このごろのアイツは変だ。
あたしに隠れてこそこそしている。
使徒戦の頃の夜の・・・、というわけでもない。
とにかく、3バカ+ナルシスホモと何かをしている。
黒くて、すこし大きめの長方形のケースを毎日もって。
高校生になったあいつの中に、アタシの知らないあいつがいる・・・
My Music
written by 霜月 梓
「おはようアスカ。今日も一人?」
「おはようヒカリ。うん・・・。アンタも?」
「まったく、私たちに隠れて何やってんだか・・・」
「おはようアスカ、ヒカリ・・・」
「「おはようレイ。」」
「みんなも相変わらず?ケンもだけどね・・・」
「あ!マナおはよう。ホントつらいわね・・・」(ヒカリ)
4人、それぞれのダンナ不在での登校。夏前まではこんなことはなかった。
登校だけでない、下校までもだ。シンジのファンクラブにすれば、アイツがアタシと別れたんだと喜んでいるらしいがそんなことはない。ただ、共有する時間がうんと減った。
アイツの素行がおかしくなったのは一学期の中間考査の後、部活にも入っていないシンジの帰りが遅くなることが多くなった。それでも夕飯の時間の前に帰ってくるのはあいつらしいところだけど、何をしているのかはあたしにも教えてくれない。
ちょうど同時期に、鈴原がジャージを卒業すると言う事件が起きた!!第2ボタンまであけてはいるものの、やはり制服の白いワイシャツを着ていた。そして、シンジ同様ヒカリとの共有時間が極端に減ったらしい。
例はどういう趣味をしているのか、あのナルシスホモとつきあっている。でも、やはりこいつもアタシ達と同じなのだそうだ。ダンナの行動が怪しい。(アイツは怪しくないことはないけどね)
こうシンジとつるむ2人がシンジと同じような行動をし始めて、相田にも変化が見れた。
盗撮の件数がぐっと減ったのだ。(なくなったわけではない)
付き合っているわけではないけど、友達以上恋人未満の仲のケンスケとの異様な隙間は、ただ出さえ遅いマナの発育をさらに遅くしたみたい。(とくに胸の)
ほぼ同時期に起きたこの男どもの変化、アタシたちは不安でならない。
夏休みもそうだ。昼間はどこにいるのかわからない。ミサトは期待できないからリツコに聞いてみた。
「ごめんなさい、私からはいえないの。」
期待はずれ。ただ、すぐにわかると言ってアタシの顔を見てから
「ホント、アスカはシンジくんに愛されてるわね。」
と意味不明なことを言っていた。愛されてる?このごろあんまり話もしてないのに。
シンジの部屋に入ろうとも思ったが、恋人同士というだけであいつの生活にそこまで干渉してもいいものかと思い、あの文字通りのブラックボックスには手を触れてもいない。
いったい、何をやっているんだか。
あいつらはもうすぐ文化祭だと言うのに、クラスの手伝いにしてもそれほど力を入れていない。
何やってるのかな、シンジ・・・
アスカに疑われている。仕方がないのはわかるけど。
確かに僕らが二人だけでいる時間は極端に減った。文化祭を前にして、9月に入ってから素肌を重ねたこともない。
なぜそこまでアスカを避けているのかって?避けているわけじゃないんだけどな。
中間の後、つまり僕の誕生日のころだ。
カヲル君から一枚のCDをもらった。
「音楽、とくにクラシックとブリティッシュロックはすばらしいねw。愚かなリリンの生み出した、数少ない嗜好作品の一つだ。」
ビートルズのCDだった。それまで三石琴乃しか聞いていなかった僕に、ジョン・レノンとポール・ マッカートニーは衝撃を与えた。
それからしばらくして、父さんからは5万円のお小遣いをもらった。
「誕生日だからな。不服ならば返せ。」
顔を真っ赤にしながら言う父さんを見て、まったく不器用な人だな、僕に遺伝するほどに、と思った。
後でわかったんだけどビートルズはまずトウジからカヲル君に伝染し、そして僕に回ってきた。
ケンスケも、お母さんを亡くしたときに助けられたと言う。
ソレを知った僕はある日、みんなに持ちかけた。
「文化祭に向けて、バンドを組んでみない?」
一高の文化祭では後夜祭でバンドフェスティバルが開かれる。それに参加してみないかという誘いだ。
3人とも二つ返事だった。そこでその日の帰りにカラオケによってヴォーカルを決めることにしたんだけど・・・
はあ・・・。持ち歌を書いておくね。
ケンスケ:翔べ!ガンダム、ウルトラセブン、愛こそすべて
トウジ:六甲おろし、東京音頭、レディ・マドンナ
カヲル君:マッハGO!GO!GO!、イェスタデイ、レット・イット・ビー
僕:アンパンマンの歌、ピアノマン、ヘイ・ジュード
内容こそどうであれ、点数のみで言ったらケンスケがトップだった。
客観的審査をしてもらうために青葉さんにも聞いてもらうと、
「カラオケの点数とは、音程があっているかないかだよ。本人が歌ってもダメな場合があるんだ。」
といわれた。
「ただ、相田君の音感には光るものがあるね。指先も器用だし、キーボードにしてみたら?」
ということもあり、ケンスケは、コーラス兼キーボードとなった。
「鈴原君はリズム感がほかの3人に比べて優れているからドラムがいいんじゃない?」
もともと本人の希望もあり、トウジがドラムになった。
その後みんなで相談し、チェロで低音になれている僕がベース。オールマイティに何でもできるカヲル君がギターとなり、僕とカヲル君の歌唱力が甲乙つけ難いということからツインヴォーカル制になった。
次の日曜日、アスカとのデートも入っていなかったので僕とカヲル君は新吉祥寺の山野楽器へ向かった。
父さんからもらったお金を使ってベースを買い、楽譜も購入した。もちろんビートルズだ。
それから僕らは学校が終わると、カヲル君の借りているマンションに行った。完全防音性で、リツコさ ん名義のそのマンションはドラムやシンセサイザーを置いてもまだスペースが余った。余談だけど、ドラムとシンセはとてもじゃないけど買えなかったので、リツコさんに頼んでNerv経由で購入してもらった。MAGIを通してなら、CDから楽譜を作ることもできるようにしてくれた。著作権乱用と言わないで。結構うしろめたいところもあった。
バンド名「Make Persons」、リーダーケンスケで指導したバンド活動はすぐに行き詰った。
理由は、ビートルズのコピーでいていいのかということだ。
「なんか、わいらだけの音楽観てないわな。」
というトウジの一言がきっかけだった。僕ら4人に共通するもの、しかもビートルズ以外で。それは案 外近くにあった。
アスカだ。洞木さんだ。綾波だ。マナだ。僕らには愛すべき相手がいる。
「ビートルズも愛に行き着いた。そして、離れていった。でも僕らは先人の道を歩む必要はないのかもね。」
というカヲル君の意見もあり、僕らメンバーが好むアーティストの、あまり軽くはないloveソングを中心にMAGIにかけてもらった。
夏はずっとカヲル君の家にいた。アスカからの視線がいたかったけど、彼女のことを思って歌うと自然とその気持ちはやわらいだ。
そして、だいたい僕らの方向性も見えてきた。後夜祭だけでなく、一室借りようか?という案も出た。
夏休みもインターバルに差し掛かると、日本人アーティストの曲もやるようになっていた。おもに、FIELD OF VIEWが中心だったけど。
文化祭実行委員会の許可も得て、多目的階段教室を一時間借りれる手はずも付けた。
あとは、曲目の決定だ。
クラスのほうにあまり参加してなかったけど、僕らの状況を理解してくれている男子のみんなは何も言わないでおいてくれた。
サクラまでするといっていた。うれしいような、かなしいような・・・
そして、決戦の日は近づいてきた。
文化祭の前日ともなり、パンフレットが配られた。そして、驚いた!
「アスカ!!これ!」
帰りにいつもの4人で喫茶店ルノワールに集結する。そして、4対の目はさっき配られたパンフのある ページに釘付けだった。
『多目的階段教室、演目表』
そのゴールデンタイムにシンジたちの名前が書かれていた。多目的階段教室は今年はバンドのメッカ。つまり、あいつらはバンドを組んでいたのである。
「それでか・・・。たしかに練習には時間がとられるしね。」
「でもヒカリ!その間の数ヶ月、無視されているも同然だったあたしたちっていたい何よ!?」
「道化・・・」
「マナやレイの言うことも一理あるけど、どう思うアスカ。ただバンドを組むだけであったら、自分たちの彼女にまで秘密にするかしら?」
「そうよね・・・」
あの、誰よりもあたしを見ていてくれるはずにシンジが何の考えもなく1人(4人だけど)になるとは考えにくい。
「聞いてみましょうよ、あいつらの曲を。それですべてがわかるんじゃない?」
結局、アタシの提案であいつらのライブに行くことに決まった。
そして・・・
「おいおい、みんな来てるぜ!?」
「みんなって・・・」
「ヒカリたちや。」
「まあ、気づかないほうがおかしいよね。」
自分たちの想い人がライブに来ている。それだけで僕たちの思いはさらに緊張した。
ライブのタイトルは"my heart for..."。空白に自分の彼女の名前を入れることになっている。
曲目も、それぞれの人を思って入れたものばかりだ。
「腹くくるしかないのかな・・・」
「せやな。」
「さあ、行こうか。時間だよ、みんなが待ってる。」
幕はあげず、僕らが所定の位置につく。
カヲル君がハーモニカに口を近づける。
最初の曲は「ピアノマン」。
ハーモニカがソロで響き、ゆっくりと幕が上がる。僕が口を開き、歌いだす。
ピアノマンに思いを込めたのは僕だった。強がって、でも実はもろいアスカ。いつまでも君のそばい て、キミを包んでいる存在でいたいという思いを乗せて僕は歌った。
曲が終わり、拍手がいっせいに響く。
「「「「どうもありがとうございます!!Make Personsです!!」」」」
「ヴォーカル兼ベースの碇シンジです。今の曲、ピアノマンにはある人への思いが込められてありま す。」
僕は自分の思いを観客のみんなに伝えた。アスカのほうを見ると、彼女は二つの目から大粒の宝石を流していた。
「僕らはこれからやっていく曲に、それぞれの思いを込めています。僕らの曲を聞いて、好きな人への思いが沸き起こったなら、僕らにとっても幸せです。」
次の曲、サンシャインはトウジの中にともる太陽への曲。次のBlue eyesは、目こそ青くないけどケンスケの中のマナと言う存在を語っていた。元使徒として、必死に人間になろうとしていた綾波に、カヲル君は「let it be」を捧げる。
そして、最後の曲「gift」。
サビに堂々と「愛しています」と使われているこの曲を歌っていて気がついた。来ているカップルはみ な固く互いの手を握り合っていた。僕はいつからアスカにふれていないんだろう。
アンコールもなったが、時間が押している。
カヲル君と僕が出て、後夜祭のことを話した。それでも静まらなかったので、「君がいたから」をギター一本でやった。
このライブが終わったあと、ケンスケはマナに告白したみたい。結果は・・・。言う必要ないよね。
アスカには怒られたけど、抱きしめられた。
「バカシンジ・・・、カッコつけるんじゃないわよ。惨めで、涙が・・・」
「アスカ、ゴメンね・・・。もう、一人にはしないから・・・」
抱きしめた時の感触は、すこし細くなった気がした。
もう僕は君のそばから消えたりはしない。
もう、あんたをどこにも行かせない。
僕は君の隣にいる。
アンタはアタシのそばだけしか居場所をあたえない。
ずっとそばにいるよ、僕のピアノマン・・・
離れないでね、バカシンジ・・・
あとがき
結局最後はビリージョエルにした霜月梓です。
まあ、文章力のなさはあきらめてください。こんなもんです。
書きたかったのは最後の部分と、シンジたちのバンドという設定。
そのためにこんな作品になりました。どうもすみません・・・
こんな僕の駄作に付き合ってくれて本当にありがとうございます!
では!!霜月さんからシンジ君が音楽な話をいただきました。
本編でもチェロひいてましたしね。音楽はシンジ君らしいですね。
アスカのために捧げた一曲、きっと素敵であったことでしょう。
素晴らしいお話でした。読み終えた後にぜひ霜月さんへ感想メールをお願いします。