「五」(Blue lagoon)








エントリープラグの扉が開く。当然、一人用のプラグであり中は狭い。
何とか隙間に体を潜り込ませてみるが、常に体のどこかが触れそうになる。
プラグにLCLが満ちてくる。そして起動のプログラムを開始する。
彼女は流暢なドイツ語で起動していく。僕はドイツ語を話せないので日本語で考えていた。

「思考ノイズ?!アンタ日本語で考えてんでしょ?ドイツ語で考えなさいよ!」
すかさず突っ込みが入る。

ドイツ語???ヒットラー?アインシュタイン?ザウアクラウト?ベートーベン?

「ハ、ハイネケン・・・・・」
バアムクーヘンではなかった。これは嗜好の問題だと思う。
「ハァ・・・・・思考ベーシック言語を日本語に切り替え」
「エヴァ弐号機、起動!!」


僕は初めて女の子の家に遊びに来た感覚である。そう子供のころの。
女の子のお母さんが「いらっしゃい、ゆっくりしていってね」と言っているようなイメージだった。

その間にも彼女は弐号機を操作し、タンカーから飛翔する。次の瞬間、タンカーは使徒の直撃を受けて真っ二つになっていた。
彼女の駆る弐号機は次々に船を踏み台にして移動し、まるで八艘飛びをしているように移動する。


「これB装備(ベーシック)だよ。水中に落ちたらまずいんじゃ。・・・・・?」と言ってみる。
「落ちなきゃいいのよ!」自信たっぷりに答える。
やがて「エヴァ弐号機、着艦します!!」
大きな衝撃と共に着艦した。

すぐに背中にケーブルを繋ぎ、プログナイフを手に取り身構える。正面から来る使徒は・・・
予想以上に大きかった。
艦の上に乗り上げてのしかかってくる使徒。その重さ、衝撃のためにプログナイフを落としてしまう。
さらにのしかかった使徒は身を絡ませた上、僕らを飲み込もうとして大きな口を開ける。
中は案外グロテスクで思わず彼女の口から「キャー!!イヤアァァァ!!」と悲鳴。
でも、まだまだこれは余裕のある悲鳴なので安心である。
ただ、ひるんでしまったためエレベーターに足を乗せてしまった。
その重さでエレベーターはガクンと落ちバランスを崩して僕らは海に落ちてしまう。


咥えられたまま海中を引きずられてしまい、次第に口の中にしっかり咥えられてしまう。
「どうしよう・・・・・?」
「何とかするのよ!頼りないわね!」
エヴァのシンクロは想定していなかった水中戦のためか低下している。
また、動くと言ってもスラスターもないため移動にも事欠く状態である。


しばらくなすがままの状態だった。
幸い、外部電源に問題はなくエネルギー切れの心配はない。


身体のどこかが密着している状態のプラグ内。
「ちょっとアンタどこ触ってるのよ!!」
「そんなこと言ったってなんとかしなきゃ・・・」
「ヘンなとこ触んないでよ!!って何でアンタが動かしてるのよ!!」
「いや、何とかしなきゃ・・・」

「バカッ!さっきからどこ触ってんのよっ!このスケベ!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!うわっ!」
「ちょ・・・!今度はどこ触ってんのよぅ!もう!お嫁にいけなーい!!」
非常時じゃなければオイシイ状態なんだろうけど、はっきり言ってそんな余裕はない。



やがて、ミサトから通信が入る。作戦指示だ。
つまり、指定の位置にケーブルを使って指定の時間に使徒を誘導、その口をこじ開けて中に自沈させた戦艦を入れる。
その口の中で主砲発射、の上自爆する。
N2兵器なども搭載しているから使徒のコアを破壊するには十分な威力だろう。

問題はその時にエヴァが起動して口をこじ開けることができるか?
今の状態では・・・全くその可能性はない。



作戦が開始される。釣り糸を使って誘導されているのがわかる。
しかし、一向にエヴァが起動する様子はなく、時間と共に焦りが増幅される。
初の水中戦闘、想定外のため何も対応する装備はない。さらに装備だけではなく対応する伝達の手段にも問題が生じているはずなのだ。



やがて、作戦予定時刻・・・・・僕らは単に二人して同じ言葉を呪文のように繰り返していた。
「動け!動け!動け!動け!動け!」
やがてその唱える呪文のペースが同調する。そして完全に同調した瞬間・・・・・


起動した!!
腹の部分を噛まれていたのだが体を反転させ、足を下顎に入れる事ができた。
そして体の向きを変え、始めは背中も使って上顎をこじ開けにかかる。
顎が開いたのと戦艦が突っ込んできたのはほぼ同時だった。
砲撃開始、何発かの発射の後に戦艦は自爆した。使徒は殲滅できた。

その爆圧も受けて上昇し空母に着艦した。
このコントロールはアスカの面目役如と言ったところであった。
甲板に着くと同時に力なくエヴァはへたり込んでしまった。ケーブルが切れていたのだ。



プラグを内部から出し、LCLを排出する。もったいない気がした。
「同じLCLを吸っていたんだね・・・・・」と言ってみると
「バカ!あんた何言ってるのよ!」と真っ赤な顔で、頭をポカポカ叩かれた。
「それよりもアンタどこ触ってるのよ!このスケベ!」
「ゴ、ゴメン・・・・・」
僕の頭は彼女の腿の上に乗り、後頭部は彼女の下腹部のあたりと触れ合っていた。
窮屈な膝枕状態だったのだ。

ハッチが開き、外に出た。LCLを洗い流して、着替えなくてはならない。二人してシャワー室へと案内される。
向かう途中、彼女は上機嫌だった。それは初の実戦で使徒を倒したのだから当然で、鼻歌まで出ていた。
「良かったね。」と声をかけると
「これは、アタシのスコアなんですからね!アンタはアタシのサポートよ!よぉく覚えておきなさい!」だった。
しかし、機嫌が悪かったのはその一瞬で、すぐに上機嫌に戻った。
僕もそんな彼女を見て嬉しくなった。


男女別のシャワーを浴び、着替えて艦橋に行き、ミサトさんに二人で報告をする。
一通りの報告をした後、ニッコリ笑って・・・・・
「ボイスレコーダー、とってあるわよー♪シンちゃんって意外にダ・イ・タ・ン♪」
「ちょ、ちょっと!!なに言ってるのよ!!」
「シンちゃんはどこ触ってたのかなー♪若い女の子の体って良かったでしょぉ♪」
「な、な、な・・・・・・!」
「何?アスカ、顔真っ赤よーん♪」
恐ろしい事を口にするもんだ・・・・・大人の女性。
僕は硬直したまま聞いていただけだった。

「報告は終わったから自室へ戻るわ!」とドスドス音を立ててピストを出て行った。
さらに「シンちゃんもラッキーだわねぇ♪」と顔を近づけて迫ってくる。
酒臭い・・・・・そう、後ろにはバドワイザーが数缶空いていた。

「戦闘も終わったから、チョッチね♪」
飲んだくれかい!?アンタは!

その後、数時間、彼女は自室に籠りきりだった。
新横須賀に無事到着すると、リツコさん達が迎えに来ていた。
「あの・・・・・アスカは・・・・・?」
「彼女、しばらくは本部施設にいるはずよ。ドイツから荷物も届いてないし」
「何?シンちゃん、初めての女性が忘れられないのね♪」
リツコさんが目を輝かせながらクスクスと笑い「どうしたの?」と訊ねる。
「このレコーダー、聞けばわかるわよ♪意外にシンちゃんってね、大胆なのよぉ♪」
僕も恥ずかしくなってきた。明日からみんなにどういう目で見られるかを考えると頭痛がする。
この質問は完全にやぶへびだったようだ。


翌日、トウジとケンスケと学校へ向かう。話題はアスカの事だった。よほど初対面の印象が悪かったらしい。
まあ、いきなりビンタ食らえばそうなるか・・・・・
ホームルームが始まり先生が「転校生です」と言いながら入ってくると僕ら三人は
「アァァーッ!!」と声をあげる。
それに動ぜず流れるような筆記体で自分の名前を黒板に書いていく彼女・・・・・
「惣流・アスカ・ラングレーです。」とニッコリ笑って、ペコリと頭を下げる。
他の男子からは「おぉぉぉ!」と歓声が上がる。

席は僕の横で、委員長の横でもあった。彼女は委員長とすぐに気が合い、色々教えてもらったりしていた。
一段落付くと、怖い表情で僕を睨んで一言
「余計な事言ったら・・・・・殺すわよ・・・・・!」
凄みのある表情で、ドスの利いた声で僕にそれを伝えてきた・・・・・
転校生なので周りには常に人が集まり、常に質問攻めにされている。それらに応対する彼女の笑顔はすばらしい・・・・・
また、その切り替えの早さもすばらしい・・・・・



こんな感じで弐号機パイロット、アスカとの出会いだった。
「アスカの僕への印象ってどんなだろうな??」と結構気になっているものだ。
ちなみに家に帰って考え事をしていると、ミサトさんはすぐに
「恋煩いのシンちゃんもいいわねぇ♪おネェさんは妬けちゃうわねェ♪」
と茶々を入れてくる。
一応、彼女の前では否定している。でも、ベッドに入るとやはり彼女の事を考えてしまう。
彼女の魅力の事だけではなく彼女を守るための事とか・・・・・
結論は出せないが彼女の心の隙間を埋めてあげたいなぁと思うのである。

まぁ、まだ時間はある。フッ、問題はない・・・・・
















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