アスカと白い布

 

 

 シンジとアスカの二人は色々あってようやく恋人同士になることができた。

 そして、つい先日アスカの15歳の誕生日の夜、二人は本当の意味で一つになった。

 昨日はクリスマスイブと言う事でシンジとアスカは仲間達と一緒に昼間からクリスマスパーティーをしていた。来年になれば高校受験が本格化してくると言う事で事実上、今年最後の羽目はずしになっていた。

 羽目をはずすとなると先頭を切って楽しむお嬢さん。惣流・アスカ・ラングレー。彼女は何処から持ち出したのかワインから始まり、日本酒、ビール、焼酎、ウィスキーを飲み始めてその場は騒然となっていた。

 彼女と酒のみ対決を無謀にも始めた鈴原トウジでさえ歯が立たなかった。(お酒は二十歳になってから)

 酒のみ会場となったミサトのマンションの一室ではお酒の匂いが絶えなかったと言う。

 トウジたちはフラフラになりながらも夕闇に暮れる道を歩いて帰って行った。

 

 

 

 そして翌朝、12月25日クリスマス当日

「うう〜。頭が痛ひ……」

 アスカはベッドの上で唸っていた。

 さすがに飲んでいる時はダメージは無かったものの、朝になってから蓄積されたダメージがジワジワと彼女を攻撃し始めていた。

「アスカ、朝だよ。冬休みだからっていつまでも寝てないで起きてよ」

 シンジがアスカの部屋の前で襖を叩きながら言っている。

 アスカはシンジが襖を叩くたびに頭を抑えている。

「わかったから……。叩かないでよ……」

 アスカは声を絞り出しながら返事をした。

「昨日のみ過ぎるからだよ。まったく……未成年なのにそんなに飲んでも知らないよ」

「昨日は…やり過ぎたと思っているから…。それ以上言わないで……」

「分かったよ。10分待つからね。10分たっても出てこないと朝ご飯をペンペンに上げちゃうよ」

「分かったわ……」

 そう言うとシンジはアスカの部屋の前から離れて行った。

 昨日のパーティーの疲れからアスカは参っていた。

 正確には昨晩ミサトが帰ってこない事を良い事にしてアスカはシンジとベッドの上で過ごそうとした。

 そして、その行為をいつもよりも激しくやってしまった為なのかアスカはさらに疲れていた。

 

「そういえば……昨日付けたっけ?」

 アスカは疑問に思いながらも起きる事にした。

 やはりお酒が完全に抜けきっていないのか寝ぼけた頭のままで部屋を出て行く。

「今日は冷えるわね……」

 使徒との戦闘が終わってから1年も過ぎると再び日本には四季が戻り始めていた。

 アスカは掛けていたシーツをそのまま頭から被ってキッチンへ移動した。

 いつもなら急いで学校の準備をしていたアスカだったが冬休みと言うイベントに突入していた為に日曜日以来ゆっくり出来る時間でもあった。

 

 

 ずるずると引き摺りながらアスカはシンジの前に出た。

 

 シーツを引き摺りながら出てきたアスカをシンジは呆れ顔で迎えた。

 

「アスカ、何やっているの?」

「だって寒いんだもん……」

 シンジはアスカが自分の席につく手前である事に気が付いた。

「あ、アスカ。シーツ破れているよ」

「え〜。どこ?」

「ほら真ん中辺り……。また寝ている間に思いっきり引っ張っただろ」

「ぶ〜。そんなに文句言わないでよ」

 以前にもアスカは寝ている間にシーツを引っ張って引き裂いた事がある。

 その時はシンジは『しょうがないなぁ〜』と言いながら予備のシーツをアスカに渡した。

 しかし、それが続くとシンジも文句の一つも言いたくなるもので、今回は新しいシーツを渡すのを止める事にした。

 

「全く、そのシーツ後で縫うから、そこに置いといてよ」

「嫌よ。新しいのにしてよ」

「そんなに勿体無い事しないでさ、良いじゃないかそれでも」

「だったらシンジのシーツと替えてよ」

「ええ!」

 

 シンジの匂いつきシーツも悪くないわね…。

 これで毎晩寂しくないわ。

 

 と、アスカはそこまで考えていた。

 やるところまでやっちゃった二人とは言え、さすがに一緒のベッドで一晩過ごすのはもしも見つかった時に仲を引き裂かれかねないかもしれないと言う発想から眠る場所はそれぞれの部屋にしていた。

 

 

 むっ、アスカめ……。

 また僕をからかおうとしているな。

 いつもやられてばかりだから偶にはやり返さないと…。

 あ、そうだ。あれをやってみようかな?

 

 

 シンジは何かを思いつき提案してみる事にした。

「じゃあちょっと待っててよ。再利用するからさ」

「再利用?」

「うん」

 怪訝そうに聞き返すアスカを余所にシンジは自分の部屋に戻って行った。

 

 

 まったく……シンジのやつ……。再利用って言っても所詮はシーツ1枚じゃない。

 このシーツに何か思い入れもあるわけ……?

 ……あ、あったわね。

 

 

 アスカは自分の誕生日の夜にあった出来事を思い出しながら顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

 シンジは自分の部屋からキッチンに戻ると、手に乗るサイズの小さな箱とそれよりも少しだけ大きな箱を持ってきた。

「何それ?」

「さあ…なんだろうね。とりあえず先に朝食をたべようよ」

 アスカを思いっきり気にさせながらシンジとアスカはテーブルに用意されている朝食を食べ始めた。

 

 

 アスカとシンジは朝食を終えると、二人ともリビングにやって来た。

 アスカはシンジが何を持ってきたのか疑問に思っている。

 シンジが持っている裁縫道具は小さな箱では小さ過ぎて、少しだけ大きな箱でも裁縫道具よりも小さいサイズのものだったからだ。

「で、それでシーツを再利用できる道具が入っているの?」

「さて、アスカシーツをちょっと頭から被って」

「え〜。何をする気〜?」

「良いから良いから」

 シンジは、そう言うとアスカの頭からシーツを被せた。

 シーツを被せられたアスカは何が起きるのかわからず。ぶつぶつと文句を言っていた。

 ここでアスカならば手を出していても可笑しくない場面なのだが、手を出さないでいた。

 と言うよりもアスカは被せられたシーツの中で……。

 

 もしかして目隠しプレイ?

 いや〜ん。シンジったら昼間から好きねえ〜。

 

 などと別の次元へ想像が行っていた。

 

 しかし、アスカはそれをシンジに悟られまいと普段の通りの口調でシンジを急かした。

「もう……早くしてよね」

 そう言った後、シンジがハサミでシーツを切っている音がアスカの耳に届いた。

 アスカはシンジが何をしているのか益々分からないでいた。

 

「で、ここに頭を通して……で、こっちには手を通して」

「通す? どこにそんなのが……」

 と、アスカは疑問に思いながらシンジの指示に従うと頭をシーツの外に出した。

「あ、穴が大きくなってる。それに両方にも穴が出来てる。シンジ、これじゃ余計に……」

 アスカはそう言いながらシンジに言われたとおりに穴の開いた場所から手を通した。

「で、これを腰に巻いて」

「包帯じゃない。これを腰に?」

 アスカはシンジの言う事に従い、シーツを被ったまま幅の広い包帯を腰に巻いていく。

「ほら、出来た」

「できたって……。法衣じゃないんだから……」

 アスカの格好はシーツを服代わりに着ているように見える格好をしている。

「違うよ。下の方をもっとボリュームあるようにして……」

「わわわ……何をする気?」

 シンジは包帯を巻いた部分から下のシーツを広げた。

 シーツの下にもアスカはちゃんと服を着ているにもかかわらず焦っていた。

 

 今度は少し大きい箱から二本の白いリボンを取り出して、それをアスカが着ているシーツの袖の部分の内側に通した。

「で、袖の部分を寄せて……」

「だから、どうしたいの?」

 アスカの疑問をよそにシンジは黙々と作業を続けた。そして、両側の袖の部分にそれぞれリボンを通して結んだ。

「ほら、出来た」

「何ができたの?」

 満足そうに笑みを見せるシンジとは対照的にアスカは何が起こっているのかさっぱり分からないでいた。

 

「アスカの部屋からちょっと姿見を持ってくるから見てみて」

 と、シンジはアスカの部屋に入るとアスカが使っている姿見を持ってきた。

 しかし、姿見の裏の方をアスカに向けている為、アスカからは自分がどんな格好をしているのか分からない。

「なによ。もったいつけないでよ」

 アスカは我慢の限界が近かったのか少しだけ声のトーンを低くして言った。

「はいはい。ではお姫様」

 シンジは姿見をアスカに見えるように裏返すと。

 アスカの目には丸でシーツが簡易的に作られたウェディングドレスのように見えた。

「こ、これって……」

「再利用完了! ちょっと子供っぽい発想だけどね」

「こんなの……ダメよ」

「どうして?」

「相手も居ないのにウェディングドレスを着るなんて可笑しいわよ」

「じゃあ、相手も……」

 シンジはそう言うと先ほど持ってきた小さな箱からビロードの箱を取出してふたを開けるとそこには銀色のリングが入っていた。

「これって?」

「ほら、アスカの誕生日の時言ってたじゃないか。『モノで残るものも欲しいな』ってだからこれがクリスマスプレゼント」

「どうして昨日渡してくれなかったの?」

「それは……まあ、恥かしかったからかな。それと酔っ払っている時に渡すのもちょっとね……。だから今日渡そうと思って……」

「嬉しいことしてくれるじゃない」

「それともう一つ」

 と、言うとシンジは先ほどとは幅の少し大きいリボンを取出してアスカの髪を後ろで束ねた。

「安っぽいかもしれないけど……とりあえずこれで我慢してくれるかな? 何年か経ったら絹で作られた衣装を用意するから」

「……それって……そう言う事よね?」

 アスカは頬を真っ赤にして上目使いでシンジに聞いた。

「うん。そう言う事だよ」

「良いわよ。今度はもっと良いものを……ね?」

「うん……」

「だから、これは予約金」

 アスカはシンジの顔にそっと自分の顔を近づけて距離をゼロにした。

 

 

「予約破棄だと違約金、高くつきそうだね」

「当たり前よ。一生モノなんだからね」

 

 

<終わり……

 

 

 な訳は無く>

 

 クリスマスイブにて酔っ払って、そのまま後の行為に進んだ事が原因で見事に当りとなってしまい。

 予行演習で行ったはずの結婚式が現実化となってしまった。

 

 

 

 

 それから20数年後

 とある一軒家のリビング

 

「私が生まれた原因って……」

 1人の女性がアルバムを見ながら肩を震わせていた。

「み、ミワ……。そんなに怒らないで……」

 来年30代最後の年を迎える碇シンジは長女のミワに生まれた経緯を説明していた。

 年末の大掃除でミワがふと昔のアルバムを見つけて若い母親と父親の間に立っている自分の幼いころを見てシンジに問いただしていたのだった。

「若気の至りって言葉は聞きたくないわ……」

「ミワ〜」

 ミワはシンジの母親に似ているのかショートカットで色白の女性だった。シンジも娘とは言えミワに怒られるのはアスカに怒られるよりも恐怖心があった。

 多分、ゲンドウの遺伝子が残っているからなのかも知れない。

「あ、またお姉ちゃん。父さんを苛めてる」

「煩いわね。アキは黙ってな」

 二人の険悪なムードに割って入ってきたのは三女のアキコであった。中学1年生のアキコはアスカの少女時代に思いっきり似ていた。

 それゆえにシンジも何かとアキコには甘いところがある為、彼女のここでの登場はミワの燃える心の炎をさらに燃やす羽目になった。

 

「うえ〜ん。おかあさ〜ん。父さんとミワ姉が喧嘩してるよ〜」

 アキコは外見アスカに似ているものの中身はシンジに似てしまった為なのか、その場から泣きながら逃げだし、母親のアスカに助けを求めた。

「ミワ! シンジ! 何が原因で喧嘩しているの! そんな暇があったら大掃除早くしてよね!」

 アスカがドタドタとシンジとミワが言い争っている場所へやって来た。

 アスカの傍らには泣き顔のアキコと次女のマミが立っていた。

「まあ〜た、下らないことで言い争っているの? ミワ姉も私みたいに、いい加減父さんの事好きだって言っちゃえば良いじゃない」

 マミは楽しそうにシンジとミワに話しかけた。高校1年生のマミは肩まで丁寧に髪をそろえており、黙っていれば言い寄ってくる男性も多いはずなのに、彼女は何故かファザコンだった。

 

「マミは黙っていなさい!」

 アスカはマミに一言怒鳴るとシンジとミワの真ん中に立って双方の言い分を聞こうとした。

 

「原因は何なの? あらこのアルバム懐かしいわね」

 アスカはシンジとミワの言い争いの原因になっているアルバム見つけて拾い上げるとページをめくり始めた。

「あら〜。これってミワがまだオネショをしていた時ね……これが喧嘩の原因? 確かに写真に撮ったのは悪かったと思うけど……」

「母さん、それ違う〜! 私が言いたいのは若気の至りってヤツよ!!」

「ワキ毛のヘタレ? なにそれ?」

「ちが〜う! 若気の至り! 父さんと母さんが若い時に勢いで私を作った事よ!!」

「作ったって言う言い方は良くないよ。僕とアスカはちゃんと同意の上で……」

「な〜んだ。その話? 確かに勢いって言う部分もあったけど……でもそれが無いとミワだって生まれてないし、もしかしたらシンジとだって結婚してなかったかも知れないわよ」

 シンジはミワに必死に説明をアスカはそれを冷たくあしらった。

 ミワはアスカの発言にぐうの音も出なかった。

 アスカとてミワが生まれていようといまいと、シンジとあの日予約した通りに結婚をするつもりでいたのだが、自分の娘とは言えケチをつけられると、言い返すのがアスカらしいと言えばアスカらしい。

 

 

 

 しかし、アスカの背後から異様な雰囲気を漂わせている少女がいた。

「私が生まれてないと父さんを愛せないも〜ん。私と若気の至りしよ〜。ぐぇ……」

 マミが頬をピンクに染めながらシンジに突進しようとした所をアスカが見事な裏拳でマミを床の上にてノックダウンさせた。

「ええい! 何度言ったら分かるのよ! シンジはアタシのものであってマミはどっかの男を捕まえろってーの!!」

「きゅうう……はううう……」

 マミは頬をピンク色にしたまま気絶をしていた。なぜか表情は嬉しそうであったが…。

 

 

 

「びえええ〜ん。皆けんかしてる〜」

 アキコは泣きながらリビングを飛び出した。

「アキ!」

「良いのよ。ど〜せアキの行く場所は一つなんだから」

 追いかけようとしたシンジをアスカが止めてミワに説教をはじめようとしていた。

 ミワもシンジには強いもののアスカには何故か逆らえなかった。

 ただ単にシンジが弱いだけとの見方もあるのだが…。

 

 

 

 で、逃げだしたアキコが向かった先は……。

 

「え〜とこれはもう読まない雑誌だよな……。この雑誌は……まだ使えるのかな?」

 シンジの少年時代に似ている男の子が自分の購入した雑誌を必要なものをそうでないものとで分けていた。

「うわ〜、1年も見てないとまだ使えそうだな……」

 何に使う為の雑誌かは彼の名誉の為に伏せる事にしよう。

 そうやってそれらの雑誌の一番上と下にはカモフラージュとして週刊マンガ雑誌で挟んでいた。

 そんな彼の元へ……。

「びえ〜ん。まさぁ〜。皆がケンカしてる〜」

 アキコがマサと言う男のコの部屋に飛びこんできた。

 この少年はシンジとアスカの間に生まれた第4子にして長男のマサアキである。

 ちなみにアキコとマサアキは二卵性双生児である。

「父さんと母さんのケンカは今日に始まった事じゃないだろ。それに……アキコも急に部屋に飛びこんでくるなよな」

 と、言いながらアキコに見られるとまずい雑誌を素早くまとめる。

「……。グズッ……。マサがつめたい〜。うわ〜ん」

 アキコは泣きながらもマサアキに抱きつく。

「わ、分かったから……もう泣くなよ〜」

「つめたくしない?」

「はいはい。わかったから……泣かない泣かない」

 マサアキは呆れた顔をしながらも、アキコの頭を何度もなでた。

 アキコはマサアキになでられた事がよっぽど楽しかったのか満足そうな表情を見せた。

 何時の間にかアキコはマサアキの膝枕で眠っていた。

 

 

「なんで毎年ウチは大掃除が2日がかりになるんだろ……」

 マサアキは窓の外を見ながら溜息をついた。

 どうやら、この騒動は毎年の事らしい。

 

<本当に終わり?>

 

 

 あとがき

 何が書きたいんだろ? しかもタイトルに偽りありになっているし……。

 後半部分は意味も無く書いて見たものの、これは話として成立しているの?

 クリスマス記念でも大掃除記念(そんなのあるのか?)でも対応できるシロモノを書いてみました。

 非難の嵐なんだろうな。

 多分、続かない……と思いたい。


 烏賊すホウム初登場、しおしおさんから1話で2話おいしい?お話をいただきました。

 うむ、まったりです(謎)

 やはり布は白ですか。アスカのイメージカラーは赤ですから日の丸は日本人の旗でシンジは日本人でちょうど良かったことでしょう(さらに謎)

 みなさんも是非しおしおさんに感想をお願いします。

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