マサアキとアスカの小遣い闘争

 

注:前作の「アスカと白い布」の後半部分を読むと、話の内容がわかりやすいです。

 

 2040年元日

 碇家では新年の挨拶を家族でおこなっていた。

 そして、母親から子供達へお年玉が渡されていた。

 一般の家庭では父親のなけなしの威厳を保つ為にお年玉を父親が渡すのだが、碇家ではアスカが渡す事になっていた。

 

 アスカが日本に着た当初は、お年玉とは何の事なのかサッパリ分からなかったが、日本に来て25年経つと流石に日本の風習に良い意味でも悪い意味でも染まっていた。

 

 一応年の順に手渡されるお年玉を長女のミワは渋々受取り、次女のマミは嬉しそうに受取っていた。

 長女のミワに言わせると『私、3月に大学卒業なのに……まだ貰ってても良いのかしら…』とぼやいていた。

 しかし、要らないと言うわけではなく。

 貰えるものはとりあえず貰っておくのが彼女の主義らしい。

 

 次女のマミの場合は『これで父さんにプレゼント買えるわね……。今年こそ私と父さんは…ふふふ』と嬉しそうに微笑んでいた。

 やっぱり何かが違う気がする。

 

 そして、3番目に渡されるのが双子のアキコとマサアキである。

 この二人は同年齢と言う事もあって、二人同時にアスカとシンジから渡される事になっていた。

 渡すのはそれぞれ、アスカがマサアキにシンジがアキコに渡す事になっている。

 

 アスカの趣味で日本間の畳みの上に正座をして、お年玉を渡される事になっていた。

 マサアキとアキコは二人の前に正座をした。

 シンジは溺愛してやまない娘のアキコが目の前に座っているので既に目尻が下がり始めている。

 しかし、それに対するマサアキは何か緊張した面持ちになっていた。

「はい、今年もよろしくね〜。無駄遣いしちゃダメよ」

 とアスカは着物の袖からお年玉が入ったポチ袋をマサアキに渡した。

 そして、マサアキはポチ袋を懐に仕舞うとアスカの方を見た。

「母さん。話があるんだ」

「な〜に?」

「僕も今年で14歳になるんだ。だから……」

「だから? どっかの誰かと同居なんてダメよ。アンタ、パイロットじゃないんだから」

「なんの話だよ」

「こっちだけが分かれば良い話。で、何?」

「小遣いを上げてよ。今時中学生が2000円ってのはどうかと思うよ」

「それで上等だと思うけど?」

「むう……なあ、アキコはどう思う?」

「わ、私は別に……」

 と、マサアキがアキコの方を見ると、明らかにポチ袋が限界まで膨らんだ状態でシンジがお年玉を渡していた。

 

 アキコの場合、小遣いを毎月貰わなくてもシンジからお金が流れているようだ。

 それゆえにアキコはマサアキにあいまいな返事をした。

 マサアキは主体性の無いアキコを“ふ〜ん”と眺めながらみてから…。

「そんなアキコは嫌だなあ〜」

「うぐぅ……。わ、私も小遣い少ないと思います」

 アキコはマサアキに逆らえないのかマサアキの味方についた。

 いきなり敵が倍になったアスカ。しかし、そんなことでは怯むはずも無く。

「あのねえ。私だって別に意地悪したくて、小遣いを出し渋って居るわけじゃないのよ。アンタ達に無駄遣いして欲しくないから心を鬼にしているのよ」

 アスカは心苦しいような表情をマサアキに見せながら話した。

「そうでなくとも鬼のような…」

 とボソッとシンジは言ったのだが、アスカはシンジの事になると地獄耳となる為に……。

 

 バキッ

 

 有無も言わせず裏拳をシンジの顔に叩きこんだ。

「痛いじゃないか、アスカ」

 シンジも慣れたもので、すぐに復活している。

「それは良いとしても、お父さんは私とお母さんのどっちの味方なんですか?」

 シンジの正面に座っているアキコがシンジに詰め寄った。

「どっちなの? シンジ……」

 アスカもシンジの方に顔を向けシンジに迫る。

「え、え〜と……」

 アキコとアスカに迫られて選択に困るシンジ。

 

 

「そんな話をしたいんじゃなくて、どうすれば小遣いをアップしてくれるんだよ」

 マサアキの発言により、シンジに迫っていたアスカとアキコは追及を止めてマサアキの方へ顔を向けた。

 そして、アスカは少し考えて、何か浮かんだのか人差し指を立てた。

「そうね〜。だったら母さんが13歳の時に受けていたテストをそのまま受けるって言うんなら良いわよ」

 アスカの提案にマサアキは唖然とした表情をする。

「馬鹿にしてんの? こう見えても僕は学年2位だよ」

 ちなみに1位はアキコだったりする。

「だから言ってんのよ。マサがアタシの13歳の時の学力にどれだけ近づいているのか。これがポイントね」

「アスカ……そ、それは……」

 シンジはアスカが仕掛けようとしている事に気付いた。

 しかし、アスカはシンジを制して話を続ける。

「シンジは黙ってて」

「よう〜し! 受けてやろうじゃないか!」

 マサアキはアスカの提案を受け入れ、右手で拳を握り立ち上がった。

「マサ! 私も勉強手伝う!」

 アキコもマサアキに続いて立ち上がった。

「よ〜し、アキコが居れば苦手な教科も助かるぞ! 母さん、ちゃんと認めてよ!」

「はいはい。ちゃんと点が取れたらね〜。テストは冬休み最終日の7日にしてあげるわ」

「1週間もあるじゃないか。絶対に良い点をとってやる!」

 微笑ましい姉弟の図。

 二人は早速勉強を開始する為に部屋に戻って行った。

 

 

 日本間に取り残されたアスカとシンジは、マサアキとアキコが出ていった出入り口を見てからお互いに顔を向けた。

「アスカ……」

 シンジは呆れた表情でアスカを見る。

「微笑ましいわね。中学の頃のアタシとシンジに似ているから余計に良い感じね。惜しむらくは姉弟ってのが残念ね」

 アスカの方はシンジの表情を気にする様子を見せずに話し始める。

「いや、それよりも……アスカが13歳の時にうけたテストって、もしかして……」

「あら、分かっちゃった?」

 アスカは自分の考えている事が夫に分かってくれた事が、とても嬉しかったのか微笑を向ける。

「何年、君の夫をしてると思っているの?」

「さすがシンジね。惚れなおしたわ」

 アスカは子供達が居ないと言う事もあってシンジに抱きついた。

 どうも、この夫婦は子供達の前では照れているのか仲の良い雰囲気をなかなか見せない。

 高校生で既に子持ちだったにも関わらずである。

「僕は最初からアスカに惚れてるよ」

 シンジもアスカに負けまいと畳みの上に押し倒す。

「いや〜ん。これから姫初めね〜」

 やっぱりアスカは悪い方向で日本文化に染まっている気がする。

 

 

 

 その頃マサアキの部屋

 マサアキの勉強机に正面にマサアキが座り、横にアキコが自分の部屋から椅子を持ってきて座っていた。

「でも、具体的に何処を勉強するの?」

 アキコはそう言いながら、自分が使っている問題集をマサアキの机の上に並べた。

「母さんが中学通っていたのは父さんと同じ第壱中学なんだし、僕達もそこに通っているんだ。大体の問題の予想はつくよ。それに、母さんが頭良いと言っても中学1年の問題ならちょいと勉強すれば出来るって」

「でも、母さんのあの時ちょっとだけニヤッと笑ったのが気にかかるんだけど」

 アキコはマサアキがテストを受けた時にアスカが怪しい笑みを浮かべた事を思い出していた。

「そうか?」

「うん」

 

 そう、アスカは一言も『中学1年の時のテスト』なんて言ってない。

 マサアキとアキコがその事に気付くのはテスト当日であった。

 

 

 

 テスト前日の夕方

 台所

 シンジとアスカが結婚してからアスカが台所に立つ回数が多い。

 アスカの現在の仕事はネルフの非常勤務の研究員をしており、時間が比較的あるためである。

 ちなみにシンジは高校時代に公務員試験を受け、見事合格して第3新東京市市役所に勤務している。

「あの…母さん……」

 アキコは何かを決意した顔で、アスカに言った。

「ん? 何?」

 アスカは晩御飯を作っていた手を止めてアキコの方を振り向く。

「明日のテストだけど……私も受ける…」

「アキも?」

 アスカは意外そうな顔をする事無く、最初から分かっていたような表情を見せた。

「うん…。それで、私とマサの結果で良い方を採用して欲しいの」

「……良いわよ。それでも」

 

 

 

 テスト当日

 公平さをキッチリとつける為に、テスト会場はネルフ本部の会議室が使われた。

 シンジとアスカはマサアキに精神的プレシャーを与えてはいけないと言う事で、別室で待機する事にした。

「マサ……暴れる気がするんだけど……」

「大丈夫よ。アキも居るんだし」

 アスカとシンジはコーヒーを飲みながらくつろいで居た。

「そういえば、テスト受けるのマサだけなのに、どうしてアキコまで受ける必要があるの?」

「あの娘、感が鋭いみたい。今回のテスト結果、二人で良い方を採用してなんて言い出したからね」

「さすが、アスカの娘だね」

「あら、シンジの娘でもあるのよ。優しいところは特にアンタに似たのね」

 アスカは微笑みながら人差し指でシンジの鼻の頭を突っついた。

「優しいのはアスカもだよ……」

「やだぁ……シンジったら」

 アスカは真っ赤な顔をしながらシンジに抱き着いて、そのままソファーに倒れこんだ。

 おいおい……。

 

 

 試験会場

 マサアキは問題用紙を両手で持ち、肩を震わせている。

 アキコは問題用紙を見ながら鼻をすすり始める。

「なあ、アキコ…」

「グズッ……。にゃに?」

「お前知っていたのか?」

「知ってる訳無いじゃない。だって……だって……グスッ」

 すでにアキコの目には水分がたっぷりと滲み出ており、もうすぐ決壊を起こしそうになっていた。

「泣くなよ……。泣きたいのはこっちなんだよ」

「ビエエエ……。問題が読めない〜」

 アキコはついに涙を流し始めた。

 マサアキは頭を抱えながら問題用紙を睨む。

「これ英語じゃないぞ…。βとか書いてあるし、Uの上に点が打ってあったりするし……。どこの問題だよ……」

「うう、数学と思うけど、良く分からない式が書いてあるう〜」

「騙したな……母さん」

 マサアキの目には、この場に居ない母親のニヤリとした表情が映っていた。

「あら、違うわよ」

 試験官をアスカに脅されて無理やりやらされていたマヤがマサの疑問に答えていた。

「何処が違うんだよ! どう見ても日本語じゃないし、英語でもない。こんなの何処なんだよ!!」

 マサアキは我慢の限界がきたのか椅子から立ち上がり机を大きく数回叩いた。

「それ……独逸語よ」

「ど、どいつ?」

 マヤの言葉に2人は同時に声を出してしまっていた。

「知らないの? アスカは13歳でドイツの大学を卒業してるのよ。それ、大学の問題用紙よ」

「な、なんですと……」

 マサアキは魂を抜かれたような顔になっていた。

「ビエエ…母さんに騙しゃれた……」

 アキコの泣き声はさらに大きくなった。

「ドイツ語なんて読めるかっつーの!!」

 マサアキは机を持ち上げて暴れ出した。

 アキコもマサアキに触発されたのか泣きながら椅子を持って振り回し始めた。

 

 もちろんマヤだって泣きたい状況である。

「だから私は試験官したくなかったのに〜」

 

 

 

 

 翌日

 マサが騙されたから試験は無効と言ったのだがアスカは“詳しく聞かなかったアンタが悪い”と言って取り合わなかった。

 しかし、アキコがシンジを味方につけたため、アスカもしぶしぶ小遣いアップを承認した。

 とりあえず中学2年生からは75%UPの1ヶ月3500円になった。

「なんでこの額なの?」

「中途半端なのが面白いのよねえ」

 シンジの質問にアスカはイタズラを思いついた子供のような輝いた笑顔を見せた。

 

「どう考えても嫌がらせじゃねーのかよ!!」

 マサアキは自分の部屋の窓を全開にして吼えていた。

「次があるってマサぁ〜」

 マサアキの隣ではアキコが泣きながらマサアキを慰めていた。

 

 

 どうやらマサアキは毎回アスカの手のひらで躍らされているらしい。

 

 

<おしまい>

 

 あとがきだと思う。

 あいからわず人様のページにトンでもない話を投稿しますなあ。

 でも、これに懲りる事無く、次回もこの路線で行ってしまいましょう。

 それじゃあ、またね〜。


 しおしおさんから世にもアスカってお茶目で意地悪さんねぇな短編をいただきましたです。

 頑張って勉強したものの、アスカが昔受けた試験って‥‥うーん、なんとも可哀想じゃないですかぁ〜。

 シンジが優しかった(甘かったともいう)ので助かりましたけど(ちょっぴり)

 碇家では父が優しく母が厳しいのですね(笑)らしい感じがします(爆)

 皆様にもしおしおさんに是非感想メールをお願いするのです。

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