「六」Close to you








彼女が転校して来て早くも数日・・・・・
彼女は男子生徒に非常に人気がある。そのルックス、明るい性格、そして人前では絶やすことのない笑顔・・・・・
ケンスケとトウジは彼女の写真を隠し撮りしてお小遣い稼ぎをしている。
写真には初対面でビンタをくれる彼女は写っていない・・・・・



「ハロー!シンジ、グーテンモルゲン♪」
ドイツ語??
「グ、グーテンモルゲン・・・・・」
ドイツ語が分からない以上鸚鵡返しだ。当然、自信のないあいさつになる。

「なぁに辛気臭い顔してんのよ!このアタシが声かけてんのよ。ちっとは嬉しそうな顔、しなさいよ!」
と軽く僕の額を弾く。

「で、ファーストチルドレンはどこ?」
関心はそちらにあったようだ。
「あ、綾波なら・・・・・」と指を指す。
つかつかとベンチに座って静かに本を読んでいる彼女に近づいていく。
さらに彼女を見下ろすような所に立つ。これは本能的なものだろう。
タイプは違うが綾波もかなりの美形であり、人気という面でもライバル候補なのだ。
もちろん、エヴァパイロットしては仲間であり、当然ライバルである。
わざわざ、彼女の読んでいる本に影ができるように立ち、自分の存在を示す。


「あなたがファーストチルドレン?零号機パイロットね。あたしアスカ。惣流・アスカ・ラングレーよ。仲良くしましょ。」
どうにも刺のある自己紹介だ。ライバル心メラメラ・・・・・

冷静に一言、綾波が答える。
「どうして?」

「その方が都合がいいからよ。イロイロとね。」
抑楊なく綾波が答える。
「命令があればそうするわ。」
きょとんとしているアスカ・・・・・毒気を抜かれ、一言「変わったコね・・・」

どうやらこの第一ラウンドは綾波の判定勝ちで良さそうだ。
綾波の芯の強さを見誤っていたアスカより、自分のスタンスを崩す事なく受け流した綾波をほめるべきだ。
しかし、傍で見ていた、多少なりとも事情を知っている僕には緊張する対面だった。
このまま、仲良くなってくれればいいけど・・・・・無理だろうな。



僕や取り巻きを従者よろしく従えて登校する彼女。
学校に着いても、転校して数日たったとは言え彼女の周りには人だかりが絶えない。
数日後の1時限目が始まって間もなく、僕らに呼び出しがあった。

「現在、使徒接近中、エヴァの準備は完了しているわ。地上でのサポート準備も問題なし。スーツに着替えてケージに向ってちょうだい。」
ミサトさんの指示がありケージに向い、エヴァに乗り込んだ。

今回はF装備での出撃だ。
フライングの事でスキージャンパーのように空中を滑空し、ラストは圧縮ガスを噴射し着地のショックを和らげる。
武器などの余分な重量物は現地での調達だ。

輸送機に乗って降下して予定地点に到着すると万事整っていた。
電源を装着すると、トレーラーに武器が積まれてきた。僕はパレットガンを手に取る。ミサトさんから通信が入る。

「2体のエヴァで近接戦闘。波状攻撃をしかけて。」
「了解」と二人のパイロットがほぼ同時に答える。続けてアスカの通信が入る。

「どうしてアタシ一人に任せてくれないのぉ?」
ゴネるアスカをミサトさんが窘める。
「仕方ないよ、作戦なんだし」と僕も宥める。そして不機嫌はそのままこちらへ向かってくる。
「くれぐれも足手まといにならないでね!」

そのあとの言葉も通信に入ってきた、と言うより意識的に彼女が入れたに違いない。
「どうしてあんなのがエヴァパイロットに選ばれたのかしら?」

言い終わってすぐ、正面に水柱が見え、こちらへ向かってくる。


「来た!」
緊張の一瞬である。

「じゃ、サードチルドレン、アタシからいくから援護して!」
「どうして?」
「レディファーストよ!」
「ちぇっ、後から来たくせに指揮んなよな」

僕は使徒に向かいパレットガンを連射し援護を続ける。
ちゃんと着弾はしてるけど効果はあるのかな?

その間にもソニックグレイブを持つ弐号機は前進を止めない。
やがて水際に着き、水没しかけた建物の上を飛び跳ね、使徒に迫る。

「いける!」

エェ!早いってば・・・・・
「ぬあぁぁぁぁぁ!!」
彼女の気合一閃、ソニックグレイブが振り下ろされる。
見事、敵を一刀両断に切り裂いていた。

「お見事・・・・・」
「どう?サードチルドレン。戦いは常に無駄なく、美しく、よ」
誇らしげに彼女が言う。

やや間があって、切り裂いたはずの使徒のコアが鋭く、それも2つになって光る。
「何これぇぇぇ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

僕はすかさず弐号機の救出に向かったが、攻撃をかわされ、転んでしまった。
2体に分かれた内の1体がエヴァを抱え上げて遠くへ放り投げてくれた。
弐号機も持ち上げられ放り投げられたらしい。
ややあって大きな爆発音を聞いた。しばらくして救助の大人たちが来てプラグから這い出るように外に出た。
そして広場に待機していたヘリに乗り込むとアスカがいた。僕らは終始無言で本部に連行された。


いくつかのスライドと共にお小言と、状況の説明が行われる。その途中で堰を切ったようにアスカが突っかかってくる。
僕も夢中になって言い返す。

どうやら国連軍のN2爆雷処理にて足止めに成功したらしい。
なおも突っかかってくるアスカ、僕も言い返すと、それを見ていた副司令が
「もういい・・・・・」と一言言って頭を抱えながら去って行った。
反省会を終えて、着替えを済ませてから家路に就く、ミサトさんは仕事が非常にあるらしく一人での帰宅だった。
明日は普通の通りに登校していいようだ。



ミサトさんから夜分に、エヴァの損傷はそれほどでもないから、とのことで電話をもらう。
落ち込んでいないか、心配してのことだろう。



学校に行くとアスカは欠席していた。
「何かあったのかな?」と思う。
いや、僕は知っていた。今日から同居人が一人増えるのだ。
前の戦闘中には夢中で思い返す事はなかったのであるが、そのことを考えるとうれしくなってしまった。
家の近くで1台の引っ越しトラックが走って行く。
「来たんだな・・・・・」

家に着くとやはり誰かがいる様子だった。

「ただいまぁ・・・・・」

何だ?この段ボールの量・・・・・おいおい、ブラまでそのまま置きっぱなし・・・・・
この同居人も保護者と同類なのか・・・?下着には興味ないけど・・・。


「あら、アンタまだいたの?」
「アンタ、今日からお払い箱よ。ミサトは今日からアタシと暮らすの。まぁどっちが優秀かを考えれば当然の選択よねぇ」
「しっかし、日本の部屋ってどうしてこう狭いのかしら?荷物が半分も入らないじゃない」

僕は自分の荷物を探し当て、無造作に段ボールに詰められていたのを発見し、涙目のままそれを抱えた。
そしてまだブー垂れる彼女を睨んでいた。
そのときミサトさんが帰ってきてアスカに一言二言言うと僕らに話しかけた。

「さっそく、うまくやってるじゃなぁい?」
「何がですか?」
二人同じタイミングで答えて、きょとんとする。
「今度の作戦準備♪」


僕は物置として使われていた部屋を空けてもらい、軽く掃除をして荷物を置き、部屋を纏める。
アスカは自分の荷物の整理やら何やらで忙しいようだ。
結局、入らなかった荷物は選択の上、ネルフの倉庫に保管することにしたらしい。
保護者は双方の荷物整理を手伝い?ながらビールを飲んでいた。今日の夕食はレトルトのカレーだった。
夕食後、二人して呼ばれ、リビングのセットに腰掛ける。僕はお茶、彼女はコーラ、保護者はビールだ。



「エェェぇぇ‐!!」一際大きい驚きの声はアスカだ。
僕らの驚きをよそに、保護者から同居の命令が下された・・・・・
僕はきょとんとしたふりをしたが、やはり猛烈に噛みついたのはアスカだった。
「男女7歳にして同禽せずってね・・・・・!」

結局、アスカの猛抗議も無駄になったようだ。
「使徒を倒す方法、2つのコアに対する2点同時の荷重攻撃、これしかないわ・・・・・
そこで、この音楽に合わせた攻撃パターンを、完全なユニゾンとして6日以内に覚え込んでもらうわ。1秒でも早く、ね」
さすがに正式な作戦として言い渡されたことに対して、アスカも反論はできない。
「そんなぁ・・・・・」と言いつつヘナヘナと座り込むアスカ。
座り込んでから、アスカと顔を見合わせると彼女は「プイッ」と言って顔を背けた。

さっそく、リビングに練習用のセットを設置する。
「ほら!アンタがそっち、やって!」
「アスカこそ、それを運んでおいてよ」
「何、言ってんのよ!か弱いレディに力仕事させる気ぃ?!」
「どこがか弱いんだよ!」
「なんですてぇ!!」
「こらこら、何してんのよ!?ちゃんと仲良くやりなさい!」
渋々、僕らは「はーい・・・・・」と返事を返し作業を続ける。


作業が終わると2人を呼んでこう言った。
「あんた達、学校には言ってあるから、明日からここでずーっと、練習してもらいます。そ・れ・と♪」

「ジャーン!!お揃いのレオタード揃えて来たから、これを着て練習するのよ♪」
「ちょ、ちょっと何これ!?こんなダサいの・・・・・第一、コイツとお揃いのなんて・・・・・」
半分面白がっている表情でミサトが返す。

「アスカ、これは命令よ。これ・・・・・シンジ君もアスカも、ちょっと着てみてくれるかなぁ♪」
二人でミサトの前に並ぶとミサトは大笑いしながら「良く似合ってるじゃなぁぁい♪」
「良くお似合いよ。二人とも。ベストカップルみたいね♪」

アスカは真面目に顔を真っ赤にしながらミサトさんに噛みついていた。
僕はその争いを無視して「おやすみなさい」と一言、自室へ入る。
二人の口論は夜半過ぎまで続いたようだ。近所迷惑とか考えないのかな?この人たち。




(マキシ・プリーストの曲です。レゲエの大御所ですね。)













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