「九」All about you







ユニゾンで使徒を倒して、それからはしばらく平和な日々が続く。
この世界での日常を謳歌していると言って良いだろう。

ベッドの上で回想しているのだけれど・・・・・
原作と少々違うのは・・・・・ここまでではアスカとの関係だろうか。
とは言っても別に正式に付き合ってるわけでもないのであるが、お互いの信頼感が増していると言うか・・・
少し、いい関係である。また、その事に比例してか多少は素直な女の子になっている感じがする。


また、シンクロテストなどでも僕が初めから優位に立っていたせいか、余計なプライドを傷つける恐れも多少なりとも少ないような気がする。
それがきっかけで精神の平衡を崩し、最終的には精神の崩壊を招いたことを考えると、不安要素が少し減っているのではないかと思う。
もちろん母親に関連するトラウマは消えていないのだから不確定の要素ではある。
ただ、この部分については少し変わった気がする。


綾波や父さんとの関係は今のところあまり変わっていないと言っていいかも知れない。
接触の機会が少ないためだろうか。

ミサトさんについてもよくわからない・・・・・別に悪い方向には行ってないとは思っている。
彼女は相変わらず良い保護者だし、やさしい女性だ。

翻って自分はどうなんだろう?
まず、前の自分に比べて、思考が退行してると言うか、肉体に引きずられているような気がする。
本来であれば加持さんと同じレベルでの付き合いなはずなのだが、妙にウブになっている自分がいる。
アスカに対してももっと積極的、かつ直接的なアプローチをしているわけではないがそれはそれで悪くない気もする。。
でも、積極的にアタックできなくなっている自分がいる。
ただ、それについては今のところではある意味、納得はできている。
僕の感覚は14歳そのものに近づいているようなのは認めざるを得ないところだ。
刺激に対して敏感なところ・・・とかもそうだと思う。

今日もそんなことを・・・・・誰にも言えない秘密を抱えて眠りに就く。

明日の朝も早いんだから・・・・・
あ、明日は朝ご飯、お弁当はアスカの当番だ。ちゃんと作るのかなぁ?
まあ、だめなら朝はパンを買って、昼も購買で済ませれば良いだけなんだけど。



「おはよッ♪シンジ♪」
「アスカかぁ・・・・・あと10分寝かせてよ・・・・・」
「フゥゥゥ♪」
ゾクゾクするこの感じ・・・どこで聞いてきたのかは知らないけど耳に息を吹きかけて僕を起こす。
まだ付き合ってもないのに・・・・・

僕はあわてて目を覚まし時計を確認し、起動する。
「アスカぁ、今日、お弁当あるのぉ?」
「サンドウィッチ、作ってあるのよ♪ 朝も、トースト、焼けてるわよ」
「はぁい・・・・・」

「じゃ、行ってきます」
まだ、夢見心地の保護者に一応あいさつして学校に出かける。
退屈な授業中、チャットなどで時間をつぶしたりしながら、お弁当の時間になる。

「はい、シンジ、お弁当」
「あ、ありがとう」
「何や、センセ、惣流の手作り弁当かい!?」
「恋してる女子って・・・変わるもんやなぁ」
「いや、今日はアスカが食事当番だから・・・」
「す・ず・は・らぁぁ、何、バカなこと言ってるのよ!!」
「そうよ、単に今日はアタシが当番なだけ。めんどうくさいし、愛情とかは別にないから。別に普通のサンドウィッチよ」
「明日は僕が当番なんだ」
「センセの家も、色々大変なんやな」
「でも惣流の作るサンドウィッチったら、他の男子生徒からしたら垂涎の的だと思うよ」

空気が読めていないのはケンスケだ。
でも、それすらもアスカは軽く受け流す。
「そうねぇ、この天才美少女、アスカ様の作るランチなわけだもんねぇ。シンジ、感謝して、よーく味わって食べるのよ!」
と言ってヒカリとお弁当にアスカは行ってしまう。
ただ、帰りも一緒に帰るわけで、大多数から見るとカップルに見えるのではないだろうか?

家に帰っても粗暴な振舞いは少し緩和されている気がする。
基本的に洗濯は僕がやっているけど、下着などの目のやり場に困るようなものは洗わせないし、わがままも以前に比べて少なくなったと思う。
ただ、料理は決して手の込んだものを作るわけではない。サンドウィッチ、スープ、ジャーマンポテト程度でエプロン姿なども見た事はない。



ところで、先日ファーストキスをした。
事の顛末はこうだ。
お風呂を沸かしたときに入浴剤を、僕はマリンブルーを使ったのだが
一番風呂のアスカが
「何よ!これぇ!私はフローラルがいいって言ってたじゃなーい!!」
とバスタオル1枚でプンスカしながら、グラタンを焼いていた僕に突っかかってきた。

「今日はミサトさんからの要望があったんだよ」と言うと
「だからってミサトの言うとおりにするわけ!?」
「だって、仕方ないだろう!ミサトさん、今日は早く帰るって言ってたし・・・」
「あの、ビア樽女が早く終わったからって真っ直ぐ帰って来るわけないでしょ!」
「このバカちん!!」
「だったら、自分でお湯入れておけば良かったじゃないか!」
「何言ってんのよっ!アンタはアタシの言う通りにしてればいいのよ!」

このようなやりとりの後、顔を突き合わせて、睨み合いしていた。
と、そこに少しひっかけた保護者様が「ただいまぁ♪」
と帰って来たのである。帰って来ても睨み合いはまだ続いていた。

ほろ酔いの保護者様は「あらぁ、ずいぶん仲がいいのねぇ。アスカもそんな恰好でぇ♪」
「ちょっと・・・邪魔しないでよ・・・」ドスの利いたアスカの声・・・

しかし、保護者様はそんな声にも動ぜずに次のような言葉を吐いて行動に移してくれた。
「アンタタチぃ、いくら仲がいいからって・・・そんな所で、そんなカッコでケンカしてるなんてバカじゃないのぉ♪ 
そんなのはねぇ、これで解決するでしょ♪」


こう言って保護者様は二人の頭をそれぞれ後頭部から押してくれました♪

「わっ!!」
「ひにゃっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それもすごい力で、長時間にわたって♪
ちょうどグラタンのタイマーがチラッと見えたけど・・・68秒ほども。
オーブンの止まる音で保護者様がようやく気がついて離してくれたのですから・・・

アスカも僕もきょとんとしておりました。
はたと気がついて、アスカ様もバスタオルのままだったのでお風呂へダッシュしてました。
保護者様は・・・ほろ酔いどころではなく実は泥酔したのでありました。
そのため、すぐに「アタシは寝るからぁ、おやすみぃ♪」と部屋に入ってしまいました。

やがて、長いお風呂から上がってきたアスカは伏し目がちにテーブルについて、その顔は心なし少し赤くなっているように見えて。
二人とも話が切り出せなくて黙り込んだままの食卓だったわけだけど、沈黙に耐えかねた僕が
「さっきはごめんよ・・・」と謝ると

「別に・・・いいのよ・・・シンジが悪いわけじゃないし・・・」
と小さな声だったけど言ってくれた。

その後もアスカは部屋にこもりっきりだったけど、僕は、あの感触を思い返していた。
保護者様に感謝である♪


翌朝、珍しく早起きの保護者様は何も覚えていないようで、事の顛末を話すと豪快に笑い、僕の背中をバシバシ叩いていた。
アスカは起きて来ても普通どおりだった。学校でも昨日の事なんか、何もなかったように別に普通に接してくれた。

(意識してるのは僕だけかも知れない。女の子って強いなぁ)
と妙に感心してしまった。
と、このような顛末でした。

別にこの後の後日談はありませんが、この事の後から、耳に息を吹き込んで起こしてくれるということが多くなった気がします。

多分こういう事はミサトさんが教えてるに違いない。


僕はまたベッドの中で思う。
以前の僕はごくごく普通の大人の男だった。燃えるようなキスは当然、熱い夜を過ごしたのも・・・
別にいつもというわけではなかったけど・・・あったわけで・・・
それに、加持さんとミサトさんのような、爛れた生活だって経験した。
なのに、なぜ、僕はキスくらいで動揺したり、アスカに対して・・・わからない。
この肉体と現実に引きずられているのだろうとしか結論が出ない。

眠くなってきた・・・とりあえず・・・寝よう・・・





(Thriller U です。アルバム名にもなっていますがその中の曲です。緩いメロディと甘い感じが好きです。)








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