お情け
〜アスカ様お誕生日記念〜

書イタ人:しふぉん


 「シンジ… さみしいよぉ…」

 口に出したって、来てくれるわけじゃないのに…
 アタシもバカね…

 今日は2018年12月4日…
 そう、アタシの誕生日…
 使徒も来なくなって、ゼーレも無い。
 概ね、平和といえる世の中になって、3度目の誕生日。
 アタシがアタシとして、 そして、シンジと過ごせるはずだった、3度目の誕生日。
 なのに、シンジはいない…

 それもこれも・・・ 思い出すだけで・・・
 『各駅停車遅嫁特急呑狂列車ミソジ号』のせいよ!!!
 これ、自分でもなんて読んだらいいのかわからないわね。
 ミサトのこと、言ったつもりだけど…

 たしかにね、ここ最近、言い過ぎたかなぁって思ってはいたんだけど…。


 シンジと恋人の関係になったのは…使徒戦終盤の、アタシの誕生日。
 あの時のシンジ…すっごい格好良かったなぁ…
 あの黒い瞳がじっとアタシを見つめてて、 それも、その中にアタシが写るくらい澄んだ瞳で…
 華奢に見えて、しっかりとしたその腕でアタシを優しく抱きしめてくれて…
 暖かくて、気持ち良くって…泣いちゃってた。
 そしたら、泣いてたあたしの髪の毛を優しく梳いて…それから、耳元で囁いてくれたの。
 「アスカは僕の一番大事な人だから… 
  だから、ずっと守ってあげる。
  そして、ずっと傍にいる。
  大好きだよ…」
 って… 思い出すだけで、頭の中がぽ〜っとしてきちゃう…

 いけない、話がズレたわね。
 それでね、それに触発された加持さんがミサトにプロポーズしたのが、その半年後。
 遅くても、翌年には結婚って、なると思ってたんだけど…
 直後に国連事務総長の懐刀とも言うべき、補佐官から直々のご指名で長期出張中。
 今まで女の子を泣かせてきた罰ね、きっと。
 (学生時代の加持さんのアパートの部屋は“ホテル加持”って、呼ばれてたって、加持さんの友達が言ってたわ)

 加持さんの帰国が決まったのは、半年前の6月。
 3ヵ月後の来年2月に帰ってくる。
 そして、帰国が決定した日から… 大変だったわ…
 炊事洗濯掃除… 生活無能者に教えるのがこれほど大変だったなんて…
 アタシは出来るわよ! ただ、しなかっただけよっ!
 証拠に、三年前からシンジはキッチンに一歩も入ってないんだから!

 洗濯は、洗濯機任せだから、それほど教えるのはむずかしくなかったわ。
 元々、外面は良いんだもん。
 だから衣服の扱いや、色柄物なんかの選別も的確ですぐに洗濯はできるようになった。

 掃除も、ただゴミの分別内容を覚えておけば、それほど苦しむことも無いわ。
 まぁ… 全く知らなかったってわかった時は、言葉もなかったわね。
 あとは、毎日10分程度の掃除。
 今日は、この部屋と廊下、今日はリビングと雑巾がけ。って順番にやらせて習慣化させれば問題なし。

 ここまでは、誤差範囲内で収まっていたんだけど…。
 炊事に関しては…
 あまりの酷さに、ネルフで味覚障害の検査までさせた。
 結論… 酒徒の嗜好は、人類の規格に当てはまらない!!!
 美味しい物を食べて、美味しいって、言ってたんだしね。
 ただし!
 わかってはいるようなんだけど、あの性格のせいで、そこからさらにオリジナルの味付けをしてしまうのよね。
 アタシのシンジに無理やり味見をさせて、なんど気絶させたか…
 むうぅ…
 っで、これはこの味付け! って、無理やり覚えさせていたんだけど、ここにきてアタシも我慢の限界を超えてた。
 言いたい放題ってわけでも無く、このアタシが優しく諭してやろうかとしてたのに!
 (いや、あれだけ言えば、十分傷つきまくったと思うよ、ミサトさん:S・I君談)
 あの嫁かず後家ミソジときたら、逆恨みして、よりにもよって!
 今日のこの日に!
 アメリカなんかにシンジを出張させたのよ!!!
 それも、諜報部の人間を使って、拉致するかのように!
 もちろん、そんなことさせないように、いつもどうり司令に『お義父様』って押しかけたら。
 こんな時に限って、支部視察よ!
 ミサトのこと、タイミングを計っていたに違いないわ!

 その理由だって、かなりでたらめ!
 アメリカの次期大統領候補の演説の為だっていうんだから、やってられないわよ!
 その発言力の高さをアピールして、大統領選挙を確実に勝利してもらう為。
 確かに、EVAを呼び寄せることができるくらい、国連に対しての発言力があれば、大統領選挙は確実でしょうよ…
 日本なんかは、穀類の80%近く、アメリカからの輸入に頼ってるわけだし。
 世界中の第一次産業のシェアの50%近くを押さえてる国だから、恩を売るのもわかるわよ…
 だからって、嫌がらせにもほどがある…なにも、今でなくったっていいじゃない…

 おかげで、アタシは記念すべきこの日に、シンジのいないこの家で、いつになるかわからないアイツの帰りをまってる。
 きっと、今日までにアイツは帰ってきてくれるって、信じてる。
 その証拠に、今日はシンジからの電話がまだない。
 多分、空の上だからだと思う。
 EVAの移送コースは外部に絶対に漏らすわけには行かないから、その航行中の連絡も最低限だけ。
 私用の連絡など、国連最高権力を持つ事務総長だろうと、ネルフの最高司令官でも許されない。
 だから、連絡がこないだけ… きっと…

 最近のアイツはかなりキザな事をする。
 日付が変わった瞬間に、いきなり現れるんじゃないかって、
 朝起きたら、傍にいるんじゃないかって、
 昼にファーストやヒカリ達が開いてくれた誕生日パーティーの最中にいきなり現れるんじゃないかって、
 こうして、パーティの後片付けをしてる最中に、いきなり後ろからぎゅって抱きしめてくれるんじゃないかって、
 それをずっと期待してて、でも… そんなことあるわけなくって…
 やばっ… 涙が出てきちゃったよぉ…シンジぃ…
 最近のアタシはすっごく弱い… シンジがいないと寂しくてすぐに泣き出しちゃう。
 傍にいたらいたで、ちょっと感動すると、あいつの胸ですぐに泣いちゃう。
 普通の女の子って、こんな感じなのかな…
 昔のアタシが今の状態を見たら、精神崩壊起こして、1年は寝ちゃうんじゃないかな…

 ひとしきり泣いた後、アタシは落ち着かなくなって、家を出た。
 目的があるわけじゃないから、夜の街をブラブラと歩くだけ。
 クリスマスが近いから、いつにもまして街は色とりどりの光を放ってる。
 夜になったばかりの空に、まだ山の稜線から紅い色が見える。
 子供達がはしゃぎながら走る姿も見える。
 世界一安全な街って、言われてる第三東京市だから、まだまだ、幼い子供達だけって姿も見れる。
 日本人の性格もあるからだと思う。
 シンジがいつか言ってた、『情けは人の為ならず』って、
 アタシは情けをかけることが、その人の成長の邪魔になるからやめなさいって意味だと思ってたら、
 『情けをかけると、その情けはめぐりめぐって自分のところに返ってくるよ』って、意味だって。
 『人に優しくして、優しくされた人がまた別の人に優しくする。
  そのうち、自分の周りは優しい人だけになるでしょ? そしたら、自分も優しくしてもらえる。
  そういう意味だよ。 
  だから、人のためじゃなく、自分のために、人に優しくしなさいって諺。』
 そうね、分かる気がする…。

 ん〜 ちょっとミサトに厳しく言い過ぎたかな… 優しくしてれば、こうならなかったわけだし…。

 って、考えながら歩いてたら、中心街まで歩いてきていた。
 空はすでに、星も見えないほど真っ暗だ。
 ふと、時刻が気になって、あたりに時計がないかと探した時。
 緊急警報が鳴り出した。
 路上にバリケードがせり出してきて、路面の色が黄色と黒に彩られ、立ち入り禁止区域が発生する。
 使徒はもうこないはず! なら、ミサイルでも飛んできたの!?
 それにしては、避難命令が出ない。
 周りを見渡すと、人影は全くない。
 慣れているのか先程まで動いていた車も、道路の端に寄せて停車している。
 どうしたっていうのよ! とりあえず、ミサトに連絡しないと!
 その時、聞き覚えのある轟音が響いてきた。
 暫く、その方向を見つめていた。
 星の見えない空に、なにかある。
 何かが、キラって光ったような気がした。
 見えてるわけではないのに、何かが降ってくるのを感じる。
 なんとなくだけど、わかる。
 きっと、アタシの想像どうりのものだと思う。

 ソレは見事に、立ち入り禁止区域の上に降り立つ…
 紫色の巨人… シンジだ… やっぱり帰ってきたよ…
 既にアタシの体はバリケードを飛び越え、走り出していた。
 
 「あれ? アスカ? 何でこんなところに?」

 初号機の外部スピーカーから、シンジのボケッとした声が聞こえてくる。
 足元の人なんか、EVAの中からだとほとんど分からないのに、気付いてくれる。
 最近のコイツは、格好良過ぎる… 偶然でもこんな登場の仕方をするなんて…
 ずるい…

 初号機を片膝立てた状態でホールドし、シンジが降りてくるのが見えた。
 やっぱり、帰ってきてくれた…
 きっと、思い切り飛び掛っても、優しく抱きとめてくれる。
 そう信じて、降りてきたシンジに思い切り抱きついた。
 アタシよりもずっと高く伸びた背で、
 しっかりと抱きとめてくれた…

 「今?何時かな? まだ間に合ってるんだよね?」

 「うん、ギリギリよ」
 ホントは今の時刻なんか知らない。

 「お誕生日おめでとう、アスカ…」

 でも、シンジが急いで帰ってきてくれたの分かるし、逢って伝えてくれたんだもん。
 どうでもいいわ!
 久しぶりに感じるシンジの匂いと、暖かさ…
 あ… ダメだ…
 この後、シンジに抱きかかえられたまま、アタシはトリップしちゃったのよね…
 ふと気付くと、初号機と一緒にリフトでケージまで輸送されていて。
 だけど、まだトリップしてて、さらに気付くと、ロッカールームの前に居て。
 そこで、ベンチに下ろされて、

 「ちょっと、着替えてくるから待っててね」

 って、頬にキスされて… また、夢の世界へ…。
 あ〜もぅ アタシってば! 幸せ!
 でも、この日はこれだけじゃなかった。

 戻ってきたシンジが手に持っていたのは、小さな箱。
 ゆっくりと、その包装がむかれていって出てきたのは、さらに小さな紅い箱。
 そう… あれが入ってる箱…
 箱を開けてみると、紅いビロードに包まれた指輪…

 「それを、アスカの左手の薬指にしてほしいんだ。」

 な… シンジのクセに、言う台詞が違うわよ!
 コイツのことだから、『結婚してください!』って、そんな言葉しか思いつくはずないわっ!

 「だめなんて、言わせないよ。 アスカは僕が貰うんだから。」

 なんていうのか、否定しようとしても、シンジの優しい顔が目の前にあって。
 でも、その視線はすっごく真面目で。
 それに、ダメって言わせない雰囲気が漂ってて…。
 もうダメ… アタシはシンジに骨抜きにされた…
 間違いなく…。
 主導権なんて、どうでもいいわ…
 (…そんなもの、元からなかったようにしか見えなかったわ:R・A嬢談)

 ママ… 空母アスカは深い海に沈みます。
 シンジって海の底に沈んじゃいました。
 サルベージはしないでね。
 
 「アタシを貰って頂戴…」

 アタシは自分の誕生日に、アタシというプレゼントをシンジにあげた。
 この後の記憶は、アタシには全くない。
 気がついたら、シンジの隣にいて…
 左手を見れば、指輪があって…
 ソレを見て再び夢の世界へ…
 さらに気付くと、ベットで寄り添って寝ていて…
 さらに左手を見て、夢の世界へ…

 落ち着いたのは翌日の日も一番高いところを過ぎた時刻。

 なんであんなところに降りてきたのかと聞いたら、

 「昨日中に渡して、返事を聞かないとさ、次のイベントに間に合わなくなっちゃうからさ、
  一生に一度だけ、婚約者として過ごすクリスマスって、今日をはずすと来年になっちゃうし、
  来年には、僕は18になるんだから、やっぱり誕生日に…式をってね…」

 話してるシンジは照れてるのか、かなり顔が赤い。
 アタシもだ、たぶん間違いなく。

 アタシの左手薬指には、売約済みの証が輝いてて。
 半年後には、全てが貰われてしまうんだ…。
 そう思ったら、凄く嬉しくてシンジに抱きついていた。
 そう、アタシは今、幸せよ!!!



 〜〜おまけ〜〜

 「なんで本部作戦本部長の私が四半年も長期出張なのよ!」

 お義父様にお願いしたんですもの。 
 アタシを嵌めた罰よ… シベリアの寒い大地で、花嫁修業をしてくるがいいわ…
 『情けは人の為ならず』っていうしね。
 ミサトには、情けをかけたら、ミサトの為にならないもの…

 「私が、ここを離れては支部に対する、体裁が!」とか、
 「本部機能が滞ってしまいます!」とか、
 言い訳してたようだけど、無駄よ。

 今回だけは、やりすぎたのよ。
 唯一の味方のシンジさえ、この計画を推進してるんだからね。

 おかげで、アタシは一日中シンジに抱きついていられるし。
 あの日以来、シンジの膝の上が、アタシの居場所。
 夜は、もちろん、腕の中に決まってるでしょ!
 この場所が、一番幸せなんだから!




 -あとがき-

 ここまで駄文にお付き合いいただきまして、まことにありがとう御座います。

 最近になって、EVAFFに嵌りまして、色々読み漁ってるうちに…、
 はい…ROMって…、出来なかったらしいです。

 fan fiction・一人称初挑戦の作品ゆえ、未熟な作品ですが。
 (なんといいましょうか、どこがと分からないのですが、イマイチ…うぅむ…未熟物ですので、修行いたします。)

 怪作様には、このような稚作を掲載していただき、まことにありがとう御座いました。
 次こそは…


しふぉんさんにアスカ誕生日記念小説をいただいてしまいました。
これでアスカ様にシメられずに済みます(爆死

ミサトのようにシメられて人生の貴重な時間を無駄に過ごしたくないですからネ(w

素敵なお話を投稿してくださったしふぉんさんにぜひ読後の感想メールをお願いします。