しいでしょうね、こんな情けない僕なんかに易々と打ち破られて。ねえ、お嬢様?」
心無い言葉。彼女の目の色が変わる。ずいっと僕のほうに近寄ってくる。僕は、この後の事を予測できなかった―――いや、したくなかった。
刹那。頬に走るシャープな痛み。アスカの平手を頂いたのだと理解するまでに、僕の不出来な脳には多少の時間がかかった。
「はんっ!もうアンタの事なんか知んないわよ!こんなシンクロ率の低いあたしなんかほっぽいといて、あの優等生とくっついちゃえば!そーすりゃアンタの念願もかなって、万々歳でしょーよ!あたしだってあんたみたいなウジウジした気持ち悪い奴なんかこっちから願い下げだったのよ、はぁ〜あ、清々するわっ!」
僕は、彼女の目元が濡れ、蛍光灯から漏れ出てくる光を反射させているのを了解した。口許だって酷く歪んでいる。涙が堰を切って溢れ出てくるのを必死に堪えているのだろうと僕は思った。
そんな彼女に対して何かを言おうとしても、僕の口はまるで酸欠状態の鯉の如く、パクパクとしか動いてくれない。これほどまでに僕の身体を恨めしく思った事は無い。思い通りに動かない身体を抱えて、僕はただ呆と突っ立っているのみなのだ。情けないったらありゃしない。終いには膝を折り床に蹲ってしまう始末だ。こんな弱い彼女を傷つけてしまい、その上フォローの言葉すらかけられないなんて、やっぱり最低だ、俺って。
そんな風にして内罰に耽っている僕を尻目に、彼女は乱暴に玄関扉を開け、靴も履かずに出てゆく。
「もう帰ってこないからね!探したって無駄よ、絶対に会ってやらないんだから!」
大きな音を立ててドアが閉まる。この扉は、恐らくジェリコの壁なのだろう。ああ、彼女は行ってしまったんだなあと朦朧とした頭で思う。もはや僕なんかがどうしようも無い所へと。
僕はそこからしばらく駄目になっちゃっていたようで、自我を取り戻したのは再び扉が開く音を聞いた時だった。一縷の希望を持ってその方を向く。しかし、果たして僕が見たのはもう一人の同居人兼僕ら――いや、もはや僕だけか――の保護者、葛城ミサトが呆然と丸くなっている僕を見つめている、という姿だったのだ。
ゆっくりと立ち上がりながら僕は言う。
「あぁ、お帰りなさい、ミサトさん・・・。あはは、すいませんね、ちょっとゴタゴタがありまして、今日の夕食の用意はまだなんですよ。何なら今からでも作りますが」
間。
「いえ、ご飯の方はいいわ、それよりも」
ごくり。緊張の証だろうか、つばを飲む音さえはっきり聞こえる。。
「アスカとあなたとの間に、何があったの?」
「お見通し・・・ですか」
「当ったり前でしょ!ずっとあなた達のことを見てきたのよ、おまけにそんなに顔ぐしゃぐしゃにしちゃって!分からない方が馬鹿ってもんよ!さあ、何があったのか話して!」
・・・ああ、泣いてたのか、僕。どおりで目の辺りがヒクヒクするわ、呼吸はし辛いわ鼓動は速いわ、な訳だ。
だがしかし、そのミサトさんからの言葉にも、僕は図星を衝かれたせいで天邪鬼な反応――思春期特有の行動だ――を返してしまう。
「・・・嫌、ですよ」
「何故なの!?」
「・・・これは僕たちの問題なんです。ミサトさんには関係有りませんよ。・・・口出ししないで下さい」
そして、僕は俯く。すると、胸倉を掴み上げられ、体が宙を浮く感じがあった。彼女は軍人としても一級の腕前を誇っているので、少年一人持ち上げるのなんて優しい事なのだ。
そして、彼女は悲しげな声でこう言う。
「どうして話してくれないの!私たち、家族でしょ!?例え血の繋がりは無くとも、私たち、家族でしょ!それはあの子だって一緒のはずよ!アスカもうちの大切な家族なのよ!それに、家族内に秘密があるなんて、私、嫌なのよ・・・凄く。だから、ねぇ、話して・・・?」
僕はゆっくりと顔を上げ、ミサトさんの顔を見てみる。彼女の顔も涙で溢れていた。
地に足が着いた。僕を解放してくれたのだ。そして僕を抱きしめてくれる。
今日は二人も女性を泣かせてしまった、僕は罪作りな奴だ、と呑気な考えが浮かぶ。
だが、その考えも”家族”という一単語により容易く崩壊し、思考の渦へと流されていく。
幼い頃に家族を失った。
三人ともがその同じキズを抱えていて、寄り添いあって生きてゆく。
紛い物の家族だなんて揶揄される事もあった。
傷を舐め合っているだけだと冷たい目で見られることもあった。
確かに当初はその側面もあったことは否定しない。
だが、一緒に暮らしてゆくうち、僕らの間には本当の家族の絆が芽生え始めていたのだ。
その芽を、僕は自らの手で・・・!
その事を自覚すると、僕は気が触れたかのように泣き出した。
より優しく、包み込むかのように僕を抱きしめるミサトさん。
やがて、僕は涙ながらに全てを語った。
プライドの高い、そのくせ人一倍に柔らかい心の部分を持つ彼女を傷つけてしまった事。
自分のことで有頂天になっており、そんな彼女のことに配慮できなかった事。
包み隠さず話した。
すると、暫く後にミサトさんは僕をゆっくり解放し、慈母の如き微笑みでもって、こう言った。
「馬鹿ね。アスカが誰のために、誰を護りたくてエヴァに乗っていたと思うの?」
以前の朴念仁の僕ならば気付かなかったであろうが、今日の僕は勘付いた。この時点ではうっすらと、だったが。だがいまいちピンとこない。あのアスカが・・・?_
「それはね、シンジ君。あ、な、た、を護る為よ。最初は自分のプライドを護る為に乗ってたらしいわ。でも、なんだか頼りないあなたと接しているうちに、彼女に初めて”誰か、他人を護りたい”という感情が生まれたらしいのよ。だから、その護る対象のはずのあなたにそんな風にあしらわれて、アスカもキレたのよ。」
改めて言葉で聞いてみても、やはり腑に落ちない。だから、内省してみる事にした。
僕に対し傍若無人な振る舞いをするアスカ。――そう言えば、そんな風に接してくれるのは僕ぐらいのものだ。どちらかと言うと、クラスメートとかには表面的な付き合いしかしていないように思う。
僕があの黒い球体の使徒に取り込まれて、その中から帰還した時、泣きながら縋り付いてきたアスカ。――そう言えば、その時アスカは『やだぁ、シンジぃ、死んじゃ駄目だよ、しっかり生きてよぉ・・・。そうじゃないと、もうあたし、頑張れないよぉ・・・。グスン』だなんて、言ってたっけ・・・。
あの時は暴走状態からの帰還だったから、ほとんど上の空だったんだけど・・・。あぁ、今思い出すだなんて!
で、復活後におちょくってきたのは照れ隠し・・・だったのか。とすると、あの苦かったファーストキスだって・・・。
あぁ、こうしてみれば彼女の行動一つ一つが、僕を思った末に出たものだったんじゃないか!彼女もとても不器用だったんだね、僕と一緒で・・・。こんな事に気付かなかった僕は、 なんて――!
そして、僕は僕の心の中で芽生え始めていたもう一つの小さな芽の存在を知覚した。
だが、所詮は後の祭り。
彼女は去ってしまう
彼女は僕の頭の中を駆け回る
僕はとどまり続けるこの気持ちを抑えることが出来ない
彼女は吹き飛ばしてしまう
僕の静脈の中で脈動する
僕はとどまり続けるこの気持ちを抑えられない
彼女は僕の名前を呼ぶ
僕の気持ちは揺れ動く
誰も僕の痛みを癒す事は出来ない
しかし僕はとどまり続けるこの気持ちを抑えることが出来ない
こんなに激しい気持ちを抱いた事は初めてだった。いてもたってもいられなくなって、僕はアスカを探しに家を飛び出そうとする。
そんな僕を引き止め、ミサトさんは明るくこう諭す。
「年中夏とは言っても夜は冷えんのよ~?それに、アスカもどうせ薄着のまま出ていっちゃったんだろうから、上着持ってってやりなさい」
苦笑しながらジャケットを僕に手渡す。ありがとう、ミサト姉さん。手間のかかる弟でごめんね。絶対にアスカを連れ戻して来るからね!
再び、僕は走り出す。確かに夏とはいえ、夜はひんやりとした空気が流れている。
こんな中で、アスカが一人震えているのだろうと思うと・・・!
思いつくところは殆ど当たった。ネルフ、加持さんのマンション、洞木邸、ないとは思ったけど綾波のマンション・・・。だが、そのどこにも彼女はいなかった。焦燥感が僕の心を黒く埋め尽くしていく。
疲労感を懸命に堪え、ふらつく足で最後に辿り着いたのは・・・そう、ユニゾン訓練期間中に二人で決心しあったあの公園だ。
直感で、『彼女はここにいる』と思った。息を整え、公園のゲートをくぐる。
果たして、彼女はそこにいた。一人、ぽつんと、ベンチに座って。
「近寄らないで」さっきと同じ、刺々しい声。
いつもの僕なら、怯んで、逃げてしまっていた事だろう。だが今の僕は違う。
アスカからも、何よりも自分自身から逃げちゃダメだということを身をもって知ったので、いつになく勇気を振り絞る事が出来たのだ。
確実に距離を縮めていく。まだ彼女は俯いている。
僕の距離が二歩分の歩幅程度になった時、彼女はおもむろに立ち上がった。
「◎△×□$@*!」
興奮しているからなのだろう、アスカの母国語であるドイツ語でまくし立てられる。そのうえ涙声だから、もう訳が分からない。
いくらこの調子に慣れたとはいえ、やはり未知の言語で高速で喋られるのは多少は怖いものだ。
彼女の言葉(恐らく拒絶)が尽きるのを待って、僕は彼女にさらに近づいた。手を伸ばせば触れられる、抱きしめられるといった状態だ。
「いや、こないで・・・!あたしさっきまでずっと泣いてたのよ、こんな酷い顔見せらんない・・・!それに、あんなにひどい事いっちゃったんだし、もう絶対に愛想尽かされてるのかと・・・!」
震えた声で言い放つ。よく見れば身体も震えている。
「・・・大丈夫だよ、アスカ、君は泣いていても綺麗だ。それにひどいことを言ったのはお互い様だろう?ほら、寒いんだからこれ、着て」
そう言って持ってきたジャケットを肩に羽織らせてやる。途端、収まる震え。
まだ目は真っ赤ながらも、呼吸は整ってきたらしくアスカはゆっくりと僕を見上げてくる。
「・・・綺麗?あたしが?グスン」
墓穴ったかな、と一瞬思う。しかし、もう逃げない。この状況から逃げてはいけない。一度去ってしまった彼女を取り戻すのだから、くじけてはいけないんだ。
「――ああ、そうだよ、君は誰より――そう――綺麗だ。ずっと密かに思い続けてきたんだ。その思いに自分ですら気付けていなかったって体たらくっぷりだったけどね。でも、アスカが去ってしまって気付いたんだ。僕は誰よりも、何よりも君だけを求め続けてきたんだって」
「シンジ、それって、まさか・・・」
「うん、僕は、アスカの事が、大好きなんだ」
止まる世界。アスカは息をするのも忘れてしまったようで、真っ赤な顔をしてこちらを見つめている。
やがて、アスカが再び僕に問う。
「・・・それ、本気、なんでしょうね?あたしは、乱暴だし、人の気持ちも分からない、冷たい女なのよ。それでもアンタはあたしが好きだって言うの?」
僕は、戸惑うことなく、返す。
「・・・うん、勿論さ。君は冷たい人間なんかじゃない。君をずっと見ていた。わがままなアスカ、笑ってるアスカ、怒ってるアスカ、闘ってるアスカ、すべて・・・好きなんだ。僕は君の優しいところを知ってるからね」
そう、彼女はとても優しい。表立ってそんな風に振舞う事は少ないけれど、笑ってるときや、僕を弄くったりのしているときのアスカの瞳は、とても優しい光を湛えているのだ。 今から考えると、僕はその光に惹かれたのかもしれない。
真っ赤な顔をして、アスカはこう言う。
「や、優しい!?バッカじゃないの、なにユメ見てんのよ!」
しかし、僕はこう返してやる。
「いいや、優しいよ。僕の知ってる誰よりもね」
「何よ、あんた何を見てそう言えんのよ!?こんな刺々しい口調であんたを罵ってる女のどこが優しいのか、さっさと言ってみなさいよ!」
「君の顔、だよ。」
「顔?」
「だって、とても楽しそうに笑ってるじゃないか。そうやって笑えるってのは、心底優しくないと無理なんだよ。そして君は笑っている。瞳も煌いているよ。そういうことだよ」
顔を撫でさするアスカ。そして、僕の指摘が本当だったことに気付き、赤かった顔をさらに紅くする。桜色から薔薇色へと変貌を遂げた、といった所か。
「じゃ、じゃあ、ファーストの事はどうなのよ!好意をもって接しているように見受けられましたけど!」
「ああ、そのこともはっきり分かったんだ。君の事を思っているときにね。レイはね、僕の母さんに似ているんだ。確かに好意を持っていたのは認めるけど、それは君に対して抱いているようなものじゃない。そう、それは言うなれば――家族愛、だよ」
母。家族。彼女だけではない、僕をも刺激してやまない言葉。言ってて思わず泣きそうになる。
効果が絶大だったのか、彼女は納得したような感じで口調を和らげた。ちょっとすねた口調だけど、それがまた可愛らしい。
「うー。にしたってあんたに言い負かされるだなんて、ちょっと・・・じゃなくて、かなり不本意よー」
「ははは、でも僕はアスカに勝てやしないよ。僕の負け試合ってコトは決まってたんだよ、初めて君に出会ったときから君のことを好きになってたんだからね」
「またあんたはそんな歯の浮くような言葉を易々と・・・」
「そうかい?でも、僕は君の事に関しては、素直になろうって決めたんだからね。だから、これは、僕からの、君への、まごころ、なんだよ」
「シンジ・・・」
上気した頬。見つめあう僕ら。
「だから、アスカ・・・」
「なに?シンジ・・・」
「僕に、君からのまごころを、欲しいな、って・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・うん、あたしもずっと好きだったよ、馬鹿シンジ・・・だから、とても・・・嬉しい。――――これがあたしのまごころよ、どう?」
Epilogue
「さぁ、帰ろっか、シンジ!」
手を繋ぎながら帰る僕ら。路面に、二つの影が落ちる。
「あ、は、は、なんか恋人同士みたい、だね・・・。って言うか実際そうなんだよな・・・あはは、照れちゃうな~」
「ん?何言ってんの?馬鹿シンジ、あたし達は家族なのよ?」
「えぇ!?普通家族は手なんか繋いで、こんなでれでれ歩かないよ?」
「・・・はぁ、やっぱりアンタは馬鹿シンジね。あたしがあんたのお嫁さんになったら、それって家族ってことになるんでしょ?あんたはあたしの大事な家族よ。父母や兄弟ではなく、夫って肩書きにはなるけどもね。――――そういうことよ、わかった?」
あはは、やっぱりアスカには叶わないなぁ。将来の予約まで入れられちゃった。でもまぁ、アスカと戦う負け戦なら、望む所だし。これからも僕はずっと負け続けていくのだろうし、そうありたい、なぁ。――――でも、たまには勝たせてね、僕のかわいいお嫁さん?
おわり
作者あとがき
ええと、初投稿&初LAS作品でございます。どんなもんでしょうか、私の作品は。
始めは、バンド名とLASが非常に相似していたから、思いつきで妄想してしまったのです。
’←これ取るだけだし
それで、実際に執筆するとなると・・・非常に難しい!構想をまとめずに一からつらつらと書いていったので、主題がぶれてしまったような気がしますし。んー、当初は純粋なものにするつもりだったのですが・・・しょうがないですよね、この曲は別れの歌ですし。
なので、大団円に持っていくのにかなり苦労しました。ええ、白状します。かなり苦労しました。
長々とつら目な描写が続き、読者の方にご心労を掛けたと思います。なにしろこう言った文章を書くのは初めてなもので、構成などもド下手でしょうから。
しかし、私のこの作品から、私なりの”まごころ”が皆さんに伝わっているのなら、
それ以上に作家冥利に尽きる事はないであろう、と自負しています。(ひよっこですが)
ではまた、近いうちにお会いいたしましょう。次は、どの曲をモチーフにしようかなー。甲虫たちで行こうか、無線頭で行こうか、はてさてどうしようか、うふふふ・・・。
英国岩狂さんから烏賊してうペエジへの初投稿をいただきました。
シンジ君が清々しくLASしていますねえ。
何か痛い展開の最初の始まりのほうを思わせるオープニングだったところから、ラストできちんとラヴしているのが良いのです。
これで初めてとはなかなか筆力がありますねえ。
素敵なお話しを読ましてくださった英国岩狂さんに是非感想などを出しましょう。