災害対策 偽伝(笑)
著者:Su-37さん
この宇宙を創造した何者(何物?)かが同情したのか、地球という命を育む母が相当頭にきていたのか、はたまた太陽系という兄弟姉妹達がグレた三番目の妹を更正させたのか・・・地軸は元に戻り、四季というものも僅かながら戻りつつある今日。
「あっついわねぇ・・・前と変わんないじゃない!」
「仕方無いよ。これが夏ってもんなんだからさ。」
「ついこの間まで過ごしやすかったのよ。それが途端に暑くなったんじゃない。」
「僕に言ったってしょうがないよ。それともずっと冬が良かった?」
カンカン照りの街路を腕を組むという暑苦しい格好で、シンジとアスカは歩いている。端から見る方が暑いと思うのは気のせいか?
「夏がくれば冬が恋しくなるもんよ。」
「そんなものかなぁ・・・夏しか知らなかったからこれが普通に思えるんだけど。」
「アタシが言ってんだから、そうなのよ!」
使徒戦の最中、恋を育み愛を育んだ二人。それでも彼女はこんな感じだ。いや、暑さのせいでイライラしているのかもしれないが・・・
シンジはハタと気が付き、アスカを“この糞暑い”のに抱き寄せた。
「これでも暑い?」
そりゃあ暑いだろうという突っ込みも何のその、彼女はクスリと笑う。
「もう少しかなぁ?」
「そう、じゃあ・・・」
右手でプラチナブロンドに変わりつつある頭を押さえ、左手で細くくびれた腰を抱く。美男と評される整った顔に付く唇は、桜色をした彼女の唇を捉えた。
第三新東京市立芦ノ湖高等学校近くの歩道。下校途中の生徒達が歩き去る中10分以上そのままの姿勢を保ち続ける。
「今は?」
「ふふ・・・そうでも無いかな?」
「良かった。じゃあ行こう!」
どうやら、お強請りの為に突っかかっていたらしい。流石(?)は天才美少女といったところか。
そんな二人を遠目で見る、ヒカリとレイ。
「ねえ・・・綾波さん。学校でこれだけ見せつけられるんだから、NERVでもそうでしょ?胸焼けしない?」
「・・・見ない様にすればいいわ。」
「そうね。まともに見てるだけ馬鹿馬鹿しいし。」
そんな事を言いながらも、ヒカリは羨望の眼差しを二人に向ける。何しろ相方・・・もとい恋人は学力の差と専門教育を受けたいが為、市内の商業高校に行ってしまった。だから学校で街でこんなにいちゃいちゃ出来るのは正直羨ましい。
「さっ、アスカ達と合流してアイスでも食べに行きましょ。」
「ええ、少しでも冷やさないとハングアップしてしまう。」
「??ハングアップぅ??」
リツコに引き取られたレイがこんな言葉を使うのも珍しく無い。ただ、ヒカリがその言葉を知らないだけだった。
シンジが女の子三人と一緒という居辛い思いをした後、帰宅したのは煉瓦作りの瀟洒な一軒家。これは結局保護者という立場を放棄し、言わば見放された二人が命を掛けて稼いだお金から出し合い購入したものだった。綺麗な庭と清潔感のある内装が自慢である。
「あぅ・・・家の中も暑ぅ〜い。」
「日中誰もいないからね。」
何故か、居間でドンドン脱ぎだしたアスカを後目にエアコンのスイッチを入れた。
「はぅ〜〜涼しい〜〜。」
既に全裸でエアコンからの風を受けるアスカ。
「もう・・・下着くらい着ろよ。」
文句を言うシンジだが、苦笑いこそ浮かべているものの赤くなったりはしない。日々“堪能”してるせいらしい。
そのシンジと言えば、夏制服の水色ネクタイすら緩めずテレビの点ける。だが、平日の夕方に面白い番組をやっている筈もないが。
ようやく人差し指でネクタイを緩めワイシャツの第一ボタンを外しながら、テレビのリモコンでチャンネルを変えてみた。
「何これ??」
アスカが素っ裸のまま、カーペットの上で横になり呟く。それは氾濫した川の映像だった。
「そう言えば、台風が来てるんだっけ。」
「タイフーン?何処まで来てるの?」
画面は変わり、天気図が表示された。いくつもの円が描かれている。
<大型で非常に強い台風5号は種子島沖20キロを時速20キロで北東に向け移動しています・・・>
「げげぇ!このままだと第三直撃じゃない。」
「うぅ〜ん・・・雨戸を閉められる様に準備しとくかな。」
しっかり夫している様だ。
「アタシは、水とか保存食とか買い出しして来るわ。」
自分達の寝室へ駆け出す。どうやら着替えて買い物に行くらしい。これもまたしっかり妻をしている。
「後は、お風呂に水を貯めとこうかな。」
飲用に使えなくても、生活用水には問題無い。
それにしても、危機に対する行動力は、普通の高校生を遙かに越えている様に見える。やはり相手が得体の知れないものとは言え、戦争をくぐり抜けてきた人間といったところか。
・・・・そして、予報は的中しまっしぐらに第三を目指して台風はやってきた。
学校は休校が相次ぎ、リニアも運休。第三新都市高速も通行止めだ。一般道の一部も大雨による冠水でいたるところ通行止めあるいは渋滞。
そんな日は家でジッとしているに限るだろう。だが、シンジとアスカはその日、NERV本部にいた。避難してきた訳では無い。職員として呼ばれたのだ。
「何よ、エヴァでタイフーンを殲滅しろとか言うんじゃ無いでしょうね。」
シンジと二人、家で寂しさと怖さを慰め合う・・・というシナリオを描いていたアスカは機嫌が悪い。
だが、食い掛かられた上司たるミサトは気にした風も無い。
「言わない言わない!やったって暖簾に腕押しがいいとこよ。」
「では、僕等は何をすれば良いのでしょう?」
アスカが動とすればシンジは静だ。それが頼もしく感じるのはミサトばかりでは無い。アスカもレイもそうだ。
「市長からの災害派遣予備要請が来てるのよ。だから派遣要請があった時の為に待機。」
「・・・それって戦自の仕事なんじゃない?」
「それがねぇ、准とは言え軍事組織ならそれくらいするのが当然と考えてるみたい。」
動員力が無く、頭でっかちであるにも関わらずである。セカンドインパクトという大事を乗り越えたこの国の政治家が持つ軍隊のイメージというのは変わっていない証拠とも言えるが。
「エヴァで土嚢積み・・・格好悪い。」
「そう言わないでレイ。人助けだと思ってさぁ。」
ミサトの言葉で呆気にとられる可愛らしい恋人達。
「アンタから人助けなんて言葉が出てくるとは思わなかったわ。」
「う・・・こ、これでも二佐よ二佐。」
「その二佐殿が僕等を見捨てて、加持さんに走ったんですよね。」
シンジの辛辣な言葉に返す事など出来ない。その通りであるからだ。保護責任遺棄は重大な犯罪でもある。
「と、と、と、兎に角、予備待機よ。プラグスーツに着替えろとは言わないけど、施設内にいて頂戴。」
「ふぇ〜い〜。」
「はい。」
「了解です。」
24時間の総員待機。交代などいない子供達もカフェテリアで濃い珈琲を飲みながら、まず眠気と戦っていた。だが、時間は午前2時。相当眠い。
アスカがまず大きく欠伸をして、それが伝染ったレイも伸びをしながら大きく口を開ける。
「眠い?」
「あったり前よ。」
「ええ、でも最も接近するまで2時間しか無い。眠ってなんかいられないわ。」
シンジは優しく二人を交互に見た。
「一眠りしなよ。何かあったら起こすからさ。」
そして、奥にある長椅子を指さす。
「レイ。アンタ一眠りしなさい。」
「いえ、アスカこそ。私より眠そうだわ。」
そんな他人へ優しさを向ける少女二人の精神的成長が眩しい。
「僕が起きてるから二人とも休むといいよ。」
「ありがと。じゃ、レイ。アンタ長椅子で寝なさい。アタシは適当に椅子を集めて眠るから。」
「ううん。アスカこそ長椅子で寝て。」
「アンタこそ・・・」
「アスカこそ・・」
「アンタ・」
「アスカ」
日本人的謙譲の美徳はともすると、時間的浪費にも繋がる。
だが、こればかりはシンジも口を出さなかった。出すべきで無いと思っていたからだ。
流石に暇で、シンジもウトウトしかけた午前4時。
彼は人の気配で目を醒ました。何とも危険な雰囲気がする。薄目で静かに周りを見回すと、長椅子の方に後頭部に丁髷をした男の姿。そこにはアスカとレイが仲良く眠っている筈だ。
「ん・・・加持さん?」
何をしてるかと、音を発てずに椅子から立ち近づいていく。その足取りは格闘訓練の教官から教わったもの。気配さえ消しているのは流石だ。
「何して・・・」
ニマニマしながら、顔をゆっくりとアスカへ近づけていく加持。この男なら何をしようとしているか一目瞭然である。
「何してるんだ!!」
大声で一喝すると、引きつった顔をシンジの方に向けた。
「こ、これはだな・・・そう!起こしに来たんだ。」
「へぇ・・・じゃあ、どういう起こし方をしようとしたんですか?」
「あ、あのなぁ・・・俺がアスカに何かする訳無いじゃないか。」
そんな言い訳では自分で何かしようとしたと言っている様なものだ。シンジの顔が怒りに歪んでいく。
「何、シンジ?」
アスカも目を醒ます。そこには加持に今にも掴みかかろうとするシンジの姿。
彼女も大体の状況を理解した。
「待って、シンジ。」
「いいや、待たない!此奴は僕のアスカに・・・殺しても余りある!!」
「そ、そうだ、シンジ君。落ち着いてくれ。あ、アスカも何か言ってやってくれよ。」
「まあ、この無精髭がアタシに何をしようとしたかは見当付くけど・・・」
「ぶ、無精髭って・・・酷いなぁ。元保護者なんだぜ。」
「こんな奴の事で、シンジが殺人を犯す方がアタシには耐えられないわ。」
「アスカ・・・君は何処まで優しくなってしまったんだ。でも、僕は此奴を許せない!」
シンジの殺気が広がると、流石にレイも目を開けた。
「シンジが許せないのは解る。アタシもミサトがシンジにこんな事したら同じ事をするわ。」
「なら・・・」
「そ、そうだ。アスカが悲しむぞ、シンジ君。」
「でもね。ここは抑えて・・・殺さない程度に。」
「そう、殺さない程度に、って。アスカ、君って娘はぁ!?」
「そうだね。では加持さん・・・」
「は、話せば解る!!」
「問答無よ・・・・」
シンジが手を出す前に、加持は長椅子の方から後ろに吹き飛び、頭から幾つかの椅子に突っ込んでいった。
「れ、レイ??」
「アンタも・・・優しいわね。」
不自然な姿勢ながら、正拳を繰り出したレイは微笑んだ。
「アスカほどじゃないわ。」
そんな加持がこの程度のお仕置きで終わる訳も無く、なかなか発令所に姿を現さない3人を呼びに来たミサトが、伸びている男を発見。急いで発令所に行く様指示を出すと、彼女は加持を抱えて何処かに消えてしまった。その後の事は誰も知らない・・・
「ふっ・・・リョウちゃん、無様ね。」
いや、モニターを見ていた金髪の女性科学者だけは別の様だ。
発令所では、まるで戦時の様に職員が忙しく走り回っていた。
その陣頭指揮をするのは何故か白いヘルメットを被りベージュの作業服らしきもの・・・言わゆる防災服を着るゲンドウ。他の職員がNERVの制服であるが故、ハッキリ言って浮いている。まあ司令用にカスタマイズされた制服も十分浮いているのだが・・・
「碇二尉以下、弐名。ただ今参りました。」
親子関係を全く感じさせないシンジの態度に、内心少し落ち込む。他人行儀と言われても「司令とは他人です」という答えがそれを現しているだろう。
「うむ・・・葛城君は?」
「加持一尉を伴い、何処かへ行ってしまいました。」
アスカも未来の義父とは決して思わず、慇懃ながら感情を全く載せない口調で答えた。
「そ、そうか・・・」
どうやら、現場指揮が出来ない様だ。陣頭指揮と言いながら、誰もゲンドウの命令を聞いてはいない。むしろ、冬月に判断を仰いでいるのが目に付いた。
「エヴァを出すのですか?」
これはレイも同じ。ゲンドウを全く無視して白髪の老人に聞いていた。
「いや、君らには他に乗って貰うものがある。そうだな、碇。」
「あ、ああ。」
普段から仕事をしないツケで、口調だけが空回りする様が楽しくて溜まらぬといった感じで、冬月は笑みを見せた。
「赤木博士が開発した新型のテストを兼ねて君らに出て貰う。」
「それは何でしょう?」
シンジの問いに、冬月は内線電話を取った。
「赤木博士?発令所まで来てくれ。」
「え゛!!もしかしてリツコ・・・で無くて赤木博士の作品ですか?」
「駐車場?ああ、解った。彼らには駐車場に行って貰う・・・うん?ああ、そうだ。赤木博士の作品だ。」
猛烈に嫌な予感がするアスカ。シンジも寝不足ばかりでない疲労の色を顔に出している。レイは・・・若干楽しそうだ。
駐車場のトレーラーに載せられた作品を見て、多少安心したのはシンジとアスカ。そこには全く普通のパワーショベルがあったから。
ただ、問題はある。
「あの・・・リツコさん。僕等、大型特殊(免許)や作業免許なんか持っていませんよ。」
それにアスカも大きく頷く。
「ふ・・・問題無いわ。」
リツコもまた良く解らない格好をしている。白衣の下にピンク色の作業服。それはとてもこの世のものとは思えない。
「こんなこともあろうかと作り出した操縦者シンクロ型パワーショベル。今のところこれが使えるのは、世界を見渡してもあなた方だけ。」
これはまたぞろ、『エヴァの技術からフィードバック』したとでも言うのだろう。
「画期的よ。脳に描いた、イメージだけで確実に作業が出来るわ。それこそ卵を綺麗に割る事だって可能。プロにもなかなか出来ない事を素人でも出来るってことよ。」
陶酔している様は、何か得体の知れない恐怖すら感じる。
「そ、そうなると、コアなんかも積んでるんでしょ。」
それでも恐怖に打ち勝ち、アスカは口を開いた。
「エヴァで言うコアは積んでいないわ。その代わりに疑似的なコアをプログラムに盛り込んである。万能とまでいかないけれど、これを動かすに不足は無い筈よ。」
生体部品を使っていないとは言え、気味の悪いしろものだろう。見方を変えれば勝手に動き出すという事もありうる訳だ。
そんな物騒な考えに静まり返る駐車場内。そこに怪しげな男が現れる。
「ふ・・・出撃。」
発令所に居場所が無かったゲンドウだった。
「災害派遣要請が届いたのですか?」
リツコがすかさず聞く。
「いや・・・まだだ。だがもう直だろう。三人共、赤木博士から説明を受けろ。」
それだけ言って、またゲンドウは姿を消した。
「ま、まさか・・・」
「シンジも?アタシもそう思うんだ。」
「司令・・・あれだけ言いにきたの?」
レイの言葉はその場の全員が思っていたものだった。
<台風5号は速度を早め、今日午後6時頃には温帯性低気圧となるものと見られます。現在、襟裳岬付近を時速60キロで北北東に向かって進んでおり、針路にあたる地域は引き続き警戒が・・・>
二階の寝室で睡眠不足を補い、その後いつもの通り愛情を確かめあった二人はベッドの上でニュースを見ていた。
「結局、何だったのかしら?」
「副司令にも聞いたけど、こんな事も珍しく無かったんだって。」
「にしてもふざけてるわぁ。」
出番が無かった事を憤っているのか?
「あれだけ大騒ぎしておきながら、大した被害は無し。しかも仮眠をとっている間にさっさと行っちゃうんだもん。」
「第三全体を見回しても、怪我人は加持さんだけ。」
「う〜ん、ミサト。あの後、何したんだろ。」
それは当事者と、たった一人の観察者しか知り得ない。
「まあ、それは放っておいてぇ・・・ねっ!」
「だ〜め。今日はこれから買い物だろ。」
「一回だけ!」
「一回で済んだ試し無し。ほらシャワーを浴びて、準備準備。」
「ふぁ〜い。」
「“ふぁ〜い”じゃ無い。“ふぁい”!!」
「ふぁい!!」
だが起きあがろうとしないアスカ。それを仕方ないなと思いつつ、ふやけた顔で抱き上げ風呂場へと向かっていくシンジ。二人して全裸であるから・・・
「ん?お尻に何か当たってる。」
「し、仕方ないだろ。まだ元気なんだから。」
その後、風呂を上がるまで一時間掛かったというから・・・・何をしていたかは予想がつくだろう。
やはり、若さの発露か・・・・
おしまい・・・だと思う(^^;
後書き
みなさん、初めまして。某所で連載などさせて頂いております、Su−37と申します(^^)
怪作様から某SSの感想を頂き、嬉しさの余り駄文を差し上げてしまいました。それがこれだったりします(^^;
内容は・・・ハッキリ言ってありません(爆)ただ、自然の恐ろしさを皆様に知って頂く事が出来たら・・・・って無理か(核爆)
また、こちらのは投稿させて頂きたいと思っておりますので、その節は怪作様を始め皆さん宜しくお願いします(^^)
Su-37さんから初投稿をいただいてしまいました。
災害対策‥‥Nervの困った人たちへの対策かと思いました(笑)
台風より始末に負えない人たちのおもしろおかしい姿を楽しく描写してくださったSu-37さんに是非感想メールをお願いします。