NO.7
くるみ
シュウト
第一話:丑三つ時の再会
☆彡 くるみ 第一話 ――― 終 ――― 201438 シュウト.
激しく驚いた。
時間は他のうるさい2人の同居人も寝静まる、午前2時半。
ちょうど、丑三つ時ってやつだね。
そんな時に、なんで僕が起きているのかというと、ただ単にトイレだ。
僕は、ミサトさんの散らかした雑誌に左足の小指をぶつけながら、トイレに向かった。
サードインパクトは、ミサトさんをちっとも変えなかった。
いや、使徒と戦っていた時よりは僕たち(僕とアスカだ)の面倒を見てくれるんだ。
精神的な余裕ができたんだって。
でも、僕が言っているのは、ミサトさんの生活スタイルだ。
遅刻ギリギリの時間に起きて、朝食を食べながら色々な支度をして、大きな足音を立てながら出て行く。
その様子に僕たちはいつも呆れてため息をつくんだ。
そんなふうに、ミサトさんの部屋は相変わらず汚いし、少し目を離すとリビングには空のビールの缶やら僕がつまづいた雑誌があちらこちらに散らばってしまう。
ちなみに、アスカも雑誌は読むけど、必ず自分の部屋に片付けるし、読んでいた時に食べたお菓子だって自分で捨てる。
ミサトさんはアスカに見習ってもらいたいよ、まったく。
アスカはお風呂に入った後も着替えてからリビングに来るのに、ミサトさんはバスタオルを巻いて、ろくに体を拭かずに来るんだ。
リビングにはミサトさんの水の足跡ができて、靴下が濡れて気持ち悪くなるし、それに僕は目のやりどころに困る。
もし僕がミサトさんを見ようものならアスカに冷やかされるし、ミサトさんもからかってくる。
今日……いや、昨日か。昨日だって、僕は洗い物をしていて、洗っていたスプーンが滑って落ちちゃったんだ。
タイミングの悪いことに、ちょうどそのときお風呂から出たばかりのミサトさんがスプーンの近くにいて、ミサトさんがしゃがんでスプーンを拾ってくれたんだ。
その時に、ミサトさんのあの胸の谷間を……見ちゃったんだ。
だってしょうがないじゃないか。
ミサトさんがそこにいるって知らなかったんだし、スプーンだってワザと落としたわけじゃない。
それなのにミサトさんはニヤッと笑って大きな声で叫んだんだ。
「きゃあ!シンちゃんってば策士!ワザとスプーンを落として拾ってもらってる隙に私の胸を見るなんて!」
すると、お風呂に入ろうとしていたアスカがドタバタとリビングに来て、僕をビンタしたんだ。
そのアスカも、Yシャツの上の方のボタンが外れててチラッと白のブラジャーが……。
僕は頬が真っ赤になるまでビンタされた。お風呂に入った時に染みるくらいだよ。
それに見合ったものは見れたんだけどね。
まぁ、ブラジャーなんか僕がいつも洗濯して干すようなものだから見ようと思えばいつでも……。
それにパンティーだって……。
いや、でも、着けてるのと着けてないのは全く別物と言っても過言じゃないよ。
……僕だって健全な中学生だ。
そういうのには興味がある。
トウジやケンスケほどじゃないけどね。
なんて言ったって2人はビデオを持ってるし、本だって持ってる。
僕は一度本を貸してもらったけど、結局隠しておくだけで見ずに返しちゃったんだ。
だって、確かに表紙の女の人は美人だったし、胸も……大きかったけど、でも美人、っていう部分ではその人は僕の2人の同居人には敵わないし、胸はミサトさんの方が大きい。
アスカは胸では負けちゃうけど、でもアスカの方がいい。
だから僕は、昔先生のところにいたとき読んだ何かの漫画でノートを隠していたように、木材を買って、ちゃんと火も出るようにして、穴をあけてボールペンの芯を使わないとその本を取り出せないようにしたんだ。
それくらいしないと、僕は安心できなかった。
あの主人公の気持ちが分かるよ。
そして僕は、ある意味トウジやケンスケより上級者だ。
だって僕は(事故だったけど)今は亡き綾波の胸を触った。
……あまり思い出したくないけど、たくさんの綾波の裸も見た。
それに、アスカの胸だって見たことがある。
あ、ヤバい。
鼻血が……。
ああ、あの時の僕はなんであんなところであんなことをしちゃったんだろ……?
サードインパクト後はアスカは全く僕の言うことを聞いてくれなくて、2人きりですごく居心地が悪かった。
それからみんなが赤い海から現れて、みんなと再会を喜んでいたら、いつに間にかアスカは話すようになってくれた。
それは良かったんだけど、その後に僕とアスカとミサトさんの同居を再開してしまったのが、悪かった。
正直、ミサトさんがいなければなぁ、なんて思う。
確かに中学生で同棲なんてダメだと思うけど、ミサトさんのお世話をするってすごく大変だから困ってしまう。
アスカはというと、サードインパクト前はミサトさんほどではないけどだらしなかったのに、何故かきちっとした生活をするようになった。
洗濯物だって、アスカは自分で、自分だけで洗うって言いだしたんだけど、ミサトさんが許してくれなかった。
水道代がもったいないんだって。
確かに、海があんなのになっちゃったから水は大切だけど、でも僕たちの気持ちだって考慮してもらいたい。
そこで、アスカが考え付いたのが、僕とアスカとミサトさんでじゃんけんをして、負けた人が洗濯を干すっていう案。
僕とミサトさんはそれを承認したんだけど、僕はいつも負けてしまうんだ。
それに、勝ったとしても、負けたのがミサトさんの場合、「あ、忙しいからシンちゃんやっといて〜」なんて言ってどこかに逃げるんだ。
そして、本当に不思議なんだけど、アスカはじゃんけんで全く負けない。
僕が一人勝ちしても、アスカ対ミサトさんで必ずアスカは勝つ。
結局、アスカの案は、まったく意味のないものになってしまったんだ。
まったく、ミサトさんは。
そのうち結婚するっていうのに、全然家事をしようとしないんだよ。
僕が言っても、アスカが言っても、リツコさんが言っても、駄目なんだ。
「家事なんてアイツにやらせるわよ。『かじ』繋がりだしね」
なんて言ってて、僕は冗談だと思ってたけど、どうやら本気みたいだ。
おっと、話がそれすぎた。
僕は、トイレで用が済んで部屋に帰ると、その、出たんだ。
幽霊が!
僕はベッドに入って、しばらく目を瞑っていたんだけど、なにやら気配を感じて、目を開けると、いたんだ。
しかも、その幽霊が……。
「うわっ!」
「お前は何も変わっていないようだな、シンジ。」
父さんだったんだ……!!
僕は大きな声を出してしまったから、2人を起こしちゃったかもしれない。
でも、僕にはそんなことを心配する余裕なんてなかった。
父さんは僕をじっと見ていて、僕はその目から目を離せなかった。
冷汗が首すじや胸を流れる。
無意識に太ももや、肩に力が入って疲れてきた。
体が熱くなって、一枚の毛布すらはいでしまいたいのだけど、体が動かない。
いや、動くんだけど、動かすと何かされそうで怖い。
いくら闇に目が慣れてるからって、暗い中にあの黒い服を着た父さんがベッドの横に立っていたら、誰だって怖い。
いや、目が闇に慣れているから余計に怖いんだ!
父さんの目を見たまましばらく耳を澄ますと、どこからかいびきだけが聞こえてきて、僕は焦った。
ミサトさんは寝てるみたいだ。
アスカはわからないけど、物音はしないから、きっと起きていないよ。
なんであんな大声出したのに起きてくれないんだ!
誰か助けてよ……。
「と、父さんの、幽霊……?」
僕は訊いた。
声が震えちゃっているよ。
「そうだ。」
「な、なんでここに……?」
「分からん。」
僕は、何も言えない。
なんなんだこの幽霊は?
まさか、僕の魂を狙って!
でも、本当に幽霊なのかな?
全然透けてないし、宙に浮いてるわけでもないし、全然僕を怨めしく思っている感じがしない。
きっとこの幽霊にとってはただ見下しているだけなのだろうけど、僕にとっては睨み付けられているようにしか思えない。
でもそれは怨めしいのじゃなくて、多分だけど、父さんの癖だ。
でもやっぱり怖い……。
「私が怖いか。シンジ。」
幽霊は、不気味に笑った。
怖いに決まっているじゃないか!
幽霊はフッと鼻で笑って言った。
「私は、ユイと会っていた気がする。そして、ユイに何か頼まれたのだ。」
「母さんに……?」
「フッ。忘れてしまったがな。私は早くこんなところから成仏しておさらばしたい。ちゃっちゃと頼まれたことを済ませて、成仏するのだ。シンジ。お前は私の成仏を手伝え。私は成仏するまで、お前に取り憑いてやる。」
「そ、そんな……」
「お前に拒否権はない。今夜はこの辺にしておいてやる。さっさと寝ろ。」
幽霊は、指を鳴らすと消えた。
その瞬間、僕の身体はやっと僕の言うことを聞くようになった。
でも、ずっと力の入っていたところどころがすごく疲れた。
息切れもしてる。
タイマー設定しておいて止まってしまった扇風機をもう一時間にセットして、目をきつく瞑った。
そうだ!これは夢だよ!
夢から覚めた瞬間、それが夢なのか現実なのかよく分からないときがあるじゃないか!
そのせいだよ、きっと。いや、絶対!
だって父さんはサードインパクトで消えたんだもの。
あはは、死んだんじゃないんだから、幽霊なんか出るはずがないじゃないか!
きっと今頃、あの綾波とかカヲル君と仲良くやっているよ!
そう思うと、ドッと疲れが押し寄せてきて、僕は寝てしまった。
……ん、うるさいな。アスカかな?
「な、なんで司令がいるの!?」
え!?
僕は起きた。
体を起こして、現状を把握する。
えーっと、ふすまのところで腰が抜けてへなへなと座っているのは、アスカだね。おはよう。もう制服に着替えてるや。
次に、時間。
わあ!こんな時間だ。早くご飯作ってお弁当も作らなきゃ!
……あれ?なんでアスカはあんなへなへなしてるんだろう?
それに、司令?
司令って、ネルフの?
嫌だなぁ、アスカ。ネルフはもうないじゃないか。
ネルフは国際海洋研究所っていう名前の施設になっただろ?
まったく、寝ぼけてるのかな?
「し、シンジッ!どういうことよ!」
「どういうことって、どういうこと?」
「あ、あんたバカぁ?司令がいるじゃない!」
「司令って、父さん?」
「そうよ!」
「ははは。アスカはきっと寝ぼけているんだよ。だって父さんはサードインパクト以来戻ってきてないんだよ?」
「じゃあ、あんたの横にいるのは誰なのよ!」
横?
僕は横を見た。
カーテンの隙間から、気持ちのいい日光が差し込んでくる。
明るい一日の始まりだ。
「あ、あんた、分かっててとぼけてるんでしょ?」
アスカが、呆れているのよっていう声で僕に言った。
でもその声も少し震えていたんだ。
な、なんのことかなぁ?わかんないや、僕。
「シンジ。」
おぉ!帰ってこない父さんにそっくりな声が聞こえるなぁ。
やっぱり威圧感が違うんだよな。
僕の好きなテレビ番組のイッテPのナレーションの声に似てるってこの前僕とアスカとミサトさんで話したっけ?
でも、やっぱり父さんは静かに襲い掛かってくるって言えばいいのかな、そんな感じがするんだ。
一体なんだろう?誰かが録音していたのかな?
「シンジ。」
そ、そうだ!早くご飯とお弁当作らなきゃ!
このままじゃ朝ご飯抜きで、お昼は売店で買わなくちゃいけなくなるよ。
あの売店、あまり利用する人はいないんだけど、トウジみたいなたくさん買う食いしん坊が使うからすぐ売り切れちゃうんだよね。
そうなったら、朝食と昼食抜きじゃないか!
アスカに殴られる!
あ、でも、もう少しゆっくりするのもなかなかいいかもなぁ。
そうだ、アスカに今日は僕とアスカは遅刻するって電話してもらって―――
「お前が私を無視するのならこっちにも考えがある。」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
き、昨日の幽霊が、僕の頭から手を出した!
ちょ、ちょっと分かりにくいと思うけど、僕の口のところから幽霊の手が出ている!
つ、つまり、幽霊の手が僕の頭を透けて、白い手袋が僕の口から出ているように見えるんだ!
ちなみに、きゃあって方はアスカだ。
この幽霊はみんなに見えるの?
「ど、どうしたの!?」
パジャマ姿のミサトさんが来た。
ミサトさん、助けて!
「えっと、なんでアスカは腰が抜けてるの?」
「え……?」
「ちょっとミサト!あれが見えないの!?」
アスカが僕のすぐ隣辺りを指さす。
「はぁ?……星空のポスターじゃない。それ以外何か見えるの?まさか、アスカ!私のビール飲んだんじゃないでしょうね?」
「飲んでな―――」
「シンジ。」
僕を呼ぶ声に、アスカは口を閉ざした。
「おはよう。」
「お、おはよう、父さん」
僕は父さんのサングラスの下にうっすらと見える真っ黒い目をおそるおそる見て言った。
アスカの目も吸い込まれそう、って思ったことあるけど、父さんの幽霊の目もアスカとは全く別の意味で吸い込まれそうだ。
と、とにかく父さん、手をどかしてよ。
ミサトさんは、本当に心配そうな顔で僕を見ていた。
あとがき
おはようございます。こんにちは。こんばんは。シュウトです。
怪作様、ごめんなさい。Everybody goes(以後E・G)がまだ終わってないのにまた連載を始めてしまいました。
E・Gの構成は出来ているのですけど、ちょっとしたことが原因で書けなくなってしまいました。
だがしかし!完結させるつもりでございます(シン・エヴァまでには……無理かな……)。
しばらくは、この「くるみ」を最優先にして書くつもりです。
このくるみですが、またMr.Childrenの「くるみ」からいただいてしまいました。
一話のタイトルを見ると分かるように、僕はネーミングセンスが悪いのです。
ミスチルファン、そしてエヴァファンの方に怒られないように、いい作品にしようと頑張るのでよろしくお願いします。
あ、途中のシンジのあの本の隠し方は、某ライト君がやっていたものです。あれ凄いですよね!今度やってみようかな(笑)
では、二話もよんでいただけたら幸いです。
それにしても、エヴァとミスチルってシンクロ率高いような……気のせいですかね。