「拾壱」Loving you








温泉宿に到着する頃にはアスカも目を覚ました。
部屋は和室でベランダがある。新しい畳の匂い、周りの風景、いい感じだ。
一部屋に3人で寝ることになるのだが、それぞれに抵抗はなかった。
ユニゾンのレッスンの時のように川の字で眠ることで慣れていたからだ、

女性陣はすぐに温泉を志向した。僕も荷物の簡単な整理をして風呂に向かおうとした時、宅急便が届いた。
加持さんからのそれは、ペンペンと見るからに美味そうなスイカだった。
そのスイカを冷やして置いて貰えるよう女中さんに頼んでから、ペンペンと共に温泉に向かった。


温泉に身体を入れると、先ほどの疲労のせいもあり、なおさら気持ち良かった。

「風呂はいいねぇ。日本人の生みだした文化の極みだよ・・・・・」

その気持ち良さに浸っていると不意に呼ぶ声が聞こえた。
「ボディシャンプー投げてくれるー?」
その声に答えてボディシャンプーを投げると、水の中に落ちた音ではなく
「どこ投げてんのよ!このバカ!」
と激しい声が帰って来た。

その直後の・・・・・こちらにも丸聞こえの女湯での会話・・・・・
ミサトさん、アスカの声には思わず想像力をかき立てられてしまった。
シンボルが思わず熱膨張してしまった・・・・・
マクルーハンの「ラジオ(音声のみのメディア)は部族の太鼓のようなものだ」
との言葉を実感してしまう。
ペンペンが不思議そうに覗き込むので思わず座り込んでしまった。
その膨張したモノはほぼ大人のそれと言っても問題ないようだった。
ある意味で安心する・・・

僕は先に風呂を上がり、女性たちはゆっくりと何かを話しているようだった。
風呂上がりに見た夕日はきれいな色だった。


皆、パジャマになり、それぞれくつろいでいると夕食が運ばれてきた。
山菜料理がメインの夕食はなかなかの美味だった。
個人的には、誰の気兼ねもなくミサトさんがグビグビ飲んでいるビールがうらやましくて仕方がなかった。
あとで拝借しよう。


食事も終わり、スイカを口にして、しばらくの間くつろいでいた。
若い二人はせっかくの温泉を堪能するために、再び風呂へと向かう。年長の女性は、なおも注文した肴を片手にビールを空けていた。


温泉は誰もいなかった。壁を隔てたアスカに尋ねても一人だという答えだった。
湯に浸かりひとしきりの時間が経つと、暇になってきた・・・・・
壁越しに話しかける。

「ねぇ、アスカぁ?」
「なぁに?」
「今日はよくがんばったね」
「なによぅ!?あったりまえでしょ!任務はちゃんとこなすわよ!」
「でもさ、僕だったら・・・あの溶岩の中で、一人できっと耐えられなかったと思うよ」
「ハッ!いくじなしね!」
「それにさ、羽化が始まった時もいい対処だったし・・・」
「そう?別に普通じゃない?」
「やっぱり、何だかんだ言っても、アスカが一番、適格者だったんだなぁって」
「でも、あのスーツは勘弁して欲しかったわよ・・・美的センスのカケラもなかったわね」
「え、でも、似合ってたよ♪」
「何、言ってんのよッ!!部屋に帰ったら覚えてらっしゃい!!」

少々口を滑らせてしまったようだ・・・・・覚悟しとこう・・・・・


風呂から出て部屋に戻るとミサトさんがいた。かなりの本数を空けたらしく、目はすでに据っていた。
このパターンのミサトさんはネムネム星人と見ていいだろう。
話しかけても反応は鈍く、いつ寝付いてもおかしくはない。
僕は声をかけ、ミサトさんを布団へ誘導した。
結局、端の方にミサトさんは、寝付いた。
それを確認して僕は冷蔵庫からビールを取り出し、灯りを消して、ベランダに出る。
外は星がきれいだった。ビールを開け、ぼんやりとして目を閉じる・・・・・



「あれ?」
アスカの声で僕は目を覚ます。
「しーっ!」
彼女は薄明かりの中、ミサトの寝姿を発見したらしく、そぉぉっとベランダに来た。
少し気にしていたが彼女は別に機嫌を損ねていないようだ。

ベランダに僕の姿を見つけて、ちょっと驚く。
「この不良め・・・」
悪戯っぽく彼女が言う。彼女も一度部屋に戻りブツを調達してくる。

「同罪じゃないか・・・」僕が言うと
「ドイツではね、ミネラルウォーターみたいなもんなのよ!」
と声を抑えながら反論し
口に流し込む。そのあとの彼女の表情は・・・あまりおいしくなさそうだった。
「アンタ、よくこんなの飲めるわね?」
「そう?おいしいよ・・・あれ、もうなくなっちゃった・・・・・もう一本持ってくるよ。
アスカは何か持ってくる?」
「んー・・・水でいいわ」

僕はビールを、アスカにはエビアンを取り、ベランダに戻る。
エビアンを手渡しして、僕は彼女の少ししか手を付けてないビールに目を向ける。
「それから飲んじゃおう。」
「えー?!」
「証拠は隠滅しなきゃ・・・まずいからね」


彼女はエビアンのキャップを開け、僕はアスカの飲みかけのビールをかざして、目で合図を送る。
「かんぱーい♪」ささやくように乾杯をし、一口飲んだ。
僕らは並んで、星空を見ながら話をした。

「ホント、おつかれさま」
「そうね、さすがに疲れたわよ・・・」
「僕もヒヤヒヤしたよ。結構、たいへんみたいで」
「バカ!アタシがしくじるわけないでしょう!!でも、最後は失敗しちゃったかな」

「あれは・・・何でわかったの?」
「音声モニターで、変な音が聞こえたからね。それで急いで飛び込んだんだ」
「そう、ありがと・・・・・」
「素直だね・・・・・どうしたの?」
「何となく、そういう気分なの・・・・・」
フゥっと大きな息をつき、彼女は星空を眺める。
少しの間、沈黙が流れた。いつの間にか彼女の手が僕の腕に絡んでいた・・・・・
僕は空になったビール缶を置く。

「あのさ・・・熱かったんでしょ?あの時」
「あぁ・・・夢中だったからね。そんなの気付かなかったよ」
「ウソばっかり・・・・・アタシを掴んだまま上がって行く時・・・聞こえてたのよ」
「何が?」
「アンタのうめき声。・・・我慢してたんでしょ?あの時」
「う、うん・・・まあ・・・そうだね」
「これで、大きな借りがまたできちゃったなぁって・・・」
「いいんだよ。別に・・・」
「アタシは良くないのよ!アンタに何もかも助けてもらってばかり・・・」
「そんなのアタシのプライドが許さないわっ!・・・・・でも、嬉しかった・・・・・」


「何年ぶりだろう・・・?こんな気持ち・・・」
また、星空を眺める二人だったが、今度は腕に彼女の温もりを感じる。


ふと、本当に、自然に僕の口から言葉がこぼれた。
「僕は君を守るために生まれたのかも知れない・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

言ってしまって・・・・・
数秒の硬直のあと、僕は彼女に向い、彼女もこちらを向いた。
次の瞬間、僕は彼女を抱きしめた。しっかりと・・・
彼女からも抱きしめてくれた。僕がアスカの顔を見ようと頭をゆっくりと動かすと
すぐ近くに彼女の青い目があった。
その吸い込まれそうになる青い瞳を見つめているうちに、彼女は目を閉じ、息を整えた。


僕は彼女に唇を重ねた。
本当の意味でのファーストキスだった・・・・・

やがて自然に唇が離れるとゆっくりと離れて、前を向き星空をながめた。
少し経ち、彼女が言った・・・・・
「責任・・・とりなさいよ・・・・・」
僕も「うん」と頷いて答えた。


部屋に戻ると、保護者は熟睡していた。結局、僕らは隣合って寝ることになった。
特に言葉はなかった。お互いに「おやすみ」とあいさつを交わしただけだった。
僕も、アスカもすぐに寝入ってしまったらしい。




朝、珍しく早起きだったミサトさんに布団をはがれて目が覚めた。
アスカと僕は横向きで、向かい合って、お互いの手を握り合って、互いの額をくっつけるようにして寝ていたらしい。
僕は寝ぼけ眼で・・・アスカはまだ寝ていた。
保護者は怒ってはいなかったが眉をピクピクさせていたようだった。
そこにまだ夢見心地のアスカの寝言、それも幸せそうに・・・・・
僕もはっきり聞いた。
「シンジぃ・・・・・」
その言葉を聞いた保護者は、顔が引きつっていたようだが、さっと駆け出してカメラを持ってきて僕らの寝姿を写真に収めた。
双方、着衣などに乱れがなかったのは幸いだった。

「ま、いいか・・・・・」
生命維持モードの僕も撮られるがままだった。


帰りのタクシーでは「シンちゃん、アスカ。また、お酒飲んだでしょ?!」
「アンタ達、私の事も考えなさいよ・・・私のもとで不良化するチルドレンはさすがにまずいのよ!」
ベランダにビール缶が残っており、それを目ざとくミサトさんが発見したのだ。
それほど怒ってはいなかったようだが・・・アスカが言い訳しても、ずっとミサトのターンだった。


それからしばらくはネルフ本部で、僕らに対する視線がおかしかった。
そう、・・・あの写真のせいだった。アスカはその写真の存在を知らない・・・
加持さんは僕を見てニヤニヤしているし、青葉さんは目をつぶって僕の肩に手をやり頷いている。
あの写真はネルフ司令室のかなりの範囲に拡がっているようだった。
それはマヤさんのPCの画面に発見した事で確信した。
その写真を見てウットリしていたマヤさんは背後の僕に気づき、大袈裟に驚いて、一瞬にして画面を切り替えた。

心なしか父さんや冬月さんまでニヤニヤして僕らを見ているような気がする。
リツコさんに密かに聞いてみると・・・やはり父さん達も知っていた。
2人は写真を見て、「フッ」と笑い・・・・・
「若いな・・・」「あぁ・・・」
と言ったそうだ。





(ジャネット・ケイです、僕が好きなのは。カラオケでも歌えます。ちなみに平井バージョンもかっこいいです。名曲。)













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