NO.7
くるみ
シュウト
第十二話:アスカの愛
☆彡 ☆彡 ☆彡 くるみ 第十二話 ――― 終 ――― 2014823 シュウト.
先生の話が終わった後、僕とアスカはしばらくソファから立てなかった。
とてつもなく驚きの過去を知らされたワケじゃない。父さんと先生の過去と、父さんと母さんの馴れ初めを聞いただけだ。
ところどころで先生に質問したいところがあったけど、先生の顔を見たらそれはできなかった。先生はとても辛そうな顔をして話していたんだ。
僕は思った。
さっきの先生の話が正しいのなら、僕の両親はセカンドインパクトの発生に深く関わっている。
そしてサードインパクトを起こしたのは、父さんと、その息子の僕。
ひどい家族だ。
そうだ、よく考えたら僕は大勢の人を殺しているんだよね。
親子そろって大量殺人犯。僕なんて……。
そう思っていると、隣のアスカが口を開いた。
「シンジ今変なこと考えてるでしょ」
「別に考えてないよ……」と僕はウソをついた。
僕はサードインパクトの後、赤い海のほとりで寝ているときみんなから恨まれるのを覚悟していた。
恨まれて、憎まれて、殺されちゃうかもしれないって思ってた。そう思うと、他人が怖くなった。綾波と話して、あれほど会いたいと思った人たちが怖くなったんだ。
隣に寝ているアスカも怖かった。
アスカが目を覚まして、「馬鹿シンジ」と罵倒されるくらいなら僕は良かった。
むしろ、そうして欲しかった。
一応言っておくけど、僕はMじゃないよ?罵倒されるくらいだったら心が楽になったっていうこと。
でも、僕が想像した目覚めたアスカは「馬鹿シンジ」とは言わなかった。
だから、あんなことをした。
それをしている最中、僕はアスカが目覚めたのが分かった。分かってしまうと、僕の手の力はどんどん抜けていった。
そして、アスカは僕の頬を撫でてくれた。優しく、母親が子供にそうするように。
「ウソね」と隣のアスカが言った。そして、からかうような口調で続けた。
「今の顔見ている限り、どーせ『セカンドインパクトを起こしたのは僕のパパとママ。サードインパクトを起こしたのは僕。親子そろって大量殺人犯だ。僕なんていなくたっていいんだ、いない方が良いんだ』みたいなこと考えてたでしょ?」
「パパとママなんて考えてないよ」
僕は少しムッとして言った。
そんな僕を見て、アスカはふふっと笑った。してやったりって顔だ。
「サードインパクトはさ。しょうがなかったんじゃない。シンジは悩んで、傷ついていたし。それに、初号機が覚醒しちゃったのは……めちゃくちゃなった弐号機を見たから、あたしが死んじゃったと思ったから……なんでしょ?」
確かにそうだった。
白いエヴァが持っていた弐号―――。
ダメだ。思い出したくない。僕があのときすぐにエヴァに乗っていればアスカはあんな思いをしなくて済んだんだ!
「そんな顔しないの。そりゃあさ、そのときのあたしは『なんで来てくれなかったの』ってシンジを憎んでいたわ。だけど、もう今のあたしは気にしてないわ。それで死んだままだったならまだしも、あたしたちは今生きてんだから。過去のことにいつまでも囚われてなんかいてどうすんのよ」
どうしてだろう。
どうして、さっきからアスカは僕の思っていることを分かってしまうのだろう。
どうして、こんな僕に優しくそんなことを言ってくれるんだろう。
どうして、アスカは僕があんなことをしたのに僕と一緒にいてくれるんだろう。
「サードインパクトまでシンジは必死に戦っていたじゃない。苦しんで、何度も死にそうになりながら、逃げだそうとしても結局戻ってきてあたしたちや地球を救ってくれたじゃない。あたしは……あたしは、シンジみたいには出来なかった。自分に自信がなくなって、逃げ出して、そのままだった。だから、あんたは立派なのよ!すごい人間なの!小さいころからエリートになれって言われてきたあたしよりも!あんたはサードインパクトのことで誰かから責められるのを怖がっていたし、今もそうなんでしょうけど、そんな人なんてきっといないから!もしあんなに一生懸命だったシンジを責める奴がいたら、あたしがぶっ飛ばしてあげるから!だから自分に自信を持ちなさいよ!」
やっぱり僕は、情けない弱虫だ。
女の子のアスカにこんなことを涙を流させながら言わせるなんて。
僕はアスカと目を合わせた。
その瞬間、僕は変な感覚に陥った。
涙で潤んだ瞳に吸い込まれそうになった。
アスカがいつもよりもきれいに見えた。
「ありがとう」と僕は言った。
「でも、アスカだって僕たちや地球を救ったじゃないか。まるでアスカがなにもしてないみたいに言うなよ」
これは本心だ。
カッコつけてなんか言ってない。
アスカは静かに泣いた。僕の肩におでこを置いて、体を震わせて。
正直、アスカはおでこの部分に体重を乗せていたから僕の肩にはアスカの体重が掛かっているワケで、重かった。
でも、僕は我慢した。
こんなふうに泣くアスカを初めて見たから。そして、さっきのアスカの言葉に僕はとても救われたから。
アスカが泣き止み、顔を上げると僕たちは少し父さんの家を探検した。
先生は掃除だけでなく補強もしていたみたいで、特に階段と二階は厳重に板が打ってあったりした。
僕は先生に感謝しなくちゃいけないな、と思った。
10年以上先生と過ごしていたけど、僕は先生から距離を置いていたんだ。
先生みたいな性格の人があまり好きじゃなかったから。
でも、その先生も僕を大切にしてくれた。
父親のように、とは言えないけど、兄のように大切にしてくれた。
ありがとう先生。
父さんの家にはあまり物がなくて、真っ昼間だというのに暗い部屋が多く、勝手にドアが閉まったり(多分そういう仕組みのドアなのだと思うけど)だんだん不気味になってきた(僕は夢でこの家に来たことがあったからなおさら不気味だった)。
アスカはドアが閉まるキィィィィィィーッって音に怖がり、壁にかかっている女の人の絵に怖がり、暗い部屋に怖がり、仏壇にある仏様に怖がり、家を出るころにはヘトヘトになっていた。
その度にアスカが抱き付いてきたり、手を握られたりして僕はずっとドキドキしっぱなしだった。
そのドキドキと不気味な家へのドキドキで比べても、前者の方がずっとドキドキくらいだ。
こう頼られると僕がものすごく頼りがいのある男で、アスカはおとなしい女の子のように思えてきた。
僕たちはくるみ荘へ帰る途中、先生に父さんの幽霊について相談することに決めた。
父さんとの付き合いの長い先生なら、きっと良い手助けをくれると思ったんだ。
お祭りはもうすでに始まっている時間だったけど、僕たちは先生と話してから行くことにした。それでも十分お祭りを楽しむ時間はあるしね。
くるみ荘には先生しかいなかった。
トウジも委員長も出かけてしまったようだ。
アスカは、「あの2人、昨日は手を繋いで歩いてたから、今日は腕でも組んで歩いてるんじゃない?ああっ、気になる!」と言った。
「ねぇ、もしかして委員長ってトウジが好きなの?」
僕の質問に、アスカは呆れた顔をして、溜め息をついた。
そっか、そうだよね。
委員長がトウジのこと好きなワケないよね。
いつも喧嘩してるし。
「あた、今やっと気づいたの?クラス中、いえ、学校中のみんな知ってるわよ。ミサトでも知ってるのに……」
「ええっ!でも、いつもあの2人は喧嘩してるじゃないか。てっきり委員長はトウジのこと嫌いなのかと思ってたけど……」
「じゃあ、いつも喧嘩してるあたしたちはどうなるのよ。あたしはシンジのことが嫌いだっていうの?」
あっ、そうかと僕は思った。
なるほどなるほど。
なるほど……?
「えっと、アスカは僕のこと、その、好、すすすすすすすす………き、なの?」
アスカは顔を赤くした。
えっ、そうなの?!
もしそうだったら……嬉しい、な。
「バッ、バカ!……違うわよ!違わないけど……」
「ごめん、違うわよの後なんて言ったの?」
「もうっ、この話はこれでおしまい!さあ、さっさと先生のとこ行くわよ!」
何が何だか分からないよ。
そんなこんなで僕たちは先生の部屋へ行った。
先生は「なんだ、お祭りはいいのか?」と言った。
「先生、父さんのことで相談があるんです」
僕がそう言うと、先生はピクッと反応した。
先生はさっきの話をしているとき、ずっと辛そうな顔をしていた。
きっと先生は父さんの話をするのが辛いんだ。
それはきっと、先生はさっきの話の中では言わなかったけれど、どうして父さんと母さんがゼーレから抜けるように言わなかったのだろうという思いがあると思う。
先生は「言ってみ」と言って先を促した。
「さっき先生、話の中で父さんが幽霊になって出てくるくらい悩んでいるかもしれないって言っていましたよね」
先生は頷いた。
「それが本当に、幽霊になって出てきているんです。父さんの幽霊が」
先生はやはり驚いた。
そして椅子から勢いよく立ち上がった。
勢いが良すぎて椅子は後ろに盛大に倒れた。
「そうか。そうだったか。じゃあ、今ここにいるのか?さっきの話も聞いていたのか?」
「いえ、父さんはずっと僕に憑いているワケじゃなくて、ときどき現れるんです。今はいません」
「そうか」と言って、先生は腰を下ろした。
椅子を後ろに倒したまま。
先生は盛大に尻餅をついた。
僕とアスカは大声で笑った。
この部屋の雰囲気も真面目な雰囲気だったし、先生も真剣だからより面白かった。
「それ以上笑うな!相談に乗らないぞ!」
と先生が叫んでも僕たちは笑い続けた。
僕たちの笑いが収まると、先生は言った。
「で、どうして先輩は現れたんだ?」
「それを、先生に相談しに来たんです。あと、父さんを見ることができる人が限られていることと、父さんの力についてです」
「俺は別にそういうオカルトとかの分野に詳しいワケじゃないんだけどな」
「でも、父さんと一番付き合いが長い先生ならなにか分かるかもって思ったんです」
「ふーん。で、先輩を見ることができるのは誰なんだ?もしかしたら、お前たち2人か?」
「な、なんで分かったんですか?!」
僕は立ち上がった。
やっぱり先生は何か知ってるんじゃないか?
「まぁ、座れよ」
先生の言葉に従い、僕は座った。
しかし僕のお尻は本来あるはずの椅子に乗らず、床に叩きつけられた。
痛い!
くそ、さっき立ち上がったとき倒れたんだな。
椅子のバカ!
しかも、椅子の高さに腰を下ろしたときのおなかのフワッという感覚が妙に残っていて気持ち悪い。そして痛い。
先生はざまあみろと大爆笑。アスカも机を手でバンバンと叩きながら大爆笑。
「そ、それでどうして僕たちが見えるって分かったんですか?何か知っているんですか?」
僕の質問に、先生は笑いながら言った。
「そ、そんなもん……フフ、知らねーよ」
僕はイライラした。
確かにさっき僕は先生が同じ失敗をして笑ったけど、すぐに笑いを収めたじゃないか。
そう思っていると、先生は真剣な声になって言った。
「先輩が見えるのがお前たちだけなら、先輩が幽霊として出てきた理由なんてすぐ出てくるじゃないか」
「いい加減もったいぶらずに教えなさいよ」
アスカが言った。
先生は、一呼吸言って、極めて真面目な顔でこう言ったんだ。
「そんなの、シンジと君を恋人にするために決まってるじゃないか」
いけーっ!やれーっ!もっと、もっとだ先生!
あなたがどんどんこの物語をLASにしていくんだ!
このままじゃ、LGS(ラブラブゲンドウシンジ)になっちゃうよ!
そんなのは嫌なんだよ!誰も望んでないんだよ!だから頼むよ!
ぜひ次回も読んで見てください。