新 世 紀 エヴァンゲリオン

WRITTEN BY 神羅大和
第参話 活きる命
Episode3 The Day Before
 

 

本番まであと10日

 

 「ちょっと、出品の品が足りないってどういうことよ?」

 

 アスカが蒼い目を一杯に広げて言った。

 

 「どうもこうもそういうことよ。みんなが持ち寄った品物だけだと、1日売上5万円なんて不可能。1日目に5万売り上げたとしたら2日目には一万円分しか 売るものが残ってないの」

 

 「どうすんのよ?」

 

 ヒカリは困った顔をした。自分に言われてもどうしようもない。

 

 「わからない。だからアスカに言ったのよ。どうしたらいいと思う?」

 

 今度はアスカが困った顔を浮かべた。

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 2人は沈黙してしまった。

 

 「どうしたの難しい顔して?」

 

 シンジが言った。

 シンジは事情を聞いてしばらく考え込んでから口を開いた。

 

 「この学園祭に一切中立で、尚且つ僕たちの話を聞いてくれる大きな団体が1つあるよ」

 

 「どこ?………!」

 

 アスカの表情が変わった。合点が行ったらしい。

 

 「NERVか」

 

 「御明察。今日にでも行って聞いてみよう」

 

 「NERVにそんなこと頼んで平気なの?」

 

 ヒカリは心配そうに言った。

 彼女たちの間ではNERVは『とっても怖い物』になっていたからだ。

 

 「大丈夫よ。うん。ミサトにでも頼めば一発ね」

 

 「一発かどうかはわからないけど、多分大丈夫だと思うよ」

 

 アスカはジト目でシンジを睨み付けた。

 シンジはそれを意に返さず話を続けた。

 

 「アスカ、ミサトさんに頼むのは止そうよ。最近色々忙しいらしいし」

 

 「むっ、わかってるわよ」

 

 膨れっ面になってアスカは言った。

 

 翌日。シンジとアスカはNERVからの大量の商品を手に現れた

 

 

本番まであと5日

 

 「エルメラ風!」

 

 「ダメよっ!ロレーヌ風!」

 

 アスカとマナがお互いの意見を譲らず、盛大な怒鳴り合いを演じている。

 原因は、なんてことはない。フリーマーケットでの商品の並べ方。双方共に自分のご贔屓アクセサリーショップの棚陳列を主張してやまない。

 厄介なことに、お互いの欠点を指摘し合うのではなく自分の利点を述べるだけで周りも一向に答えが出せない(第3の選択肢はありえない)。

 

 「エルメラはいつもお客さんで一杯なのよ!」

 

 「そんなのロレーヌだって一緒よ!」

 

 妥協点を見出そうとしても、まったく逆の陳列方法のため不可能。そもそも、エルメラとロレーヌはまったく店内の雰囲気が違い、本来は平行に並べて協議す るのは躊躇うべきものなのだ。

 

 「シンジはどう思うのよぉ?」

 

 半ば呆れと諦めの表情を浮かべて怒鳴り合いを見物していたシンジは、ドキッとしたことを明らかに表情に出して体を震わせた。鬼面のアスカの怖さをシンジ はよく知っている。

 

 「………エルメラ、かな?…」

 

 般若と化したアスカの視線を全身で受け止めてシンジは言った。

 

 「ケンスケはどう思うのよぉ?」

 

 隣にいたトウジは哀れな2人目の犠牲者に心の中で黙祷を捧げた。ケンスケは見るのが躊躇われるほどに怯えて震えていた。

 

 「………ロレーヌ、かな?…」

 

 アスカとマナは再び熱過ぎる視線を交わした。

 トウジには2人の目から火花が散っているように見えた。

                            
絶対に譲れない…

 

 結局、クラス全員が見て見ぬふりをすることになった盛大な怒鳴り合いは、意外とストレートな決着をみた。

 ヒカリが仲裁に入って、2日ある学園祭の1日目にロレーヌを2日目にエルメラを元にした棚陳列を行うことになった。

 

本番まであと1日

 

 「終わったぁ!」

 

 店内の最後の飾り付けが終わった。

 如何に客に目玉の商品を見てもらうかを主眼に置いた陳列は、目玉となっている某女史の結婚式の引き出物などを普段よりも魅力的な商品に見せていた。

 

 「ねぇ、他のクラスの様子も見てみない?」

 

 ヒカリが玩具を見つけた子供のような顔で言った。真面目を具現化した彼女には珍しい表情と言えた。

 

 「フライングってこと?」

 「ちょっとだけね。明日の午前中しか遊ぶ時間はないし、今の内に下見しとこうかなって」 

 「ヒカリ……」

 「っ、何?」

 「よく言ったわ。ホントは私も行きたかったのよね♪」

 「よかった。それじゃあすぐにでも行きましょ。先生に見つからないうちに」

 立ち上がろうとすると、突然、背後から人の気配がした。

 「ちょっと!何面白そうな話をしてるのよ?」

 「っ!…なんだマナか」

 「なんだとは何よ。ご挨拶ね」 

 「それより、何か用なの?」

 「2人で面白そうなこと話してるからさ。私も連れてってよ」

 「大声出さない?」
 
 「もちろん」

 「ならOK」

 「よかった。1人で行ってもつまらないもんね」

 

 最後まで教室に残っていた3人は出ていった。

 

 

 少し経ってから…

 

 「ねぇ、ホントにいいの?前日に他のクラスを回るのは禁止だよ。それにもし何か壊したら」

 「いいんや。わしらは明日の午前中しか時間が空いてへんさかい、今のうちに明日行くところを下見しとかな」 

 「そうだぞシンジ。これも明日の午前中を有意義に過ごすためだ。その為の偵察行動だ」
 
 「偵察行動やあらへんけどな、これは。そやけど、必要なことや。センセかて、明日の午前中を有意義に過ごしたいやろ?」 

 「そりゃあ…」 

 「だったら問題あらへんな」

 「………そうだね」

 通称3馬鹿トリオは暗闇の廊下を歩いていた。周囲には学園祭のポスターが大量に貼られていた。目を凝らせば1−Aのポスターを発見することも出来た。

 1−Aのポスターは学校で1番の有名人であるアスカが商品を持った写真が数枚と、同じく有名人のシンジが商品を持った写真が数枚。それをケンスケとマナ がコンピューターで編集したもので、他のクラスのポスターに比べて気合が入ってることは一目瞭然だ。

 そのポスターに映ったシンジに3人の影が重なった時、突然シンジが手でトウジとケンスケを制した。

 

 「どないしんたや!?」

 

 「黙って!誰かこっちに歩いてきてる」

 

 「っ!…………」

 

 「ホントだ。女の声がする」

 

 ケンスケも気がついた。

 

 「どないするんや?このままだと見つかってまうで」

 

 「近くの教室に隠れよう」

 

 3人はL字型校舎のちょうど角にいた。

 慌てて角を戻り1番近くの教室に侵入。扉の影に隠れる。

 教室は2−Cだった。

 

 黙っているとどんどんその声は大きくなっていく。

 その声にシンジはひっかるものを感じた。

 

 「………ねぇ、この声って…アスカたちじゃない?」

 

 「そうか?」

 

 「うん。僕がアスカの声を聞き間違えるはずがないもん」

 

 ケンスケは内心でため息をついた。

 そうやっている間にも声はどんどん大きくなる。

 放課後の学校は昼間とは違ってほんの少しの声でも大きく響く。筒状になっている廊下の構造がそうさせているのだ。

 シンジは思った。このぶんじゃさっきまでの僕たちの声も聞こえていたかもな。

 









声が角を曲がった。

 

「そこに隠れてるのシンジたちでしょ!?」

 

 ガタッと音がして大きく響いた。

 本来ならば不気味な音なのだが、アスカは不敵な笑みを浮かべた。

 アスカはそこにシンジたち3馬鹿トリオがいることを確信した。

 

 「何してるのトウジ!?」

 

 「何やってるんだよ!?」

 

 稚拙な舞台のように本来人の存在がないはずの所から声が聞こえる。物音等ではなく明らかな人の声が。

 

 「シンジそこにいるんでしょ〜?黙ってないで出てきなさぁ〜い」

 

 返事の代わりに再び物音がした。誰かが机にでもぶつかったのか。

 

 「何しとるんやシンジ!?」

 

 「何やってんだよ!?」

 

 さっきは鈴原で今度はシンジが馬鹿やったのか。流石は3馬鹿トリオ。

 

 「シンジだけじゃないでしょ?3馬鹿トリオそこにいるんでしょ!?」

 

 3たび物音がした。今度は壁にぶつかったらしい音だった。

 

 「何してるんだよケンスケ!?」

 

 「何しとるんじゃケンスケ!?」

 

 往生際が悪いのか、それでも出てこない。

 シンジと鈴原と相田。見事に3馬鹿トリオで馬鹿やってるわね。アスカは思った。

 

 「ヒカリ、マナ。今度はあんたちが言ってあげて」

 

 怒ったような心配したような顔をしていたヒカリと、明らかにニヤついていたマナ。2人は大きく肯いた。

 

 「トウジ、出てきて」

 

 「ケンスケ、出てきなさい。出てきたらキスしてあげるわよ」

 

 アスカの表情が驚きと後悔に変わった瞬間。今度は物音と人の声が同時に聞こえた。

 

 「ホントかマナ!?」

 

 止める間もないほどの速さでケンスケが這い出てきた。

 後ろからはシンジとトウジが諦めの表情で付いて来た。

 

 アスカは男の欲の馬鹿さに呆れの表情を作った。キス1つでのこのこ出てくるなんて情け無い!もしシンジがこんなことで出てきたら1週間H無しね。

 ヒカリはヒカリで飛んだ事を考えていた。私もキスしなくちゃいけないのかしら。

 

 思春期の思考としては極めて妥当と言える考えを2人が抱いている間、マナは有言を実行していた。

 つまり、目がハートマーク化しているケンスケの頬に唇を重ねた。

  

 「「ああああっ!!!」」

 シンジにすればキスなど日常茶飯事なのだが(なにしろ相手と同居しているのだ)他人のを見るのはまた別だった。昔、二桁にも満たない年のころにミサトと 加持のを見ていたが、今の思春期真っ只中では抱く感想がまったく違った。

 そして、それはアスカも同じだった。さっきまでモノを考えていたのとはまったく違うところでとても恥ずかしくなり顔を真っ赤にした。

 仲良く顔を真っ赤にして目を合わせてしまった。慌てて目を反らして、少しずつ、怖い映画を見るように少しずつ視線を戻して、再び視線が合ってしまう。も しこの場にミサトがいたら大笑いしたことだろう。側から見た2人はとても可笑しく、可愛らしかった。

 

 シンジとトウジが叫んだのを聞いた警備員が駆けつけて来たのは、それから30秒後だった。

 

本番2日目

 

 異常とも言えるほどの売上を記録した昨日。出来てさほどの歴史が存在しない第3新東京市立第1高等学校(なにせ創立は5年前なのだ)の学校祭史において も突飛した売上、154、852円を達成したのだ。

 事前に心配されていた商品の数についてもNERV職員の強力なバックアップがあり、2日目の今日にしても20万以上の売上を達成できるほどの物が残って いた。

 そして、今日はNERV職員の方々がたいきょして来校するのだ。

 前日の自信、残りの商品の質量、そして予定された大量の客、クラスのリーダーとも言える人物の異様なまでの気合とそれに続く皆の士気の高さ。

 つまるところ、1−Aは完全なイケイケムードの最高潮。

 なにをしても成功するような気にさせる。そんな状態だった。

 

 「売上20万、商品完売。絶対やるわよ。いいわね皆。気合入れてくわよ!!」

 

 「「「「「「「「オオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!」」」」」」」」

 

 アスカの気合の一声で円陣に力がみなぎった。

 同時に学校中を轟かせる叫びがした。

 

 各クラスのメンバーが隣から響いてくる天を突くまでの怒声に腰が引けた頃、学校中に新たな怒号がん鳴り響いた。目覚ましのような高く、響く、ベルの音が したのだ。

 それは学園祭の来校を開始したのを告げる合図だった。

 

 クラス各員は既に持ち場についていた。

 シンジは女性用の接客係、アスカは男性用の接客係。夜の商売張りのサービススマイルを浮かべて接近。高い商品から順に客にお勧め商品だと言っては、財布 の中身との格闘をいじりまわす。どんな客だろうが2人にかかっては落ちない者はいない。

 トウジとマナは客引き。威勢のいい大声と大阪弁、さらには強引さを動員して客を教室に連れ込むトウジ。マナは男女ともに愛される笑顔を振りまいて相手に 接近、トウジ同様の強引さで教室に引っ張り込む。

 ケンスケは会計。ありえない速度でレジをさばき、決して人を待たせはしない。客を不快にさせないコツを心得ている。

 ヒカリは現場の総責任者。万が一誰かがミスをして客を逃がしかかると即座に止めに入り、まぁまぁとばかりに再び店内に戻して商品の話を始める。シンジと アスカのさばけないカップルの客の接客をもこなす。

 

 トウジとマナが揉み手交じりで客を引っ張り込んで、それをシンジとアスカにバトンタッチ。シンジとアスカは常に笑顔で客を惑わせ客の財布の紐を解いてし まう。そのまま商品と二人三脚でケンスケの会計に走り、商品の持つ有用性を疑い始める前に会計を済ませて店の外に出してしまう。万が一その途中でミスが起 こっても、ヒカリが全てを片付ける。

 多少の例外は除いて、ほとんどの客はそうなった。

 

まずトウジが

「おっ、そこの兄ちゃん。なかなかカッコええ服着てはるな」

そう言って近づき

「ウーン。こりゃ何かが足りまへんな……何やろか?……」

相手に話させる隙もなくまくしたて

「そや、こりゃ香水が足らへんのや!」

「兄ちゃん。あんたついとりますで。今なら、そこの1−Aでイイ香水が売ってますねん」

「ワイが案内しますって。ほな行きましょか」

 

トウジの連れて来た客をアスカが引き受け

「香水ですか?そうですね。うーん、あ、ホントだ」

「これは香水があったほうがイイですね」

そのまま香水の売っている所まで連れて行き

「これなんかいいんじゃないですか?」

「ほら、かけて見ましょ?」

香水を軽く振り掛け

「うわぁー!凄く良くなった」

絶妙の営業スマイルで褒めちぎる

「うん。これは絶対に買うべきですよ!」

「ほら、レジはあっちですから」

 

人を待たせないレジに恋人のように寄り添って連れて行き

「2300円になります」

「2300円ですって。それでカッコ良くなるんだもの、安いわねぇ!」

再び笑顔でそう言って

「ありがとうございました!」

速攻営業スマイルで送り出す

 

 決して逆走させない店の造りが可能にした荒業だった。

 まれにいる、その手の方法が絶対に通じそうにない人には、ヒカリが懇切丁寧に接客する。が、それはまれであり、ほとんどがこれで陥ちた。

 これはその日の午前中に見られた光景の典型例だった。

 ちなみに、この典型例に陥った男はNERVの諜報部員だった。

 

 学校が所有する駐車場にミサトの赤いスポーツーとリツコの青いスポーツカーが同時に滑り込んで来たのは、お昼の12時を回ってすぐだった。

 

 猛スピードで突っ込んで来る2台の派手なスポーツカーは、急スピンを掛けて急停車。見事、駐車に成功した。

 しかしながら、2台がスピンを掛けた場所にはすぐにそれとわかる派手なタイヤの後が残り、湯気を立てていた。その時間、昼の休憩で弁当を食べていたシン ジが焦げ臭いニオイを感じたのは気のせいではなかった。

 とにかく停まったスポーツカーから降り立ったのは2組の男女だった。

 ミサトの赤い車からはミサトと加持。

 リツコの青い車からはリツコと日向。

 

 「勝ったわよミサト」

 

 降りるなりリツコが勝ち誇って言った。

 

 「クゥー!悔しい!」

 「おいおい葛城。そんなに悔しがらないでくれよ。こっちはそのおかげで寿命が縮まったんだ。なぁ日向君?」

 「そうですよリツコさん。あんまり無理しないで下さい!」

 温和な日向にしては珍しく怒気を交えて言った。

 「あら、そんなに酷かった私の運転?」

 「そういう問題じゃありません!見てくださいよ、あそこ」

  

 日向は車の通った跡を示した。

 コンクリートからは瞬間に異常な温度で熱せられなければ有り得ない、湯気がモクモクと立っていた。

 良識を持つ日向には余りに恐ろしい光景だ。というより、普通の奴なら誰でもそう思う。危険極まりない。

 

 「湯気ね」

 「そう湯気です」

 「何か問題でも?」

 「あるに決まっているでしょ!こんな湯気が立つような運転誰がするんですか!?」

 「私とミサトくらいね」

 「そうじゃなくて!こんな運転しちゃダメでしょ!?」

 日向は息をゼイゼイさせながらそう言った。怒りすぎたらしい。

 科学者らしいシレッとした態度が余計に働いたのだ。

 大人と、何が悪いのかわからない子供そのものだ。

 

 「日向君の言う通りだ」

 

 ミサトはムスッとした顔をした。

 常識という範囲では、リツコよりもミサトの方があるのかもしれない。

 多少は悪いことをしたと思っていた。

 

 「悪かったわよ」

 

 加持は意外そうな顔をした。ミサトが謝るのは珍しい。

 

 「リツコ。今度は誰もいない深夜にやりましょう。NERVにサーキットでも造って」

 「そうね。その方がいいわ」

 

 もともとNERVで忙しく働く2人のストレス発散なのだ。

 それを知っていた良夫2人は何も言えなかった。

 ただ、心配の種が増える事だけは確かだ。

 

 

 学校祭用に綺麗に掃除された下駄箱。

 不審者侵入防止用の身分証明書を提示する。

 

 綺麗に飾り付けられている階段。

 1段ごとに各クラスの出し物の見出しが書いてあり、それが見る者の目を楽しませる。

 

 全部で4階ある学校の1・2階は使用せず3・4階で全ての出し物が行われていた。

 目指すべき1−Aは4階の一番端っこ。昔より続くクラス分けの規則に従った結果だ。

 

 玄関のすぐ目の前にある中央階段を4階まで上がったミサトの目にまず入ってきたのは、なにやら血に濡れた妙齢の女性をイメージしている、あえて言うのな ら前世紀にあったさ〇子のような絵が書かれた看板だった。

 俗に言う『お化け屋敷』だ。

 客を集めているいるらしく10名以上が受付の女の子の前で列を作って待っていた。

 

 「へぇ〜結構入ってるわねぇ。怖いのかしら?」

 

 ミサトは三階で目に入った店(何かのゲームをやっていた)は全然客が入っていなかったためと、看板の絵がかなり上手に、つまり恐怖を誘うポイントを巧く ついた絵だったため思わず言った。

 

 「甘いわねミサト。学校の文化祭やら学校祭やらでやっているお化け屋敷は、そこがどんなにつまらない店でも人は集まるものなのよ」

 「そうなの?でもあの看板はかなり上手みたいだけど」

 「怖さと絵の上手さは比例しないものよ。映画なんかはむしろ反比例するみたいだけど」

 過度な期待が起こす現象だ。

 

 「ふ〜ん。でもなんだか面白そうね。あとで入ってみよ。いいわよねぇ加持?」

 

 加持はミサトの後ろで周囲を眺めていた。

 振り返ったミサトは

 「あんた、何見てんのよ?」

 と言った。

 

 「なに、可愛い子でもいないかと思ってな」

 加持がそう言った瞬間

 「なに!?」

 そう言いながらミサトの手は正確に加持の頬をつねっていた。

 

 「イタタタタタ!!!悪かった悪かった!!頼むから放してくれ!!」

 

 「今度やったらこんなもんじゃすまないわよ!!」

 ミサトは怒鳴りながら頬から手を放した。

 

 リツコはまったく毅然としてその光景を眺めて、日向は声の大きさに心を奪われながら周りを気にしていた。

 

 「無様ね加持君」

 

 背後から声がかかったのはその時だった。

 「ミサトじゃん!?」

 

 クラス特有の意味不明なTシャツに身を包んだアスカだった。手にはどこかのクラスで売っているらしきたこ焼きがあった。

 

 「ヤッホー♪予告通り遊びに来たわよ」

 「仕事は?」

 「もちろん昨日のうちに片付けといたわよん」

 

 「加持君とマコトに半分以上やらせてね」

 リツコがサラッと横から言った。

 「違うわよ!」

 ミサトは無駄に意気込んだ。

 

 「どこが?」

 

 「ジャストで半分よ!以上じゃないわ!」

 処置無しとでも言いたげにアスカは頭を抱えた。たこ焼きを口に入れて、つまようじをくわえたまま。

 

 「それはそうとアスカ、シンジ君はどうしたの?それに今お店は?」

 「今はお昼休み、ほんの20分くらいだけどね。シンジは店のセットの後ろでご飯食べてるわ。このたこ焼き半分はシンジにあげるやつなの」

 たこ焼きの残りは既に3個しかなかった。(容器はどう見ても8個入りの大きさだ)

 「ふ〜ん、昼休みか」

 「お店の方は他の子がやってるから来ても大丈夫よ」

 「そうね。それじゃあ行ってみようかなん」

 

 こっちよと言うアスカについて行くと、なるほど、なかなか店は盛況だった。

 お化け屋敷のように行列ができているわけではないが、中から伝わってくる喧騒はかなりのものだった。

 「シンジ、ミサトたちが来たわよ」

 教室の一画に造られた『関係者以外立ち入り禁止』の空間の中にシンジはいた。頬にご飯粒がくっついていた。

 空間はみんなで入ると狭いほどの広さだった。

 「ほら、お土産のたこ焼き」

 アスカはそう言いながらシンジの頬のご飯粒を取って口に入れた。

 シンジは気付かなかったとばかりにそこに触れていた。

 誰もなにも言わなかった。

 「シンジ君とアスカちゃんて学校でもああなんですね」

 「そうみたいだな。クラスのみんなも可哀相に」

 日向と加持が男の会話をすると、シンジと一緒にいたトウジが

 「わかってくれはりますかこの苦しみを!」

 と言った。

 

 「ミサトさんたち仕事はどうしたんですか?」

 「サボったんですって」

 アスカが言った。

 「ちょっと、違うでしょ!」

 「似たようなもんでしょ?」

 リツコはそうねと肯いた。ミサトだけだけどと後で付け足した。

 シンジはとりあえず無理して来てくれたことだけは理解した。

 「そうですか」

 シンジは嬉しそうに肯くと立ち上がって

 「案内って言うほどのものじゃないですけど、案内しますね」

 と言った。

 

 「あたしのあげた忌々しい結婚式の引き出物はもう売れた?」

 「売れたわよ。あたしが接客した奴に買わせたんだもの」

 「さっすがアスカ!」

 ミサトは指を鳴らした。

 リツコ・加持・日向は後ろで店内を眺めていた。

 「ワインまで売ってますよ。凄い品揃えですね」

 「それもインパクト前の貴重品だ」

 「私買おうかしら」

 「リツコさん買うんですか?」

 「ミサト」

 ミサトは何と振り向いた。

 「さっきの賭けの分決まったわよ」

 ゲッという顔をした。
 
 さっきの賭け・・・・・・来る途中でどちらが早く着くか賭けていたのだ。負けた方が学園祭で何か1つ奢る事をチップにして。

 「何を買うのよ?」

 リツコはさっきのワインを示した。

 「なによこれ!?インパクト前のビンテージ物じゃない!!」

 「それを買って」

 「シンちゃんこれもう一本ある?」

 「商品は店に出してあるので全部です」

 ミサトはリツコに向き直って言った。

 「リツコ。このワインあたしが買うわ。あんたはダメ」

 「やめなさい。味のわからないあなたが飲んでいいものじゃないわ」

 リツコはにべもなくそう言った。

 

 NERV職員一同の携帯が一斉に鳴り始めたのはその時だった。

 

 「なに!!」

 

 ミサトは本部への回線をすぐに開いた。

 

 「なにが起こったの?」

 

 「使徒です!」

 

第参話終幕

 

 

楽しい時、突如として鳴り出した警報

それは2人の少年少女を戦場へと駆り立てる

果たして2人を戦場へと赴かせるものとはいったいなんなのか

2人の心の内は
    
 

第四話 因果、今に至り

Episode4 I know we can't forget the past

 


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