「拾参」 sweet for my sweet








学校の帰り、ケンスケとトウジと帰ったのだが突然のスコールに遭ってしまった。
熱帯化してしまったこの世界での夕立はすごいものになっていた。
家に着くとアスカは先に帰っていて着替えをしているらしい。
トウジとケンスケを家に上げて、雨宿りをしていると不服そうにアスカが顔を出し
「何、してるの?」と不機嫌そうに聞いてくる。
「雨宿り」と答えると

「フン!どうせアタシ目当てなんじゃないのぉ!?着替えてるんだから、見たら殺すわよ」
と威嚇してきた。

それを聞いたトウジとケンスケはたいそう憤慨していたが、次のトウジの言葉は爆弾になるかと思われた。

「どうせ、センセにはいつも見せとるんやろぉ?」
見たいけどっ!!冷汗が噴き出す一瞬・・・・・
「見せてないわよ」
無表情な声で彼女が答える。不発弾で済んだようだ。彼女は大人だった。

今日は本来休みのミサトさんが部屋から、キリリとした表情で出てくる。そして愛想良く友人たちにあいさつする。
ケンスケがいきなり大声を出し、敬礼を始めた。
「このたびは、ご昇進、おめでとうございます!!」
「おめでとうございます!!」
トウジも釣られて頭を下げる。
「ありがとう」と言い、僕らに今夜の予定を告げて家を出る。


僕らは昇進に気づいていなかった。階級はあまり関係ないのだ。
ちなみに昇給もそんなに関係なさそうだ。
僕らの生活費だって、その分はミサトさんに来ているが別口座に振り込まれるようになっている。
ちなみに僕らの手当からも控除がある。これらはその別口座に入っているのだ。


しかし、ケンスケの言う通り、思春期の子供二人を保護者として預かっているミサトさんは偉いと思う。
家事以外では非の打ちようがないと思う。
あえて言えば食事に対する彼女の善意だけは受け取れないのはもう一人の同居人も認める所だ。
あれは一種の兵器にすら・・・なり得る、というのも見解が一致する・・・・・



シンクロテストでは特に通常と変わらず、何事もなく終わった。
「あーあ、今日も、シンジに勝てなかったわ」と悪びれずに声を上げるアスカ。
アスカは電車で帰るらしい。ヒカリと待ち合わせをしているのだそうだ。

そう、展開は少しずつだが変わっている気がする。今の僕は幸せだ。
でも、それだけに新しい不安も僕の思考を去来する。このまま、使徒を倒し続けることはできるのだろうか・・・・・?
ミサトさんの車の中で考え続けている・・・・・今、最も不安の種になってきている。



部屋に着くと、先に帰って準備などをしていた、トウジ、ケンスケ、アスカ、ヒカリが
待っていた。ミサトさんの昇進を祝うささやかなパーティだ。
僕以外のみんなはそれなりに盛り上がっているようだった。
それぞれに、ヒカリの手料理などに手を付けて楽しんでいる。僕だけは先ほど考えていたことを引きずり、黙り込んでいた。
「センセ、どないしたんや?」
「碇君、食べないの?」
「あ、いや、その・・・」不安を皆に見せないため作り笑いをする。
保護者が的外れのとんでもないことを暴露する。
「シンジ君は・・・私のビールがうらやましいらしいの。彼、意外に不良化してるのよ。」

「確認しただけでも前科2犯、絞ればまだまだ出てくるかもね・・・」
と言ってアスカもちらっと見る。
「え!?いや、うらやましくないですよ・・・ホントに・・・」
僕は慌てた表情をしながら安堵した。
「アタシはねえ、こいつにそそのかされて飲まされただけなのよっ!」
アスカは必死に自己弁護している。

「センセ、惣流酔わせて・・・ナニするつもりやったんやろ?」
「イヤーンな感じ」ケンスケが茶々を入れる。
ヒカリは顔を赤くして塞ぎこんでいた。
アスカはミサトを睨みつけながらヒカリに必死に説明している。

ともあれ、トウジの地雷を踏んだ発言のおかげで場が明るくなった。
僕も弁解やら目の前の事で考え事どころではなく、すっかりさっきまでの憂鬱は吹き飛んだ。
そのうちに加持さんとリツコさんが二人で現われて、今度はミサトさんの顔色が変わったりしたが、お開きまで楽しい時間を過ごせた。
リツコさんの鋭い、たまに空気を読んでない突っ込みも立派な兵器だと発見した。
その一言は確実にミサトさんやアスカを黙らせる・・・・・



翌日、いつものように登校したが、学校に着いて間もなくネルフからの呼び出しがあった。
チルドレン3人は手配されたタクシーに乗り、本部に着くなり出撃の可能性ありとの事で待機を命じられる。
休憩室で本を読んだり、リラックスした時間を過ごしていた。
やがて作戦部長より呼び出されてブリーフィングルームに入る。
そこには、いつになく真剣な表情をしたミサトさんがいた。

使徒の概要の説明があり、今回の作戦では落下してくる使徒を手で受け止める事が命じられる。考えるとかなり無謀な作戦だ。
勝算があるのか訊いてみたところ・・・・・成功率は奇跡を起こすのとほぼ等しいらしい。
ミサトさんとアスカのやりとりは緊張感を帯びており、事の重大さを教えてくれる。

ここまでの使徒殲滅は危険と隣り合わせだったとは言え、確かに原作の結果の通りに進んでいた。
しかし、変わり始めたと思われる歴史ではどうなるのか、わからない・・・・・
みんなと同じ不安を僕も共有しているのだ。
でも、結局はみんなと同じく、この任務から僕は逃げることはできない。


「規則では遺書を書くことになっているけど・・・」
作戦が成功したらステーキをおごってくれるらしい。綾波は行かないとのことだった。

遺書は、他の2人は書かないらしいが僕は書くことにした。
遺書は完全な秘密が保証されており、電子文書によって松代に転送される。
遺言人本人の死亡、死亡認定(脳死や推定死亡、行方不明などの場合)にのみ指定通知先にその内容が知らされるようになっていた。
事後に無事だった場合には、本人の意思により希望すればその遺書の内容は抹消される。
それらの説明を別室で受けて、一人だけで法務部補佐官がいる部屋の中で遺書を書いた。

補佐官にいくつかの質問をしながら、記入を始め、書き終わり、指定封筒に入れて渡した。


「宛先‐弟三新東京市・・・・・」つまり僕の部屋番号の同居人宛だった。
彼女にだけは何か残したかった。
僕の気持ちだけでも伝えておきたかったわけで、思いつくままに内容を記した。

何かあっても、ここまでで彼女に会えたことは感謝している。
・・・・・・・・・
書いてて泣きそうになってきた。短くまとめておこう・・・・・


「あなたが、これを読んでいるということは、残念だけど、もう会えない状態になっているということでしょう。
僕はあなたともっとたくさんの時間を歩みたかった。あなたを幸せにしたかった。
でも、あなたと過ごせた時間は僕にとって最高の幸せな時間でした。ありがとう。
なお、私の保有する遺品等の処分については指定通知人に一任します。
(資産価値があると思われるもの‐オーストリア製チェロ、及び演奏道具一式)
                                               碇 シンジ」



「あら、遅かったのね。アンタ何書いてたのぉ?」

エヴァに乗り、適当?に決められた位置へ配置される。
僕の覚悟は決まっている。やれることはやるだけだ。
「作戦スタート!!」作戦部長の一声に続いて、僕も「行くよ!!」と合図をする。
エヴァはMAGIの誘導で走り出し、やがて、各自の判断で作戦を遂行する。
猛烈なスピードアップで落下地点に向かう。

落下地点には僕が一番早く着いた。ATフィールドを全開にして受け止める。
しかし、その質量と落下エネルギーとフィールドのエネルギーのため支えるのが限界かと思われた。

零号機、弐号機も到着しATフィールドを展開すると、そのエネルギーに打ち勝つように使徒の動きを跳ね返した。
「今だっ!!」
僕が叫ぶと零号機は使徒のATフィールドをブログナイフで切り裂き、
弐号機がアスカの気合と共に、使徒のコアを一突きにした。
僕らは勝った。
使徒はプラスチック爆弾よろしく僕らを包みこみながら爆発した。
しかし、その爆発にはエヴァを損傷する力は無くクレーターを作るにとどまった。



夕刻、作戦の成功が確認され、司令からの通信が入る。僕は名指しで、父から褒められた。
「お前の成長をうれしく思うぞ。よくやったな・・・シンジ」
複雑な感情もあったが今は素直にうれしかった。


日が落ちて、残務処理を中断した保護者が約束を守るという事で食事に連れ出してくれた。
家計の一端を知り、またコミュニケーションに長けるアスカの好判断によって・・・
ステーキはラーメンに変更された。僕は少し残念だったが、結果的にはベストだった。
アスカの調査に因るその屋台のラーメンはさすがに美味だったのだ。
でも、フカヒレ入れたら財布には優しくないと思うよ・・・
ニンニクラーメンチャーシュー抜きのそのチャーシューは僕に回ってきた。
もちろん美味しく頂いた。



家に着くとアスカは
「ねえ、アンタ、遺言って何書いたの?」と尋ねてきた。
作戦が成功した今となっては非常に 恥ずかしい内容であり、言えるわけはなかった。
終始、取調官は内容を知りたがって尋問を続け、また肉体的苦痛を伴う尋問でもあったが、僕はその口を割ることなく、取調官も諦めたようだった。




数日後、保護者が赤くなりながら、そして謝罪しながら、封筒に入った書類を僕に示した。あの遺言状の原本だった。

そう、日本国の民法では遺言状は満15歳にならないと書けないのだ。
ちなみに今回の文書については、最後の一文、遺品の処理・・・
その中に資産価値があると思われるチェロが含まれるので、単なる「遺書」ではなく「遺言状」と法務部で判断されたのである。
また、それはきちんと公式な特例による法的措置(保存方法)に基づいたもので保存されていたのである。
ただ、自分の遺品を遺言状にて処分できない以上、本遺言状は法律上の無効であり、その遺言状は結局、法律上の保護者に返還されたというわけである。
法律上の保護者は内容を検めた上で、電子記録の破棄を通知した後、原本は保護者代理人に本人への返還を指示したのだった。
つまり、保護者代理人のミスと僕のミスと係官のミスが重なった結果だった。


僕はその文書について事実上の保護者に処分を依頼した。




その文書は破棄されたのだろうか?

一ヶ月後にその文書は指定通知人のベッドと布団の間、枕元の下あたりから清掃の際に偶然発見された。発見者は遺言人の僕だった。
通知人もその書類がそこから落ちるのを目撃していた。
通知人はすぐに僕の動きを封じてから口封じを図る。その手段は通知人の口を直接使った物理的なものだった。

当然、僕も物理的に応戦し・・・・・和解に応じた。





(C・J・ルイスですね。これもノリはいいですがベタベタ感がいいですね。)






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