あたしの名は碇ミコト。

18歳。

高校三年生。

実は、あたしにはちょっとばかり人と違ったところがある。

あたしは・・・・・・・・・ファザコンなのだ。

それも、かなり強烈な。

自覚したのは、多分まだあたしが中学生にあがったばかりのころ。

その頃から、パパはおやすみのキスをしてくれなくなった。

かわりに、ママとばっかキスしているので、わたしは奇妙に苛立って、よく兄たちに八つ当たりしたものだ。

その感情が嫉妬だと理解したのは、思春期も真っ盛りの14歳。

その日が、ママとあたしの果てしない戦いの幕開けだった。


























続々夫婦絶唱  

子供たちの挽歌編 無敵のラブソング(いんびんせぶる・らぶそんぐ)




by三只さん




























良く晴れた休日。

洗濯ものを干し終えたパパがリビングで新聞を読んでいる。

リュウジ兄さんは友達と会うといって朝早くから出かけ、ママも友達の家に行くとかで不在。

つまるところ、この家には、あたしとパパしかいないことになる。

それを確認すると、あたしは自室へ駆け戻り、嫌味にならない程度にお化粧、お洒落をする。

最後にお気に入りのリボンで後ろ髪を束ね、姿見の鏡の前でクルッと一回り。

我ながら、結構カワイイと思う。

自室を飛び出したあたしは、一気に階下のリビングへと駆け下りる。


「パ〜パ♪」


そして、新聞片手のパパの胸元へと飛びついた。

ちょっとびっくりしたパパだけど、やんわりとあたしを受けとめてくれる。

あたしはすかさずパパの首に手を回し、見た目以上に厚い胸板へと頬擦りした。

いわゆる「お姫様だっこ」という状態だ。

あたしは身長158cmと少々小さいので、パパのフトコロの中にすっぽりと納まる。

まったく、アスマ兄さんみたいに無駄に大きくなるものじゃない。

「どうしたんだい、ミコト? 」

見上げると、パパの優しい目。

この目で微笑まれると、あたしは蕩けそうになる。

自然と口元と目元が緩み、身体までリラックスしていくのがわかる。

傍から見れば、まるで日溜りにいる猫みたいに見えるかも。

「どこかに行くの? そんなにお召かしして」

パパは訊いて来る。いまいち、パパは鋭いのか鈍感なのか判断がつかない。

・・・・・・全部パパのためにしてるのよっ!! という言葉を飲み込んで、あたしはパパの頬に手を当て、その髪を梳いた。

とても40歳近いとは思えないほど若若しい頬にサラサラの髪。

「まるで甘えん坊さんだね」

あたしを抱えながらパパは苦笑する。

あたしも飛びっきりの微笑みを返すと、パパに言った。

「うーんとね、パパにしてもらいたいことがあるの」

そしてあたしは軽く瞼を閉じて、ちょっとだけ唇を突き出す。

やだ、頬が熱くなって来た・・・・・・・・・。

「・・・・・うん、分かったよ、ミコト」

パパが頷いた気配。

そしてパパの右手があたしの頬に当てられた。

「・・・・・・・・・っ!! 」

あたしの身体がちょっと強張る。

でも嬉しい!!

更に左手もあたしの頬へ。

心臓が高鳴る。

そして・・・・・・・・・・・






あたしの首は、90°横へと向けられた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

呆然としているあたしの耳に、何か入ってくる気配。

「うわっ、いっぱい溜まってるよ。マメに耳掃除しなきゃ・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・(怒)

あたしは文句を言ってやろうとしたが、思ったより強い力で頭がガッチリ押さえ込まれてしまっている。

「ダメだよ、頭うごかしちゃ。危ないから」

・・・・・・・パパの鈍感っ!!

そう思ったけど、パパの耳掻きは実に気持ちいい。

「ミコトは、昔から耳掻きされるのが大好きだったから・・・・・・」

言いながらパパはせっせと綿棒を動かしている。

あ・・・・・・・ほんと気持ちいい・・・・・・・

「はい、反対」

言われるままに目を瞑ったまま顔を向ける。

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・ほんとは、お買い物に連れ出そうとしたんだけど・・・・

ま、いっか・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

なんか・・・気持ち良くて・・ねむ・・・く・・・・・・・









ぐぉりっ!!









「きゃああああああああああああああああああああ!??? 」

耳への激痛で、あたしは跳ね起きた。

「何するのよ、パ・・・・・・!?」

涙まじりの声を上げようとしたら、そこには・・・・・・・

「まったくなにやってんのよ、二人とも!! 」

綿棒片手に肩を怒らせたママがいた。

「何って・・・・・・・ただの耳掻きだよ」

あたしを抱えたままパパ。

「だったら床に寝転がってやりなさいってーの!! とにかく離れなさい!! 」

ママの鼻息が荒い。

まったく、この人の独占欲の強いことといったら。

あたしは不承不承パパから身体を離すと床に降り立った。

そして、リビングの一角にあるお座敷に行くと、パパを手招きする。

「さ、パパ、耳掻きしましょ♪」

パパもお座敷へとやってくる。するとすかさずまたママの声。

「なんでシンジを横にするのよっ!? 」

・・・ほんとにもう、いちいちうるさいなあ。

「今度はパパの耳掻きをしてあげるからに決まってるじゃない」

パパの手から綿棒を受け取ろうとすると、ずかずかと近づいてきたママから引っ手繰られた。

「だめっ!! シンジの耳掻きはあたしがするのっ!! 」

そういってママはあたしを押しのける。

悲しいかな、体格差もあって、あたしは弾き飛ばされてしまった。

「やだ〜〜!! あたしも耳掻きするの!! 」

抗議の声を上げてみるが、ママはガッチリとパパを抱え込んで離さない。

「あたしがするの〜、するのったらするの〜」

あたしのポカポカ攻撃に辟易したのか、ママは切り札を出してくる。

「あんた受験生でしょ!? 油売ってないで、しっかり勉強しなさいっ!! 」

しかし、あたしは鼻息一つで弾き飛ばしてみせた。

「ふんだ。猛勉強しなきゃ入れない大学なんてないもんねー!! 」

実際、あたしの成績は常に学年ナンバー1なのだ。兄さんたちと同じく第三新東大へ行く、といっても、進路指導の先生は別段驚いた様子もなく、瞬時に太鼓判を押して進路相談は終了してしまった。

どうも、頭の回転の良さはママ譲りらしい。ここは素直に感謝しておくことにしよう。

「でも、油断は禁物だよ、ミコト」

しかし、パパが心配そうな視線を注いできた。

心底相手を思いやってる、慈愛に満ちた優しい目。

この目には、さすがにあたしも抗えない。

無理に抵抗しようとすると、なぜかたちまち胸が罪悪感に満たされるのだ。

ママの「油断していると、足元すくわれるわよ〜」という声を聞き流しながら、あたしはすごすごとリビングを後にする。

あたしが二階へ上がった途端、階下からイチャつく雰囲気が伝わってきた。

無性に悔しい。

こうなってしまうと、今のあたしに出きることはない。精々、ママの使っている高級シャンプーをこっそり使って水増ししておくくらいである。

勢いでささやかな復讐を実行しかけたが、あたしはどうにか踏みとどまった。

まだ休日は半分も過ぎてない。

パパを独占するチャンスはまだまだある。

あたしは、怒りを奥歯で噛み潰し、深呼吸して呟く。

「ミコト、行くわよ・・・・!! 」









二度目のチャンスはお昼にやってきた。

昼食だよ、と呼ばれてキッチンへ行くと、美味しそうな匂いがあたしを出迎えた。

今日のランチは、スパゲティーカルボナーラ。

フレッシュサラダとオレンジジュースが添えられて、キッチンのテーブルを彩っている。

パパの料理の腕はプロ級だ。

しかも和洋中華となんでもござれ。

早速みんなテーブルに着いて、「いただきま〜す♪」とフォークを握った途端、ママがアクションを起こした。

長くてスラッとした足をこれ見よがしに伸ばすと、パパの膝上に座ったのだ!!

「はい、シンジ。あ〜ん(はぁと)」

「う、うん・・・」

ママのフォークをパパは咥える。

「美味しい、シンジ? 」

「う、うん、そりゃあ・・・・・」

なんだってパパは自分の作ったものを評価させられるんだろう?

理不尽な光景だ。 

あたしは、無言で自分の分を食べるのに専念することにする。

内心は、嫉妬で煮えくり返りそう。

・・・・・・余談だけど、中学生へ上がるまで、世間一般のカップル、夫婦はこうやって食事するものだと信じ、素直に憧れていたものだ。

なるべく表情を殺してフォークを動かしていたが、それでも上目づかいで二人の姿を確認せずにはいられない。

すると、あたしとママの視線がつとあった。

そのときママの顔に浮かんだ勝ち誇った笑みを、わたしは忘れない。

にっこりでも、ふふんでもなく、ニヤリだった。

・・・・こらえるの! こらえるのよ、ミコト!!

あたしは自分に言い聞かせる。

ここは、耐えるのだ。一時の怒りで戦略を破綻させるわけには行かない。

そう、ここは勝負する局面ではない・・・・・・・・!!

あたしは、奮える指で静々と食事を終えると、しずかに席を立った。

「ご馳走様」

そういって食卓へ背を向ける。

「あ、ああ、お粗末さま」

パパの声。ついでにママのニヤついた視線も背中にささってくるのがわかる。

振り向いて、ママを押しのけてパパに抱っこしたい、という欲求が極限まで高まったが、どうにか押さえつける。

「勉強します・・・・・・・」

半ば逃げるようにキッチンを出て、あたしは足音も高く自室へと飛び込んだ。

きーーーーーーーーーーーーーっ!!

悔しいったら、悔しいっ!!

ベッドへとダイビング。

枕をポカポカと殴って深々と顔を埋める。

・・・・・・・・・・・・・・

だめだ、どーにも落ち着かない。

仕方がないから、あたしは最後の手段をとることにした。

書棚へ行って、一番奥にある『星の王子さま』を引っ張り出す。

パラパラとページをめくると、一枚の封筒が顔をだした。

あたしは、封筒だけを持って、再びベッドへと横になる。

そして大事に大事に封筒を開くと、中味を取り出した。

一枚の写真。

一人の少年が、屈託なく微笑んでいる。

若い頃のパパだ。

パパとママの二人のアルバムから失敬して来た一枚。

これが、目下のところ、あたしの一番の宝物だ。

写真の中のパパ。

とってもらぶりぃだ。

「えへへへ・・・・・・・・・・・」

あたしは笑みを浮かべると、ベッドをゴロゴロと転がる。

不思議と怒りは収まり、心が落ち着いていく。

一通り転がり終えると、あたしは丁寧に写真を仕舞いなおし、そっと階下を伺った。

・・・・・静かだ。

チャンス到来。

あたしは、そっと階段を降りてリビングへと向かう。

リビングには・・・・・・お座敷の所にママが横になっていた。

その身体の上には、毛布がかけられている。パパがかけたものだろう。

ママは、休日には食後に昼寝をする。よく牛にならないものだと常々思うのだが、ママのプロポーションに凋落の影は見えない。

予定通りね。

あたしは内心でほくそえむと、そろりそろりとママへ近づいた。

よく眠っている。熟睡している寝顔だ。

それにしても・・・・・・・・。

金色の艶のある髪を扇状に広げて寝入っているママの姿は、娘であり女であるあたしの目から見ても綺麗だった。

なんでこんなに若々しいんだろ? しかも、歳をとるごとに、益々綺麗になっていくよう。もうすぐ40歳だというのに・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・

不覚にも見とれてしまい、あたしは憮然としてしまう。

・・・・・・・・・あたしの方が絶対綺麗になってやるもんね!!

心の中でママの寝顔に思いっきりアカンベーをすると、リビングの続きにあるキッチンへと向かった。

そこには、案の定、ママを起こさないように静かに食器を片付けているパパの姿があった。

パパが最後のコップを片し終えたところを見計らって、すばやく近づく。

そして、パパの腕にすがりつくと、優しく引っ張った。

「・・・どうしたんだい、ミコト? 」

別段驚いた素振りも見せず、パパは片手で器用にエプロンを脱ぐ。

あたし、飛びっきりの笑みを浮かべ、パパにおねだりする。

「ねぇ、お散歩いきましょ? 」

パパは苦笑する。

「勉強はいいの? 」

「息抜きしなきゃ、息が詰まって死んじゃうよ」

そう唇をとがらせると、パパは仕方ないな、という顔をする。

こうなったら、押しの一手だ。

「パパ、行こうよ〜」

おねだりしつつ、玄関の方へと引っ張って行く。

「わかった、わかったよ・・・・・」

それでも、パパは嫌な顔をせずついてきてくた。

せかしたい気持ちをおさえながら、玄関先で靴を履くあたし。

いつママが起き出してきやしないかと、ハラハラものだ。

「じゃ、行きましょ♪」

さりげなく、でも音を立てないようにドアを開け、パパを誘う。

「はいはい」

パパを外へ引っ張り出すと、今度は細心の注意を払い、しずかにドアを閉めた。

ママの出てくる気配はない。

・・・・・・・あたしの勝ちの確定だ!!

門をくぐり、パパの腕をしっかり抱えて通りへと出る。

達成感と幸福感があたしを満たす。

「どこへ行こうか? 」

優しい目で訊ねてくるパパ。

「えーとね、ローマの大聖堂がいーな♪ そこでパパと結婚式を上げるの♪」

冗談だと思ったのか、パパはちょっと笑って見せた。

・・・・・本気だったんだけどな。

そのまま、他愛もないことを話しながら、あたしたちはとりあえず近所の公園へと向かう。

それにしても、なんと幸福な時間だろう。

愛しい人と一緒に歩くだけで、こんなにも至福に浸れるなんて。

公園では、並んでベンチに座って、そして、通りかかりの人からお似合いのカップルだって誉められたりして・・・・・・キャ♪

あたしとパパが連れ立って公園に入ったとき、背筋を悪寒が貫いた。

猛烈に嫌な予感もしたので、公園に立ち入らず引き返そうとしたが、手遅れだった。

それらの原因たる人物の声が、あたしたちに降りかかってきたからだ。

「・・・・・ふっふっふ、甘いわね、ミコトっ!! あたしをたばかろうなんて、100年とんで7年早いわっ!! 」

みると、公園の水銀灯の上に、見なれた人影が腕を組んでこちらを見下ろしている。

真っ赤なロングスカートをはためかせたママ。

・・・・・・・なんか、頭まで痛くなってきた。

「あ、危ないよ、アスカ、そんなところに上っちゃ・・・・・・・!!」

わたわたとしはじめるパパ。

そんなパパの態度をお構いなしに、ママは宙へと身を躍らせた。

「とうっ!! 」

空中で綺麗に回転して、そして・・・・・・・・・!!







むぎゅ







「・・・・・だ、大丈夫、アスカ!? 」

「う・・・・・、もうダメ、シンジ・・・。全身を強くぶって、もう動くこともできない・・・・」

「そんなぁ! しっかりしてよ、アスカ!! 」

「お願いよ・・・・最後に・・・お別れのキスを・・・・・・」







ヒクヒク・・・・(怒)





「あたしの上に落っこちてきておいて、死ぬだなんだと騒がないでよっ!! 」

がるるるるる・・・・・とばかりに怒鳴ったつもりだったが、当の二人はキョトンとしてこちらを見るだけ。


「あ、あの、ミコトも大丈夫だった? 」

そのパパの言い方が、あたしの癇に障った。なにが「も」よ、なにが!?

「そう・・・・・・・ミコトは、身を挺してママを守ってくれたのね」

これはママ。勝手にあたしの上に落っこちてきたくせに、随分なことをいってくれる。

あたしがそっぽを向いてむくれていると、ママはぐわしっ、とばかりにあたしの両肩をつかんだ。

「感激したわっ! ママは嬉しいっ! 」




ぶちゅうううううううううううううううううううう!!




「ひぃやぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!?」

「あら、そんなにママのキスで喜んでくれるなんて・・・・・」

頬を染めるママに対して、あたしは絶叫した。

「ママのキスなんか、ちっとも嬉しくないわよっ!!」

100パーセントの本音だ。

おまけに、なんか悲しくなってきた。

そんなあたしにお構いなしに、ママはパパの右腕をとって立ちあがる。

「さあ、帰りましょ♪」 

冗談じゃない。

この場面までママに掻っ攫われたら、あたしの苦労は水の泡だ。

「ダメ! パパはあたしと散歩するのっ!! 」

あたしも負けじとパパの左腕を捕まえる。

ママとあたしの視線が空中で火花を散らす。

「ねぇ、シンジ、早く帰ってお茶にしましょ? 」

「今度は、あっちの丘の方へ行きましょ、パパ? 」

「う、うーんと・・・・・・・」

明らかに困った様子のパパ。

「なによ、シンジ!! あたしより、娘をとるってぇの!? 」

「だめよ、パパ!! ママの言うことばっか聞いちゃだめ!! 」

躊躇するパパの腕を掴み、互いに睨み合うあたしとママ。

「えーと、僕は晩御飯の買出しに行きたいんだけど・・・・ダメ? 」

控えめに主張するパパを挟んで、あたしとママきまたもや視線を交し合う。

そしてどちらともなくコクリと頷いた。

かくして妥協的折衷案が成立した。










「よー、奥さん。相変わらず綺麗だねぇ!! 」

馴染みの八百屋のおじさんの大声。

お世辞抜きの本音だということは、ママを見る眩しそうな視線から分かる。

「うふふ・・・・・そりゃどーも♪」

ママは微笑み返す。

でも、それは完全に‘営業用’の顔だ。

大輪の花が咲いたような笑みだけど、明らかにパパだけに向ける笑みとは違う。

「おっ、ミコトちゃんも相変わらず可愛いねぇ!! 」

そのおじさんの声に、あたしは内心で憮然としたが、そんなことはおくびにも出さず、飛びっきりの愛想笑いを返した。

「どうもありがとう、おじさん」

・・・・・・なんで、ママは『綺麗』であたしは『可愛い』なのかしら?

「じゃあ、あたしに免じてオマケしてね? 」

そうあたしが続けると、おじさんは手を頭の後ろにまわして破願した。

「はっはっは、やっぱミコトちゃんにゃかなわねぇなぁ。しっかりしてら。・・・ほい、全部で500円に負けとくよ!! 」

キャベツに人参、玉葱の入った袋がパパへと手渡された。

「しっかし、旦那も幸せもんだねぇ。こんな美人の奥さんに、可愛い娘さんまでいてさあ! 」

すると、お代を払い終えたパパも微笑んだ。もうこれ以上にないくらいほっくりとした笑顔で。

「ええ。二人とも僕の一番大切な宝物ですよ」

臆面もなく言ってのける。

パパ・・・・・・・・!!

あたしはジーンときてしまった。

回りにいた他のお客さんも、苦笑を通り越して一緒になって微笑んでいる。

「やーねぇ、シンジったら♪ ノロケちゃって♪」

ママが盛大にパパの背中を叩く。

せっかくの雰囲気が台無しだ。

まったくこの人と来たら・・・・・・・・!!

「さ、行きましょ」

あたしは半ば強引にパパの手を引いて軒先へと出る。

背後から「毎度あり〜」という声と、ママの「待ちなさいってば、こら!」 という声が追いかけてきたが気にしない。

『一番の宝物』・・・・・・。

この言葉が、あたしの耳の奥でリフレインしている。

パパがそういってくれたことがとても嬉しい。

今日、一番の収穫かも。

「さ、次は何を買うの、パパ? 」

あたしの足取りは、靴に翼が生えたように軽かった。


 

















キッチンでお夕飯の準備を手伝っていると、リュウジ兄さんが帰ってきた。

「ただいまー、今晩は何? 」

開口一番晩御飯の詮索だ。

まあ、これだけ美味しそうな匂いをさせていれば、仕方のないことかもしれないけど。

「今日はね、ビーフストロガノフだよ」

お玉片手に振り向くパパ。

あたしとお揃いの柄のエプロンをつけている。

「はい、リュウジ兄さん。テーブルへ持って行ってちょうだい」

あたしは食器を兄さんに渡す。

「え〜、オレ、先にシャワー浴びたいんだけど・・・・」

「働かざるもの食うべからず、よ!」

あたしは強引に兄さんへと食器を手渡した。

渋々と食器を受け取った兄さんだったが、不満そうな表情で言う。

「母さんはいいのかよ? 」

兄さんの視線の先には、リビングで寝転がるママ。

「あの人は例外」

あたしはぴしゃりというと、兄さんへ背を向ける。

ママはむくれてるのだ。

なんでも、あたしたちが新しく出来た店にふらりと立ち寄った時、その店員から「お姉さん」でなく「お母さん」と呼ばれたことが不満なのだという。

そりゃ確かにあたしとママが一緒に出かけるとよく姉妹に間違われるけど、今日はパパも一緒だったのだから、「お母さん」と呼ばれても仕方ないだろう。

まったく、大人げない人だと思う。

「よしっ、完成」

パパか鍋を火から降ろす。

あたしももたついているリュウジ兄さんを手伝って、食器を並べた。

程なく、夕食が始まった。


















パパの美味しい料理を食べて、とりあえずママの機嫌も回復した。

本音をいうと、ずっとむくれててくれてもかまわないんだけど。

後片付けを終え、リビングで他愛もないバラエティー番組を家族そろって鑑賞し、自室へと引き上げる。

気づくと、枕もとの時計は22時18分を指していた。

あとニ時間足らずで、今日も終わる。

つくづく今日はいい日だったと思う。

でも、過去形で語るのは、まだ早い。

最後のお楽しみが残っている。

あたしは、悪戯っぽい笑みを浮かべると、用意を整え階下へと向かった。

目指すはお風呂場。

電灯が点いている。

先に入っているのは・・・・・・・。

あたしは急いで服を脱ぐと、タオルを巻いて浴室へと飛び込んだ。

「パ〜パ。お背中お流しします〜」

「ミ、ミコトぉ!? 」

パパのうろたえた声。ビンゴだ。

あたしは妙に広い浴室を進む。

どういうわけか、あたしの家のお風呂はとても広い。

実際坪数で10坪近くあり、浴槽は家族全員で入っても十分すぎるくらい広々としている。(といっても、家族全員で入ったことなんてないけど)

湯気を掻き分けてすすむと、パパは浴槽の中でこちらに背を向けている。

「ほら、パパ。背中流したげるから、上がって上がって♪」

「そ、その・・・・いいよ、もう洗ったから」

「じゃ、あたしも一緒には〜いろっと♪」

「わ、わ、じゃあ、パパが上がるまで待っててよ! 」

「なんで〜?」

あたしは不満げに唇を尖らせる。

「最近までよく一緒に入ったじゃない」

「10年以上前は、最近っていわないってば・・・・」

振り向いてしどろもどろに言うパパの顔が赤い。

可愛い♪

しかし不意に二人きりの時間に終止符が打たれた。

「シ〜ンジ、一緒にお風呂入りましょ♪」

湯気の向こうから現れたのはママ。

あたしの姿を見つけると、急にママの目が険しくなる。

「ミコト、あんた何やってんのよ!? 」

「何って、親子のスキンシップを図ろうとしているだけよ?」

あたしも胸を張って言い返す。

パパの背中を流すという目的を果たすまで、ここは引けない。

「はん、まだまだお尻の青い子供は、とっと部屋へ戻って寝ちゃいなさい! 」

そういってママは挑発的に金髪をかきあげる。

う゛・・・・・・・。

凄く色っぽい。

だが、あたしも負けじとタオルに包んでいた髪を解き放つと、しなりを作って胸を突き出した。

「あたしだって、もう十分大人だもんね!! 」

自慢じゃないけど、スタイルには自信がある。

「あら、あたしより胸が小さいクセに? 」

ハハンと鼻で笑うママ。

確かに、あたしとママのウエストは同じくらいでも、胸の大きさはママの方が上回っている。

「ううう・・・・・・・・」

胸を突き出してくるママに対し、あたしも自らの胸元のタオルを下へずらすと上体を屈めた。

「見てよ、ハリの方はあたしが上よっ!? ママみたいに下から持ち上げなくても谷間クッキリだもん!! 」

「あたしはまだ持ち上げてなんかないわよっ!! 」

ママが激昂する。だけど、こんなに怒るということは、少なからず図星をついたということだ。

「我が娘ながら生意気な・・・・・・・・」

ここで攻撃の手を緩めてはならない。あたしは更に片足をつと前に伸ばして、腰を逸らしてみせる。

「見て、このヒップライン。ママみたいに垂れ下がってないわよ。ピチピチなんだからっ!! 」

だけど、今度はママも余裕を持ってあたしの攻撃を受けとめた。

「ふふん、まだまだガキね!! これくらいのボリュームがなきゃ、一人前の女とはいわないのよ!! 」

そういって同じく腰を逸らしたママ。そのヒップのボリュームもあたしを上回っていただろう。しかし・・・・!!

「・・・・・やっぱり、ママの方が垂れてる」

「垂れてない!! 」

「垂れてるったら垂れてる!! 」

「垂れてないったら垂れてない!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

無言でにらみ合うあたしたち。

「・・・・・・こうしてても埒があかないわ」

ママが沈黙を破る。

「こうなったら、シンジ・・・パパに判定してもらいましょ」

あたしも頷く。異存はない。

「さあ、シンジ。どっちにの方がスタイルいいか・・・・・・・・ってアレ? 」

しかし、浴槽にパパの上半身がない。

「シンジ〜? 」

訝しげに浴槽を覗き込んだママは続いて悲鳴を上げた。

あたしも慌てて浴槽を覗き込む。

「パパぁ!? 」

そこには真っ赤な顔でプカプカと浮いているパパの姿があった。















「・・・・・・なんでのぼせちゃったんだろ? 」

リビングの御座敷に寝かせたパパを団扇で仰ぎながらママはポツリと言う。

パパの目から額の部分にかけて、冷えたタオルがかけてある。

呼吸は大分落ち着いてきたものの、顔はまだ真っ赤だ。

あの後、リュウジ兄さんに手伝ってもらってここまで運んできてから、20分ほど経っている。

「ちょっと、氷とってくるから・・・。あんたは寝ちゃってもいいわよ? 」

そういってママは席を立った。

あたしは、それでもしばらくパパの横顔を眺めてる。

しかし、あたしたちの対抗合戦を見てて上せるなんて・・・・・。

不謹慎だけど、苦笑が洩れてしまう。

まったく年の割にはまだまだウブなんだから。それが、パパの可愛いところでもあるんだけどね。

団扇でゆっくりと風を送りながら、今日一日の出来事を思い返す。

まあまあ、いい一日だっただろう。

唯一の心の残りは、背中流しが出来なかったことだ。

・・・・・・・・・・・・・

代わりに・・・・・・・・。

あたしは顔をパパへとゆっくりと近づけて行く。

そして、パパのまだ赤いほっぺに軽くキスした。

顔を離して、軽くため息なんてついてみる。

「まだ寝ないの? 」

いつのまにか、ママがリビングへと戻ってきていた。

「今寝ま〜す」

あたしは軽快に立ちあがると、リビングを後にする。

リビングを出るときに一度だけ振り帰って、

「今回のパパの看病は、ママに譲ってあげるわ♪ 」

そう告げた。

後は一目散に自室へと駆け戻る。

ママはどんな表情をしていたことだろう?

くすくすという笑いがこみ上げてくる。

とても気分がいいのに、あたしはなぜかもう一度宝物の写真を見たくなった。

さっそく例によって本棚の奥から引っ張り出したそれを持って、ベッドへと転がる。

あお向けになり、写真へと語りかけるあたし。

パパ・・・・・・・・・

今日は、ほっぺにキスだけだけど・・・・

きっと、いつかは・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

あたしは、写真のパパへとキスをした。














このまま、ずっと幸せな日が続けばと、祈らずにはいられない。

いつの日か、パパがあたしだけを見てくれる日を信じて。

叶わない夢かも知れない。でも夢見るうちがきっと幸せ。

















そしてあたしは眠りにつく。




























おしまい。












******一度やってみたかったキャラクター座談会******



アスマ: ・・・・・・ややっ? なんでオレたちがここにいるんだ?

リュウジ: えーと、筆者から「馴レナイモノ書イテ、奇特危篤」という電文が入ってます。

ミコト: とゆーわけで、あたしたちは後書きの替わりに急遽代役だそうよ。

アスマ: なんだそりゃ?・・・・・・まあ、いーか。とっととすませて飲みにでもいこーぜ。しかし・・・何すりゃいいんだ?

リュウジ: うーんと、初めて読む方もいらっしゃるだろうから、オレたちの自己紹介から一応したほうがいいんじゃない?

ミコト: そうそう。といっても、こんなアホ物書きの作品読んでる人なんか、精々10人も・・・・・いるかしら?(笑)

アスマ・リュウジ: そ、それをいっちゃあ・・・・・・・(汗)


アスマ: まあ、気を取りなおして。・・・このシリーズにおける碇家長男、アスマ21歳でーす!!

リュウジ: 碇家次男、リュウジ19歳です。

ミコト: 長女、ミコト18歳でーす。

アスマ: ・・・・・で、あとは何をしろと?

リュウジ: 座談会っていうからには、適当に話してりゃいいんじゃないの? あと、このシリーズに色々ツッコミいれるとか。

ミコト: はーい、はいはい!! あたしからツッコミ入れます!!

アスマ: はいはい、どーぞ。

ミコト: なんか、一番最初に書いた「夫婦絶唱」の頃と、今回のあたしで性格変わってなあい?

リュウジ: ・・・・・それには、深ーいワケがあるんだよ、ミコト。

アスマ: そうそう。なんでも一作目を書いたとき、某所に君臨される大物作家様が、いたくこの設定を気にいってくださって、ご自分のサイト用に、作品を一つ書いてくだすったのだ。

ミコト: 某大物作家さんって?

リュウジ: 特に名を秘す必要はないかもしれないけど、あえてここで「糖神」様といっておこう。これで分かる人はわかるハズ!!

アスマ: そして、このアホ筆者は、その設定を逆流用するという暴挙に出たのだ!! まったく安直な野郎だわな。

リュウジ: その結果、どのような設定が追加されたかというと・・・・・・・。



アスマ: 姉御肌でとりあえず料理が上手で、やたらと独占欲の強い恋人が出来ました。

リュウジ: 清楚で大人しい外見と裏腹に、異常にアクティブな恋人が出来ました。

ミコト: ファザコンになりました、キャハ♪

アスマ: ・・・・・・・・・・・・・・・・・

リュウジ: ・・・・・・・・・・・・・・・・

ミコト: ・・・・・・・・・なんか、あたしだけ割りが悪いよーな? 

アスマ: き、きっと気のせいだと思うぞ、うん!

リュウジ: そ、そうだよ、そう!

ミコト: ・・・・・・・・・・そーよね、気のせいよね♪ らぶりぃパパぁ〜〜〜♪

アスマ・リュウジ: ・・・・・・・・・・・・・・(^^;




アスマ: えっと、とりあえず、この回で「子供たちの挽歌編」三部作、終了だそうだ。

リュウジ: 続編の予定は?

アスマ: ない! そりゃあもう綺麗さっぱり(笑)

ミコト: 最近、ようやく本人がLAS作家じゃなくて電波作家だと気づいたみたいだから・・・・、つまるところ電波次第かしらね?

リュウジ: まあ、このシリーズに限らず、この筆者のスタイルは、果てしなく自己満足っぽいらしいから・・・・。

アスマ: そりゃどういうことだ?

ミコト: つまり、まず自分が楽しめるかどうかが大事ってことらしいわね。

リュウジ: 良くも悪くもエヴァに魅せられたもの・・・ってことで。

アスマ: なんでも、EOEでの最大の懸念は、親父かお袋のどっちかが死ぬことだったそうだ。

ミコト: だから、あのエンディング見て一人ガッツポーズ決めて、周囲の顰蹙買ったそうよ・・・(笑)

リュウジ: そのくせして、このシリーズ自体はEOEの後の話じゃなくて、途中分岐らしいぞ。

アスマ: まったく、へっぽこ無節操を標榜するだけのことはあるぜ。

ミコト: なんだかねぇ・・・・・・

リュウジ: なんだかなぁ・・・・・・



アスマ: さて、今回はこれにて切り上げよう。おそらく二回目はないだろーがな(笑)

リュウジ: そうだね。では最後に。

ミコト: あたしたち三兄妹をSSデビューしていただける場を提供してくださった管理人の怪作さんに、

リュウジ: そして、このシリーズを読んで下さったみなさんに最大級の感謝を込めて。

アスマ: 一同、礼!!

アスマ・リュウジ・ミコト:   m(__)m(__)m(__)m

 三只さんからまたまた投稿作品を頂いてしまいました。

 ミコト‥‥なんとも可愛らしいですね。
 シンジのファザコンぶりがなんとも‥‥。

 嬉しいのはシンジとアスカの子供達の挨拶があることですね。
 なかなかいい子たちだ〜(^^)

 みなさんも、三只さんに是非感想メールを送ってください。