「拾弐」(Tout tout pour ma cherie)








僕らの関係は、別に大きな進展はなかった。
学校でも、ネルフ本部でも、その付き合い方は同僚の域を出ることはなかったし、自宅でも保護者の前では別にどうと言う事はなかった。

二人だけになったときだけ、僕と彼女は控えめ?にコミュニケーションを取る。
知ってる人達と離れると、二人きりの僕たちは、どちらからともなく手を繋いで歩いたり、腕を組んで歩いたりとか・・・
家で二人きりのときにはソファーに寄り添って座ったりとか・・・
あと・・・たまに・・・チューしたりとか・・・別にディープなキスではない。
生活面でも特に変化はない。それに最近は保護者も徹夜などがほとんどなくなり夜は帰って来るようになった。

保護者は晩酌をしながら、僕を呼び出し、少し神妙な面持ちでアスカがお風呂に入っている時などに注意をし、再び「あるもの」を手渡す。

「シンジ君・・・これによって直接の接触がなくなるんだけど・・・」
「だからって、愛情が失われるというわけではないの。それはわかるわよね?」
「は、はい・・・」

「愛情の暴走がお互いを不幸にすることだってあるのよ。あなた方にもし、それがあるとしたら、どうしようもないのよ」

「あ、あの・・・僕たち・・・まだ・・・そんな・・・関係じゃないし・・・」

赤くなって僕は言う。保護者はさらに続ける・・・

「でも、二人の歯止めが利かなくなることだって・・・男と女の間では有り得るのよ。シンジ君・・・・・。」
そして僕の手を取り、小箱を持たせる。
「い、いや、今の所・・・必要ないですし・・・」

「お、お風呂空くまで、宿題しなくっちゃ・・・!」小箱を置いて部屋に駆け込む。
リビングからは女性一人の大きな笑い声が響く。


僕がお風呂に入った後、アスカにも同様の話をしていたようだ。
後日、保護者がのたまう。
「あれ、アスカに持たせといたから。顔真っ赤にしながらちゃんと持って行ったわ♪」
「だから、アスカの部屋で見つけても誤解しちゃダメよん♪」
「あと、封が切ってあっても・・・多分、興味があって開けるだけだろうから、それも信じてあげなきゃダメよん♪」

顔を赤くする僕を見て、また大笑いする保護者。この人は一体どうさせたいんだろう。
14歳はさすがに早くないか?



3人で本部へ向かい、テスト、訓練のある日だった。
ちょうど、進路相談で父兄に連絡を取るように言われており、父さんに連絡すると父さんはあからさまに相談を拒否した。
父さんの多忙ぶりを考えるとしょうがないと思いつつも、通話の最後で、電話がおかしな切れ方をしたのが気になった。
アスカは「いちいち、細かいわねぇっ!!」と、これもまともに取り合ってくれなかった。


本部の入口、僕らのパスにゲートが反応しない。
仕方なく、非常連絡先などに、携帯、PHS、公衆電話など考えられる連絡手段で連絡をしてみても全く通じない。
それにすべての部屋のロックも作動しない。
何かの異常が発生しているのだろうが、まだ、この辺りは外光が差し込んでいて、電灯の必要はなかったので気がつかなかった。

「とにかく本部へ行きましょう」
珍しく綾波が口を開き、鞄の中で何かを探している。アスカも何か気が付き鞄の中を探り始めた。
とにかくトラブルがあったとしても、ミサトさんや赤木博士の指示が必要なのだ。
アスカの鞄を何の気なしに覗き込んでみると「バカっ!」と怒鳴られる。
鞄の中に見えたのはファッション雑誌だった。
非常マニュアルを探し当て、手動で行けるルートを探す。

「リーダーを決めましょう、で、リーダーはアタシ、文句ないわね!?」
とアスカがリーダー宣言をし、進行開始。しかしながら直後にアスカの向いている方向の逆を綾波が指し
「こっちよ・・・」と一言。
アスカの凍りつく表情が後ろからでもわかる。


しばらく進むと手動の非常ドアがある。「ハイハイ、僕でしょ・・・?」

少し中が見えると、全ての灯りが非常灯に切り替わっていた。停電しているようだ。
しかし、このドア、重い・・・・・
中に入ると、まるで迷路だった。普段と違い案内もないし、灯りが違うと通路の雰囲気も変わる。
自称リーダーは思いの他、方向オンチで何度も同じ道を行ったり来たりしていた。

ぶつくさ文句を言うと、アスカが突っかかってきた。
それを大きい声でもないのに一瞬で止める綾波。存在感が際立つ。
耳を澄ますと日向さんの声だった。難破船の船員よろしく手を振って大声を張り上げるが気づいてくれる様子はない。
それどころか
「使徒接近中!!繰り返す・・・」とはっきり聞こえていた。


焦りを覚えたが裏リーダーの冷静な一声で非正規ルートを通ることにした。
通路の天井からダクトの入口から入り込むことにするが、初めに僕が肩車をして女性2人をダクトに入れ、僕も何とか手を引いてもらいながらダクトに入る。
女性を肩車ですから・・・・・お約束のように上を見て、太腿の感触を味わってしまう。
男の悲しい性かも知れない。でも、いいんじゃないか?
「なんせ、非常時だからなあ。」


ダクトの中で、使徒についてアスカと軽い議論をする。やがてダクトを抜け通路に出る。
そこは二股になっており、アスカは右、綾波は左を主張する。僕に意見を聞かれたって・・・
「わかんないよ!!」

結局、表リーダーの主張する右ルートを行くと、そこは上り坂で明らかにおかしい。
リーダーが光を見つけてそのドアを開けると、黒い巨大な足、その直後に巨大な怪しい目が・・・
アスカを睨みつけたようだった。
あわててドアを閉めるアスカに対して、僕と綾波の冷たい目が追い打ちをかける。


結局、元来た道を戻り、今度は行き止まりに当たる。裏リーダーは物理的破壊を伴うダクト内への侵入を提案してすぐさま実行に移る。
ちょうど近くに工事用の切削工具などもあり進入できそうだった。
もはや実権を失っている表リーダーが陰口をささやく・・・

「ファーストって怖いコね。目的のためには手段を選ばない。まるで独善者ね・・・」
その言葉には多少納得する。現に破壊作業をする綾波は少し楽しそうな顔をしていた。
またその手際も良く、手慣れたように進める。作業を終えた彼女の顔には満足感が窺えた。

今度のダクトは前のダクトよりも狭かった。今回の侵入には肩車の楽しみはなかったが、
目の前にはアスカのオシリが、形の良いそれが上下左右に動いている。
アスカはそれを見られる事を警戒して盛んに警告する。でも、自然に視界に入ってくる以上は仕方がない。
僕は5本の手足で匍匐前進をしているようだった。
アスカが僕の視界にそれが捉えられていることに激怒して暴れ出すと、ダクトの床が抜けて2人とも落下してしまった。
僕が下だったので、落下の衝撃は痛かったが、背中に乗っかったアスカのヒップは意外にボリュームがあることに気が付いた。

到着したので戦闘モードに頭を切り替えなきゃ・・・・・


上を見ると、息子の進路相談を拒否した父さんが、汗だくになって作業服の人達に混じってワイヤーを引いていた。
ちょっと不思議だが感動した。



エヴァに乗り込んで出撃準備をする。拘束具を力いっぱい押しやり出撃する。
背中の予備電源も含めると結構長い時間動きそうだ。
三度、匍匐前進なのだが今回はエヴァでの前進のためどうということはない。
竪穴に出て上昇する。と言ってもよじ登って行くのであるが・・・・・



登っている最中に突然、弐号機が落ち、零号機もその衝撃に耐えきれずに・・・はっきり言って降ってきた。
必死に手足を踏ん張って落下を食い止める。
そして先ほどより幅のある横穴に入り井戸端会議を始める。
予備電源は切れ、内部電源に切り替わる。焦りを覚える中アスカが名案を出した。

ディフェンスが体を張って溶解液から下方を守り、バックアップが下にある武器をオフェンスに届ける。そしてオフェンスが一斉射撃にて撃破する・・・
その一番危険なディフェンスを、綾波の提案を退けて自分が引き受けると主張する。
僕に借りがあるから返したいとのことだが・・・・・
借りはたまに家でも返してもらっているので良いと言えばいいのだが・・・
今は時間に押されている。彼女に任せることにした。

勢いよく弐号機が飛び出す。その弐号機に容赦なく降りかかる溶解液・・・
多分、かなりの苦痛が伴うに違いない。歯を食いしばって耐えるアスカの呻き声が聞こえてくる。
零号機も最大戦速で急降下して先ほど落としたライフルを僕に投げ届ける。
「アスカ!よけて!!」
反応良くアスカが射線から外れ、僕は全弾を一気に打ち尽くす。そして使徒は力なく倒れ、そのまま活動を停止した。
ライフルを下に投げ捨て、落下してくる弐号機を受け止める。

「零号機はここで活動を停止します」とは綾波の声。
僕らも残り少ない時間を使って横穴に潜り込み活動を停止させる。
プラグから出てきたアスカは疲れた様子だったが元気そうだった。
(アスカ、おつかれさま)



作戦が終了しても、ほぼすべての市内の電力がストップしているため、すぐには帰れなかった。
パイロット3人で星空を眺めながら語り合う。浅間山での星空とは少し違う感じがした。
結局、僕らは深夜にタクシーで帰る事になった。

明日は交通機関の混乱のため学校は休みらしい。さすがに今日は本部内を歩き回ったため僕らも疲れていた。
ミサトさんは今日は明らかに徹夜だった。間違いない。
シャワーを浴びてからリビングのソファーで、またミサトさんのビールをくすねてグッタリしていた。
アスカもシャワーを浴び、オレンジジュースを片手に僕の横で「今日は疲れたぁ」と言いながらグッタリしている。
「とりあえず、明日の朝の準備をしておくよ」
冷蔵庫に食材はちゃんとあったし、炊飯器の準備もした。ビール缶はちゃんと捨てたし・・・明日は買い物に行く必要もなさそうだ。

ソファーに戻って
「アスカ、今日はありがとう」と言うと
「別にいいのよ。いつも助けられてるばかりで寝覚め悪かったし」
「そうだ、背中、赤くなったりしてない?」
と後ろを向き背中を見せる。
ブラもしていなくて・・・・・きれいな背中だった。
「大丈夫みたいだよ」と言い、人差し指で触ってみる。
「ちょ、何さわってるのよぅ?!」と反応する。少しつついたりして遊んでいると
「アン♪、ヤーだ♪くすぐったぁい♪もう・・・」
温泉で聞いた声よりも艶っぽい声だった。

「ねぇ、今日のお礼だけど・・・」と切り出すと
「明日は1日家にいて色々やってくれればいいわよ。別に普段通りで」
「そう・・・・・?」

翌日は二人っきりで家にいたので終始横にいて、ビデオを見たり、一緒にご飯を作ったり
そして、たまにチューしたり、と健全な中学生らしいカップルの休日を満喫した。
夕方近くになり結局二人で腕を組んで買い物に出かけた。今日の晩御飯はハンバーグだ。





(ミシェル・ポルナレフですね。シェリーに口づけが邦題です。イケイケって感じで。)
























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