夫婦絶唱
「アスカ・・・・しっかりして、アスカ」
碇シンジは、病床につく愛妻の手を強く握った。
白く美しい妻の手。
昔ほどの艶と張りは大分影を潜めたが、それでも温もりは変わらない。
彼が、長年慣れ親しんできた温もり。
「・・・・シンジ」
妻であるアスカが、そっとその手を握り返す。
しばし見つめ合う二人。
「大丈夫、アスカはすぐに良くなるよ。良くなったら、あの湖の見える丘に行こう。お弁当もってさ・・・」
アスカが片手を上げてシンジの言葉を遮った。
「・・・・・あたしもこれまでのようね。美人薄命とはよくいったものだわ」
そういう彼女の横顔は、年齢相応に老けて見えた。普段は十歳以上若く見られたものだが、今の彼女には、あきらかに精気とでもいうべきものが欠乏している。
アスカは、なおなにか言いかける夫の唇に、軽く自分の指を当てた。
「自分の身体のことは、自分が一番良く分かるわ・・・・」
そういって彼女は微笑もうとして、激しく咳き込む。
「アスカ!! 」
慌てて背中をさするシンジ。
「ありがとう・・・・シンジ」
アスカが苦しさを押し込めて微笑む。
その身体をシンジは抱きしめた。
「アスカ・・・いやだよ、どこにもいかないで・・・! 君がいなきゃ、僕は・・・」
「シンジ・・・・・」
アスカも愛する夫の身体に腕を廻す。
そして、耳元に唇を寄せ、囁く。
「お願い、シンジ。あたしが死んでも、後を追おうなんて考えないで・・・・」
「!! 」
「あなたまでいなくなったら、誰が子供たちを守るの? 」
「・・・・・・・・・・」
なお強く身体を抱きしめて離さない夫に、彼女は更に耳打ちした。
「約束して・・・・。これがあたしの最後のお願い・・・」
しばしの沈黙。
そしてシンジは絞り出すように声を出した。
「・・・・・うん。約束するよ、アスカ。子供たちは、僕が守るよ」
「それでこそ、あたしの旦那様よ」
アスカは微笑む。
一片の曇りもない、愛する者を讃える、美しい笑みだった。
二人は抱き合ったまま語り合う。
「フフ・・・・・思い出すわ。あんたには随分と無茶ばかりいったわね・・・」
「うん・・・。でも今になっては、どれも欠けがえのない思い出ばかりだよ・・・」
二人の脳裏で、走馬燈の如く幾多の思い出が行き交う。
その時、自らの温もりとともに、確かに彼らは互いの記憶を共有できたのである。
愛おしい。
全てが。
ただこの人だけが。
このままずっと抱き合っていたい。
死が二人を分かつまで・・・・・・・
「シンジ・・・子供たちは? 」
アスカが思い切って声を出す。
「うん、もう部屋の外にいるよ・・・・・」
「じゃあ、そろそろ離して・・・。子供たちにお別れの言葉をいわなきゃ・・・」
しかしシンジはアスカを抱く手に力を篭めた。
「シンジ・・・・・」
「お願い、アスカ。もう少し、もう少しこのままで・・・・・」
アスカも黙って夫の腕の中に身体を預けた。
病室の外には、碇姓を持つ三人の男女が顔を揃えていた。
碇アスマ。長兄。21歳。
碇リュウジ。次兄。19歳。
碇ミコト。長女。18歳。
たったいま三人は、ドアの隙間から病室の中の様子をうかがった後だった。
三人は沈痛そのものを具現化したような顔を見合わせる。
「まったく冗談じゃねえぞ!? 」
小さく悲鳴に近い声を上げたのはアスマ。
「ホントに・・・・・。これで何回目だ? 」
リュウジがこめかみを押さえる。
「今年に入って、もう五回目よ・・・・」
ミコトが泣きそうな顔をした。この後、強制的に聞かされる1時間以上にも及ぶ「遺言」のためである。
そして深い深い溜め息をつく。
そんな三人の脳裏は、等しく同じ思いに占拠されていたのである。
−−−−あの二人も、単なる風邪であそこまで気分を出さないでほしいよなぁ−−−−
・・・・・・・・・・・・
時に西暦2040年。
サードインパクトより早20余年。
一組のラブボケ中年カップルが、自分たちの世界に埋没できるほど、世界は概ね平和だった。
終わり・・・・ません。続きます。
続・夫婦絶唱
子供たちは眠れない
拷問に等しい母親の「遺言」講演は、実に病院の面会時間ギリギリまで続いた。
従って、病院を後に夜の街へ踏み出した碇三兄妹は、物の見事に疲弊しきっていた。
あくまで真剣な父と母の表情を思い出す。勝手にやってくれ!!といって逃げ出したいが、そうすると後が怖い。
結局、黙って付き合うのが一番無難だったりする。
「よしっ、気分直しにいっちょ三人で飲みにいくかぁ!! 」
そう殊更明るげに提案したのは、長兄であるアスマだった。
「やった、アスマ兄さんのおごりでしょ? 」
ミコトがウインクしてみせる。
リュウジも軽く口笛を吹いて手を頭の後ろに組んだ。
「て、てめぇら学生にたかる気かよ!? 」
「だって、僕ら未成年だしー」(お酒は二十歳になってから!!)
とリュウジ。
「だいたい高校でてから二年も外国ほっつき歩いて今年大学に入り直したんだから、社会人も同然でしょーに」
ミコトがぴしゃりという。
「う、う・・・・・ワリカンじゃダメ? 」
弱気なアスマ。
「「 ダメ!! 」」
リュウジとミコトの声が見事にハモる。
「くう、分かったよ、好きなだけ飲ませてやらあ!! 」
白旗を上げるアスマ。
拍手する弟妹を引き連れて彼が向かったのは、とある居酒屋チェーン店だった。
「兄貴〜」
ジト目で長兄を見やるリュウジ。
彼の指さす方向には、『2時間500円飲み放題!!』の看板が揺れている。
「別に嘘はいってねーだろ? 」
「やだなあ、こういうとこは美味しいお酒って置いてないのよね・・・・」
一人ごちるミコト。
コラコラ、君は女子高生だろーに。
渋る二人を無視して、アスマはずかずかと店内に踏み込む。
そして店員の案内も待たず、一番奥まった席へと腰を落ち着けた。
「あ、生大三つにホッケ、焼き鳥が十本ね」
おしぼりを持ってきた店員に注文するミコト。随分と堂に入っている注文ぶりである。
「あと、カニ飯二人前よろしく」
これはアスマ。
「誰が食べるのよ、二つも? 」
「オレが喰うよ。晩飯まだだから腹減って」
妹の呆れ声に答えつつ、アスマはおしぼりで顔を拭く。
「あ、チョコパフェに、パインシャーベット一つ」
盛大にテーブルの上に突っ伏すアスマとミコト。
「・・・・しょうがないだろ、食べたいんだから」
兄妹をテーブルに突っ伏させた注文主は、頬を微かに紅潮させながら抗弁した。
「リュウジ兄さんのこの趣味だけは理解できないわ・・・・・」
ミコトはしみじみ言いながら、おしぼりをぶつけた額に当てる。
実のところ、兄妹の中で比較的リュウジだけが酒に対する耐性が低くかった。もともと本来彼は甘党の下戸なのだが、彼が高校入学時に、頼んでもいない知人の強制指導により、どうにか人並み以上に体質改善(?)された。その結果、凶悪に甘い物をつまみに酒が飲めるという特殊能力を、彼は身につけたのである。
ちなみに、その強制指導した人物の旧姓は葛城といった。
「ま、まあ、親父とおふくろにも困ったもんだな」
気を取り直すようにアスマが話題を振った。
「そんな風に母さんを呼んでいることが知られたら、兄さんあとで折檻ね」
ボソっというミコト。
「いいいいいい、いいだろ別に。もう21にもなったし、家も出たんだからさぁ!! 」
露骨に動揺するアスマ。何故に彼がここまで動揺しているのかというと、碇家の鉄の不文律のためである。
1、両親は父さん、母さん、もしくはパパ、ママと呼ぶこと。
*なお禁を犯しものは、各種折檻、松、竹、梅コース。
全てのコース体験者は、アスマ一人だけだったりする。
「まあ、家督継ぐのは兄貴に決まってるからね・・・」
メニュー表をつつきながらリュウジがいう。
「そうそう。だいたい家を出れたのも、リュウジ兄さんとあたしが家を出るまでの条件付きでしょ? 」
ミコトもメニュー表を片手に難しい顔をして見せる。
つまるところ、碇アスマ氏の人生の綱を握ってるのは両親(特に母親)の方であり、両親(特に母親)を怒らせた場合、現在のかりそめでも自由に満ちた生活は、たちまちピリオドを打たれるのは明白であった。
あの両親(特に母親)のことである。仮に逃げても地の果てまで追いかけてくるに違いない。
ふとアスマの脳裏に、幼少のころ遊園地で迷子になった記憶がよぎる。捜索、保護に自衛隊一個大隊の出動を促した両親(特に母親)・・・・
「・・・・・・わかったよ、好きなものを頼めよ」
またしても敗北宣言する長兄に、弟たちは歓声を上げた。
「悪いね、兄貴。なんか催促したみたいでさ」
サイソクも何もキョウハクぢゃねーか・・・(アスマ心の声)
「さんきゅ、アスマ兄さん。愛してるわ♪」
・・・・・だからといって、松坂牛のステーキなんざ頼むんぢゃねー!! だいたいこういう所の高いもんてのは、高いだけ高くてパチモンばっかなんだぁ!!(アスマ心の声)
頭を抱える兄を尻目に、鼻歌混じりで好き勝手な物を注文する弟妹たち。
「お待たせしました」
新しい注文と入れ替えに、最初の注文品がやってくる。
「あれ? 焼き鳥は十本だとおもったけど・・・・? 」
皿に盛られた焼き鳥は、どう見積もっても二十本以上あった。
小首をかしげ、店員に確認するミコト。
「サ、ササササササービスです、はいっ! 」
何故かどもる店員の視線はミコトに釘付け。
「そうなんですか。ありがとう」
にっこり微笑むミコト。
店員は誇らしげに胸をはり、恭しく一礼してきびすを返す。
「らっき、トクしたわ」
ニコニコしながら兄たちの前にジョッキを配る。
更にやってくる注文の品。
「あ、あの、お待たせしました。チョコレートパフェと、パインシャーベットです・・・」
今度の店員は、おさげ髪が初々しい女の子だった。多分バイトを始めたばかりの娘だろう。
「ああ、こっちですけど・・・・・・・」
運ばれてきたチョコパフェを見てリュウジは絶句する。
金魚鉢ほどの大きさもあろうかという容器に納められた生クリームとアイスクリームの上には、二箱分以上と思しきポッキーが、ツンドラ地帯の針葉樹よろしく軒を列ねていた。
「・・・・これは? 」
「サービスですぅ!! 」
「・・・だろうね、ありがとう」
断言するバイトっ娘に、引きつった笑みを向けるリュウジ。
たちまち頬を真っ赤にしてしまった女の子は、逃げるように行ってしまう。
後に残されたのは、お化けパフェとカチコチに凍ったパインアップル丸ごと一個。
それを前に呆然とするリュウジ。
「今日はサービスデーか何かなのか? 」
お化けパフェを気味悪そうに眺め、アスマは焼き鳥を囓り、生ビールが満たされたジョッキをあおった。
・・・・・・・碇家三兄妹には美点と欠点が恐ろしい数で混在している。今回はその最たるものの発露であった。
すなわち、三人揃って「容姿に無頓着」なところである。
誇張、お世辞抜きにしても彼らは相当な美形である。これは、母親であるところの旧姓、惣流・アスカ・ラングレーに因るところが大きい。
ブルーアイズこそ誰一人として遺伝しなかったが、超絶美を誇る顔の造形、日本人離れしたプロポーションは確実に子供たちに受け継がれていた。
実は、容姿だけでなく、性格的にも明らかに母親の遺伝子の方が優勢であった。
・・・・・ああ、碇シンジ。キミは遺伝子まで尻に敷かれているのか?
それはともかく。
長兄であるアスマの特徴は、活力に富んだその瞳にある。常に好奇心に輝くその目と豪放磊落な性格は、彼の整いすぎた容姿に対する取っつき憎さを払拭している。
そして身長185pを越える体格を誇る偉丈夫でもある。結構筋肉質で腕っ節も強い。
そのクセに、その身体の上に乗っている顔は秀麗そのものなのである。これでモテないわけがないだろう。
次兄のリュウジは、兄ほどでないにせよ180pをやや越える長身で、スレンダーな体型をしている。
兄に比べると、更に繊細な容姿をしていて、子供のころは良く女の子に間違われたものだ。
性格は兄妹の中で一番安定していると、自他ともに認めている。もっともこの際、比較対象に問題がありすぎるということは秘密である。
そして末っ子にして長女のミコト。碇家と惣流家の遺伝子は、容姿という点に関してここで完成型を見た。
艶のある黒髪と対をなす黒瑪瑙のような瞳。あくまで白い肌。すっきりと通った鼻梁。・・・・陳腐な表現をダース単位で使用しても追いつかないほどの美少女である。
160pに満たないやや小柄な身長も、彼女の愛らしさを醸し出してやまない。
性格については、両親の発言が興味深い。
母−アスカ曰く「あの頃のあたしより、過激だわ、この子」
父−シンジ曰く「あの頃のアスカより、おしとやかだよ、うん」
さてこの場合、どちらの言に信頼をおくべきだろう?
本人は微笑したまま何も語らず、兄たちもあえてコメントをさけるのだった。
では、これほど目立つ容貌をしているのに、何故に彼らは自らの容姿に無頓着なのか。
その答えは、家庭内教育にある。
「いい? 人間てのは見かけじゃないの、心よ」
子供たちにそういって、アスカは旦那であるシンジの首根っこをひっつかむ。
「あんたたちのお父さんも、見かけはサッパリ冴えないし、全然お母さんとは釣り合わないでしょ? 」
「そ、そんな・・・・ひどい」
シンジの涙ながらの抗議も速やかに無視された。
「でもね、お父さんの心はとても強くて優しくてステキだったの。そして、誰よりも格好良かったから、お母さんはお父さんと結婚したのよ」
「アスカ・・・・・・」
今度はハラハラと涙をこぼすシンジ。
「だから、人を好きになる時に、外見なんて関係ないのよ。あんたたちも相手の心を見抜く力を身につけて、お父さん並み格好いい相手を見つけるのよ(はぁと)」
「アスカ〜〜〜!! 」
感極まったシンジがアスカに抱きつく。
「ダメよ、シンジ、子供たちも見てるんだから〜〜〜〜〜」
そういいつつ、二人はもみ合いながら寝室へ消えたりする。
・・・・・ま、まあ、情操教育には多少問題はあったかもしれないが、彼らの息子たちは両親のいわんことを正確に理解していた。
よって彼らは自分たちの容姿に、周囲が騒ぐほどの価値を見いだしてはいなかったのである。
「なんかジロジロ見られてる気がするなぁ・・・」
アスマは串をくわえながらごちる。
そんな彼の前に、彼が注文したカニ飯が届いた。しかし、これまた量が尋常ではない。五合は入ろうかという巨大なおひつ入りである。
「遅くなりまして大変すみません、はい」
アスマの前に巨大おひつを置くのは、見るからに体育会系と分かる角刈りマッチョの店員だった。
「あの、これは・・・・・? 」
「もちろん、サービスでございます!! 」
これまた力強く断言する店員。
「そ、そうですか、ありがとうございます・・・」
しどろもどろに礼を言うアスマ。
「いいえ、これくらい・・・」
と店員。その頬は何故か桜色に染まって見える。(ヲイ)
「失礼します、押忍!! 」
やたら暑苦しい店員は、一礼すると引き下がる。
「・・・・・・・・・・・・」
おひつを開けてアスマは絶句する。
中にはタバラガニが一匹、鎮座していた。
カニと格闘を始めた兄を横目に、リュウジとミコトが囁き合う。
「どうして兄貴ってこうホモ受けするんだろう・・・? 」
「しかも耽美系からマッチョ系まで節操ないわよね・・・」
そんな二人の目の前に、カニの足が飛んでくる。
「こらっ聞こえてるぞ、そこの二人!! それはオレの業じゃねえ!! 」
鋭い。まさしく彼の父親たるシンジの業であろう。しかし間口が広がっているのは気のせいだろうか?
「ま、まあ、母さんと父さんにも困ったもんだねー」
リュウジがお化けパフェを放り出して、話題を戻した。
「まったくだ、あのラブボケ中年どもは!! 」
カニの甲羅をバリバリ破壊しながらアスマ。なかばヤケである。おまけにちょっと酔っている。
「あれはね、病気よ病気」
ジョッキを干してミコト。頼んでもいないのに店員が持ってきたお代わりを、ごく自然に受け取り、口をつける。
「そりゃあ病気だろ、ありゃ」
「ううん、兄さんたちが思っているようなヤツじゃなくて、正真正銘の病気よ。リツコさんがいってた」
ミコトは、彼女らの祖母であり、日本が世界に誇る総合科学者の名を口にした。
ちなみに旧姓赤木リツコ博士は、彼らの父親シンジの義母であるが、まだ若いため孫にあたる彼らは「さん」付けで呼んでいた。
「本当か!? 」
アスマとリュウジが同時に身を乗り出してくる。
「ええ。確か『後天性配偶者依存症』通称『甘えん坊シンドローム』だったかしら? 」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらく三人の間に流れる沈黙。
「で、治療法は? 」
リュウジが訊ねる。
「そんなもんはあるわけないって」
パタパタと手を振るミコト。
「まあ、命に関わるようなものでなけりゃ、いいか・・・・」
「なんだかんだいっても心配なんじゃない、アスマ兄さん」
「そりゃあ・・・確かに他人に自慢できるし、凄い両親ではあるからなぁ。一応、尊敬できるし」
「そうよね。確かあたしの歳の時には、母さんはアスマ兄さんを産んでいたのよね」
そう。彼らの母校にして、彼らの両親の母校でもある第三新東京市市立高校には、燦然と輝く伝説がある。
究極の美少女、惣流・アスカ・ラングレーの伝説が。
現在でこそ、その娘である碇ミコトがその座を継承しているが、彼女が入学するまでの実に二十年近く、不動の地位でもって、アスカ嬢の笑顔は校内機関誌の表紙を飾りつづけたのである。
更に惣流・アスカ・ラングレーにはもう一つの伝説がある。
曰く、
産休をとった女子高生。
「おまえらん時は、まだマシだったろ? オレが入学したときは、当時のおふくろや親父の担任をした教師がいてさー。おまけにおふくろまで学校に挨拶しにきたもんだから、新聞部もひっくるめて大騒ぎだったよ」
伝説の美少女が学校に来る!!
それを聞きつけた新聞部は、一大特集号を発行するわ、その伝説となった女性を一目見ようとウワサを聞きつけた一般生徒たちが殺到するわで、まる一日授業が成り立たなかったという。
その騒ぎっぷりに、さすがにアスカも自重して、リュウジとミコトの時は挨拶廻りを中止している。
「おかげで、平凡で人並みの高校時代を送るというオレの計画が、あっというまに崩壊したよ・・・」
アスマはしみじみといいながらカニの足を囓る。母が学校に来た翌日から、校内に彼の存在を知らぬものはいないほど、彼の認知度は上がったのだから。
「あら、そんなことないでしょ。リュウジ兄さんだって、アスマ兄さんの弟ってことで、入学して一日目で大騒ぎになったじゃない。
あたしだって、リュウジ兄さんの妹、母さんの娘ってことで、入学した当日に、なんか手紙まで一杯もらっちゃったし」
それはラブレターというのだが、ミコトはよくも知らない異性からの手紙などに、それらの価値を付加させることはなかった。なんで一言すら話したこともない女性に、こうも熱烈な告白ができるのか、彼女は不思議でしょうがない。
それに、彼らが騒がれる原因は、その人並み外れた美貌にもあるのだが、三人とも全然気づいていなかった。
「まあ、なんだかんだあったけど、それなりに楽しい高校生活は送れたと思うよ」
リュウジが締めくくる。
幸いにも、彼らの父親が賜った、「歩く性教育」とか「ヒョーロク色情狂」などという不名誉なあだ名は、今日まで伝わっていなかったようである。
「しかし、おふくろの『遺言』には参るぜ。耳タコもいいとこだ」
アスマが言う。本日の病室独演会を思いだし、一斉に顔をしかめる三人。
何のことはない、ちょっとした体調不良で死ぬだなんだと騒ぎ立てるアスカ。それを一々真に受けては、思いっきり悲壮な顔になるシンジ。
そして母と父は自分たちの世界に没入してしまうため、入院先の医師から苦情を言われる役目は、必然的にアスマに廻ってくることになる。
『入院待ちのもっと重病な患者さんもいらっしゃるんですけどねぇ』
担当医もいい加減辟易しているらしく、言葉に含まれる棘を隠そうともしない。
『はあ・・・ホントすみません・・・』
アスマは毎度毎度謝るしかない。かといって、その程度で胃を患うようなヤワな神経をしている彼でもなかった。
そして毎回飽きもせずに繰り返される『遺言』
はっきりいってウンザリである。
「母さんも寂しいんだよ、たぶん・・・・」
フォローを入れたのはリュウジであった。彼は兄妹の中でもっと母親に可愛がられた。比較的、夫の若い頃の雰囲気を受け継いでいたためでもある。
「そうか。来年にはミコトも高校卒業だし、いつまでも子供ベッタリしているわけにはいかないからなぁ・・・・」
アスマも呟く。
母であるアスカは、普段は放任主義を標榜しているが、裏にまわれば過激なまでに子煩悩であった。
もっとも、至高の愛は夫であるシンジにある。しかしその二人の愛の結晶ともいえる子供たちを脅かすものに、彼女は容赦しなかった。
昔、ミコトの隠し撮り写真を掲載しようとした三流写真雑誌が、発刊直前に、親元の出版社ごと消滅したことがある。
彼女がどの様な手腕を振るったのかは、精神衛生上知らない方がいいかもしれない。
まあ、やり方はともかく、子供たちに平穏な人生を送らせようと考えている両親の真摯なまでの思いは、子供たちには充分伝わっているはずであった。
「・・・あの二人・・・・子供作るかも・・・」
ミコトの呟きに、二人の兄は同時に飲みかけのビールを吹き出した。
あり得る。
なお愛の炎が燃えさかってやまない(というか依然加熱傾向にある)あの二人ならあり得る。
寂しさを埋めるなら、また子供の一人でも産めばいい。18年は持つ。
「じょ、冗談じゃねえぞ!! この歳で弟が出来てもうれしくねえやい!! 」
アスマが絶叫する。
「考えてみりゃ、母さんはまだ若いんだよなあ・・・」
リュウジは呆然と呟いた。
両親ともに、まだ38歳という若さであった。
「そーよね。この間、母さんミニスカート履いてたけど、悔しいくらいよく似合ってたわ・・・」
ミコトも思い出す。この歳で一緒に買い物にいっても、姉妹に間違われる二人であった。いかにアスカが若々しいか知れよう。
「オレはいやだ!! リュウジ、今すぐ病院行って、止めてこい!! 下手すりゃ制作中だぞ!! 」
「やだよ、兄貴の方が行って来いよ!! 」
「もう既に出来てたりして・・・・」
「くぉら、ミコト!! んな呑気に構えてていいのか!? 」
「兄貴、ジョッキ片手にいっても全然説得力ないって・・・」
「ま、なるようになるでしょ、ふふふ・・・・・・・」
ああ、子供たちは眠れない。
おしまい。
みなさん、こんにちわ。
先日、某所で子供ネタが大好き(笑)と発覚した三只と申します。
子供ネタ、いかがでしたでしょう?
一応、LASなはずです。
わたしは勝手に「LASアフター」なんて呼称してますけども。
自分でも、この三兄妹はかなり気にいったキャラに仕上がりました。
いずれ、またどこかでお目にかける機会がありましたら、読んでやって下さいませ。
それでは。
三只さんから投稿小説をいただきました。
いきなりアスカ死ぬ!?と、びっくりさせてしまいましたぁ(^^;;
でも、ただのノロケでしたね(^^;;;;
子供たちも苦労が絶えないでしょうな……ま、もてもてだからいいのかな?
アスマの前に巨大おひつを置くのは、見るからに体育会系と分かる角刈りマッチョの店員だった。
「あの、これは・・・・・? 」
「もちろん、サービスでございます!! 」
うむ…もてもてで困っている方もいるのですな(^^;;;
しかし、弟か妹を制作中なのかぁ…うーん、その場面が出せなくって残念だなぁ(爆)
とてもよいお話でありました。
みなさまに三只さんへの感想をお願いします。